第一話 “突入?”
「お、おいっ!いったい何だ、私をどこへ連れていくつもりだ!」
「いいから。ストガギスタ王国とニヤ王国から二人ずつの4人パーティ、ちょうどいいじゃないか」
「な、何の話だ!?」
ごちかわに無理やり引きずられてるのは、あの魔門京である。出発直前になって、ごちかわが急に『もう一人戦力が欲しい!』と言い出したのである。
「だ、誰かわからないですけど、そんな無理やりにも…」
「おお!ほら、お仲間もそう言ってくれてるじゃないか!何か知らんが、私を開放してくれ!」
「ああ、モザちゃんととなかわへの紹介がまだだったな。こいつは魔門京、略してキョーちゃんだ。よろしくな。」
「僕は知ってるよ…。それに、それは略とは言わないよ、ごちかわ。」
となかわは半ば呆れた表情だ。少し前から、ちょっと離れたところでこのひと悶着を観察していたのだ。
「は……!これはとなかわ殿!お久しぶりでございます!!」
京も気づいた様子だ。強引にごちかわの腕を引きはがし、その場で跪く。
「そんな大げさな挨拶はいらないってば。それで、京。いったい何があったんだい?」
「私にもよくわかりませぬ。突として現れた彼に連れ去られた所存でして…。」
「ごちかわさん、もう一人の戦力ってのは…」
「そうだ、彼に手伝ってもらう!共同戦線、二人ずつでちょうどいいだろ。」
「何を唐突に…!それに、私には近衛隊長としての務めが……!!」
「そうだろうね。それに、ここまで連れて来るだけでも、許可が必要なんじゃないの?」
「ああ、アム王女からはすでに二つ返事でOKを貰っているぜ」
「な……!?」
「そ、そうだったのか…!ああ、アム王女様…!!相変わらずゆとりがあって、お緩い……!!ああ、そんな一面もとても愛おしい…!!」
ごちかわの言葉を聞くや否や、となかわはその場で両手を掲げ、心から感嘆の声を上げた。
「ん……?」
「……??」
二人も思わず、怪訝な表情をする。
…?となかわさんの方から、愛おしいって聞こえたような…前によく会いに来るって言ってた、小鳥たちの話かな?よく聞こえなかったけど…。
「…はっ!?い、いや、なんでもないよ。き、京。そういうことなら、よろしくね」
「は、はあ…」
…これだ。となかわはアム王女のことになると途端に人が変わるからな。京も訝しげな表情をしているぞ。モザちゃんは…キョトンとしている。いい加減気づいたらどうだ…。
「で、なんだっけ。京を魔界に連れて行くのだよね?」
「ま、魔界ですと!?…残念ですがとなかわ殿、私ら近衛隊長は、魔界には如何しても行けないこととなっておりまして…」
相変わらず鎧の上からでも表情の分かる男だ。明らかに困っている。
「んー、まあ、そういう取り決めは僕が何とかしてやるさ」
「そうではございませぬ…。我らは、行けないようになっているのです」
「…“聖結界”か。そういえば、そんなものもあったな。聖城を護る任務につくものが、魔界や別の世界に攻め入らないようにつけられた、言わば“呪い”…か。」
京がごちかわの方を向く。その目はごちかわと初めて出会ったときのように険しい。先程からずっと、目線で不服を訴えている。…ごちかわは一切気にしていない表情だが。
「……そうだ。ごちかわ殿の言うような『呪い』と言うほどたいそうなものではないが、魔界を含む“異世界”へと行く時に、この紋章が反応する。そして、“規約違反”と見なされ、城へ‟強制返還”される。そして、厳しい罰が課せられてしまう。此れは近衛隊長を含む上位騎士全てに課せられた宿命だ」
鎧の下に隠れた、胸の紋章をトン、トンと叩きながら言う。
「そうか。そうだったな。なら、やめるか」
「えええっ!?」
「破天荒過ぎない!?」
「何を今更!?」
あまりにも無茶苦茶な発言に、三人も思わず声を上げた。特に京は物凄い表情をしている。繰り返すが、彼は鎧を着けている。
ううむ。三人からツッコまれてしまったな。しかし、どうしたものか…
三人がごちかわに呆れながらも、う~む、と京を連れていく方法を模索していた時、となかわがおもむろに声を上げた。
「あ、そうだ。僕に、いい考えがあるんだけど」
第二章、“蒼き世界アオタン編”開幕です。
展開が速い、などの意見も見られたため、二章からは、一章に比べて展開は遅めになり、また一話一話の分量も少なくなります。




