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ある受付嬢の一日 ~最近の新人冒険者は変な人ばかりなのでもう驚きません~

作者: 田村宗也

 私の名前はアネット。

 冒険者ギルドで受付嬢をしている、至って普通の女の子だ。


 受付嬢の主な仕事は、冒険者へ仕事を斡旋することと希望者の冒険者登録をすること、その他は事務仕事ね。

 冒険者は癖のある人が多いから大変な仕事ではあるんだけど、彼らのお手伝いはやりがいがあって楽しくお仕事が出来ているわ。


 ただ、最近なにかおかしい。

 おかしいのは私じゃなくって、新しく冒険者登録に来る人のこと。

 ギルドに入って来てきょろきょろしている人は、大体おかしい部類に入るわね。


 だって、そういう人に限ってステータス鑑定をしたらとんでもない数値を叩き出すから。

 普通考えられる?

 明らかに強そうには見えない人が異常なまでの魔力量を保持していたり、

 いきなり上級職の適性があったり、

 強力な召喚獣を使役していたりするのよ?


 普通じゃないわよね。

 最初は私もそう思ってた。

 でも、現にそういう人はこの世界に居るし、その数も決して少なくない。

 数か月前から十人近くは見て来た。


 そんな状況が続いたら、誰だって慣れてしまうわよね。

 ああ、またこのタイプの人かって。

 だから私は、そういう人が来てももう驚かないようになった。


 ほら、あそこにもきょろきょろしながらギルドに入って来た人が居る。

 周りに居る冒険者さんたちもざわつき始めたわね。

 賭けてもいいわ。絶対あの人変な人だから。


「あのーすみません、冒険者登録をしたいんですけど、ここで出来ますかね?」


 やっぱり来たわね。

 見た目は普通の男の子で、傷ひとつない綺麗な顔。

 十六歳くらいかしら? 明らかに弱そうな雰囲気だわ。


「はい、出来ますよ。銅貨一枚を支払っていただければ、ここに手を置くことでステータス鑑定と冒険者登録を致します」


 専用の魔道具を机の棚から引っ張り出し、男の子に見せる。

 男の子は、わくわくした様子で何のためらいもなく銅貨を差し出して来た後、魔道具の上に手を置いた。


「……」


 銅貨を受け取って、また来るんだろうなーと無感情な目で鑑定を見守る。

 しばらくすると、魔道具が普通ではありえないほどの輝きで辺りを眩しく照らした。


 数秒後、光が収束すると鑑定が完了し、ギルドカードが生成される。

 カードを見ると、案の定ステータスが異常なほど高かった。

 中でも魔力が突出しており、職業(クラス)は『賢者』。

 まあでも、今まで見た中では弱い部類に入るかしら。


「ギルドカードが完成しました。これが無ければ依頼を受けることが出来ないので、常に携帯しておくようにしてくださいね」


 男の子にギルドカードを渡す。

 ギルドカードを見た瞬間、男の子は不自然な点でもあるのか怪訝な顔をしてこちらを見た。


「あの……この魔力量って普通なんですか? 職業(クラス)が賢者っていうのも普通?」

 

 それを聞いた周りの冒険者たちは「またか」「これで何人目だ?」と口々に話し始めた。

 これもいつもの反応。


「ええ、普通ですよ」

「えっ、うそでしょ……? こういうのって、すごい新人が現れたって騒ぎになって、ガラの悪い冒険者に勝負を挑まれて、返り討ちにするっていう流れじゃないの……?」


 信じられないという様に男の子は言う。

 その後ろで、椅子に座ってちびちびとお酒を飲んでいる体格の良い大男の冒険者に、ひょろりとした冒険者が嬉々として話しかけているのが見えた。


「アニキ、あの坊主シメましょうよ! このままじゃ調子に乗っちまいますぜ!」

「え……何言っちゃってんの? 戦ってもどうせ返り討ちにされるだけだし、痛いのやだよ」

「な……何を言ってんですか! 今回こそ勝てますって! 今までのアニキは本当のアニキじゃなかったってことを周りの奴らに分からせてやりましょう!」

「本当の俺って何……? 体がデカいだけだろ? 俺は弱いんだ。もうほっといてくれよ」

「ア、アニキは弱くないですよ! もっと自信持ってくださいよ!」


 なおも喚き続ける男に背を向け、大男はうつむいてしまった。

 

 もうその辺にしといてあげて!

 その人は三人目の新人で既に心が折れているわ!


 この前なんてクエスト掲示板を見ながら「フラシアの花採集クエスト……いいじゃん」なんて言いながら笑っていたのよ!?


「俺は採集クエなんてちゃちな仕事には手を出さねえぜ?」なんて言っていた人が、街の周りに咲いている子供でも集められるような花の採集クエストを受けたのよ!?


 周りの目を気にしながら恥ずかしそうに「あの、これ……」ってフラシアの花を差し出してきた時なんて、私見ていられなかったわ!


 その人の心はもうズタボロなの! 分かってあげて!


 と、大男の心中を察して、むずがゆい思いに駆られながら胸中で叫ぶ。

 一人目の大型新人が現れたあの日、彼は自信満々で勝負を挑み、そしてあっけなく敗れた。

 今の大男には、その時の自信が欠片も無い。


「あの……ありがとうございました」


 私がひとりの冒険者に同情していると、「おかしいなー……」とつぶやきながら男の子はギルドを出て行った。

 そうして、何事も無かったかのように、ギルド内はいつも通りの喧騒に満たされる。


 その後、そろそろ交代の時間だ、と先輩受付嬢に言われて席を立った。

 これでようやく一息つける。

 そう思った私は、ひとつ伸びをすると、休憩所に入ってコーヒーを入れた。


「ふぅ……」


 壁に背中を預け、両手でマグカップを包み込む。


「今日も平和だなぁ……」


 そっと独り言ちると、コーヒーを一口飲んだ。


 私の名前はアネット。

 冒険者ギルドで受付嬢をしている、至って普通の女の子だ。

 急に書きたくなったので勢いで書いてしまいました。

 楽しんでいただけたら嬉しいです。

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