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【全年齢版】アオの秘密

人 物


岩見春人(10)小学生


岩見楓(35)春人の母親


*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*


○通学路


人通りがほとんどない住宅街。


岩見春人(10)はランドセルを背負い、鼻歌交じりに歩いている。


○岩見家・外観


少しくたびれた雰囲気の一軒家。


春人は家の近くまでやってくると、走って家へと入っていく。


○同・リビング


リビングでは岩見楓(35)が椅子に座ってぼんやりとテレビを見ている。


すると、ドタドタと廊下を走る音が聞こえてくる。


春人「お母さんただいま!」


楓「春人、家の中で走らない、ちゃんと手は洗うのよ」


楓はそれだけ言うと、再び視線をテレビへと戻す。


○同・洗面所


春人はランドセルを背負ったまま手を洗う。


春人「わかってるよー」


いそいそと手を拭きながら春人は楓に声をかける。


○同・階段


春人は元気に階段を駆け上がる。


○同・春人の部屋


部屋に入るなり春人はランドセルを畳まれた洗濯物が置かれたベッドの上に放り投げる。


春人はワクワクした顔でベッドの横に置かれた衣装ケースを開ける。


春人「あれ?」


しかし、箱の中を見てその笑顔は曇る。


衣装ケースには細かく切った新聞紙が敷かれ、水の入ったタッパーとお菓子の箱で作られたトンネルがある。


春人「アオ?」


春人が紙のトンネルを持ち上げる。


しかし、そこには何もいない。


途端に春人の顔が青ざめる。


○(回想)岩見家・春人の部屋


春人は勉強机に向かって座りながら右手に蛇をハンドリングしている。


勉強机には透明なプラスチックケースが置かれており、中には細かく切った新聞紙が敷き詰められて横には水の入ったタッパーが置かれている。


春人が笑顔で蛇を見つめていると、そこに畳んだ洗濯物を持った楓が入って来た。


楓「キャー! 春人何してるの!?」


バサバサと手に持っていた洗濯物を床に落として楓が叫ぶ。


春人「アオダイショウのアオだよ、家の庭で見つけたんだ」


春人が椅子から立ち上がって一歩楓に近づけば、楓も一歩後ずさる。


楓「蛇は毒を持ってるかもしれないし、素手で触るんじゃありません!」


春人「大丈夫、アオダイショウは毒も持ってないし大人しいんだ。見て、最近やっと手に乗ってくれるようになったんだ!」


春人は目を輝かせながら蛇をハンドリングした右手を楓に見せる。


楓「そんなもの見せないで、気持ち悪い!


今すぐ捨ててきなさい!」


楓は更に春人から後ずさりながら、強い口調で言う。


○元の岩見家・春人の部屋


春人の顔がみるみる青ざめる。


春人「お母さんに見つかったら……」


春人は慌ててベッドの下や机の下を探し始める。


楓の声「春人―、ちょっと来てー!」


すると、下の階から楓の声が聞こえ、その後すぐに階段を駆け上がってくる音が聞こえる。


春人は慌てて衣装箱にふたをしてドアを開ける。


○同・廊下


春人が部屋のドアを開けて顔を出す。


春人「ど、どうしたのお母さん」


廊下に顔を出せば、階段をのぼってくる途中の楓と目が合う。


楓「台所にカエルが出たの、気持ち悪いから家の外に逃がしてきてくれない?」


心細そうに楓が言う。


春人「うん、今行くよ」


春人はチラチラとドアを開けたままの足下を見ながら答える。


春人は細心の注意を払いながら部屋のドアを閉めて、階段へと向かう。


○同・台所


楓は台所の入り口で立ち止まり、流しを指さす。


楓「そこの流しのへりに結構大きめのカエルがいたの」


春人「じゃあちょっと見てくるね」


春人が流しに近づいた時、視界の端で


何かが動いた。


春人が目を向ければ、楓からは見えない食器棚の影に、口の端からカエルの足が出ている蛇がいた。


春人「アオ……!」


楓「あお?」


春人が食器棚の方を振り向いて声をあげれば、楓は不思議そうに首を傾げる。


春人「あ、この辺だといたのはアオガエルかなって思って」


楓「種類なんてなんでもいいから早く逃がしちゃってよ」


楓は早くしろと身振りで春人を急かす。


春人「う、うん」


言われるがままに春人が流しを覗けば、そこにカエルの姿はない。


再び春人は視線を食器棚の影に向ける。蛇の口からはもう蛙の足は出ていないが、その代わり、頭の少し後ろ辺りが不自然に膨らんでいる。


楓「どうしたの?」


恐る恐るという様子で楓が尋ねてくる。


春人「いや、流しにもうカエルいなくて」


楓「えぇ?」


楓が怪訝そうな顔で流しの前までやってくる。


春人は慌てて流しから少し離れ、楓から蛇の姿が見えないように隠す。


楓「そんな、さっきまでは確かにいたのに」


流しを覗き込みながら愕然とした様子で楓が言う。


春人「きっと、どこか行っちゃったんだよ」


楓「やだ、この辺締め切ってるから絶対家の中にいるじゃない」


途端に楓が辺りをキョロキョロと見回し始め、春人はビクッと肩を揺らす。


春人「じゃあ、この辺の窓を開けてたら勝手に出て行くかも」


楓の注意を引きつけるように春人が流しの前の小窓を開けようとする。


楓「ダメッ」


楓は春人の手を掴み、動きを止めさせる。


楓「新しく他の虫やは虫類が入ってくるかもしれないでしょ、うちの周りはジメジメしててそういうのが多いんだから」


春人「じゃあ、僕が探して逃がしておくよ」


楓が身体を起こすのに合わせて、春人も食器棚の影を隠すように窓から離れる。


楓「そうは言ってもすぐ見つけられるとは限らないでしょう、うっかり気づかず踏んじゃったりするのが一番嫌だし」


春人「でも、お母さん見るのも嫌でしょ、後は僕がやっておくから」


春人の言葉に、楓は訝しむようにじっと春人を見つめる。


楓「春人、さっきから何を隠してるの?」


春人「何も隠してなんかないよ」


楓がすっと身体を横に倒して春人の後ろを覗き込むような体勢になれば、すかさず春人もそれに合わせて身体を動かす。


楓「つまり、その後ろね」


楓は春人の両肩を掴むと、春人の身体をそのまま横に動かす。


春人「わっ」


春人が横にどけられた後、咄嗟に食器棚の影を見れば、そこに蛇の姿はない。


楓「何も無いじゃない」


春人「なにもないよ」


不思議そうに首を傾げる楓に、春人は言い返しながらふと足下を見る。


ちょうど楓の足下を蛇が這っている。


楓「とにかく、このままじゃ落ち着いて夕食も作れないし、早く見つけちゃいましょう」


そう言って楓は再び辺りをキョロキョロと見回し始める。


春人「僕が一人で見つけて逃がしとくよ」


楓「そんな事言って、逃がしたフリしてこっそり飼うなんてやめてよ?」


春人「もちろんだよ」


春人が即答すれば、楓は安心したように笑う。

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