第八話 “希望”
「くっ…もう後がないアル…」
「だ、駄目っ!希望を捨てないで、チェン…!」
「わかってるヨ、でも……」
それは“絶望”そのものだった。
そらを舞う数十もの黒い影。
止まらぬ火。
防戦一方で削れていく、我々の光の力。
当たり前のことだが、普段は、ごちかわ総本家はストガギスタ王国を援助している。
そのためのごちかわ総本家だ。
それゆえ、王国からこちら側へ助けが来る可能性はかなり低い。
「おいおい、どうしたァ?さっきまでの威勢は。防戦一方じゃないか」
そんな本家に。家主の不在な総本家に、
襲いかかるは、無数の黒き翼。
「絶望するのは分かるわ。でも…、もしかしたら、もしかしたら…、ごちかわさん達が帰ってきてくれるかもしれない。まだ、希望を捨てちゃ……!!」
「ハ……ッハァ、あきらめの悪い奴だ。たった今、やつらは魔界へ入ったようだ。すぐには連絡もつかぬだろう、今帰ってくる確率は皆無なのさ。分かるか?お前たちが助かることはないということだァ」
「な……!ま、魔族が…情報を…!連絡を取り合って協力するだなんて…!!」
「ふ、普通そんなことはしないアル!貴様ら、一体何者ネ!!」
地に手をつきながらチェンが問う。そうすると、トサカの魔族の後ろから別の、髪の長い魔族がしゃしゃり出てきた。
「フハハ、知りたいか?冥土の土産だ、教えてやろう」
傷ついた体で、燕とチェンはその髪の長い魔族の方を見る。が、ボロボロの心身ながら、感じたのは。
魔族たちも、見ている。
その長髪の魔族の方を、じっと、見据えている……。
「聞いて驚け。我々はな、し──」
どうして?まるで、おろか者を見るような眼。こちら側をそっちのけで、全員がその魔族を見つめてる。
だが、当の魔族はその様子に気づくこともなく、ボロボロの燕とチェンをあざ笑うように調子よく話し始めようとした……
その瞬間。
ボウ、と黒い炎が現れた。炎の発生元は、あの髪の長い魔族。
「な…ぎ、ぎゃあああぁあぁあああああああああ…………ぁ……!!!!!!」
恐ろしい断末魔と共に、その魔族は瞬く間に消し炭になってしまった。
「な…なに!?一体……何が………!?!?」
あまりに突然の出来事に、動揺するチェンと燕。だが、魔族側にとっては見慣れた光景なのであろう、一片の動揺すら見て取れない。
「……馬鹿が………。ふん、貴様らは知る必要もねえさ。どうせすぐに、こうなる」
そう言うと、即座に魔族だったものをこちらに強く放り投げてきた。
何もなかったかのような様子で。まだ、わずかに炎が残っている。
「……っ!」
それだけのことでも、満身創痍の燕とチェンは避けきれず、苦しい声を上げる。
魔族の筋力で投擲される、大柄の魔族。
それは燃える質量弾。
それをどかすことも、できそうにない。
仲間の亡骸を使い、二人を嬲るという…。まさに悪魔の所業だった。
「だ、大丈夫アルか、燕…!!」
「う…チェン……………」
燕が悲痛な声を漏らす。だが、魔族達は尚も、いたぶるのをやめる気配はなく……、ボロボロになった燕とチェンを蹴り上げ、不敵に笑う。
「ハハハハハァ、無様なものだ。お前ら“ごちかわ一家”には随分と苦しめられたからなァ…。だが、心配するな。じきにとどめを刺してやるよ。本当はもう少し痛めつけたかったが、あまり遊んでいる時間もないからな!」
<“大魔炎”>!!!!
「!!…な…あ……」
「ハハァ、驚いたか?見間違いじゃねえよ、こいつは“特級魔法”大魔炎さ。この俺を一山いくらのごろつき魔族と思っていたか?」
やはり、間違いない…!!あれは、特級魔法…私たちが万全な状態でも、到底捌けない魔法…!ま…まずい…………!
トサカの魔族の形成した大魔炎が、煌々と紅く光っている。そして、合図とともについにその手から放たれた。トサカの魔族が、にやりと笑う。
「つ…燕…もう…………ダメ……アルか…。」
「チェン…希望を…捨てないで…きっと…」
ごちかわさん……!!モザちゃんさん………!!となかわさん…………!!!!
ギュッと目をつむり、過去、幾度となく助けてくれた三人の顔を思い浮かべる。
「う………!!!」
その、直後。
ドガァァァァァ、という轟音が、一帯に響き渡る。
一瞬の静寂。燕が、ゆっくりと眼を開けると……
「あ…あ…れ…………??」
目の前にあった大魔炎が、跡形もなく消え失せていた。
代わりに視界に映っているのは、バサ、バサと音を立てて揺れる、蒼いトレンチコート。
藍色の炎が渦巻く幻覚。
心に鳴り響く、巨大な波の轟音。
「——お前の声、届いたぜ」
「ご…ごちかわさん…………!?!?」
「くく……、今ここに決着は着いた。……これまでよく耐えてくれた。片時も希望を捨てなかった、お前たちの勝利だ!!!」
ち……違う、ごちかわさんじゃない………!!
「あ……貴方は…………!!」
「なんだ、貴様はァ?せっかくのいいところを邪魔しやがって…いや、待てよ…お、お前は…!どこかで見たことがある、知っているぞ、貴様。さては…」
「悪ぃな、ごちかわじゃなくて」
目の前のトサカの魔族を無視し、その男は燕とチェンの安否を確認する。
そして、燕はその男の正体をすぐに確信した。
「「あ…雨宮玲音!!!!」」
燕と、トサカの魔族の声が重なった。
遅くなってほんとごめんなさい…。




