私
" 僕 "
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私の席に見知らぬ男子が座り込んでいる。
周りの友達に誰なのか聞いてみると、不思議なことに誰もがそんな人は居ないよと口を揃えて答える。でも、確かに私の目にはしっかりと男子の姿を認めているのだからどうしたことか。
先生に聞いてみても、私がふざけているとしか思っておらず、席に座るように促すことしかしない。いやいやむりむり。もうなんていうか、生理的に受け付けない。だって、確かに座ってるしさ。
だから私は、存在していないと答えた人に私の座席に座るよう促してみた。気さくな朋美なんかは二つ返事で了承して、ささっと着席してみせた。男子が居るところに朋美の姿がダブって見えた事に、怖気を感じてしまい私は咄嗟に念仏を唱えることにした。朋美は必死な私の姿を見て爆笑していたけど、私はなりふり構っていられなかった。
だって、ずっと微動だにしていなかったのに、突然振り向いて私の事を見つめてきたのだから。声にならない悲鳴を上げて私は教室を飛び出してしまった。
何なのあいつ。やっぱり幽霊なんじゃないの。
そうとしか思えなくて、どうしていいのか途方にくれていた。
でも、逃げているだけじゃ何も始まらないから、渋々教室にもどっていく私。やっぱり、私の椅子に座って黒板の方を見つめている。仕方ないから私は、欠席している子の席を借りることにした。
一日中観察して分かったことは、あいつはあの場所から微動だにしないことが分かった。そして、放課後になると席を立ちどこかに向かっていく。私の内心は恐怖と好奇心が混ぜ合わさった何とも言えない状態で、この現象を解く手掛かりになればと後を追うことに決めた。おっかなびっくりな様子の私を見かねてか、朋美が付き添うと言ってくれた事はありがたいけど。
あいつはどこにも目をくれず、どこかを目指して突き進んでいく。私達がその後を追っていった先にたどり着いたのは、駅だった。そして、あいつはホームに立ち続け何度も入れ違う電車を見送り続けている。朋美は代わり映えのしない光景に痺れを切らしたのか、私に向かいのホームに立つように笑いながら言ってきた。
いやいやふざけんな。そんな事したら何が起きるか分かったもんじゃない。必死に抵抗を試みるも、朋美はこの後スイーツをご馳走してあげると提案してきて、意地汚い私はまんまとそれに乗せられてしまった。
向かいのホームに立っていたら、こっちの存在に気がついたのか、目を見開いて見つめてきたと思ったら凄い勢いで駆け出した。いやいやマジありえない。私は朋美にこの場から逃げようと伝えたのに、スイーツをダシに出されて身動きを取れずにいた。
後ろに誰かの気配を感じてしまったから、意地でも振り向かない事にした。
今の状況を横にいるはずの朋美に告げようと、名前を呼んだら返事がない。なんか、後ろから声をかけてきている。何てことをしでかそうとしてるの!?
耳を澄ましてよく聞くと、スイーツを買ってきたと言ってるではないか。こんな短時間にどこで何を買ったと言うの。
私の頭は恐怖よりも好奇心が勝っており、つい振り向いてしまった。案の定、私の真後ろには男子がいたけど、それよりも衝撃的だったのは朋美の手に握られていた、スイーツ味と書かれた何処のメーカーが出したか分からない、怪しげな缶ジュースを手にしていた事だ。
もしかして、それがご馳走してくれると言った物なの!?
私の内心を読み取ったのか、ニコッとはにかんで見せた朋美。
私は騙されたことにあまりのショックを受けて、その場にへたり込んでしまった。そしてあいつは、私の体を透過してホームの縁まで駆け出し、線路をのぞき込むようにして消えていく。
私は微妙な味のする缶ジュースを飲み終えた後、ゴミ箱に捨てようとしたら空き缶が入りきらないくらい溢れ出していたから、その少し先に空き缶が並べてあった事もあり、仕方なくそこに置くことにした。
その時、お葬式とかでよく見かける花束が供えてあるのに気が付いた。
朋美にその事を告げたら、さっきまでの馬鹿笑いしていた表情が嘘のように消えて真顔で答える。その花は、私が用意したものなんだよとこぼし始めた。
そして、兄貴がよく口にしていたジュースなんだと呟いて、スイーツ缶のプルトップを開けて花の傍に供えはじめた。
もしかして、今まで見ていたモノがそうだったのかな?
なんとも言えないもどかしさが込み上げてきて、色々訊きたいことがあったけどやめた。いつもとは全く違う寂しげな雰囲気を漂わせ、目を伏せている姿を見たら気が引けてしまった。
明くる日、昨日とは違い無人になった自分の席に座り朋美の登校を待ちわびていた。本当のスイーツがどういう味なのか教えてあげる為にも、私はお気に入りの一品を買って用意してきたのだから。すると、教室の扉が開いた音がしたからそっちを眺め見たけど、気のせいだったみたい。
人の出入りはなく、扉は締め切ったままだから。
隙間風でも吹いて、開いたように感じたのかなきっと。