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MOZA-CHAN -モザちゃん-  作者: モザの者
第二章 ~蒼き世界アオタン~
27/53

“reverse”

魔族となったアオ。正体がバレてしまった暁には、もう、一人の人間として暮らすことはできないのか。

心優しいアオは、こいかわに迷惑をかけないよう、こいかわの元を離れようとします。

しかし、アオが大好きなこいかわは、何をおいてもアオを助けよう、共に暮らそうと奮起します。

この物語は、そんな状況に置かれた二人の、ちょっとした小話を綴っています。




……………それから数日経った日、私は、“アオタンのはずれで魔族を捕えた”という知らせを聞いた。





毎日、夜になると、胸騒ぎが止まらなかった。もしかして、アオさんが……………?と。何かの勘違いであってほしいと、強く願った。





……………でも。その願いは叶わないだろう。





たくさんの人間が暮らしているとはいえ、曲がりなりにもここは魔界。魔族が現れたとなったら、満場一致で殺されるだろう。絶望的だ。でも、でも。諦めたくはない。きっと、捕えられたアオさんはすぐに処刑されてしまう。その前に。私が、アオさんを助ける。そして、もう一度一緒に暮らすんだ。



走る。走る。走る。一直線に、奔る。


…誤解なんだ。きっと。アオさんが、魔族の力を使って、沢山の魔族を殺しているなんて…。


私が、何とかしないと。


無茶だ。ここら一帯はたくさんの人々に囲まれている。


こうするしかない。そうしないと、アオさんは……………。

“星剣”によって、魔族の力を使えないように無力化されたアオを抱え、この場から逃げようとする。


これまで黙っていたアオが、苦悶の声を上げている。何とか、胸に刺さった剣を抜こうとしているが、抜ける気配はない。


たくさんの人間がこちらへにじり寄ってくる。これを、何とかしないと…。


「う……うぅ……」


「この剣は…“星剣ヴェルヌス”。魔族には、抜くことはできないよね…。」


こいかわは、覚悟を決める。周囲の人々の糾弾なんて、気にしない。


「お、おい、何のつもりだ!!」


「これで、もう…アオさんは危険な魔族じゃなくなるよ」


こいかわは、一息置いて、剣を—————。ズッ、と、重く鋭い音が鳴り響く。


「な…あの女、()()()()()ぞ!!」


「なに…!?!?」


「な、何をするつもりだ…!!」


…こんな時、やるべきことなんて、ひとつしかないよね…。


「…あなたたちの言い分も、わかるけどっ、でも、今は私に任せてくれませんか…?」


ジッと、初老の男が、こいかわを見つめる。


「我々があの魔族にどれだけ苦しめられてきたと思っているんだ。」


「だ、だけど…!お願い、アオさんを………殺さないで…!!」


「何を馬鹿な。我々は邪悪な魔族を見つけた。やることは一つしかない。殺せ」


捲し立てるたくさんの声に続いて、リーダー格の人間が口を開く。周囲から、かなり信頼されているようだ。周りの人々は、この人の命で動いていたらしい。


「ま、まあまあ。話くらいは、聞いてくれてもいいんじゃないか?今のところ、その魔族は何もしていないし、さ。」


「も、もう…いいでしょう。私たちに構わないでちょうだい」


「な、な……………」


「この魔族が依然、危険なことには変わりはないが」


「うーん、見逃してあげたいところだが……………」


「そうだな。俺もそれでいいと思うけど」


「ああ。これ以上は見るに堪えん」


「やっぱり、聞いたとおりだった。これはやっぱり、さっき言った風にするしかないかな」


見計らったようなタイミングで、アオタンの住民たちが音を立てて移動する。


「もういいだろう。私に続け。」


「…いいんですか」


ドタドタと、たくさんの人間が走る音が鳴る。






「アオ…さん…」


「私には、とてもできないわ。あんなこと」


「アオさん……………私が前に言ったことを……………」


こいかわが、たとえ魔族であっても殺さず和解しよう、と考えていることを言っているのだろうか。


「魔族もみんな、魂を持っているわ。その…魂の下あたりを星剣で突き刺せば、魔は居なくなる。」


アオは、巣食う魔を掃滅するために、“星剣ヴェルヌス”を使用している。アオは、全く想定外の使い方をしたのだ。


……………“星剣ヴェルヌス”で魂の少し下を突き刺せば、元人間の魔族は人間に戻れる。


「え……アオさん……………!!私は、ずっとアオさんと居たかっただけなのに……………!魔族を、殺してたの…?」


「そんなこと、するわけないじゃない。魔族を倒すには、これが必要なの」


「アオさん、力を捨てるって、前言って…た、よね………?」


「………そうよ。これは私の使命……」


アオがぐっと拳に力を入れる。それに呼応するように、まばゆい光が辺りを包み込む。


“魔”を倒す際の儀式か。こいかわは、思わず目を背ける。


そして、アオは自らの魂に剣を向ける。


アオが、ためらいもなく“星剣ヴェルヌス”を刺す。悲鳴が上がり、()()がバラバラになり辺りに散乱する。


これは、散り散りになって一見わからないけど…魔族の身体の一部だ。人間に化けていた魔族の()()()()()。辺りに魔族特有の角や翼が散乱していて、()()がその中心にいる。魂の下の部分が、蒼く光っている。


