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「あ!居た居たライゼンー!今日の休みどうする?」
「うるせえ」
「ひっど」
廊下ですれ違ってしまったレアンに文句を言いながら、俺は廊下を進む。
なぜかついてくるレアンを睨むが「予定無いの?」としつこい。
「フィアラの店に行く」
「って!朝も行ってたじゃん!本当好きなんだなあ、お前」
意外そうに言われて腹立ったが、相手にするだけ無駄かと諦めて無言で通した。
「ライゼンってさあ、ファスト家の長男って言われてんじゃん?めっちゃ有名な話なんだけど婚約者とかどうなの」
「は?あんなもん勝手に決め付けられただけだろ、言っとくが俺は否定してるしし続けてるし、フィアラ以外に興味はねえよ」
「相手さんこの国の人だろ?昨日の合同訓練には来てなかったみたいだけど、国王補佐をしてるって話じゃん」
「だからなんだよ、俺には関係無え」
「いやあ、だからさあ。
フィアラちゃんが聞いたら、悲しがるんじゃ無いかなって」
「は??」
「え??」
早足で歩いていたが足が自動的に止まった。
「だってライゼンってばフィアラちゃんに告ったんだろ?付き合ってんだろ?それなのに世間じゃ婚約者が居るって分かったら、やっぱり女の子としては悲しいだろうなーって」
「いや、告ってねえ、付き合ってるわけじゃねえ」
「はい!?いやなにその問題発言!
お前昨日フィアラちゃんは俺の女だって店先で堂々と宣言してたじゃん!?」
「そんな事せんでもアイツは俺のだわ!」
「なにそれ暴君かよ!?おまっ、大丈夫なのかそれ!
いくらなんでもずさんすぎ!」
「ずさん!?」
「女の子一人自分のものにしてたとして、お前のそれは束縛ってんだぞ!!
対等な関係じゃ無くて、精神の支配!!」
「……何が悪いんだ?」
「マジかよ!!ほんっと、世間ズレしてる所おかしいって!!」
ギャーギャーと騒ぐレアンの言葉に、俺は激しく動揺した。
精神の支配、それはまるで悪い響きのように聞こえるが、俺はそれが正しいと感じている。
フィアラの眼に映るのは俺だけで良い、アイツが笑いかけるのも俺だけで良い、アイツの泣き顔を見るのも俺だけで良い。
そしてアイツの側に居るのも、俺だけで良い。
そうじゃ無いのか?
「良いかライゼン、人ってのは心の支えが大きければ大きいほど強くなるって隊長の教えだよな?」
「ああ」
「お前にとってそれがフィアラちゃんなのはよーっく分かった。
その気持ちが本物なのも知ってる。
けど、フィアラちゃんが喜んでたとしても、それは精神的に束縛してる様な言い方に聞こえた。
それは付き合ってる男が女に対して言う事だ。
お前はまずその順番を間違えてる」
人差し指を立てるレアンに頷いた。
「よし、まず今日告白しろ」
「今日!?」
「あったりまえじゃん!まずは一歩進むところから!
大切に思ってる相手にちゃんと大切だって伝える事は大事なんだぞ?
そんでそれが出来たら、次はデートに誘え」
「………デートってなんだ」
「付き合った男女が一緒に出掛ける事だよ!」
頭を抱えたレアンに「お前のその知識はどこから出てくるんだ」と問い掛けると「これくらい普通だから」と真顔で返された。
「お前達の場合順番が違うんだよ。
お互い大切な存在ってのは知ってるけど、どうも違うって言うか。
何かズレてる、みたいな?」
「それで、その後は」
「あとは……お互いのタイミングで、キスなんてしちゃったり!?ひゃー!俺恥ずかしー!」
「キモい」
「ひっど!?」
頬を染めたレアンに呟くと「でも!可愛い彼女が可愛い事してたらしたくなっちゃうもんでしょ!」と怒り出す。
それに関しては理解出来たので「確かに」と頷くと「だから、順番が違うんだっつの」とため息を吐き出す。
「お前……まさかフィアラちゃんに対して狼になってたりはしないよな?」
「は?なんだそれ」
「だからその……えーと、獣になっちゃうって言うか」
「は?」
分かりにくい言い回しに苛立っていると「えっちな事だよ!」と顔を真っ赤にして言うので、吊られて想像してしまい頭を抱えた。
「するか!最後に別れたの10年も前だぞ!
15歳の子供に欲情する訳ねえわ!」
「あ、そこは普通なんだ良かった」
「良くねえよ」
今から会いに行くと言うのに、こいつのせいで変な事を考えそうになる。
レアンは笑って誤魔化しながら「取り敢えず今日告れ!大丈夫俺も付いて行くし!」と並んで廊下を歩き始めた。
これ以上行っても、レアンは勝手に付いてくるだろう。
舌打ちをしつつ「邪魔すんなよ」と忠告する事を忘れずに、俺はまたフィアラの働く店へと歩き出した。