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寮から15分も歩けば目的の場所に着く。
今日は人が人一倍多いようで、外に並んでいる行列を見つつ、俺達は外で席が空くのを待っていた。
接客中なのか、窓の外からフィアラが見える。
その笑顔が曇っていないところを見ると、今日は特に何も仕掛けて来ていないようでホッとした。
「お待たせしました…あ!ライくんとレアンさん!
いらっしゃいませ、こちらにどうぞっ!」
笑顔でそう言うと、フィアラは俺の手を引いて奥の席へと案内する。
数々の視線が俺に突き刺さる中、一人の男の視線に気が付いた。
フィアラより俺に鋭く突き刺さるその視線を辿ると、前回追い払った男が連れと居るようだ。
その連れは前の男では無いので、相手を変えたかと理解する。
「…今日は何にする?」
「俺はフィアラちゃんのおすすめ!
ライゼンは?」
「俺も」
「分かった!レアンさんはコーヒー?紅茶?どちらにしましょうか?」
「俺はコーヒーで!ミルクと砂糖はお願いね!」
「はい!かしこまりました、少しお待ちくださいね!」
笑顔でキッチンに戻るフィアラを見つつ「なーなー」とレアンが声を掛けてきた。
「もしかして、俺に黙ってちょっと危ない事しようとしてる?」
「お前に黙ってはともかくとして、別にしてない」
「嘘だー、ライゼンってばめちゃくちゃ顔面凶器だし。
……どうせフィアラちゃん絡みなんだろ」
視線で見抜かれて、そんなに顔に出やすいなら改善しなくてはいけないかと頬を揉む。
しかし「俺だから分かるんだぞー」と言われて首を傾げた。
「あのなあ、俺だってお前と同じ隊になって数年の付き合いだし、それなりに長い時間お前と居たんだから分かって普通!当然なの!
まあ!お前には!?可愛い可愛い彼女……アッごめーん!彼女じゃなくて片思い拗らせてるだけだったっけー!アハハ、俺ってばウッカリさんっ」
「その気持ち悪ィ声が出ない様にノド掻っ切ってやろうか?」
「無理怖いごめん」
両手を広げてギブギブと繰り返すレアンに「お前本当うるさい」とため息を吐き出した。
「話戻すけどな、俺だったらまだ良いけど。
隊長達に迷惑は掛けるなよ?」
「掛けねえっての」
「どうだかなー。お前ってばかなり暴走癖あるから心配だぜ?」
「はあ?」
暴走癖とはどう言う事だとレアンを見上げると、思いの外真剣な顔をしていて思わず黙り込む。
「俺はお前の事ちゃんと仲間だって思ってんよ。
それを脅かす奴が居るなら俺だって力貸すって言ってるんだけど、なんか間違ってる?」
「……そこに俺の意思は」
「基本的に上手く使ってくれるだろ?」
にっこりと笑みを浮かべて、レアンは視線を俺の後ろへと持って行く。
「俺基本的に博愛主義だから。
可愛い子と仲間に対して敵対してるのは俺にとっても的に等しいの」
「……だが、」
「1人でしようとするより自由が効くんじゃないか?」
「……」
恐らくこれ以上言ったところで聞く耳は無さそうだと推測して、俺は深くため息を吐き出した。
レアンはそれにまた笑って「じゃあ取り敢えず今からしようと思ってる事吐いてもらおうか?」と続けた。
人の声が壁となって聞こえはしないだろうが、一応声を潜めて俺は作戦をレアンに伝えた。
初めは驚いていたものの、次第に「なるほどな」と呆れた表情になって行く。
「お前それ1人でしようとしてたの?かなり無謀過ぎ、そりゃ隊長に迷惑掛けんなとは言ったけどさあ」
「これくらいしねえとストーカーは激化するだろ」
「まあ、根本的な理由をそりゃもう再起不能になるまでギッタンギッタンのベッコベコにしたらストーカーしたくても手出し出来ないだろうけどさあ」
うーんと悩み出したレアンの前に、フィアラが皿を運んで来たので会話は打ち止めとなった。
「お待たせしました」
「フィアラちゃんありがと!」
「いいえ、お仕事ですから!」
嬉しそうに笑顔で答えたフィアラに「今日店何時に終わる?」と問い掛けると、きょとんとした後に「すぐっ!聞いてくるね!!」と慌てて厨房へと向かっていった。
耳まで真っ赤に染め上げて駆け出したその後ろ姿になんとも言えず、俺は走り去ったフィアラの後ろ姿を見送る。
厨房へと向かったフィアラは店主に事の次第を話したのだろう。
ちらりと厨房から顔を覗かせて親指を立てる。
フィアラがまたとたぱたと走ってテーブルまで来ると「14時まで!そこからはお休み貰ったよ!!」と嬉しそうに顔を上げた。
本当に嬉しそうに笑うので、俺も「そうか」と思わず表情を緩めてしまった。
「なら14時に迎えに来る、何処か行くか」
「本当?良いの?お仕事は……」
「今日はお休みなんだよ、フィアラちゃん」
「じゃあ、レアンさんも?」
「俺は良いからライゼンと行っといでよ!
