第五話 “真実”
“導星メソ”の深淵を、ちらりと覗いてみた。
そこには、紛れもない、古の魔界の景色が見える。
もはや、導星メソの使い方が手に取るようにわかることも、一目でそれが古の魔界だと分かったことにも、違和感を一切感じなくなっていた。
「…闇色の地、赫く染まった空。此の見た目は古の魔界か。しかし、見た目とは裏腹にそれほど昔でもないようだ。…となると、私が今見ている景色は…」
身体が、いや、魂が知っていたのである。
導星メソは、過去の景色や出来事を記憶し、深淵を覗くことで追憶できる道具だったのだ。
暫くその場に固まり、覗き続け、追憶し続ける。
「此れは…此奴は」
ふと目に映ったのは、自分によく似た、騎士のような見た目をした男。その見た目だけでなく、魂の種類も酷似している。しかし、雰囲気が京とは別物だ。
「…………」
京は暫く、導星メソの深淵を見つめ続けた。
思うことがあったのだろう。京がこの地に単独で赴きたかったのも、ここに何かを感じたからだ。
見つめ続けた時間は実際には30分にも満たなかった。だが、妙になつかしい空気に包まれながら、この地を追憶する京にとって、永劫に近く永く感じられた。
ゆっくりと、導星メソから眼を離す。
深淵を覗くのをやめ、また暫く目を閉じた。
再び目を開け、数回瞬きをする。その時、京はある違和感を覚えた。
もう深淵を覗いていないはずなのに、例の男が導星メソの中にまだ視えるのである。
景色はもう戻っている。先ほどまで見ていた記憶の、その男の姿だけが映っているのだ。
京も怪訝な表情をし、導星メソを隅々まで眺める。特に怪しい気配はない。
「む…う………?」
顔を上げる。途端に、瞬時にして京はその理由を理解した。
ドクン、と心臓が震える。魂が荒ぶる。
な、あ…………!!!何故だ、なぜ私は気づかなかったのだ…………!!こんな、こんな事に…………!!
……………………………………
「な、何かあったんですか、となかわさん?」
「この靴は………見間違えるはずもない。こいかわの靴だ………!!」
「こ、こいかわ…?」
「そうだ、聖十二騎士の一人、“流星を纏う聖騎士”こいかわ。過去に何度か会ったことがあるんだ。かなり前から聖十二騎士として活躍している。“棲魔法王国サトクン”に属し、アオタン拠点の建設を担った第一人物なんだ。」
「聖十二騎士…だったんですね。でも、こいかわさん?の靴がここにあることに、何か関係があるんですか?」
「昨日、僕たちがこの屋敷に入った時のこと、覚えているかい?あの時、ごちかわが、こいかわがここに居るかどうかを訊いたんだ。アオは居ないと言った。だけど、こいかわの靴はそこに有る。」
「でも、別の靴を履いて行ったとか、ここに置いて行ったとか…、色々考えられますし…」
「いいや。それは違うんだ。こいかわはこの靴を本当に気に入っている。履いてないときも、いつも肌身離さず持ち歩いて、どこへでも持っていくんだ。任務に赴く時だってね。ここにあるということでも異常だよ。本当に気に入ってるんだ。…それに、靴の深淵を覗いてごらん。」
となかわの一言にハッとして、靴の深淵を見つめる。
「最近まで…誰かが履いていましたね」
「うん。これは紛れもなくこいかわだ。魂の気配を感じる。つまり…………」
その場で腕を組み、何やら考え出す。
モザちゃんは、まだ何が何だか分かってないようだ。
こいかわさん?がここに居ることを隠しているの?…何のために?そして、そこから何がわかるんだろう。それに、聖十二騎士になるほど強い人なら、隠しても気配でわかると思うけどな…。特に、闘気、とか…………。
モザちゃんも考え出す。その時、となかわがバッと顔を上げた。全てを察した、という表情である。
「…そうか。そういう…………ことか…………!!!」
ついに、アオタンの秘密に迫ったとなかわ。
そして、京の運命はいかに。
次回、必見————。




