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ゲーマー少女は狂犬ヤンキーを懐柔させる  作者: 一瀨
5月の章 ~私たちの出会い~
3/4

課題2:下校

誤字、脱字などの指摘がありましたらお願いします。

「なんで、あなたと一緒に下校しなければならないのですか?」


「知るか、江頭に聞きやがれ」


てくてくと歩きながら愚痴る。

横には今日からパートナーとなるヤンキーのこと、藤井 光牙(ふじい こうが)が横でドスドスと歩いていた。こいつ、歩き方も絵にかいたようなヤンキーだな。


私がなぜ藤井君と一緒に下校しているかというと…。


「お前らどうせ帰り道一緒だし、一緒に帰ってお互いのことよく知っとけ」


事の始まりは数十分前に言われた、江頭の言葉。

何故帰りまで一緒にいなければならないのかと、私と藤井君は反論したが「このぐらいの課題をクリアできないと、この先の課題なんて到底無理だぞ」と呆れられた。


結局、藤井君と帰ることに。


畜生。

嵐が過ぎたと思ったら、まさかの二次災害。

悔しいが、私は江頭に反抗する術はない。奴は私の数少ない弱みを知っているため、素直にいう事を聞くのが吉だ。


ちなみに私の弱みは江頭と一緒の弱み、私のバイト先の店長である桃瀬さんだ。

私も江頭ほどではないが、桃瀬さんを前に出されると弱い。

奴はバイト先の常連だし、もし何かあったら桃瀬さんに告げ口する可能性がある。それだけは避けたい。


「…」


「…」


沈黙。

まぁ、こうなる雰囲気になることはわかっていた。……そもそもお互い抱いている第一印象最悪だし。沈黙のせいで、体はそわそわして落ち着かない。あーあ、向こうから話かけてくれないかな。

そう思い、横目で相手を眺める。

向こうもなんだかこの状況が気まずいのか、そわそわしているように見えた。…もしかして、藤井君も私と一緒で相手の方から話かけるのを待っているのか?


「ねぇ」


私は沈黙に耐え切れず、声を掛けた。声をかける間、そわそわしている藤井君がおもしろいなぁと思ったのは秘密。

話す内容は、まずお互いの交流を深めるため世間話……なんてことはない。


「あん?なんだよ」


「私たちを嫌っている教師って誰だと思います?」


話の内容は、件の職員会議の話。

江頭はわざとなのか単に忘れているだけなのか、過激派の側の先生の名を出さなかった。まぁ、仮に問いてみても、江頭が口を割って答えてくれる可能性は低い。奴はこう言ったところではシビアに人を評価していく人間なのだから。


教師という情報に関し、江頭というカードは使えない。

だが私も彼もこの件の内容は知ったとはいえ、まだ情報量が少ない。


「要するに私たちは、過激派に入っている先生の好感度を上げれば事は解決すると思うんですよ。過激派の人間なんて限られていますし。なので、候補としてあげられるのが『私たちを嫌う先生』だと思うのが妥当です」


なので、お互いの情報を交換しようではないか。


「…まぁ、そうだな。んで、どうするんだよ、俺たちを嫌っている先生のために一時の間、いい子ちゃんをして大半の教師に媚び売ろうってんのか?先に言っておくけど俺、そういう慣れ合いやお膳立ては大嫌いだからな。仮にそのやり方をやるって言うなら、それ以外の作戦を考えろ」


考えろって言いますけどねあなた。その二つ、好感度を上げるための最短な選択肢じゃないですか。と言いたいっ…!!いや、我慢しろ。我慢!

ヤンキーは下手に刺激すると言葉ではなく、拳が飛んでくる可能性があるので言わない方がいい。経験者は語る。


「そこら辺の作戦は後で練りましょう。まずは、藤井さん。自分のことを嫌っている教師に心当たりありますか?」


私の場合、教師とあんまり接点がないので自分でも絞り込むのが難しい。知らない間で恨まれている、という可能性が大というやつだ。


「ああ”、俺か?………あり過ぎて誰に恨み買ったかわかんねぇな」


駄目だこいつ。使えない。

パートナーの無能さに絶望していたら、藤井くんが思い出したように顔を上げた。


「ああ、そういえば。体育教師の諏訪部がちょっと怪しいぐらいかな」


…うーん、ちょっとかぁ。

まぁ、可能性は小さいけど聞くか。


「ふむ。具体的に諏訪部先生に何をやったんですか」


「入学して間もない頃、あいつが顧問していたサッカー部に誘われたんだが……家庭の事情で断ってよぉ。そしたらあいつ『はっ!なんだ威勢のいいのは体だけか……部活に入らんとは根性が腐っているな』と鼻で笑い馬鹿にしやがったから、ブチ切れて一発殴ったことがあったな」


「はい!アウト―ッ!!!」


思わず地団駄を踏み、大声でツッコミを入れた。

何がちょっとだ畜生…っ!完全にそれ恨み買っているじゃん!


「うお!急に大きな声を出すなよ!」


「他にも手を出した先生いるの!?」


被害は一つとは限らないっ…!

私が疑念の眼差しを送ったら、睨み返して藤井君は答える。


「いや、教師の中で直接手を出したのはあいつぐらいだ。というか、お前の方こそどうなんだよ!」


噛みつくように言い返す藤井君に対し、私は堂々と答える。


「私はあなたと違って直接手を下したことはありません!ましてや先生たちに迷惑かけるような非常識なこと………を、し…て」


言いかけて、ふと思い出した。


『西園寺さーん!な、なにやっているんですかぁ!!』


今日起こった家庭科の失敗を。

もくもくと上がる黒い煙に対して、青い顔をし消火器で火を迎え撃つ家庭科の先生。

……そういえば今回の報告、家庭科の先生が苦情を言いに来たと聞いた気がする。あれれ、私今回の件で家庭科の先生から恨みを買ったのではないか?