俺はやる事あるし、すっごく久し振りなんでしょ?」
レアンの問いに頷いて、フィアラは「楽しみ!」と声に出して笑う。
忙しくしているフロアーに「フィアラ、13番テーブル片付けてー」ともう1人の店員の声が響く。
それに慌てた様に走って行ったフィアラを見送って視線をテーブルに戻すと、ニマニマと気色の悪い顔をしたレアンが居たので、テーブルの下にあった足をおもいっきり踏んでやった。
店のピークが13時頃にようやく落ち着いた頃、先輩が「上がって良いよ」と笑顔でやって来て、私は勢い良く頭を下げた。
応援要員の2人が来たのでもしかしたらと思ってはいたが、こんなに早く上がるのはちょっとと思っていたので少しその場で立ち尽くす。
「あ、化粧道具とか持ってないよね。
服も……私ので良かったら使って良いよ?」
この制服と、後は寝巻き用の服が何着かしか持っていない事に気が付いて慌てたお礼を言うと「少し待ってて」と言って先輩はキッチンに向かった。
短いやり取りの後先輩が私の手を取って住居スペースへと上がって来たので「お店は……」と声を掛けると「少しなら良いって」と笑った。
「せっかくのデートだもんね、可愛い格好で行きたいでしょ?」
「!」
そこからは先輩の独壇場だった。
沢山あるお洋服の中から、あれでもないこれでもないと色んな服を取り出して来て一枚一枚私に当てながら「チッ、こんな事なら事前に買っておくんだったわね」と舌打ちする。
「私どう見ても清楚系じゃ無いからなあ……今日はこれで」
どうやら福袋に入って居たものの袖を通さずに何年も眠っていた物らしく、白いワンピースにボレロを羽織って、少しだけお化粧もしてくれた。
「今度お休みの日に買い物に行こうか、次のデートからはもっとフィアラに似合う服を着て、相手驚かしちゃえ!」
「はい!」
靴は残念ながらサイズが合わなかったので自前のブーツを履いて階下に降りると、店の外に見慣れた顔があって慌てて時計を見た。
まだ14時には少し早い時間だが、と慌てていると「男はそう言うものよ、ケロッとしてなさい」と先輩に背中を叩かれる。
「店の事は良いから、ゆっくりしてらっしゃい。
後はこれね」
髪をゆったりと束ねて、青いリボンで緩く結ぶ。
「やっぱりフィアラには白と青が似合うね、黄色も可愛いかも」
「うん、とてもよく似合ってるよ」
「店長、自分の勝手で時間貰ってしまって、ごめんなさい」
きちんと謝らなければと思っていたので頭を下げると「どうして?」と店長はその場で首を傾げた。
「せっかくのおしゃれしたのだから、彼に見せておいで。
謝らなくて良いんだよ、君や彼女達の幸せが私の幸せなのだから」
ぐっと滲んだ涙を我慢して、隣で頷く先輩にも視線を合わせた。
そして笑顔で「行って来ます」と伝えると、2人の「行ってらっしゃい」の声が帰ってくる。
私の帰る場所が確かにここにあるのだと、改めて確認した。