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【全年齢版】一方通行

人 物


中尾あい(16)女子高生


村岡樹(17)男子高校生


金井菫(17)文芸部部長


田中美紀(16)あいの友達



*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*



○電車(朝)


ガタンゴトンと電車の音がしている。


人はそこそこ多いが一つ二つ空席のある車内。


高校の制服に身を包んだ中尾あい(16)は、扉の隣の席に座っている。


視線の先には同じ高校の制服とわかるデザインの制服を着た村岡樹(17)がいる。


村岡は扉の前の手すりに寄りかかりって立ちながら本を読んでいる。


やがてある駅に着いて岡村が電車を降りる。


あいははっとした顔になって村岡の後を追うように電車を降りる。


○通学路(朝)


学校の校舎が遠くに見える通学路。


街路樹の桜が花を咲かせており、道にひらひらと花びらを落としている。


道にはあいや村岡と同じ制服の生徒が大勢歩いている。


○学校・教室


チャイムの音が響く。


教師「帰りのホームルームはこれで終わりです。今日から一週間部活紹介期間ですので、気になる部活は見に行ってみるといいでしょう」


教師が教室から出て行くと、教室は途端にガヤガヤと騒がしくなる。


あいは部活紹介の冊子で、文芸部のページを見つめる。


田中美紀(16)があいの机までやって来て声をかける。


美紀「あい、なんの部活にするか決めた?」


あい「うん、文芸部とかいいかなって」


美紀「うわ、あからさまな幽霊部員狙い」


あい「そういう訳じゃないけど……」


美紀「いいんじゃない? 何かしらの部活には絶対入らないといけないんだし」


あい「そういう美紀はどこに入るの?」


美紀「私? 私はねー、色々見て回ってイケメンの先輩がいるとこ! 運動部のマネージャーとか良さそうじゃない?」


冗談っぽく美紀は笑う。


あいの脳裏にちらりと電車で本を読んでいた村岡の姿が浮かぶ。


あい「うん、いいと思う」


美紀「えっ、ここはつっこんでよ」


あい「え、つっこんで欲しかったの?」


あいはきょとんとした顔で首を傾げる。


美紀「それじゃ私が色ボケしてるみたいじゃん」


美紀がむくれたように言う。


あい「え―、違うのー?」


あいはからかうように返し、二人は笑い合う。


○文芸部部室


静かな部室にガラガラと部室の戸を開ける音が響く。


あい「あの、こんにちは……」


あいが緊張した様子で教室を覗き込めば、教室にいた金井菫(17)と目が合う。


部室には菫しかいない。


菫はあいと目を合わせるなり目を輝かせて小走りにやってくる。


菫「入部希望の人?」


あい「あ、はい、見学で……」


菫に少し気圧されながらあいは答える。


菫「歓迎するよ! 先輩が卒業しちゃって、部活存続の危機だったの!」


菫はあいの手をとって嬉しそうに語る。


あい「は、はあ……」


薫「私はここの部長で、二年の金井薫! あなたは?」


あい「一年の、中尾あいです」


薫「あいちゃん! もしあいちゃんが入部してくれたらうちの部は廃部を逃れる事ができるの! 最悪幽霊部員でいいから入ってくれない? うちの高校掛け持ちも自由だだし!」


薫はあいの手をとって懇願する。


薫「え、えっと……」


あいは薫の勢いにたじろぐ。


村岡「おい、思いっきり引かれてるじゃないか」


あいが返事に困っていると、すぐ後ろで声がした。


あいが振り向けば、すぐ後ろに村岡が立っている。


薫「樹! これは私達がこの部室を追い出されるかどうかの瀬戸際なんだよ!」


あいの手を握ったまま薫は言う。


村岡「だとして、こっちの都合ばっか言われても困るだろ、えっと、何さんだっけ?」


村岡の問いかけに、あいは少し早口になりながら答える。


あい「中尾です! 中尾あい、一年です!」


村岡「俺は二年の村岡樹、一応副部長やってる」


あい「そ、そうなんですね!」


あいは薫に両手を掴まれたまま、村岡の方を振り向きながら返事をする。


村岡「中尾さんはこいつからうちの活動内容とか聞いた?」


村岡は人当たりのいい笑みを浮かべて薫を指さしながら言う。


あい「い、いえ……」


村岡「それじゃ入部も何もないだろ」


村岡は菫の手を掴んであいから手を放させ、部室に入る。


村岡「部活案内には、うちの活動は月、水、金の週三日ってなってるけど、参加は自由


で、来たければ放課後毎日来てもいいし、逆に全く来なくてもいい」


菫「私と樹は基本毎日来てるよ~自分の書いた小説を読んでもらったり、最近読んだ小説の話したり、本読んだり小説読んだりしてるよ」


村岡の言葉に付け加えるように薫が言う。


村岡は部室にある棚からいくつかの冊子を取り出す。


村岡「年に一度、学園祭でそれぞれが書いた短編小説を載せた冊子を作ってる。普段の活動の参加は無理に来なくてもいいけど、出来ればこの原稿は出してくれると嬉しいな」


村岡がにこりと笑えば、あいははっとした顔になり、慌てて冊子に目を移す。


あい「皆、自分で小説を書いてるんですね」


パラパラと冊子をめくりながらあいが言う。


薫「文芸部だからね~あいちゃんは自分で書いたりしないの?」


不思議そうな顔で薫が尋ねる。


あい「え、えっと、書いた事は無いんですけど、最近興味が出てきてっ」


部誌を閉じて机におき、慌てた様子であいは言う。


薫「そっか! 放課後に書いた小説を持ってきてくれたら、いつでも私達が読んで感想を言うよ」


あい「で、でも私書き方とかわからなくて」


薫「大丈夫! わからない事は聞いてくれたら教えるし、他の人の書いた小説読むだけでもいいし!」


あい「そ、それなら……」


薫の言葉に、あいは少しホッとした顔になり、ちらりと村岡を見る。


村岡「良かったら、去年うちが作った冊子読む? 入部するかはその後でもいいし」


村岡は言いながら去年の分の部誌をあいに差し出す。


あい「ありがとうございます、それと、入部します」


部誌を受け取りながらあいが言えば、菫が嬉しそうにあいに抱きつく。


菫「こちらこそありがとう、大歓迎だよ!」


村岡は嬉しそうにな薫を見て優しく微笑む。


あいはその村岡の顔を見て、何かに気づいたような顔になる。


○電車(夕)


席は全て埋まっているが立っている人間はそんなに多くない車内。


あいと薫は扉近くの手すりにつかまり、村岡は薫の隣でつり革につかまっている。


薫「それにしても、あいちゃんが同じ路線だったなんて嬉しいな~」


上機嫌に薫は言う。


あい「先輩達は家近いんですか?」


菫「家が近所で幼稚園からの腐れ縁だよ~」


ニコニコと薫は答える。


あい「へ~、そうなんですね、ちなみに二人は付き合ってるんですか?」


あいが尋ねると、薫を挟んで奥にいる村岡の肩が微かに跳ねる。


薫「え~、ないない、樹は兄弟みたいな感じだし」


笑いながら薫は答える。


あいの方を見ている薫は村岡の様子には全く気づいていない。


あい「なるほど、把握しました」


あいがにこりと笑えば、薫は不思議そうに首を傾げ、樹はバツが悪そうに顔を逸らす。


手すりを掴むあいの手に力がこもる。

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