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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

快楽

作者: 鳴瀬 蓮

「使った」


「えっ?」


「ごめん。お金使った」


朝からイライラさせる、この男は紛れもなく私の兄な訳で。なぜ、こんなルーズな奴と一緒に暮らさなければならないのか本当に不可解でならない。


「なんで?はっ??なんで使うの?」


「いや、あの、ごめん」


しどろもどろで言えば、とりあえず謝れば何でも許されると思っているその甘さが、私にとっては不愉快の何者でもなかった。


「で、どうするの?返してくれるの?目処が立ってるの?だから使ったの?えっ??どうなの?」


この期に及んで、こんなやつの言い分なんて聞きたくもないが、私のお金ではあるので彼を問いただす。しかし、返ってくる答えは私の望んでいるものではない。


「このクズが。さっさと失せろ」


それを聞いた兄は顔を真っ赤にしながら、外へ出た。

失せろと言ったところで、彼に行くあてがないことくらい分かっている。

どうせ、少額の所持金でパチンコに行ったに違いないのだ。



どうして、兄はこうなってしまったのだろうか。

元はといえば両親が兄ばかり可愛がり、兄ばかりに欲しいものを与えたのが原因だと思う。


母はいつも口癖のように、お兄ちゃんはカッコよくて頭も良いのよね、お母さん嬉しいわ。と言っていた。

そんなある日、この生活に嫌気がさしたのか兄は母に反抗する様になった。

暴力を振るい、暴言を吐きまくり、それをきっかけに母は兄に対して謝罪ばかりするようになってしまった。


父は父で、兄に対して怒りもせずいつもニコニコと穏やかな表情で接し、兄が母に対して生意気な態度を取るようになった時には、叱りもせずらこれでもかというほど、好きなものを好きな分だけ買い与えていた。まるで、王様に仕える召使いのようにヘコヘコと頭を下げ、兄の言うことは絶対とでというように、言いなりになっていた。


そんな2人のストレスの矛先は、もちろん娘である私へと向かう。


私は兄が反抗し始めた辺りから、親を親と思ってはいない。父は父という呼び名であり、また母は母の呼び名である。あの人たちには肩書きの名だけで十分だ。

彼らの本名は忘れてしまったし、思い出したくもない。


今、こうして足枷はいるがそれでも少しだけ幸せに暮らしていけているのは、両親が兄弟を捨てて出て行ってくれたおかげだ。


児童相談所に保護をされ、そこから18歳まで施設で過ごし、兄の提案で兄と一緒に暮らし始めた。


「おい、ミカ。帰ってきたぞ」


失せろ。と言ったはずなのにどこまでも神経の図太い奴で困る。

靴を脱ぎ、何食わぬ顔でリビングに入ってくる。


「今日も負けたなー」


ブツブツ言いながら、兄はソファーに座った。


殺意。


甘やかされて育ってきたくせにその性格の歪み様。

いや、むしろ周りが甘やかしすぎたせいで彼は徐々にそんな憐れな性格になってしまったのかもしれない。

私だって、両親の愛情が欲しいと思っていた時期もあった。

愛情を独り占めしていたくせに、こんな生活を送っている兄のことが憎い。


だんだん思い詰めると腹が立ってきて、手が震える。


殺したい。


殺したい。


殺したい。


私が必死に稼いだお金を…………。


料理をしていた私の手には包丁が握られていた。

この刃物を兄に刺したならどんな快感が味わえるのだろうか。

気になった。

ソファーに座り、テレビを見ている兄の姿が私の視界に入った。

思考が止まった様な気がした。何も考えず、身体がふわふわと彼の背後へと近づく。

気がついたら彼の背中にはナイフが刺さっていた。


彼の唸る声もまた私の気分を高めてくれるものだった。


手には刺したときの感触が残っている。

しかしまだ、刺したりない。

私は彼を何回も何十回も刺し、殺した。


快感だった。爽快感に溢れた。


金の亡者は死ねばいい。


この世にはいらない。必要ない。


私を苦しめる元凶はもういない。


邪魔者はもうここにはいないんだ。


笑みがこぼれる。


悔いはない。


私の生活は今ここから、またスタートする。


- 完 -

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