第一話 “蒼穹”
………………。
……空気が、重い。
当然だ。あんなことがあったのだから。
でも、早く、早く、ごちかわ達と合流しないと。
行かなければ、行かなければ……………。
「……モザちゃん、………こいかわ」
「……はい」
「……」
「僕は…やり残したことがある。………すぐ戻るよ。」
「……分かりました。待っています。」
「……」
俯いたまま、一言も声を発せないでいるこいかわを、ちらと横目で見る。神妙な面持ちで、となかわはごちかわの元へと急いだ。
………………………………………………………………
「ごちかわよ」
「なんだ」
「…どういうことじゃ。妾が、どうなる。おぬしは、妾を殺せぬのでは無かったのか」
「あぁ、殺さないさ。俺はな」
「………ま、まさか」
「そのまさかさ。貴様は思い違いをしていたようだ。お前は奴を謀り、ニヤ王国の王として君臨し、裏で"あの魔物"を創り上げた」
「……!!」
「お前は知っていた。魔界、アオタンに俺達があの日来るであろうということ、そして、俺がここに来ることも。ただ一つ知らなかったのは、俺たちもそれを知っていたということだ」
「い、いつから…。どこまで、知っておったんじゃ。」
「さあな。モツモツババア。お前がここでしていた実験のことなんて、何も知らないぜ」
「……………ま、まさか、妾は…」
「はは、そうだ、その通りだ。お前の目論見は知っていたが、だが、まさかアオがあそこまでのことになっているなど思いの外だった。俺達はお前を許さぬ。必ず。許してはならん」
「…………………お、泳が…されて、いた、と…」
「聞こえるか、この脈動が」
「ぁ……あぁ………………」
「来るぞ。あの男が。囂々と音を立て、激昂に身を震わせ、真っ直ぐに。さあ、踊ろうぜ。俺とお前と、3人で。
振りつけは貴様への怨恨。演舞を踊るのはお前だ。俺が終焉の歌を謳い、奏でるは悲鳴という慟哭の調べ。俺も、お前も、今宵は錚々たる惨劇の狂詩曲だ、存分に楽しもうぜ?」
アオ達に起きた悲劇の元凶であることに加え、モツモツを絶滅させるために泳がせておいたとはいえ長い間アム王女の上に君臨されてはな。あの男の恨みも相当なものだろう。塵芥も残らず掃滅してくれるだろうな。
「……!!」
「本気でキレたあの男は、俺とて止められぬ。どうする。この状況を」
「……ぅ、ぁ……」
…そして。
—————その脈動は、激動は、だんだんと近くなって。ついに。
"破滅"が、そこにいた。静かに、ゆっくりと、歩いて来る。
「よう、遅かったじゃないか」
「……ありがとう、ごちかわ。こいつだけは、僕の手で消し去りたいと思っていたんだ」
「よせよ、感謝されるとほっぺがむず痒くなる。面倒だっただけさ」
「な…あ…」
何という威圧感。あの一號が、言葉も発せられないほどに居竦み、震えている。
「一號・O・ニヤ、改め、“モツモツババア”。君は、滅せられるべきだ。天に還る時が来た。」
「……ま、待っ…」
「待たん。お前だけは絶対に許せん」
剣を抜いたな。アレは…<“鳳凰律剣”ドル・エグジル>か。全く、いつの間に融剣していたのやら。過剰が過ぎるぞ、となかわよ。
息つく暇もなく、となかわの鳳凰律剣が一號、いやモツモツババアに刺突を仕掛けた。
バリバリと滅びの赫い焔を纏うその剣は、一直線にモツモツババアに向かい————、
「……………なんの、つもりだ」
「いやぁ、なんだ」
————直前で止められていた。
「となかわよ、怒りの余り、視えてなさすぎだ。よく視よ。……まあ、今はそれがありがたかったのだがな」
「………なに?」
一瞬、足を止め、目を凝らす。モツモツババアの心臓部分に、小さな小さな魔方陣が視えた。
「このタヌキが。やはり、あの時の俺に殺意がないことなんて勘づいてやがった」
「……………………………………そういうことか、ごちかわ…。」
「……………く、…!!」
<“新生”>の術式だ。此奴が滅びても、次の、また次の"モツモツババア"がまたどこかに誕生する。転生とは少し違うが、明らかに勝手がいい。…そして、おそらく次は“弐號”となるだろう。
「ああ。行くぞ。となかわ。久方振りの共演だ。」
「……分かった。ごちかわ。」
「な…何を……………!!」
「「<“滅”>」」
<“新生”>は最高位の術式をも凌ぐ、神々の術式。おそらく、裏で手を引く何者かによって掛けられ、モツモツババアが誕生するきっかけとなったのだろう。