「あ…アオさん……………!!!!!!!!!!」


「……………こいかわちゃんには、隠し事はできないわね」


「え…………それ、バラバラになっちゃったんじゃ……」


「おかしなこと聞くのね。私は元々()()()()よ」


「あ、アオさん、そ、その姿……………」


「ふふ、こいかわちゃん。会いたかったわ」


………瞬間、周囲に、魔族の気が散乱する。


紛れもない、よく見知った、一人の人間がそこに居た。


「アオ…さん……………?」


…………………しばらく経って。


いろんなことが立て続けに起こって、こいかわは混乱してしまったのだ。だけど、ひとまず目を閉じ集中して、アオさんを<“凝鑑真姿定(スプルシャウト)”>してみることにした。


こうなったら、魔法を使うしかない。良く見知った人の、居場所ばかりか、体調、体温、病気まで知ることもできる万能の魔法を。この魔法は、人に化けた魔族を判別するのに使うこともあるそうだ。


そうして、次に目を開けたとき、アオの姿が、はるか遠くに見えた。


「あ…アオ…さん…!!!なんでっ、ど、どこに……………!!」


ダッ、と走り出す。このままでは、見失ってしまう。人々の雑踏に紛れ、なかなか追いつけなかった。そして……………


「……ありがとうね、こいかわちゃん」


アオは、そこで押し黙ってしまった。少し笑みを浮かべ、こいかわの頭に手を置く。


「アオさん…何か…悪いことをしてるわけじゃないよね…?」


「ふふ、私を疑うの?」


「……そう。そうよね。…ケガは、大丈夫なの?」


ずっと、それを心配してたんだよ。


こんな時にも、こいかわはちらちらとアオのケガの心配をしている。


「いいえ。そんな風に見える?」


「……どうして…。私は、アオさんに戻ってきてほしいだけなのに。…戻ってきてくれる?アオさん」


「……私は、最初からそのつもりだったわ」


「……こんなところに居たんだね。見つかってよかった……アオさん。黙っていなくなっちゃうのは止めてよね。離れ離れになっちゃうよ。」



…………………………………………………………………………



「それでねー、アオさん……………アオさん?」


アオは、無言のままだ。こいかわだけが話している。


「他にもケガしてないよね?全く、何してたの?」


「……」


「左足の後ろ、血がついてるよ。ケガかな、消毒しとこうか?」


「…別に?何ともないわ」


「……アオさん、何か隠してない?」


「自分でできるわよー、でもありがとうね、こいかわちゃん」


世話焼きなこいかわが、アオの登山靴の紐を整えている。


今日は、一緒に、山登り。楽しい楽しい、ハイキングだ。



…………………………………………………………………………



「……………ううむ。そうか…。」



「そうだな。依然として()()()()。奴が何者なのか。そもそも、魔物を放っておいては私たちの沽券に関わるだろう」


「やはり、総力を挙げてあの魔物を討伐するべきだな」


「いや、そう結論付けるのは時期尚早だろう。もっとしっかり考えなければ」


「最近は大人しいようだな。放っておいてもいいんじゃないか?」


「はい。私調べですと、その魔物は攻撃性はないと…、今のところ、一般の人達への被害はないそうです。」


「…では、それは解決したということでいいな。それでは、次の議題に移ろう。今回の会議は、これが本題だ。」



…………………………………………………………………………



小さな、小さな声で、こいかわは呟いた。


「アオさん…、やっと、戻ってきてくれたんだね…」


最近、周囲の人達が、アオさんは怪しい、魔族達と繋がってるんじゃないかって言ってたけど、そんなことなかったんだ!!


やっと、やっと、アオさんと一緒に暮らせるんだ。


暖かい、のどかな空間に身を任せ、目を閉じる。


「ふふ。そうだ、明日は、旅行にでも行きましょう。早く寝ないと、体に毒よ」


「えへへ、明日が楽しみだな」


「うふふ、それじゃあ、今度は、このお話を読もうかしら。」


もう子供じゃないんだから。しなくていいんだよ、って言ったのに……。

寝る前に、本を読み聞かせてくれる、アオさん。


この安穏のひと時が、永遠に続いてほしい。



「また読んでほしいなあ」



ずっと、ずぅっと、アオさんと一緒に居られればいいのに。



「……………めでたし、めでたし。これでおしまいよ、こいかわちゃん」



—————私は、そう祈りました。


これまでの話、いかがだったでしょうか。


「魔族となったアオと、こいかわが、共に暮らす」というifルート、番外編を書いてみました。


少し、本史と違う部分があるかもしれません。



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