4
ああ言うタイプの人間がこの後どんな行動をするのか。
無駄にプライドが高く、自分の思う通りに物事が進まなかった奴のする事はたかが知れてる。
自分の思惑を邪魔した奴への復讐である。
合同訓練まであと時間は少ししか無いので取り敢えず奴を追っていると意外な人物と話しているので身を潜めた。
話しの内容は物騒で、男の話しを請け負った男の顔をしっかり覚えて店に戻った。
「あれ、めっちゃ早かったな?」
「ああ……隊長、コイツこっちの管轄ですか」
「話し聞けよ」
レアンの言葉をスルーして、店に来るまでに書いた人相書きを隊長に見せると「こちらの兵にこう言う顔の男が居たが?」と不思議そうに返される。
「……ちょっと行ってくる」
「ライゼン!メシー!」
「すぐ戻る」
バタバタと忙しそうなフロアを抜けてキッチンへ。
店長が俺に気付くと「どうかしたのかな?」と柔和な笑みを持って迎えられてしまった。
「忙しいところ悪い、この男は出入りしてるか」
「うーん、フロアの事なら彼女達に……いや、私の覚えている限りでは居ないと思うよ」
「……次この男が来たら来店を拒む事は出来るか?」
「難しいねえ、さっきみたいに害を加えてきたお客ならお断り出来る理由があるけど……この人は初見でやって来るだろうし、多分無理だねえ」
「……そうか」
当たり前かと視線を落とすと「この人は、この国の人だね?」と聞かれ「多分」と返す。
まだそちらの調査は終わっていない。
しかし少し考える様にして「分かった、彼の入店を断ろう」と頷いて調理に戻った。
「え?」
「フィアラちゃんに関わる事なんでしょう?
それに君の目はすごく真剣だったから。
僕にとって家族である彼女達に危害が加わるのなら、貴族だって国王だって僕の敵さ」
「国王……それは、頼もしいな」
「僕もそれなりに鍛えてたからねえ、何かあったら僕が出るよ、気を付けておく。
君は今からお仕事があるんでしょう?きちんと食べて、フィアラちゃんに行って来ますしておいで」
「……助かる、何かあれば教えてくれ」
「もちろんさ」
不適に微笑む店長に俺の方も笑みを返してフロアへと戻った。
不思議そうな顔をして見送る店員二人を視線の端で捉えながら席に着くと「何か私に出来る事はあるか?」と聞かれたので「店長に頼った」と返すが、隊長は少しだけ残念そうに「そうか」と答えただけだった。
「ではこれより、アルゼア公国騎士団と我がテイベルゼ国騎士団との合同訓練を開始する」
隊長の声に、隊員が礼をする。
礼を解除すると、テイベルゼ国騎士団の隊長が頭を下げた。
「テイベルゼ国騎士団が隊長、アードモンドだ。
これから諸君らには、ここから少し行った先にある森に居る我が隊と合流してもらう。
その過程で、なにか不自然なところは無いかなどの警らをお願いしようと思っている。
その他気になる事があれば俺か、ガーゼイン殿に聞くように。
それでは、出発準備!」
「ハッ!」
それぞれが騎乗して隊列を組む中、近付いて来たレアンが不安げな様子で声を掛けて来た。
「なんだよ」
「いや、お前本当に大丈夫なの?」
「なにが」
「フィアラちゃん!……せっかくすっげ久し振りに会えたんだろ?それなのに」
「大丈夫だ、確かな人に頼んで来た」
「え?」
間抜け面のレアンに「早く帰るぞ」と返すと「分かったよ!」とようやく付いて来た。
カランとドアのベルが鳴って、私は接客に行くべく伝票を握った。
声を掛けに行こうとすると、キッチンから店長が出て来て「僕が行くよ」と笑う。
「やあいらっしゃい、こちらにどうぞ」
「感謝する」
不思議そうな表情をするお客様を見送って、私は注文が入ったのでテーブルについた。
「貴方はキッチンのスタッフなのでは?」
「たまに忙しい時には手伝いに出て来るんだよ、キッチンには別のスタッフが代わりに居てくれている。
今日は何にしようか?」
「では日替わりランチ……は終わっているか、何かオススメを頼むよ」
「そうかい、それならグリルなんてどうかな?
君はこの国の警ら隊の隊員だろう?たくさん食べて、力を付けなきゃ、ね?」
「え?」
言われたその言葉に、男が怪訝そうな顔をする。
「警ら隊12番地区担当のハリス・バートリー。
ここは4番地区だからすごく遠い場所までご苦労様だなあ」
「あ、あぁ…昨日から、こちらに担当が移って……」
「え?今朝会ったアメルダにはそんな事聞かなかったけれど」
「アメルダ…母上!貴方は母上と面識があるのですか?」
「彼女は昔私の生徒でね……あぁ、おすすめだったね、すぐに準備をするから待ってておくれ」
にこりと笑みを向けると、なんとも言えない顔をして黙り込んだ。
その後はご飯を食べて、まっすぐに会計を済ませて出て行ってしまった。
会計の際「アメルダによろしく言っておいておくれ」と伝えると、表情を強張らせて「はい」と返事をしてくれた。
さて、こんなものか。
僕は頷くと、次にどう出て来るんだろうかと想像しながらキッチンへと戻るのだった。
……長い。
隊員が疲弊している。
あの隊長ですら、笑顔を曇らせているのだ。
これがどう言う状態なのか、俺は苦笑いを浮かべてやり過ごす。
「なあ……これいつまで続くんだ」
「えー?確か夜の間に合流だから、…それまでじゃないの」
「馬なんかとっくに使い物になってねえぞ」
「ほんとにねー、どう言う意図なんだろうね」
合同訓練と言う割に、合流地点まで行くだけだと考えてた俺達が甘かった。
騎乗したままの陸路が20分、それから少しの間は湿原地帯だと言われていたものの、少しと向こうの隊長は言った。
しかし4時間が既に経った今、後ろにはまだテイベルゼ国の城門が見えている。
「湿地帯が広がり過ぎだろ!」
「ライゼンうるさーい」
レアンの軽口が止まる、それ程にキツい証拠だ。
テイベルゼ国の騎士団は根性があるとか無いとか隊長が言っていたが、このキツさを訓練に織り交ぜてあるのなら頷ける。
「みんな!もうすぐ合流地点だ!」
隊長の声に、疲弊していた隊員達が声を上げる。
今度こそ抜けるかと思っていると、先頭の隊から「抜けたー!」「やっと湿原を超えたぞ!」「みんな!もう少しだ!頑張れ!」と声が聞こえたので、踏ん張った脚に力を入れて走った。
「……あー」
「うへー、きっつー!後半ずっと走ってたんだけど!」
湿原を抜けた先には、テイベルゼ国の騎士団が居て、俺達を不憫そうに見ていた。
「休憩所も用意しています、仮眠を取ってから街に戻って下さい」
支給されたカレーと、水分、そして毛布に包まって、俺達は少しの仮眠を取る。
しかし帰りは湿原を通らず、街に向かう最短ルートを馬で駆けるらしい。
寝る間際「フィアラちゃんに会ったらよろしくな」とほざくレアンに「無理」と短く答えた。
日が昇る頃、俺は顔を洗って覚醒すると1番にフィアラの身を案じた。
店長に任せたものの、次の手を打って来ていたらと思うと心中穏やかではいられない。
隊長の計らいで1番先頭の隊を率いて、俺は寮に戻って風呂に入って、朝飯をあの店で食べるべく急いだ。