このレベルの魔方陣はとなかわの権能とて完全には滅ぼせぬ。だから、手を合わせるのだ。俺の“諍う双律に背反する力”を併せて初めて術式を成せる、滅びの最強の呪文、それが“滅”だ。
滅びの焔は、小さく渦を巻き、瞬く間にモツモツババアを飲み込む。
「……………!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
声も、発せず、魔方陣が、肉体ごと、みるみるうちに滅びゆく。数秒も経たないうちに、そこには塵すらも残っていなかった。
「貴様には、転生の機会も、安らかな眠りも与えぬ。」
蒼き世界アオタンに巣食う総ての元凶、“モツモツババア”が、討ち滅びた瞬間であった。
「……………ありがとう。ごちかわ。色々と、衝撃的なことが起こりすぎて、前が見えていなかった」
「くはは、怒りに任せると周りが見えなくなるのは、お前の旧くからの悪い癖だからな。俺がアオをどうにかした方が良かったかもな」
「………うん。そうかも、しれない……………」
「お、おい、となかわ……………!?」
な、そんなことがあるか。冗談だ、戯れに決まっているだろう。となかわは善くやってくれた。ほとんど詰み状況のあの中、甦生はほとんど不可能だったこいかわの魂を、愛をもって呼び覚まし、アオとの最後の逢瀬を用意した。俺にはできぬ。必ず。この男だからできた。
「……………」
……しかし、当然だが、相当落ち込んでいるな。是非もない、となかわとアオは旧き付き合い。俺とて奴との別れは惜しい。
「そ、そうだ、となかわ。お前が今回手に入れた特殊能力、あるじゃないか」
「……………何のことだい?」
「ほら、あれだ、<“光煌聖天心剛掌”>を使って、魂から過去を覗き見ていただろう。一瞬だったが、俺にはわかるぞ。俺も欲しい、その能力が」
「………ああ、そのことか。僕にもわからないよ。なぜか、最近、そうなるようになったんだ」
「試してみていいか?」
ごちかわが、ゆっくりと右手を光らせてとなかわに迫る。
「……え?ちょ、何をする気だい!?やめてよ!?」
「さあ、お前の真意を見せてみろ!<“光煌聖天心剛掌”>ォォ!!!!」
「あづj」
徐にごちかわの右手が胸を貫き、となかわが声にならない(?)悲鳴を上げる。
「んー、視えないな…?」
「……………ご、ち、か、わ……?」
「やっべ」
…………………………………………………………………………
「今日という今日は許さないからな!滅ぼしてやる、ごちかわ!!!!!!」
「うひぃ、許してくれえ~~~~!!!」
………そうだ。となかわはこのくらい元気でないとな。…それはそれとして、この状況、どうしようか。“弐號・ごちかわ”になってしまうかもしれんな。
「……む?」
全速力で逃げてきたが、ここは、魔界と人間界をつなぐ門の前じゃないか。いつの間にこんなところまで……………それに、何者かが入ってくる気配が見える。門がわずかに光っている。
「……ん?」
そのことを察してか、となかわはぴたりと足を止める。汗をぬぐい、俺に当てるために用意した“滅撃の破球”を握り締めた右手を、門に向けた。このタイミングでこちらに入ってくる者は、得体が知れない。何も聞いていない。
それに、わずかながら、魔族の気配がする。
すると—————
「なんだ貴様か。なるほどな」
「よかった。その様子だと、本当に守ってくれたんだね。ありがとう、玲音」
「人使いが荒いぞ、となかわ……………。だが、今回のこれでいい手土産が手に入ったぜ。」
魔界の門から出てきたのは、ごちかわ総本家を救ったあの男である。ぐったりとうなだれた魔族、華阿々の首根っこを掴み、引きずっている。
続くように、もう一人の男が入ってきた。どこぞの大魔導士のようなローブに、オレンジ色のマフラー。大きな丸形の眼鏡をし、にこやかに微笑みかける。
「や。お久しぶりですね。君たちと会うのは何年ぶりかな」
「おおお!ハナかわか!!会いたかったぞ!嘘だけど」
「久しぶりだね。なるほど、こちらに入るには少なくとも二つの聖十二騎士の紋章が要る。ゆえに連れてきたのか。でもいいのかい?棲魔法王国は大丈夫なのか」
「ふふ、心配ありませんよ。それよも、この状況を放っておくほうが大問題。<“亡靄”>の被害を受けているのは、こちらも例外ではないですからね」
