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MOZA-CHAN -モザちゃん-  作者: モザの者
第三章 ~神々と追憶~
41/53

第十三話 “聖別”

………………………………



しん、と静まり返る。あのざわめきが嘘のように。

あまりに衝撃的だったのだ。各々、各々の修羅の道を潜ってきた聖十二騎士にとっても。


“元”勇者の力を、奴によって思うがままに使われたという事実。古来から伝わる由々しき王国がひとつ、目の前の人間によって壊滅したという事実。


誰も言葉は発さないが、ただ、誰も彼を責めようとはしなかった。ここは奴を憎む者の集う場所。むしろ、さらなる怒りの熱源となろう。


「ほう、あまりに緊張感がねェもんで、出ていくタイミングを伺っていたが、これは好都合だな」


「遅いぞ、雨宮玲音」


静寂を引き裂くように、蒼いトレンチコートをたなびかせ、雨宮玲音が降り立った。

その手にギラリと(ひか)る、見覚えのある紋章。


となかわがうっすらと笑っている。いつの間に渡したのだろうか。


「あ、あれ?何で……」


「ふふ、不思議かモザちゃん。そうだろうな。雨宮玲音は聖十二騎士ではないはず」


「……隠してたってことですか?…でもどうやって……あんな代物、容易に隠せるものではないはず……」


聖十二騎士のもつ紋章は、高純度・高密度の光晶体で形成されている。艶やかなその煌きによってその身分を示すほか、持っていると聖十二騎士同士で場所をある程度把握できる。魔界の門を開閉するためにも必要なキーアイテムだ。


この紋章に眠る光の力は、“原初の虹色(はじまりのなないろ)”発足のとき、かの金 モザ次郎が力を注いだもの7つと、モザ次郎の死後、ごちかわ、サトクン、ツーナ=シャーケ伯爵の3人の研究により体内から引き出した5つである。

今もなお強大な力を持ち、“魂”に並ぶ光の力の源泉となり、この紋章と共に力を発揮する。


だからこそ、紋章を持っていることを隠していたなんてありえないのだ。どこかに隠すとしても、あの輝きだ、素人でも容易に見つけられる……悪意ある人間に悪用されるリスクも高い。


「ふふ、モザちゃん。忘れたのかい?僕の魂の性質を」


「え?あ、あーーーっ!!」


後ろで静かに聞き耳を立てていた魔門京も、思わずハッとする。


確かに。となかわ殿の魂に入った時、“虚”による偽りの世界を見せられる前、一瞬だけ…眼に映った。まばゆい光が。其うか。()れこそが……


「そうだ。雨宮玲音は力を使うとき、いつもとなかわと共に行動していた。全てはこの時のため、隠していたのだ。雨宮玲音は()()()()()()()!原初の虹色を彩ったときから、奴は最初からこの血戦部隊の選りすぐりの一人だったのだ」


「聖十二騎士の器に足りる人物など、そう簡単に用意できないからね。だが聖十二騎士として補足されれば、迂闊に動けない」


そして、雨宮玲音に続くように、後ろから、二人の聖十二騎士がこの地に降り立った。

各々、何かしらの方法で隠していたのだ。

優雅なドレスに身を包む、かの王女。そして、着地に失敗したかの伯爵。


「ごめんなさいね、皆。私は立場上、正体を隠さないわけにはいかなかったの」


「オ…OHゥ、イタイデース……」


「そうか。壱號の支配が外れた今、偽る必要はないという訳か。おかえり、かの原初の虹色“黄”、アム・ニヤ、そして“紫”ツーナ=シャーケ伯爵よ」


「え、えええーーっ!?そ、そうだったんですか⁉お二人は…」


「いやはや、私もすっかり騙されましたよ。それにしても、一体どうやって…?長く王国ニヤと関わりのある我々も、一切わからなかった。その立場でありながら、あの支配を一体どうやって掻い潜ったのですか」


モザちゃんの横から、ハナかわが純粋な疑問を投げかける。

それもそうだ。仮にも“しぃけーちき”の三大幹部である壱號が、支配した女王の正体が見抜けぬとは考えられん。それに、アムは正体を隠しながら、操られている“フリ”をしていた。何がそれを可能にしたのだろうか、と考えるのも当然の話だ。

それに、何か()()()()しているように見える。一体どうしたというんだ…?


