表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
MOZA-CHAN -モザちゃん-  作者: モザの者
第三章 ~神々と追憶~
32/53

第四話 “導星”

「……えっ、みなさん、なんでそんなに驚いて…」


「なんでも何も、モザ次郎と言えば…!!」


「伝説にして最強、聖十二騎士の、いや、この世界の“剣”の礎。騎士とは、光とは、その男そのもの。伝承では過去、かの“しぃけーちき”とも渡り合い、倒す寸前まで行ったそうだ。」


「貴方が…あの人の娘……」


「モザ次郎は、僕たち含め、この世界に生きるすべての騎士たちの憧れだ。まさか、モザちゃんがその血を…。それならば、このとんでもない光も説明できる」


「そ、そんな凄い人だったんですか…。」


「知らなかったのかい?」


「無口な人でしたから。剣士さんだということは何となく知っていましたが、剣を教えてくれたことはなく、ほとんどが謎に包まれてました。…ある日突然、『寿命が近い』とだけ告げると、剣や、私財をすべておいてどこかへ行ってしまいました」


「……」


サクラウニが、何やら意味深に目をそらす。あえてそこには突っかからず、以前から気になっていた問いを投げかけてみた。


「……すると、モザちゃん、あの日、洞窟に行ったのは…」


「……はい。父を探して、あちらこちらと彷徨っていました。いい父でしたから、別れが受け止められなくて、探しても無駄だと、心のどこかで思っていたのですが…、希望を捨てられなかった。それに、無口な父の生前の情報も欲しかった。よく、色々な洞窟に潜って何かをしていたので………。気づけば、暗い洞窟の奥底。<“亡靄”>にとらわれ、ごちかわさんに助けてもらわなければ、私は終わっていました」


「まあ、死んでるわけだけどな」


「ごちかわさんっ」


「すいません」


「やっぱり…貴方は光の力でそこに居るのね。真体も魂も光そのもの」


「は、はい……そうなりますね」


そういうことなら、私の力が一切通じなかったのも納得できるわ。あの人由来の光の力。それだけがあの体の、魂のすべて。体が体でない以上、死の瘴気では喪われない。


でも、それじゃあ…、寿命によって、その肉体を喪うであろうあの人も、光の力によって生き続けることが、理論上は可能である、ということ。


これは、これだけは言えない。()()()()()()()()。そして、そのことを、悟られてはいけない…!!


「よっし!そういうことなら、全員行く価値大いにありだ!それじゃあ、説明するぞ…」


「あれ、そういえば、京は……」


「京なら、先程帰らせた。ニヤが心配だそうだ。魂の定着も行わなくてはならん。大導星を使わず帰るのは残念だが、奴にも使命がある。お前だって、ニヤに残して来た姫が心配だろう」


「そうだ、そうだった……!僕はあんなにも可憐な姫を置いて(ry」



「……じゃあ、説明するぞ。これは<“大導星(アミタポソメ)”>。あの守護者をここで倒したからここに顕れた。総ての手段を完全に行わなくては、エラーが起きて使えない。慎重に扱わなくてはならん。言うまでもないが、これは古代兵器のひとつ。中でも、とびきりヤバい代物だ。導星は過去を視るだけだが、大導星なら過去にその体を転送することができる」


「過去に行っている間、この世界での体は消えるんですか?」


「消える。存在ごと、魂ごとな。それだけじゃないぞ。あちらで行った行為は、此方の時空にも影響を及ぼす。過去を乖繆できる。慎重にしなくてはな。我々の目的は、しぃけーちきの過去を探ることだ。俺達はヤツについて何も知らん。弱点はおろか、主義や目的、その正体までも。そしてモザちゃん。君は、父親を捜してみるがいい。俺も、会いたい人がいる」


「そう。ここに来た目的がそれさ。“しぃけーちき”と戦うには、我々は情報が足りないんだ。ごちかわの言った通り、何も知らない。リスクなく奴についての情報を探るには、世に“しぃけーちき”が現れたときに飛んで、その正体を確かめなくてはならない」


「わ、わかりましたっ……」


「奴もかつては弱かったかもしれない。ここ40年で、奴も少し成長しているだろうしね。弱かった時のしぃけーちきを倒せば、もしかしたらこちらの世界にも影響して、楽に倒せるかもしれない」


