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MOZA-CHAN -モザちゃん-  作者: モザの者
第三章 ~神々と追憶~
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第七話 ”女王”

『あ、あり得ねえ!くそ、俺の魔法が不発だったか……!!』


『それだけ仰々しく()を描いておいて、不発…?あり得るのか、そんなこと……?』


『な…おっ、お前……いつの間に後ろに……!!』


『いろいろと言いたいことはあるけど、まず一つは…魔方陣に無駄がありすぎるよ。とにかく威力を出したい、という気持ちが出すぎて、陣の中で相殺している。これじゃあ強い魔法なんて生まれない…あと単純に弱い』


いつの間にか真後ろに来ていたとなかわに一瞬戸惑うが、すぐに側近は蹴りを放つ。

となかわは意に介さず、魔方陣に触れ、構造を少しだけ描き直している。


『な…、なんだと…っ!!』


『ほら、試してごらん』


尚もとなかわに攻撃を続ける側近の腕を、繰り出される拳打の流れに沿うようにゆっくりと掴むと、その手を先程の魔方陣に添えた。


『ぐ…!お前、何を…!』


————次の瞬間。


その魔方陣から出たのは、先程とは比べ物にならない威力の、<“聖火(シェイラム)”>。弾道の尾は華麗な朱色の糸を引いて、真っ直ぐに、俊敏に、突き進む。


『ね。これだけで、こんなに変わる。反動も格段に小さかったはずだ』


『……』


自意識の高いその側近も、ようやく、実力差を理解したようだった。

腰を下ろし、手を震わせ、黙りこくってしまった。


『ねえ、お姫様。さっきも言ったけど、正直言って弱すぎる。さすがに、この男がこの国の最高クラスの騎士だなんて言わないよね』


『ええ』


『…なら、良かったよ』


『……それにしても、貴方。一体、どれだけの修練を…』


『はは、秘密さ』


『…途中で瞬間移動したように見えたけど』


『ただ歩いただけだよ』


『…あなた方が先程放った“聖火”は、着弾前に消えたわ』


『ちょうどいいところで先回りして消したよ、今度はため息じゃなく、バースデーケーキのロウソクの火を消すように、ね』


『……………』


『他に、実力を試すテストはあるのかい?』


『……いや、もう十分よ。代わりに、色々と聞きたいことがあるわ。…積もる話もあるし』


『そうか。僕も、聞きたいことがあるんだった』


『先に聞いていいわ』


『いいのかい?』


『先に試したのはこちらだもの』


…微笑みがこぼれる。そうだ。こういうお方だ。約5年、ちっとも変わらない。




『そうだな…さっき聞いた通り、この側近はこの国最強の騎士というわけでもないんだろう?なのに、なぜ聖十二騎士に抜擢されたんだ。僕は聖十二騎士に詳しくはない。その国の最強の剣士がつとめるものだと思っていた。聞かせてほしい』


『そうね……あなたには、聖十二騎士の、成り立ちから説明しておいた方がいいかもしれないかもね…』


“あなたには”?…どうしてそういう言い回しをするのだろう、僕は、特に聖十二騎士と因縁があるわけでもないのに……。次期(?)聖十二騎士とは、たった今因縁を作っちゃったわけだけど。


『聖十二騎士………皆、なぜか、この者たちを神聖な、遥か昔からある伝統と思っているみたいなんだけど、聖十二騎士の歴史は、意外と浅いの。多くは、2代目か3代目くらいよ』


なんと。そうだったのか。……それにしても、思ったより浅いな。


『“モザ次郎”…は知っているわよね』


『……もちろん。そのあたりの知識に疎い僕でも、それだけは知っているよ。伝説の剣豪にして、遍くこの世のすべての剣術の始祖だとか…』


『彼の現役時代、魔族や、“しぃけーちき”を筆頭とした深淵の使者の討伐に一役買っていたとき、彼には7人の弟子がいたの』


『7人の弟子…』


『彼の直属の弟子ということだけあって、その7人はとてつもない強さを誇り、彼がいなくなった後も各地の活動に尽力して、後継の育成までしたわ』


話が長くなることを悟った周りの兵士が、一体どこからか、いかにも高級そうな椅子とテーブルを持ってきた。二人は腰を下ろす。横の窓から差し込む西日に目を細める姫。咄嗟に兵士がカーテンを閉めた。姫は一呼吸おいて、


『……それが、“原初(はじまり)虹色(なないろ)”よ』


『はじまりの、なないろ…』


『赤・橙・黄・緑・青・藍・紫で構成されるその七人は、長い間、人間と、魔族・深淵の使者との戦いの第一線に立ち続けた。でも、年齢の問題などもあり、一人、また一人と退いて行ったわ。彼らの弟子がその役目を引き継ぎ、もしくは、新たに作られた国にスカウトされて、国の看板的な役割を負った』


『なるほど。それで、十二の国家が生まれ、ちょうど分散されるように強い剣士が居た。それを称えた…ということかな』


『そう。そして、当時は今よりも剣士が少なかったから、あちこちと移動する必要があった。そして、移動においてこの上なく強い「馬」は、今よりも特に重宝されていて、その12人は特例として個人で馬を所有し、移動手段とした。こうして世界中を飛び回り、魔物を使者を倒し人助けの行脚をするうちに、いつしか周囲から名付けられたのが、“聖十二騎士”よ』