「うふふ。忘れたのかしら、ニヤ王国、先代の聖十二騎士“茂賀翠”も、滅びの魂を持つ者だったわ。あの王国が栄えたのも、彼あってこそよ」


となかわが、後ろでうんうんと頷いている。


あの方(翠さん)がいる間、(壱號)は鳴りを潜めていた。

すべては人間側、ストガギスタ王国と並び最強と称されるニヤ王国を魔の力のもとに堕とすため。


彼女は最初からその気だったのだ。

用心深い奴だ、罠があると知れば、強い聖騎士が居ればすぐに行方をくらますだろう。それだけは避けたかった。聖十二騎士として、原初の虹色として見逃してはならない、だから自分自身を、()()()()()()()()


奴は侵蝕した者の心を見抜く。魂まで操るのだから当然だ。

だからアムは紋章と共に、聖十二騎士としての記憶を封じ込めたのだ。翠さんの魂の中に。遥か昔のことだ。


…そして、あの日。僕が運命の再会を果たした日。

僕の中に眠るその紋章に共鳴し、すべてが()()()。その瞬間に、奴を倒す計画の第一段階が終了したのだ。


僕はそれを知った日にすべて合点がいった。再会の日、彼女はすぐに僕に気づいた。桁外れの力にも、想像ほど驚いていなかった。そしてあまりにも用意が良すぎた。本当は僕の魂を見て、すべてを察したのだろう。そもそもあの少女とアム・ニヤは別人だ。あの少女はニヤ王国の王女の器となるための娘だったのだ。少女もそれを承知の上だった。


げに恐ろしい、アム王女。そして、ここまでもしないと欺けぬ、敵の最高幹部。

これだけは話せない。たとえ口が引き裂かれても墓場まで持ってゆく秘密だ。すべてをさらけ出してくれたウリアム君には悪いけれど、こちらは話すわけにはいけない…!


ああ…それにしても、世界のため、自らを家族を国を犠牲にして一気に決める機を計らい、完璧な采配と作戦で成功させたアム王女たるや、何と素晴らしく勇敢な……!!そしてこうして横に並ぶと凛々しい横顔がいっそう(ry



「……あの、なんかとなかわさんがちょっと気持ち悪い表情(かお)しているんですけど……」


「…放っておけ。仕方のねェことだ。大好きな人と初めて肩を並べて戦える、その気持ち、察するに余りある」


「あ、そうだ雨宮さん、装備重いんで、ちょっとだけ持ってもらっていいですか?」


「しゃあねェな…」


…場に馴染むのが早いな、雨宮玲音よ。


「フフ…やっとこの時が…!何を隠そう、この私“桜蘭を纏う聖騎士”ハナかわの正体は、“棲魔法王国”元首、サトクンと同一人物だったのです!!」


どうだ、驚いたかとばかりにドヤ顔を決めるハナかわ。だが…


「え?わ、わー、びっくりしました」


「……モザちゃん、そんな反応をするくらいなら素直に反応した方がいいんじゃないかな」


「あ…はい、すみません…結構…知ってました、もろバレでした…」


「え、え、ええ!?嘘ですよね!?そんな…」


きょろきょろと辺りを見回す。誰もかれも、眼をそらす。…こいかわさえも。

こいかわだけには、騙せている自信があったのだろうか?その自信はどこから…どう見たってバレバレなのに。


「さて、気を取り直して……改めて言おう。よくぞ集まってくれた。選ばれし戦士たちよ。“聖”の(あざな)をもつ12の魂を、紋章を以てして、奴をこの現世(うつしよ)()()()()()


「あ…あの、そのぅ…ひとつ、言いたいことが…」


ここで、誰よりも早く集合してから、おずおずと周囲を伺っていた“炎嵐を纏う聖騎士”きんしゅきが、怯えた様子で、初めて口を開いた。


「ん?どうした」


「その…ぅ…今、11人しかいないんですけど……」


「……」


「……」


「……」


「……」


「……」


「……」


「……」


「……」


「……」


「……」


「……なんでさ!?!?!?!?」


「いや気づくの遅ェよ、ごちかわ…」


「いつツッコむべきかと迷ってましたが…」


「……てなわけで、これより“聖別戦”を開始する!アティシの瓦解後、新たな聖騎士を勧誘していなかったのを忘れていた………」


「ええっ、今やるのかい!?」


「聖別戦…って、あの…その国の聖十二騎士より適任だと考えられる聖騎士と真っ向勝負して、新たな聖十二騎士として取って代わるための戦い…ですよね。それを、今…?それに、聖十二騎士がいない今、聖別戦も何も…」


