記憶の断片
「て下さい……」
ん…
バコオォオオオオン…鳴り響く鈍い衝撃音…
何だ…
ウギャァァアああ!誰かの呻き声…
これは夢…?
「逃げて下さい… …ぁ下…」
バシャアアン
…冷たい。
「ほら、起きて兄さん。何寝ちゃってるの。」
目の前には空になったバケツを持っている
リウが立っていた 。
どうやら、ぼくは眠ってしまっていたらしい。体に残る水の冷たさが僕を現実世界へと連れ戻す。
「あんなに一気にかき込むから。全く、もう…」
ふと、周りを見渡すと…あんなに混み合っていた店内には、いつのまにか、まばらにしか人が残っておらず、外も黒く染まった街中をほのかに白い街灯だけがぼんやりと浮かび上がらせていてた。
「すまん、いつのまにか意識が飛んでいた…」
と、朧げに返事をするが…リウは
ブツブツと文句を言って…聞いていない…。
そんな僕の様子を見かねてか、店主らしき
年増の婦人が話しかけて来た。
「最近は何かと物騒で…治安が悪いからねぇ
お連れさんがいたからいいものの…
自分の身も含めてよ〜く用心するんだよ…」
物騒…?治安が悪い…?
僕はその言葉がどうも気になって
「何か…ここであったんですか…」
と尋ねると…その婦人は一瞬驚いた表情をしたが、その後ため息混じりに…
「……戦争をしてるんだよ…隣の国と…」
「戦争…」
なんだこの響きは…この胸の高鳴る気持ちは…
その戦争について詳しく知る必要があるな
と思い…口を開きかけた時
「余計なおしゃべりはもういいでしょ!
ほら…もう行きますよ!」
とリウが急に僕をお姫様抱っこのような状態で持ち上げて店の出入り口へと向かっていった。
「待ってくれ…僕はまだ聞きたいことが…」
「それより自分の体の心配をしてください!」
有無を言わさぬようなリウの言動に…
僕は気圧され…しばらく黙っていたが
店を出た後…ある事に気づき…ちらっと
横目でリウを見ると…
「お代はしっかりと払いました…。
これから泊まる宿屋もさっきの店主さんに紹介してもらってます…。
全部…兄さんが眠っているときにねっ!!」
どうやら…かなりお怒りらしい…。
「それと…恥ずかしいから降ろしてくれないかな…。」
「ここは街中です…少し静かにしてください…」
今は何もするなということか…。
僕は仕方なくリウの言うことに従い…
なんの星々も映そうとしない漆黒に染まった空をぼうっと見上げていた。
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