『よくわかったよ。一から詳しく教えてくれて、本当にありがたい。でも、どうして、こんなことをいきなり自分に教えたんだい?』


『理由はおいおいわかるわ。次に、この国の聖十二騎士の歴史について説明するね…』


パタン、と扉の閉まる音が聞こえた。後ろに居た使用人たちがみんな出て行ったのだ。彼女が指示したのか。この場には僕たち二人のみ。


『ああ、教えてくれ。この国の兵として成り上がる以上、この国の歴史へ勉強しておきたい』


『野心があるのね。兵として強くなって、成り上がって…、でも、貴方はそんなこんなとは無縁でしょう。この国は、つい5~6年前まで、珍しくも、初代、つまり原初の虹色のうちの一人が、聖十二騎士として私のそばについていてくれたの。』


僕が、成り上がりとは無縁…?どういうことだろう。サラリと気になることを言われたが、話をやめる気はなさそうだ。ここは、黙って聞いてみよう。

それに、残る一人の原初の虹色についても、気になるな。


『でも、ついに現役を退くことになった。何十年もこの国を守ってくれた栄誉もあり、私らはその後の人生を豪遊して暮らしても余りあるほどの資産を与えて、国中の人々が贈り物をしていたけれど、その後、そのすべてを置いて忽然と姿を消した。……これで、現役で戦う"原初の虹色"は、一人だけになってしまったわ』


退()()()を全て返還してどこかへ行ったのか。凄い人だ。どういう考えからだったのかはわからないが、少し異常だな。


『私たちはパニックに陥った。部類の強さを誇り、この国の一大戦力であった彼が居なくなったのは、とんでもなく痛手だったの』


そうだろう。〈現役を退いたが依然として国に居る〉と〈もうその国に居ない〉とでは大違いだ。


『…彼に弟子は居なかったのかい?』


『…それこそがこの国の、我が家系の唯一の失敗なの。この国は他の国に比べ格段に魔物からの襲撃の頻度が高い。故に彼は多忙で、年中襲撃の対処に追われ、防衛隊が組まれるまで、彼は多忙ゆえに弟子の指導ができなかった。そして防衛の陣が敷かれて彼抜きでも魔物の撃退が何とかなせるようになっている頃には彼は老いてしまって………』


そんなことがあったのか。だがしかし、際限なく顕れる魔物を撃退できる防衛をギリギリと言えど作れたのは、僥倖だっただろう。そうでなきゃ、いつかこの国は壊滅していただろうからね。


『だから、一刻も早くこの国は彼に代わる強い兵士を国の代表的戦力として用意しなければならなかったの』


なるほど。いや、しかし…


少し怪訝な顔で、窓の外から城門のそばにいる男をのぞき込む。姫もとなかわが何を考えているか察したようだ。


『そうね。京は、門番という役に収まりきらないくらい強く、頼りになるわ。もちろん、私も彼を、見かけ上でも、聖十二騎士になってもらおうとしたのだけれど…、何か、何故だか“聖”の一文字を持つのは相応しくないような何かを感じるらしくて、お断りされてしまった』


気になるな。聖に相応しくない気がする…?どういうことだろう。


『だから、あの側近君を聖十二騎士として仕立て上げたの。古くから私に仕えていて、キャリアも申し分ない。実力はちょっと残念だけれど、周囲の国には、次の後継となる聖十二騎士になる予定です、と言っておけば、見かけ上は問題なかった』


先代の聖十二騎士はまだこの国に居るという体で……。しかし、それだと、限界があるんじゃないか…


『今あなたが考えている通り、こんな形で、うまくいくはずはなかった。この国は、ものの見事に傾き、ついにこの国の実権を握られた』


『なっ……!?君は…』


『…そうよ。私はこの国の先王の娘で、この国の女王となる予定だった。けれど…、それは台無しになって、()()()がこの国の女王となり、私はその女の妹という()()()()()()


無茶苦茶だ。馬鹿な。周囲はどうなったんだ。この国全てを洗脳するくらいのことをしないと、そんなことは成しえない。


『“氷の魔女”一號・O(オレ)の手によってね』


『一號・O……』


『…そこで、貴方にはこの国の聖十二騎士になってもらうわ』


『……………………………………はっ?』


もっと無茶苦茶だ。どういうことだ、いきなりすぎる。支離滅裂、いやそんなものじゃない、なぜ、あの話の流れから……


『聞いての通りよ。もう貴方にしか頼れない。聖十二騎士となって、この国を救ってほしいの』


『ま、待ってくれよ。諸々の疑問はこの際目をつむるとして、なんで、僕なんだ。今現れたばかりの、僕を。この国は、いやどの国でも普通は兵士として実績を積んで出世して、なるものなんじゃないのか?それに……』


『…言ったでしょう。さっき。聖十二騎士とはどういうものか』


『……聖十二騎士の歴史については教えてもらったけど』


『聖十二騎士とは、“理を壊す者”。理屈や概念、その諸々を吹き飛ばすほどの力がないと、聖十二騎士にはなれないわ。だから、貴方よ』


『……え?』


『本来、出世にはこの国で出世して……という正道を、理論をすべて壊すのよ。貴方なら、理屈を超えた力を持つあなただから、それができて聖十二騎士になれる』


……………い……………

…言われてねえ~~~~~~!!!!!!!


言ったっけ!?そんなこと……………!?

言ってないよね!?これを読んでる人確認してきてっ!


……もしかして、こういう理屈もぶち壊しているってこと?

……………無茶苦茶だ……………この姫……………


……………でも。


この天真爛漫な笑顔を。


あの日、一目惚れした彼女の笑顔を。


僕は守るって決めたから……。


『わ…わかった、やる、やるよ……アム女王』


『嬉しい、ありがとう!……あ、設定上、実権を奪い返されるまでは“アム王女”でよろしくね♪』


『……………はい、アム王女……………』


な…なんでこんなことに……………。


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