「…まァこうなるとは思ってたけどよ」


雨宮玲音が、預かっていたモザちゃんの装備をつけさせてあげている。…モザちゃんはさらに困惑し始めた。


「え?え?これは…」


「まだわからないのか、モザちゃん。聖十二騎士として推薦するに、君以上の人材はいまい」


それに、これはちゃんと必要なことなんだ。執り行う前に、しておかなければ。


「え、えええっ!?私が!?…それで、相手は一体…」


いつも無茶ぶりに耐えているからなのか、最近妙に呑み込みが早くなってきたモザちゃん。その後ろから、重たげな足音が聞こえてきた。その歩きようから、こちらにも困惑が見える。


「と、となかわ殿…!?これは一体…」


「フッフッフ…ストガギスタ王国の勇敢なる戦士とニヤ王国の近衛隊長、二国による聖十二騎士補填聖別戦だ…!!このマッチアップは随分前から考えていた、まあ、うちのモザちゃんが勝つに決まっているがな」


「んーーーーーーー?聞き捨てならないなあ、戦力ならわがニヤ王国が最強だよ、ウチの誇る近衛隊長はごちかわなんかの国の聖騎士になんか負けないけど?」


「なんかとなかわさんまたキャラ変わってません…?」


「いつものことだろう…ま、ニヤ王国をバカにされることは、奴にとっちゃアム王女をバカにされることに等しいのさ。さ、これで問題はねェはずだ、行って来い!」


「ほほう?何やら其方(そちら)も随分パワーアップしたようだが、それでも敵わないだろうな、お前ごときの近衛隊長はな、丁度お前の滅びの力が俺に通用しないのと同じように」


「やってみなきゃ分からないよ?それに、僕だって君の再生能力を無効化する術くらいちゃんと考えてるからねーーー?」


わけも分からずいきなりに戦闘準備に入る二人をよそに、無関係であるはずの二人がにらみ合う。ハナかわと伯爵が、必死になって止めていた。


「私にとってはとなかわさんだって師匠なのに…なんかフクザツ」


聖別戦の当人はよくわからない理由でぶう垂れている。過去最高にグダグダな聖別戦だな。


その無秩序(カオス)な雰囲気を引き裂くように、京が割り込んできた。


「……となかわ殿、ごちかわ殿。知っての通り、私は()ういう類の者でございます。私が“聖”の(あざな)を頂くことなど、到底許されることでは…」


「いいや。違う、違うぞ京。聖十二騎士とは、心だ。世界に光の(ともしび)を照らす信念そのものなのだ。たとえその身体が魂が心臓が魔に染まっていたとしても、その心が正であるならともに剣をふるう幾万の理由たりえる」


「そうだよ、京。自信を持っていい。僕はこの国に来て以来、ずっと君を見てきた。正体が魔族?そんなの関係ないさ、僕たちにとって君は、誰よりも勇敢で義侠心(ぎきょうしん)に富んだ聖騎士の中の聖騎士だよ」


「……………何と勿体ない言葉。有難き…」


長き茶番を終え、先に構えるは、ニヤ王国近衛隊長、魔門京。

覚悟では、魔門京が上か…?


両者、見つめ合う。交差する四つの眼差しには、一抹の不安も感じられない。


先にモザちゃんが仕掛けた。疾い。風と一体化した神速。踏み込みも突進も、一切の無音。それゆえ皆一様に、判断が数瞬遅れるのだが…


あろうことか魔門京、無音神速の踏み込みを見切り、動く先を読んでそこに“魔炎(マガ)”を置いた。行動が制限されたモザちゃんは空中で錐揉(きりも)み、速度をそのままに別角度から斬りかかる。ちょうど、頭上から回転しつつ斬りつける形となった。


京もまた疾い。あらかじめ予測していたのか、頭上を見据え抜刀。二つの鋭い剣戟が、互いを襲い———、宙を斬った。


モザちゃんははるか後方。まさに瞬撃、というべきか。


「ケガしてもいいぞ。ハナかわの魔法でいくらでも治せる。仮に死んでも、俺が何とかしてやる」


もう、この声も二人には届いていないのかもしれない。


「す…すごいね。あの二人…聖十二騎士に遜色ない実力って言ってたけど、本当だったんだ…」


「何を言っているメロネ、奴らの実力はこんなもんじゃないぞ」


「え、嘘…」


「モザちゃんを見ろ。これまでは周囲に配慮していたのか知らんが、だんだんと速度を上げている。おそろしい速度だ。あの速度についておくほどの強者など、世界中を探し回っても見つかるまい」


