第四話 ”一歩先へ”
「これ以上の修行ぉ!?」
「…はい。昨日の、“しぃけーちき”を見て確信しました。このままでは、ヤツらには全く及ばないって…」
「そんなこと言ってもなあ…、何度も言ってる通り、お前は類稀なる才能の持ち主だ。順当に修行をしてれば、いつか俺たちをも超える剣士になれるさ。…それに、無理に偏った修行をすると、必ず仕上がりに偏りができる。基礎のうちは、純粋で身の丈に合った修行をするのが一番さ」
「僕もそう思うけどねえ。心配しなくても、キミは僕たちの想定以上に強くなっているし、言うことはないよ。無理に上を目指して、その才能を枯らしちゃうのもよくないしね…何より、君の身体が心配だ」
「………でも…!私はどうしても…!」
「うーん…困ったねえ…僕もなんとか力になってあげたいけど…」
ううむ。俺は明日、単独で任務に赴く予定になった。ほんの2週間程度だが、その間の修行をこいつに頼もうとしてた矢先、こんなことになるとはな。面倒なことになったものだ。
「………仕方ない、…この件はお前に頼んだぞ」
「…えっ!?ちょっと、ごちかわ!?」
「…居なくなりましたね。逃げたんでしょうか…」
くっくっく。<"陰影擬態隠”>。これで奴らは俺に気づくこともない。このまま逃げさせてもらうぞ。
"陰影擬態隠”で姿を隠し、逃げようとした矢先、ごちかわは何かにぶつかった。
…………
…………あっれ~~~~??????
「ご、ち、か、わ、君?」
「やっべ」
「今までに何度、そうやって面倒ごとを押し付けて逃げようとしたと思ってるんだい?さすがに僕でもわかるよ、逃げるってことくらい」
「ごちかわさん…………」
「い、いや違う!!違うんだ!!!そ、それに今回は正当な理由があるんだ!正当な!明日から俺は単独任務につくんだよ!単独任務!!」
「本当ですかね…?」
「まあそんなことだろうと思ったよ。何の任務かは想像できるけどね。」
「なんでごちかわさん、いつも単独任務に行くときに謎にごまかすんですか…?前の時も逃げるように行ってましたよね?」
それは別に深い意味はないんだがな。たかがちょっとの単身任務に見送りとかをされると照れ臭いから、特に置き手紙もなく言ってるわけだが…
「これは、怪しいねえ」
「単独任務の先で女の子に囲まれて、イチャイチャしてるんじゃないですか~?」
「なるほど、それはありえるねえ。素晴らしい推測だよ、モザちゃん」
「えへへ」
「はっ!?しっしてないぞそんなことは!?だいいち、任務先では基本単独行動で、他の隊員と話すことなんてないぞ!」
ううむ、いきなり何を言い出すんだこいつらは…
ここは、適当なことを言ってごまかすか…
「でもやっぱり怪しいですねえ~…」
「同感。何か隠してるとしか思えないよ」
「…おいおい、待てよお前ら、この世の中に女の子なんて星の数ほどいるんだ。
…ってことはおっぱいはその倍あるんだぜ?興奮してくるだろ?」
「何の話ですか…?」
「(…相変わらず。ごまかし方が下手だねえ)」
「それに、こういうのは本来、『女は星の数ほどいるけど、君という太陽は一つしかないんだ』とか言うんじゃないんですか?」
「はっ!?え、なんでそんなことを俺が…」
「…むー」
なんだ。今日のモザちゃんは様子がおかしいぞ。…怒ってるのか?よくわからないな。
「まあいいや。行ってきなよ。おそらく、ごちかわの言う通りやましいことなんてないごく普通の単独任務だよ。どうせ2週間程度でしょ?モザちゃんも、ふくれっ面してないでさ。」
「…まあ、いいですけど…」
ううむ。なんで俺が責められているのかよくわからんが、行かせてくれるのならいいか…
「じゃあ、この2週間、モザちゃんの修行は僕が担当するよ。さっきの件も交えて、あとで相談しようか」
「はいっ!よろしくお願いします!となかわさん!」
………………………………
となかわさん。
ごちかわさんに並ぶ実力者。ごちかわさんの剣の動きを“動”と喩えるなら、となかわさんの動きはまさに“静”。その冷静沈着さと剣の正確さは、あのごちかわさんとて到底及ばない。
…たまに剣の指南をしてくれるけど、本当に巧い。
普段がごちかわさんの荒々しくて無茶苦茶な修行だからか、そのギャップも相まってとなかわさんの指南が体にどんどん染みついてくれる。
ごちかわさんは、これを狙ってたまにとなかわさんに任せてるのかな…?…考えすぎか…。
「さて、“更なる修行”だったね。」
「はっ、はいっ!」
「いろいろと考えたけど、キミの意志を汲み取るよ。ごちかわも、それを望んでるはずだしね。」
「あ、ありがとうございます!!!」
「いいんだよ。で、修行だけど、それをするには“下準備”が必要だ。」
「…下準備?」
「そうそう。なにをするにも下準備。試練と言ってもいいかな。本格的な修行に入る前に、まずはこれをこなしてもらう。」
「分かりました…!」
「よし、ならば、だ。」
となかわはおもむろにどこからか、とんでもない数のDVDを取り出した。
「これは…?」
「我らの怨敵、“しぃけーちき”。それに関する資料だ。今までの悪行を纏めた手記、とも言えるね。」
「手記…」
「まずは、これを全部観てもらう」
「こっ、これを全部ですかっ!?」
「そうさ。敵を知るのも修行のうちだよ。」
「そっそれに、これが修行と何か関係があるんですか!?」
「ふふふ、それは後からのお楽しみさ。ささ、見ておいで」
「わ…わかりました…」
半ば怪訝そうな表情をしたまま、自室に戻り、DVDを再生した…。
「~~~~~~~~~~~!!!!!?」
ドガシャーーーン
ドドドドドド ド ド ド ド ド
「とっとなかわさん!!!!!」
「ん?何だい、どうかした?」
「こ、こっこれっ…“しぃけーちき”の手記って…ただの恋愛DVDじゃないですか!!!!!」
「ははは、そうでも言わないと観てくれないと思ってね。修行内容はそれで合ってるよ。すべて見て来るんだ」
「でっでも…」
「何?僕の修行法が気に入らないのかい?」
「い、いやそーゆーわけではなくてっ!!…わかりました…観てきます…」
うぅ……なんでこんなことを…DVD,ものすごい量あるし…
もしかしたらこんななんでもないことが、ベスト・キ●ドみたいにすごい結果を出すかもしれない・・・にしても、恋愛系DVDを見ることに何の意味が…?
平和(?)パート。いったいDVDに何の意味が…僕にもわかりません。
ごちかわの浮気性冤罪ネタを回収。そしてついにとなかわが初登場。
モザちゃんはみんなにとって丁寧な敬語で話してるイメージだと思うから敬語にしてるけど、ごちかわに敬語で話してるのは違和感あるな…。