“桜蘭を纏う聖騎士”ハナかわである。“棲魔法王国サトクン”に属し、聖十二騎士の中で魔法の行使を最も得意としている。
「……ん?たしかれいちゃんは今は聖十二騎士じゃなかったよな?なら紋章は一つ足りないかと思うが………誰かからはぎ取ったのか?」
「人聞きの悪いことを言うんじゃねェ。まだ持ってるんだ。………れいちゃんはやめろ」
「いや返還してないのかよ!?捕まっても知らねーぞ」
「なんかこいつに常識的な注意をされるとちょっと腹が立つんだが……………」
「……まあ、ちょっと気持ちはわかるよ、玲音。ごちかわ、玲音は結構前からお尋ね者だよ」
「なんでさ!?(二重の意味で)……………ってことは、今れいちんを捕まえれば懸賞金とか出たりするのかな?」
「冗談でもやめろ。お前は聖十二騎士で一番闘いたくない。…れいちんはやめろ」
「話が進まないな……………。そろそろ本題に入ろう。…ハナかわ」
傍でニコニコと微笑みながら、ずっと黙っていたハナかわに促す。きっと、となかわはこの男が呼ばれた理由が分かっているのだろう。
「あ、はいはーい。分かりました。では、とりあえず、蒼巣に向かいましょう。」
ハナかわの鶴の一声。玲音が例の魔族を引きずり、4人で蒼巣へと歩き出した。
……………………………………………………………………
…総てが、変わって見える。かつて、魔界ここに入ってきた時と。
覚えている。思い出した。此の景色。
年月が経ち、荒れ果ててはいるが、私の眼にはそのまま変わっていないように視える。
そして、此処。蒼巣の入り口からほんの少し離れたところにある、小さな物置小屋。
ボロボロだ。屋根も扉も、ほとんどその意味をなしていない。だが、残っている。形も、香りも。十分だ。私は、そしておそらく兄者も、ここで生まれたのだ。
此処なら。私と兄者が生まれたであろう此の場所で、私は生まれ変わる。そして。兄者を悼み、共に生きよう。あの場所を兄者の墓にはさせぬ。此処を以て兄者の出処であり、墓地であり、生国としよう。…そして、私にとっても。
「……………………………………」
<“御天魂開闢”>。京が魂を開ける。それに呼応し、朱眼の魂が煌々と光る。刹那、吸い寄せられる陰陽のうねりのように、京の深紫の魂と、朱眼の真朱色の魂が混ざり合う。
「…………………………………………!!!!」
いつしか、聞いたことがある。私が嘗て斃した魔族から。魂を喰らうということは、其れ則ち対象の全存在を我が物にする事だと。魂の中で双方の存在が犇めきあい、こちらを乗っ取ろうと暴れるのだと。その拒否反応を抑え、その闘いにも克って初めて、強さを増すことができるのだと。
…だが。
拒否反応どころか。一抹の違和感すらが、ない。おかしい。兄者の魂は、本当に入ったのか。
ぐっと、拳に力を籠める。バリバリと、音を立てて周囲が震える。想像をはるかに超えた力の放出に、京は驚き、後ずさる。
ポン、と、朱眼に左肩を叩かれた感触がした。すぐに後ろを振り向くも、誰もいない。
「……………………私は…。」
…………。
「ん、アレ、キョーちゃんじゃね?」
「……本当だ!そうだ、蒼巣に行っていたんだ。用はもう済んだのかな、とにかく無事でいてくれてよかった」
「でも、何か雰囲気が違う気がするな。何があった?力が、闘気が桁違いに増している」
「ごちかわ氏、あのお方は?」
「ニヤ王国の近衛隊長、魔門京だ。おそらくな」
「おいごちかわ、おそらくってどういうことだ?………それにしても、すげェな。近衛隊長の実力じゃねえ。この距離でもわかる。聖十二騎士に匹敵するぞ、あの闘気。」
すると、こちらに気づいた様子で、こちらに飛んできた。となかわの元に跪く。
「京。大丈夫だったかい。」
「は。此方の用は片付きました。感謝いたします…其方の御二方は」
「雨宮玲…危ねっ…ただの旅人さ、名乗る名は無ぇ」
「“桜蘭を纏う聖騎士”ハナかわです。よろしくね」
「ニヤ王国直属近衛隊長、魔門京だ。此方こそ、よろしく頼む」
「あれっ、キョーちゃんこの二人と面識なかったっけか」
「ああ…両方、どこかで見たことがある気がするが、初対面のはずだ」
ん?そうだったか?俺の勘違いか。…それと、なんかキョーちゃんの口調がいつもより柔らかい気がするな。気のせいか?