「だが、ついていっている。すげェな、あの男。…だが、時に避けきれず致命傷を受けているようにも見える…それなのに特に異常がねェ。あれァなんだ、ごちかわのような能力か?」


「あれこそが、京が新たに修得した絶技<“狂空無為顕現(メルファウール)”>だよ。敵の攻撃が当たったとしても、もしかしたら回避していたかも、もしかしたら受けていたかも、といった可能性があるよね。その可能性を前面に具現化することで、攻撃を受けていないことにできるんだ」


「えっ!?なにその特殊能力!?最強じゃん!」


「あの絶技を可能にするのが、天性の才能、虚との接触…そして、例のあの魂か」


「虹かわ、知っているのか」


「無論。各国の強者については厳重に調べている」


虹かわは魂を視るとその性質が分かる。また、何によってそれが培われたかも、魂にまで刻まれるほどの強い印象を受けた記憶まで。


「まさに静と動の撥止(はっし)、陰と陽の相剋。本来混じり合わない筈の魂同士が、(さざなみ)が合わさり激浪(げきろう)となるように、互いを高め合っている。もはや単純な足し算などで表せるものではないな。興味深いものだ」


「これだけの情報でそこまでわかるとはな、さすがは“異質(いじち)”」


「褒められている気はしないな」


「み…見てっ!呑気に話してる時間はないよ、二人とも!」


「ほう…剣戟の速度がさらに上がっている。どうやら、攻略法を見つけ出したみたいだな」


「OHゥ…でモ、身体のところどころニ傷が見えマース…」


「まさか、あの怒涛の攻撃を防ぎつつ、反撃を…!?」


「「「いいや」」」


ごちかわ、虹かわ、雨宮玲音がそろって首を振る。そしてまた静観に戻る3人を横目に、となかわが口を開いた。


「これも京の能力、<“狂空無為顕現(メルファウール)”>の力さ。回避できなかった攻撃も回避したことにできる。因果を捻じ曲げられる。それを攻撃に用いたら……?」


「な……まさか…」


「そのまさかさ。ハナかわは武闘派ではないから、どうしてもひとりでについた傷には魔法のイメージが先行してしまうのも仕方ないね。そう。当たらなかった攻撃も、()()()()()()()()()()…それどころの話じゃない。攻撃を防ぐために突き出した剣が、たまたますれ違い様に相手を切り裂く…そんな時だって、稀にあるよね」


「は、はい……私も見たことがあります、幾度か」


「その可能性を具現化するんだ。彼の世界では、たまたま攻撃のほとんどを回避でき、剣で防ぎざまに、たまたまその剣が相手を切り裂いている。」


「な……」


「それでも、それでもだよ。恐るべきはあの圧倒的な光の力」


「ははは、そうだ。あれからどれだけの修行を積んだと思っている。あの程度の攻撃などモザちゃんには効かない!そして、もはや攻略法は確立されつつある」


怒涛の攻防が行われる中、京の“異空因果顕現”によって疑似的な拮抗状態にあるように見えた。その現状を打破するがごとく、モザちゃんが光の力を開放する。


「<“聖天(ルヴァナ・)霊煌煌(ハザク・)双麗斬(ニヴルガロア)”>っっ!!!!!!!!」


「……………ッッ!!!」


「そォか、成程。可能性を潰してしまえばいい、ということか。万に一つも避けられぬ、防げぬ速さで攻撃すれば、いかにあの絶技でも止められねェ…まァそんなバカげた対策ができるのなんて、モザちゃんかお前かとなかわくらいだが…」


だがそれでも京は耐えている。あの鎧には、京の魂が、想いが、志がそのまま宿っている。簡単に折れるようなシロモノではない。


闘志未だ消えず。京は、自らの魂から、怪しげに光る大鎌を取り出した。


<“朱色ノ凶鎌(シュメール・グォルグ)”>


京が大鎌を振るう。“狂空無為顕現(メルファウール)”により、モザちゃんには大鎌で切り裂かれた因果だけが残る。

(はず)だった。


京が大鎌を振るうが同時に、モザちゃんは全方向に目にもとまらぬ速さで剣を振るった。

どの方向から、如何様に振るっても、当たらなかったと言わんばかりに、弾かれるはずのない大鎌が弾かれる。


「ぐ………ッ」


これには京も唸る。だが、京は振るった大鎌を、その慣性のままに大鎌の柄の部分を向けて投擲した。柄の先は、鋭利な形になっている。


投擲なら、投げる先はいくらか予想できる。モザちゃんは京の耐性と慣性から大鎌の飛んでくるであろう可能性のある場所をすべて割り出し、そのすべての場所に防御行動をとった。


