第4話 フェンリル(前編)
遅くなりましたが続きです。
首を撥ねた兵士に連れ去られそうになっていた女の子は髪が白く蒼い瞳をし、頭からは龍の様な角が二本生えていた。
「なんでこんな所に居るか知らんが、安全な場所でも探しな。」
女の子は俺を見るなり震えている、当然だ。 眼の前で人を殺したんだ。 怖くないはずがない、俺はあまり竜人族の女の子のストレスにならない様に離れるが何故か後ろから付いて来ている。
「何だよ……。」
俺が振り向くと女の子はビクンと肩を震わせるが、また離れて行くと同じ様に付いて来る。
「はぁ、お前喋れないのか?」
「…………。」
訪ねると女の子はコクンと首を立てに振り、俺は仕方なくマガルギ族の郷へと案内する。
森を抜け郷へと着くが誰も居ないのかあたりはしんとした静寂に包まれているが、郷長だけは残っている事を信じ竜人族の少女を案内する。
「郷長、入るぞ?」
「…………。」
扉をノックしても反応が無い為、勝手に家に上がると暗闇の中に郷長は俺を睨みつけ佇んでいた。
「何だ、居るじゃねーか。」
「何しに来た、早く出ていけ! また奴等にマガルギ族の居場所でも教えようてか!?」
「言われなくても出ていくさ、その前にこの子を喋れる様にしてやりたい。」
竜人族の少女は俺と郷長の反応を観てキョロキョロと困惑しながら、どうしたら良いのか解らずに立っている。
「ふん、好きにせい! ルーズベルト、その肩に有る“奴隷印”により我々の居場所が知れ渡った事を忘れてはないだろうな?」
「ああ、安心しなよ……あのクソ野郎共が来たら迷わずぶち殺しておくからよ!!」
「ルーズベルト………、変わったな……。」
「あまり長居は出来ねーから、“囀り草”の生えてる丘にでも行くかな。」
「丘か……、ここ最近魔物が棲み着いておるから精々死なん様にな。」
「んじゃ、この子を頼む。」
俺は竜人族の少女を郷長へと預け、囀り草の生える丘への道中何匹かの魔物の気配を感じた。
「囲まれてるな。」
「グルルル……。」
ガサガサと草から犬型の魔物、地獄犬が5匹程姿を現し俺に飛びかかる。
「この数なら、何とかなるか。」
俺は飛びかかる地獄犬の前脚を掴むと反対側に居た地獄犬へと叩き付けると横から別の地獄犬が噛みつこうとするが、俺はナイフを手に取り胴体を切りつける。
「「ギャンッ!!」」
「キャインッ!?」
「グルル……。」
「おいおいどうした? 残りの二匹はかかって来ねえのか?」
三匹の地獄犬を倒すと残りの二匹は後退りし、ある程度距離を置くと尻尾を巻いて逃げて行った。
「やれやれ、勿体無ーが今は囀り草が先だな。」
俺は再び丘へと脚を勧め、しばらくすると開けた場所へと出たが先程の二匹の地獄犬が何やら獣人らしき魔物の近くに寄っていた。
「「きゅ〜ん、きゅ〜ん。」」
「何ぃ? まだ我ら魔物に逆らう馬鹿な奴が居るだと!?」
「何だアイツ、狼男って奴か?」
「ムッ、何だ小僧?」
「ワンワン! ガルルル……!!」
地獄犬が俺に気付くと吠えだし狼の獣人も俺を睨みつけ、こちらへと近付いて来る。
「何だよ……。」
(面倒だな、奴の後ろに囀り草が生えてるのに。)
「オイオイ! 何者かと思ったら、この前殺った子供と同じマガルギ族じゃねーか!」
「この前、殺った子供……?」
眼の前に居る魔物の言葉に俺はロディとフィオの事を訪ねる。
「ロディとフィオの事か……?」
「ロディ? フィオ? 何だ知らねーな? だが可哀想になぁ、イシュタッド王国の馬鹿兵士共が俺様に楯突かなければ子供二人は死ななかったかもな。」
「お前が殺したのか!」
「少なくとも、俺様は疲弊した子供共を殺したのは事実だぜ?」
「許さねえ、ロディとフィオの仇だ!!」
俺はナイフを握り狼男に切りつけようとし、飛びかかったが瞬時に眼の前から消え、後ろから声が聴こえて来る。
「うらぁっ! なっ、消え……。」
「遅えよ……。」
「うわああああっ!!」
声が聴こえた瞬間、背中に激痛が走ったかと思えば地面に叩き付けられていた。
「オイオイ、弱っわ! まだこの前の子供の方が強かったぜ?」
「ぐっ、くっ……。」
(くそ、力が入らねえ。)
俺は背中を狼男に踏まれているのか立ち上がろうにも力が入らず、その状態のまま狼男が語りかける。
「そうだ、冥土の土産に良い事教えてやるよ。 あのマガルギ族の子供は中々の強さだったが、やはり女を狙えば案の定隙が出来たぜ。」
「て、てめぇ……フィオを人質にしたのか!?」
「人質? んな事する必要は無かったぜ、その肩のやつ奴隷印て言うんだろ? 逃げよとした女は全身に電流が流れていたな。」
(そうか、逃げたくても逃げられなかったんだ! くそったれが!!)
「んで、隙が出来た所を俺様の爪で殺してやった訳さ! 女はついでだ、あのまま奴隷として生きるよりは楽にしてやったんだ俺様は優しいだろ?」
狼男に真相を聴かされ人間への憎しみが増大し、そのせいか全身にバリバリと電流が走る。
「こっの汚え脚を退けろ!!」
「お、少しはやりそうになったじゃねーか。」
俺は無理矢理に狼男の脚を退かし、泣きながら切りかかるが何度も紙一重で躱されてしまう。
「くそ! くそ! くそー!! 当たれ! 当たれ! 当たれよ!!」
「ガハハハハ! 当たる訳ねーだろバーカ! このフェンリル様が子供風情に殺られるかっての、そらよ!」
「がはっ!?」
狼男の一撃を鳩尾に受け俺は意識が遠退き眼の前が真っ暗になった。
「どうした、もう終わりかぁ? んだよつまんねーな、心臓止まってやがる。」
ーマガルギ族の郷ー
「どうした? 落ち着かんな。」
「…………。」
「ルーズベルトか、ヤケに帰りが遅いな。」
囀り草を持って来る筈のルーズベルトの帰りが遅いのを心配し竜人族の少女は落ち着きがなく外の方をずっと見ていた。
何時も読んでくださり有難う御座います。