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0. プロローグ

「いくぞまおう」

「ふはははは、来い! 勇者よ!」


 私はしっかりと両手で聖剣を握り、立ち塞がる魔王へと立ち向かった。


「たあぁぁぁーー」


 攻撃は次々とヒットするが、魔王には全然効いてないようで──。


「ふんっ!」


 逆に捕まってしまいました。


「はなせーはなせー」

「はっはっはー。悔しかったら逃げてみろー」


 力の限り抵抗しますが、地力が違う為ビクともしません。


「観念したか──じゃあ……こうだ!」

「あ、あは……あははははは」


 なんと魔王は両手でhugしたまま、左右の脇をくすぐり始めたのです。


「あはは、まって! あはははーまってー」

「待たない。参ったかー」

「あ、あは、ぜ、ぜんぜ、あはは、ん、まいって、んく、ない!」


 勇者は降参なんてしない。例え勝ち目は無くても、まだ負けてない、だって──。


「じゃあ、パワーアップだ」

「あはは、ちょ、パパ、いたい、おひげいたい」

「パパじゃない。俺は魔王だー!」

「あははははー」


 指の動きが早くなり、笑いが止まらなくなる。我慢……我慢~ん。


「あなた達いつまで遊んでるの!? ご飯よって呼んでるでしょ!」


 ナイスママ!


「あっ、いや……今──」

「わたしはやめようとしたけどパパがはなしてくれなかった」


 ギロっと睨まれるパパ。やっと手の力が弛み、私は脱出する事に成功する。パパは私の方をチラリと見ながら小声で。


「ズルくない?」

「そんなことな~い」


 拘束から抜け出した私は、パパに手を伸ばすと。


「でも引き分けにしてあげる」

「……勇者ズルい。けど──」


 パパは私の手を掴み、一気に持ち上げお姫様抱っこをすると。


「大魔王が怖いから賛成だ」


 ギューって力一杯抱きしめ小声でそう言うと、トンと地上へ降ろされたが手は繋がれたままです。そしてそのまま、家の中に入っていこうとすると。


「こら! そんな木の枝持ってこないの」


 私は装備した(手に持った)ままの聖剣に目をやり。


「これはわたしのせいけん──」

「ご飯いらないの?」

「──でもたたかいがおわればぶきはいらない」


 ポイッと捨てると、空いた手でママの手を取ります。こうやって二人の間で両手を繋ぐのが私は大好きなのでした。


「パパママだいすき!」

「パパも好きだぞ」

「ママも好きよ」


 そうして仲良く三人手を繋いだまま家に入った所で目が覚めました。



 ◇◆◇◆◇



 どうやら荷造りの最中に眠ってしまったようですね。

 部屋を見渡すと、まだまだ色々な物が散乱してました。けどあんな小さかった子供の頃の夢をみるなんて……明日初めて町を出るから、あんな夢をみてしまったのでしょうか?

 その時外からノック音が。反射的に「どうぞ」と答えると、扉が開き父様が入ってきます。


「リリィ? 準備終わったか?」

「これは魔王様、何か御用ですか?」

「えっ? 何急に」

「冗談ですよ父様」


 突然の魔王呼びに、戸惑った表情の父様は鞄を持って止まっていました。


「そう? あっコレ使いなって魔法の鞄(マジックバック)。容量は500kgまで入るらしいよ」

「部屋の中の物全部入っちゃうじゃないですか……」


 恐らくこれ一つで四人家族が十年は暮らせるんじゃないでしょうか? こんな貴重な物を簡単に渡さないでほしいです。


「何だかんだ言いながら心配性だよな」

「父様もですけどね」


 父様は昨日金貨100枚は下らない、まるで王族が付けるようなブレスレットを渡してきてました。対毒や対麻痺、対眠と、主だった状態異常耐性付きの装飾品って普通子供に渡す物じゃないですよ? でもそんな所も似た者夫婦だと実は思うのです。


「仕方ないだろ、可愛い娘が一人旅の後、一人暮らしするって言うんだぞ! これくらい当然だ」


 全く、全然、完璧に当然では無いと思いますが、でもそんな優しさにやっぱり心が暖かくなります。


「ちょっと何時までやってるの!」


 ノックもせずに部屋に飛び込んで来たのは母様です。相変わらずの自由人ですね。


「何を持っていくか悩んでいたです」

「何のための魔法の鞄よ。そんなの全部持っていけばいいじゃない」


 そう言って母様は魔法の鞄を手にすると、私が荷造りしていたリュックを残し、部屋中の物を全て収納してしまいました。


「風情がないな」

「風情よりも利便性よ。向こうで足りないよりずっといいわ」


 つぶやく父様をバッサリ斬り捨て、早く来なさいとばかりに部屋を出ていきます。


「リリィの送迎会をするわよ。料理もお酒も用意してあるんだから!」


 どうやら宴会が待ちきれなくて呼びに来た様子です。困った母様ですね。


 結局この日は、みんなでワイワイと食べて、飲んでと大いに騒ぎました。

 そして夜、ベットも収納してしまったので、久しぶりに父様、母様と三人で川の字になります。


「旅なんて初めてなので楽しみです」

「リリィは優しいから【病気の親子】みたいな救援イベ起こしそうだな」

「いえ、旅ならやっぱり【盗賊撃退】でしょ」

「そんな危ないのは駄目だ! 【酔っ払いに絡まれる】程度にしてくれ」

「そんなのつまらないじゃない! せめて【魔獣襲撃】位は欲しいわよね?」


 欲しいわよね? と言われましても……正直どれも要らないです。

 だって私は普通の旅がしてみたいのです。平穏で平坦な馬車の旅……。日頃からイベントてんこ盛りな、ここでの生活に慣れすぎているので、せめてこの地を離れた時くらいは平穏で行きたいですよ?

 そんな私の気持ちを知ってか知らずか、父様も母様も好き勝手にフラグを立てていきます。


「平民の格好でいくんだろ? なら【貴族か権力者に絡まれる】展開はあるな」

「いやいや、そんな在り来りのイベントじゃなくて、リリィなら【相手も貴族だと言う事を隠していた】みたいな展開だと思うわ」

「ああ、ありそう、ありそう」


 いないでしょう、そんなの。大体貴族の人達は自分達の家紋入の馬車で移動するものですよね?

 でも、こんな他愛の無い会話が楽しいです。父様と母様に挟まれた私は、話を聞きながらゆっくりと微睡みの中に落ちていくのでした。


遅筆のくせに、新シリーズを始めました。

こちらはさらにゆっくり更新ですが、内容は早い予定です。(現状3話1組、12章で36話の予定。プロローグとエピローグ入れれば38話)

更新不定期ですが、2ヶ月に1章(3話)更新予定です。


面白い、続きが読みたいと思って頂けたら、下の星を押してもらえると幸いです。

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