「む」


「身体能力は素晴らしいが……如何せんまだ青いな」


「闘争に完璧主義など要らん。無駄な体力を消耗しないためだろうが、同じように全方向・全タイミングに()()()いいものを」


投げられた鎌の後ろに、隠れるようにタイミングをずらした京の<“紫覇龍(マ・ギラゴ・)怨貫砲(スバドデルガ)”>が撃ち出されていた。恐ろしく細く、そして鋭く、魔力がこもっている。一流の剣士だって遥か彼方まで吹き飛ばす威力があるだろう。


「…………ッ!」


これも甘さか、油断か。咄嗟には防ぎきれず、後ろに吹き飛んだ。


「此れが…私にできる最大限の()()()だ」


頼む、これで倒れてくれ。京は甲斐なくそう願った。かの誇り高き近衛隊長が、そこまでも追い詰められていたのだ。


「ほう…俺とのアレを応用したのか。さすがはニヤ王国の天才騎士よ」


ちらりと横目でとなかわを見る。微妙な表情をしている。


「……僕たちは…何て化物を鍛え上げちゃったんだろうね…。来るよ…」


となかわが呟きかけたとき、雨宮玲音がハッと目を見開いた。


あ…あれは…あの目は……!お、俺との立ち合いの時、一瞬だけ見せた……………!!


────獣が唸りを上げる。

解放された狂気。体が、かすかに震えている。


「……………痛ぇな、仮にも味方だから殺さないように慎重に戦ってたら図に乗りやがって…ええ?そんなに死にたいなら望み通り殺してやるよ」


「ご、ごちかわさん、アレは一体…」


「くくく、味方だから心強いが、敵対する者にとってモザちゃんは絶望でしかないだろうな。並外れた光の力によって、驚異的な肉体の硬さを誇る。まさに難攻不落の光の要塞……ってとこか」


「そちらではありません……っ!急に豹変したような……眼の色だって変わりましたし……」


「な、何……アレ……」


「ステージ“(セカンド)”……だよ。モザちゃんには、抑圧された、封印された凶悪な力が、人格がある……!それが、京とのこの闘いで喚び起こされたんだ……」


「オ、OHゥ、封印された禁断の人格……!クレイジィ……!」


「そ……そんな……そんなことが……」


「ククク……苦しいか?無口にスカしやがって。唸って見ろよ、死ぬ間際の魔物のように。それとも、鎧ごと握り潰されて、声も出ねぇか?」


「ぅ……か……………は…」


ギリギリと、鈍く響く音。凄まじい光の力にまかせ、京の首を絞める音だ。京も全力で抵抗しているが、そのすべてが徒労に終わっている。


「さすがに止めないとまずいね…」


「もう少しくらい良くないか?」


「こ、怖い……怖いよ……静観してないで止められるなら早く止めてよ、ごちかわ!」


「……まあ、ここで京が致命傷を負ってもことだ」


二人が剣を召喚する。


「「<“八芒星(ジル・オクトボ)滅翔斬(ロス・ガロア)”>」」


「う……………!!!」


………………………………


「まあ……モザちゃんの勝利?で終わったことだけど……」


「ふむ……モザちゃんはやはり別格の剣士。俺は通常状態のモザちゃんにも敵わぬと思っていたが……まさかあの形態まで引き出すとは。天晴だ、魔門京」


「そうだね。凄いぞ、京。聖十三騎士にしてもいいくらいだよ」


「さすがにそれはややこしいからやめてくれ……モザちゃんが気絶から起き次第、遂に始めるぞ、となかわ。気を引き締めておけ」


「つ……ついにいくんだね……」


「今更また緊張しだしてどうする、メロネ、俺との修行の日々を想い出せ」


「う…うん…しゅ、修行…!?修行怖い修行こわいシュギョウコワイシュギョウコワイ……シュギョウやだやだぁ…」


「ちょ…トラウマを想い出させてどうするのさごちかわ」


「ん?なんのことだ?」


「……」


長き追憶を終え、遂に最終決戦。

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