「あの怪物の、弱かった頃…想像もつきませんね」


「きっとあるさ。俺達だって、昔はとんでもなく弱かったんだぜ?」


「……想像できないです」


「はは、そうか」


ちらりと横目でとなかわさんを見ると、小さく頷いている。本当に、弱い頃があったんだ。この二人にも……。


「では、皆、手を(かざ)せ。この宙に浮かぶ大きな星に」


「うん」


一人、また一人と手を大導星に向ける。わずかに薄く光り、周囲に立ち込めるサクラウニの神気を吸い始めた。


「頼むぞ、サクラウニ」


「……分かったわ」


おもむろに、バッと両手を挙げると、大導星に神気を送る。光が点滅し始め、『何か』が起こり始める。


ごちかわ達の周囲を黒い、分厚い壁が覆う。構わず、サクラウニはその壁の外から、力を送る。

壁の向こうの声は聞こえない。早くも、この時空から隔絶されたのだ。きっと壁の内側には今、誰もいないのと同じ。好都合だ。全力を出せる。


「<老海白(ワカチゴ・エ・モエイ)>……!!!!」


サクラウニがフルパワーを引き出す。この力で、一気にごちかわ達を向こうに送る。

—————その矢先。


『おっと、それはなかなか、看過できないねえ』


「な……!」


突然、放出している神気が、ひとりでに曲がり、辺りに霧散しだした。加えて、禍々しい声が、……聞き覚えのある声が聞こえてきた。


『なるほどなるほど。君はまたなんてことを。行かせるわけにはいかないね』


「邪魔は…させない…!」


胸に手を当て、更に力を振り絞る。今、周囲には誰もいない。何もない。遠慮なんて、しなくていい。


『無駄だね。君程度の力でこの私を、どうにかできるとでも思っているのかな?』


「彼らを行かせなきゃならない。この使命のためなら私は、この命をも削るわ」


『命を懸けてどうする。神程度の。神の力の()()()()()は、私もよおく知っている』


空気が、大地が、弯曲していく。黒い壁から漏れ出る薄い光と、絶え間なく送り込んでいる神の力がわずかに双滅を繰り返し、赫漆黒の渦を巻く。


「あの人たちは…お前を倒す、この世界を救う、唯一の希望…!!ここで崩れるわけにはいかない、希望は潰えるわけにはいかない!!」


歪む、歪む。サクラウニの覚悟をあざ笑うように、空間が、時空が、崩れ始める。いったい今、何が歪んでいるのかもわからない。自らの眼が歪んでいるのか。


『ふむ。そうか。()()()()()()()()()()()()君だから。そうだね。邪魔はさせたくないのだろう』


歪みがさらに深刻になる。サクラウニのフルパワーでも抑えきれない大導星の暴歪。サクラウニは一瞬、顔をしかめた後、すぐに覚悟を決めた。


『はっはっは。現実は非情さ。希望など、そうあちらこちらにあっては困るよねえ』


ついに大導星を覆う黒い壁をも歪み始める。その力が内側にまで侵蝕しかけた、その矢先—————


「……どうかな」


サクラウニの力が、急激に上昇した。歪みを一瞬にして引き戻し、混沌を振り払い、光が差し込む。さらには元の自らの“死の瘴気”をも、その光によって払われる。


『…君。正気かね。……いやはや。まさか。ここまで莫迦(ばか)な神が居るなど、思いもしなかった』


「正気よ。私は、元々こうするつもりだった。言ったでしょう。命を懸けると。この命を以て、私はこの方々を、希望を導きの星へ送る。もうこの世界には居られないけれど、冥界の神としてでも生きていくわ」


『太古の死神。この世界に生き飽きたか。まあ、私としては面白いものが視えた。』


サクラウニの身体が薄くなり、しきりに点滅して、別れを予感させる。ここには、もう居られないようだ。


最後にぐっと力を籠め、大導星を飛ばした。安心しきった顔で、サクラウニは消えていった。



『はは。いい最期だよ。サクラウニ。本当にいいものが視えた』


『しぃけーちき様。大導星は……』


『んー、少しは歪めたがねえ。あれを視てしまっては、妨害など、()()()どうでもいい。それにしても。サクラウニ。あれほど人間に入れ込む神など、前代未聞だろう。何がそうさせたのだろうねえ』


『……前代未聞…ですか。フフ……私、もう一人、サクラウニに負けじと人間に入れ込む神を知っていますが』


『!!…はっはっは、そうだそうだ、そうだった。もう一人いたねえ。人間にこれでもかと入れ込む、救えない愚かな神が。』




「う……こ、ここは……」


ここは…、ドヴェルガルマ大宮殿の外か。周囲を見る限り、確かに過去のようだ。

だが…、なぜこの場所に?皆も見当たらない。


しぃけーちきの妨害か。奴の妨害が見えた。それで大導星に少し歪みが生じているのだろう。とはいえ、過去に行けただけで儲けものだ。ここでできることを探そう。


す ゛ か ゛ ぁ ゛ ん ゛ ッ ッ ッ  ッ  ッ  ッ   !    !    !     !      !


「なんだ、何だ今の爆発音は!?」


嫌な予感がする。同時に、()()()()も。この場所、この爆発、間違いない。


「……そうか」


慌てて走ったその先には、ボロボロになった()()が居た。


しぃけーちきの妨害により、目論見とは違う場所に飛ばされたごちかわ。

いったいその場所とは……?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