「まあ、ちょうどいい。帰ってきて早々だが、もう一度俺達を蒼巣の最深部へと案内してくれ。」
「ちょ、ごちかわ。さすがにそれは…。京も疲れているだろうし…。」
「構いませんよ。となかわ殿、私めが案内いたします。此処の地形は私が誰よりも熟知しているゆえ」
……………………………………………………………………
「すごい…………すごい……………!!!古代の遺した英知、この太古の迷宮……………!!最高だ、来てよかった、これで、とっても捗るよ…!!」
蒼巣にいくつも仕掛けられた罠や騙し通路。それを最小限に完璧に処理し進む、京。その後ろから、ハナかわが感嘆の声を上げている。
「そっか。ハナかわはこういった古代の遺跡が大好きだったね。」
「もちろんです!私は、これを見に来るために雨宮氏についてきたんですから!!ああ、もっと早くきたらよかった……………!!」
ハナかわが古代の遺跡を調べることを嗜好としているのは、単なる趣味ではなく、自国での新たな魔法開発の大きなヒントとなるからである。
この世界では、生まれる魔法よりも、失われる魔法の方が多いと言われており、ゆえに日々失われる過去の魔法を悼みつつ、過去存在した様々な魔法を調べることを生業としているのだ。
「……もうすぐ、着きますぞ」
「早いね。さすがだよ」
「とんでもございません」
事実、速かった。京が一人で来たときよりも。節節に沸く魔物達は、となかわの権能、ハナかわの自動発動する魔法、ごちかわの戯れにより瞬時に倒され、道をふさぐ敵がいなかったのである。
「あ、どうやら、着いたようですね!って、これは……………!!」
「ほう…これが“導星メソ”……神々の遺した遺跡のかけら。過去を見る、唯一の道具」
「!…ごちかわ殿、知っているのか」
「知っているも何も。俺たちはこれ目当てでここに来たんだぜ。れいちゃん、頼む」
「す、すっ素晴らしい………!!………確かに、この感動を、この激動を納めたぞ。これで、サトクンの技術は10年進むよ!!いっ、今すぐにでも帰って、開発をしたい…!!」
「分かった、やるぜ。…ハナかわは待て。もう少しだ。…おい、起きろ」
玲音が、ずっと気を失ったようにうなだれていた華阿々の首元に衝撃を与える。
「が…あ!?」
飛び起き、周囲を見渡す。何が起きたのか、困惑している様子だ。
「よし、後は此奴を導星メソに翳せば…」
華阿々の声を無視し、玲音は頭を鷲掴みにして導星メソに叩きつける。
「ぐ、ぇっっ……!?」
華阿々の悲鳴と共に、導星メソが震えだす。
そして、一息後、華阿々の体も震えだし、変化し始めた。
「あ…ああ…?!?!な、なんだ、これ…は……………!!!!」
「思い出せ。思い出せ。お前は元々ここに居たはずだ」
…華阿々は、元来、導星メソの守護者としてここに住んでいた。だが、しぃけーちきにより洗脳され、強制的に人間界へと送り込まれていたのだ。
玲音の“干天霰”によって揺さぶられた脳、そして導星メソの導きにより、華阿々は本来の力を取り戻す—————。
「……これは、想像以上だぜ…」
「ほう、やはり、大幅に弱体化していたのか」
「“しぃけーちき”に洗脳されると、力が弱まるのですか?」
「違うと思うよ。これは故意だ。あえて弱くして送り込んだんだ」
「それじゃあ、俺たちの仕事はここまでだ。すぐに戻らせてもらうぜ」
「ああ、ありがとうね。ハナかわも、これだけのためにわざわざ…。今度お礼をするからね」
「とんでもないですよ。ここに来てよかった。本当に。それでは、これで」
「……帰り道は分かるか?」
「大丈夫だ、覚えた。心配は要らねェ。…京と言ったか。貴様とはいずれまた会うかもな」
「承知した。然らば」
「それではー」
二人と話している間に、ぐんぐんと華阿々の体が変形する。瞬く間に、元の姿とは似ても似つかない異形の姿に変貌してしまった。
「お出ましだな。久方ぶりに見る。“怨念の使者”に分類される、特Sランクの魔族。しぃけーちきの力の源泉、深淵の力を存分に振り分けられたうちの一人よ。」
