【全年齢版】共犯者
人 物
村田咲(14) 中学生
平坂歩(32) 咲の叔父
咲の母
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○駅前
セミの声が聞こえる。村田咲(14)は額に
汗をにじませながら駅前まで歩いてく
ると、スマホ片手に辺りをきょろきょ
ろと見まわす。スマホのライン画面に
は待ち合わせ相手から今日の服装を示
すメッセージが届いている。
咲「アロハシャツに白っぽいハーフパンツ…
…うわ、いた」
目的の人物はすぐに見つかり、目が合
うと、平坂歩(32)は笑顔で手を振りなが
ら咲の方へとやってくる。
平坂「やあ咲ちゃん、大きくなったね。相変
わらず姉さんの小さい頃にそっくりだ」
咲は楽しそうに頭をなでてくる歩の手
を不機嫌に払いのける。
咲「私、もう中二ですしちっちゃくありませ
ん。背の順でもまん中くらいです」
平坂「もう敬語を使えるようになってえらい
な~、でも咲ちゃんの事は昔から知ってる
し、今更他人行儀にされても寂しいな」
咲「昔からって、私としてはほぼ初対面なん
ですけど……」
平坂「最後に会ったのは父さんの葬式で10年
くらい前になるし、その時まだ咲ちゃん幼
稚園だったもんね。憶えてないかぁ」
少し残念そうに歩は言う。
咲「と、とにかく、子供扱いしないでくださ
い」
決まり悪そうに咲は言う。
平坂「うん、ごめんね。じゃあ、咲ちゃん達
の家までの案内頼めるかな?」
咲「元々そのために私は来たんだよ」
咲は小さくため息をつくと、歩き出す。
○街中
店も多く、賑わった通りを咲と平坂は
歩いている。
咲「歩叔父さんはスマホとか持ってないの?」
平坂「持ってるけど、どうして?」
咲「スマホの地図アプリとか使えばすぐじゃ
ん。使い方わからないなら教えようか?」
平坂「ああ、多分姉さんが心配しているのはそ
ういう事じゃなくて……」
平坂は言いながら足を止め、つられて
咲も立ち止まる。咲が平坂の見つめる
先を見れば、甘味処がある。
平坂「へぇ、好きにトッピングを選んで自分
好みのあんみつがカスタムできるんだって」
甘味処のショーウィンドウを見ながら
平坂は言う。
咲「だ、だめだよ! お母さんにはまっすぐ
家に行くように言われてるもん!」
平坂「僕が電車の乗り換えに失敗して少し待
たされた事にしたらいいよ。姉さん達への
手土産も買いたいし」
咲「で、でも……」
平坂の言葉に、咲は困ったように言う。
平坂「ねえ咲ちゃん、僕の共犯者にならない
か?」
咲「共犯者……?」
少し不安そうに咲は平坂を見上げる。
平坂「実はまだお昼を食べてなくてね、腹ペ
コなんだ。僕は美味しいあんみつを食べて、
咲ちゃんは口止め料として涼しい店内で好
きなものを食べていい」
咲「好きなもの……」
ショーウィンドウには果肉のたっぷり
乗った1200円もするかき氷の食品サン
プルがある。
咲がそれを見てゴクリと生唾を飲む。
平坂「どうかな?」
にっこりと笑って平坂が右手を差し出
せば、咲は恐る恐る平坂の手をとる。
平坂「交渉成立だね」
平坂は嬉しそうに笑う。
咲の母の声「残念、不成立よ」
咲と平坂が肩を跳ねさせてふりむけば、
そこには咲の母がニコニコと笑顔を貼
りつけて立っている。
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