「…し、していませんよ」


「おい、さっきまでの威勢はどうした」


言葉を濁しながら答えると、半目で疑う藤井君の視線が刺さった。

ち、ちがうんだ。このような失敗は今回だけなんだ!


「ったく恨みの数はお互い様ってことかぁ?」


だとしたら、先が思いやられる。

肩を落とし、これからどう先生たちを攻略しようかなーなんて考えていたら、藤井君がじぃぃと私を見ているのに気付いた。


「…どうかしましたか?」


「お前、出会った時から思ったんだけど……なんでそんなに焦げ臭いんだ?」


鼻をすんすんと鳴らしながら、藤井君は首を傾げる。

く、臭い!?女子に向かってなんてことをいうんだ…。


「こ、焦げ?私そんなに臭います?」


「まぁな、正確に言えばお前のカバンから臭うぞ」


藤井君が指で示したカバンを覗くと、可愛くデコレーションされた透明な袋があった。

そして袋に入っている真っ黒なものが視界に入り……本日起こった悲劇、調理実習の記憶が蘇った。

ああ。もしかして――


「多分、今日作ったこのクッキーが臭いの原因でしょう」


「おい、なんだその消し炭は」


いや、さっきクッキーって言ったやん。

私は袋を取り出しクッキーを見せると、藤井君に「なんでそうなったんだ…」という顔をされた。

袋を開けると彼の言った通り、袋の中は焦げ臭く私の鼻を刺激した。

にしても、カバンに入れて袋に詰めているにも関わらず、よく焦げの臭いがわかったな。……犬か。


私は、袋の中に入っている真っ黒なクッキーを眺め、


「えい」


ぽいっと口の中に入れ、頬張る。

…うん。


「に、苦い」


「まぁ、だろうな」


予想していたが、やっぱりおいしくない。

歯ごたえはせんべい以上に硬くゴリゴリしているし、少し粉っぽい。

味は……言うまでもなく炭そのもの。


「これは食えたものではないですね…残念ですが、後で捨てますか」


「…捨てんのかそれ?」


なぜか藤井君に神妙な顔をされた。

真っ黒になったクッキー。食べれないと分かっているし、勿体ない気持ちもある。だが、これでお腹を壊したら元の子もない。

捨てるのが最善の手だ。


「…よこせ」


「は?」


藤井君は「ん」と言いながら手を前に出し、私は思わず狼狽えた。

もしかして、よこせってこの真っ黒なクッキーを?何故に?


「何に使うんですか?」


率直に質問した。


「食うからよこせって言ってんだよ」


「はぁああああ!?正気ですか、藤井君!」


「うっせ」


「あ」


ひょいとクッキーが入っている袋を藤井君に奪われた。

ちょ、冗談だよね?

取り返そうとしたが抵抗は虚しく、身長差の問題でジャンプしても手が届かない高いところまで持ち上げられた。


「返してください!お腹壊します!」


「俺の胃は頑丈だから安心しろ、よいしょっと…」


彼は粉薬を飲む動作のように、炭化となってしまったクッキーを口に入れた。


こいつ…やりやがった!


バリッゴリッ!!

一時して、何かを食べている音ではないだろうと思わせる咀嚼音が聞こえた。


「にっが」


絶句する私に対し、藤井君は何事もなく味の感想を言う。

一体何がしたんだ……失敗作を食べてメリットなんてないのに。


「失敗作をわざわざ食べるなんて、バカですか?」


「俺は元々甘い物すきじゃないからな、苦いくらいがちょうどいいんだよ。それに、捨てるんだったら俺にくれたっていいだろ。あれだ、利害の一致というやつだ」


全然違うし。例えも意味も。


「…」


呆れて何も言えなくなる。

でも、なんだろう。

こういう馬鹿は嫌いじゃない。案外こいつがパートナーだったら楽しいかもしれない。

微かな期待。


「ねぇ、だったら食べ物は何が好きですか?藤井君はなんだか肉が好きそうですね?」


だからだろうか、思わずもっと話してみたい欲が出た。

この感情は、人に対する好奇心だ。人嫌いになっていた為、長年封印していた感情。


「よくわかったな、肉だったらなんでも好きだ」


「うん、君は本当に期待を裏切らない答えをしますよね」


「だったらお前は何が好きなんだよ」


「乳製品でしたらなんでも」


「へぇ、でも身長は伸びていないぞ。チビじゃん」


「私の身長は、女で比較的に平均に近い身長なのでチビではありません。あと、牛乳で背が伸びるのは迷信ですから。きっと、私が背が伸びないのは睡眠よりゲームを優先しているからです」


と半分自分に言い聞かせてみる。

得意げに話すと、藤井君に意外な顔された。


「へぇ、好きなのかゲーム」


「ええ。言っておきますが、ゲームは本気の趣味という部類に入ります」


「…俺もだ」


「へぇ、だったらいつか対戦してみたいものです」


放課後の帰り道、以外にも私たちは話すことが出来た。

ヤンキーなんて感情論の塊だと偏見があったが、意外にも彼は口は悪いが暴力に訴えるほうではない人間だ。私が女性だからだろうか?


だって、ゲーマーとヤンキーなんて水と油に近い。


果たしてこの考えは私の思い過ごしなのだろうか?

主人公補足、心の中では口が悪いが、表の口調は敬語。

ブクマ、評価、よろしくおねがいします。

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