「ごちかわ殿、其方が闘うのか?」
「無論。俺だけ今回闘っていないからな。身体がウズウズするぜ。助太刀は不要だ」
「し、しかし…」
京の言わんとしていること。それは、恐らくごちかわ一人では危険だということだろう。相手は、途轍もなく強大な深淵の力を纏う魔族。
「いいさ。京。ごちかわに任せておけばいい」
「は。…承知いたしました。」
「く、くはははは、来るがいいさ、哀れな哀れな一人の魔族よ。洗脳され、眠らされ。いいようにされ、腹が立っているだろう。苛々しているだろう。ぶつけてみよ、その鬱憤を。」
「…はは、は……………随分と、余裕だなァ。いつまで、その余裕が保てるかな?」
力を取り戻した華阿々が、ゆっくりと口を開く。
巨大な腕が、わずかに震えている。
「はは、すぐにでも俺たちを皆殺しにしたい、といった風貌だな」
「貴様の言う通りだァ。俺はとても苛立っている。ストレス発散のはけ口にされても文句は言うなよォ…!!!!!!」
巨大な体に似つかないほど、滑らかな動きで深淵色の剣を抜き、一瞬でごちかわとの距離を詰め、斬りかかる。
「ご…ごちかわ殿!」
「うおっ!?」
瞬間、その斬撃により、ごちかわの左腕がちぎれ飛ぶ。
「くく…次は右手を…がっ!?」
その直後、ただではやられないぞ、とばかりに、ごちかわが左手で華阿々を殴りつける。華阿々が大きくよろめいた。
「はは、腕を斬られた直後に、もう反撃とはァ…肝が据わってるじゃないか、強烈だったぞ、貴様の左拳……ん、ひ、左拳……!??」
「どうした?左腕を斬られたから、左腕で反撃しただけだが、何かおかしなことをしたか?」
「な、あ…!?」
京がぽかんと口を開ける。華阿々も、激しく動揺している。
「ね。心配はいらないって言ったでしょ」
「な………なっ何が…!!」
「斬られた瞬間に再生しているんだ。だから、傍目には効いてないように見えるんだ。ちなみにどういう原理で再生しているかは全くわからない。何なのアレ?」
「く…!!何かの見間違いか……!?」
華阿々が刺突を、斬撃を繰り返す。はじけ飛ぶごちかわの手足、辺りに舞う血飛沫。とどめとばかりに、ごちかわの首を斬り、蹴とばした。
「はぁっ……はぁっ……!!!」
「どうした、なぜ攻撃をやめる。腕を斬り、臓腑を貫き、首を落としたところで、それでおしまいか」
「な………な……………!!」
撒きあがった砂塵が晴れると、無傷のごちかわが、いつの間にか、自分のすぐそばにいる。
そして、狂ったように剣を振り回す華阿々をものともせず、ゆっくりと近づき、華阿々の頭部を掴み、強く力を加える。ミシミシと音が鳴る。
「怨念の使者の一人、華阿々よ。このままでは頭蓋が破裂れて死ぬぞ。抵抗しないのか」
「ぐ、ぐ、ぐぁぁっぁあああ……………!!」
頭を掴まれぶら下がった体勢のまま、力を振り絞り、ごちかわに刺突を続ける。剣がごちかわの心臓部を貫く。
「ははは、心臓を貫いたところで、どうする気だ。抵抗せねば、死ぬぞ。早くしろ。御魂の魂の奥底から力をひり出し、殺してみせろ、この俺を」
一心不乱になりながらも、華阿々の剣は正確にごちかわの脳や魂を貫く。しかし、それでも、頭部に加わるその力が緩むことはなかった。
「苛立っていると言ったじゃないか。俺で鬱憤を晴らしてやると言ったじゃないか。それならば、なぜそうしない。俺を、塵も残さず粉々にしてみろ。そうすれば、もしかしたら少しは効くかもしれんぞ」
「……ぅ、ぐ、ぁあぅぁ………ば、化物……………」
「くははは……、聞き飽きたぞ、その言葉。魔族に言われたら世話はないが」
言葉とともに、グシャリと音を立て、華阿々の頭部が破裂する。そして、そのまま、ズルリとその場に落ちた。
「たとえ殺されたとて、俺は死なんがな」
ここから、新章“神々と追憶”編の開幕となります。
これからも、一生懸命に書いてゆきますので、応援よろしくお願いします。
感想コメント・ツイートを貰うと皆さんの想像の1億倍嬉しいです。




