【全年齢版】幽霊コンビニ
人 物
中沼暁(28)雇われ店長
鈴木雄一(32)エリアマネージャー
山田浩(30)引き継ぎ先の雇われ店長
女幽霊
店員
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○住宅街にあるコンビニ・外観
アパートの一階にあるコンビニ。
看板には8Martと書かれている。
老人や主婦らしき人がちらほらとコンビニに入っていく。
○同・事務所
鈴木雄一(32)がノックをして事務所に入れば、事務所の机でパソコンと向き合いながら仕事していた中沼暁(28)が椅子ごと振り返る。
鈴木「お疲れ様です、先月の区内各店舗の売り上げランキング出ましたよ」
中沼「おっ、今月はかなりいってるんじゃないですか?」
鈴木の言葉に、中沼は自身ありげにニヤニヤしながら言う。
鈴木は笑顔でカバンから書類を取り出す。
鈴木「二十七軒中、フライヤー売り上げ一位、おでん売り上げは三位! 店全体の売り上げでも堂々の二位! 二年目の店長でこれはすごいですよ!」
大袈裟な様子で鈴木は言う。
中沼「まあ、先月は隣の神社でお祭りがありましたからね~」
得意気に中沼は答える。
鈴木「いや~、イベントの無い先月も店舗売り上げは五位だったんですから、十分な成果ですよ!」
中沼「……鈴木さん、今日は妙に持ち上げますね、本題はなんですか」
警戒したように中沼は言う。
鈴木は急に動きを止めると、わざとらしくにっこりと笑って姿勢を正す。
鈴木「中沼さん、確かな成果をあげているあなたに本社から辞令が降りました」
中沼「な、なんでしょう?」
鈴木「他の店への転属です。オープンした初期からこの店を人気店へと押し上げた、中沼さんの店長としての技量に期待しての事です」
鈴木はニコニコしながら言葉を続ける。
中沼「採用された時から二、三年で他の店に移動になるのは聞いてましたし、それはいいんですが……」
中沼は不審そうに鈴木を見る。
中沼「どこの店に移動になるかは、もう決まってるんですか?」
中沼が尋ねれば、鈴木は先程取り出した区内の各店舗総合売り上げランキングの紙を見せる。
鈴木は二位に当たる現在中沼が働いている店を指差し、そのまま指を下に下す。
鈴木の指は、売り上げが最下位の店で止まる。
鈴木「駅から徒歩五分のビジネス街、立地 は悪くないはずなんです……」
鈴木の顔から笑顔が消えて、真剣な顔になる。
中沼「立地は悪く無いって、じゃあこの赤字は何が原因だと思うんですか?」
鈴木「その、出るらしいです。それで店員も店長もすぐ辞めたがるし、客も居付かないとか……」
言い辛そうに鈴木が言う。
中沼「またまた、俺がオカルト好きだからってそんな事言って」
中沼は笑い飛ばそうとするが、鈴木はじっと中沼の顔を見つめる。
中沼「え、本気で言ってます……?」
鈴木の言葉に中沼はにわかにそわそわしだす。
鈴木「僕も見た事はないんですが、毎回店の人から話だけはずっと聞いてるんですよ」
神妙な面持ちで鈴木は言う。
中沼「へ、へえー……ちなみに、移動はいつからなんです?」
中沼は平静を装いつつもワクワクした様子で尋ねる。
○タイトル『一ヶ月後』
○ビジネス街のコンビニ・事務所
鈴木「彼が新たにこの店の店長をしてもらう中沼さんです」
中沼「初めまして、中沼です」
鈴木に紹介された中沼が頭を下げる。
山田「初めまして山田です。いやあ、良かった! これでやっと解放される!」
山田は頭を下げて挨拶するなり、心底嬉しそうに言う。
中沼「……ところで、他のアルバイトの方は?」
中沼は事務所にある監視カメラの映像を見るが、事務所以外には店のどこにも人影がない。
山田「ああ、今の時間は私一人です。アルバイトの大半が辞めてしまって今は私を入れて四人で回しています」
中沼「四人って、まさか全時間帯ワンオペで回してるんですか!?」
たちまち中沼の顔が青ざめる。
山田「業務的には問題ありません。深夜帯は店を閉めますし、客はほとんど来ません。それに……」
中沼「それに?」
山田「これは直接見てもらった方が早いでしょう」
そう言って山田は事務所の扉を開けて歩き出し、中沼と鈴木はその後を追う。
○同・店内
店内の時計は十二時五分を指している。
広めの店内にはほとんど人の姿がない。
店に入っても入店音しか聞こえない。
コンビニの店内放送だけが聞こえる。
雑誌コーナーを見れば、隙間無く綺麗にディスプレイされている。
振り向いて日用品の棚を見れば、ホコリひとつなく綺麗に陳列されている。
中沼は不思議そうに首を傾げる。
○同・トイレ
山田が扉を開けて中を中沼達に見せる。中は掃除が行き届いていて、清潔感も溢れている。
○同・店内
中沼は隙間無くお菓子の棚、綺麗に陳列されたアイスケースやお弁当コーナー、品数の充実した飲み物コーナー、を見て周る。
山田「店内の清掃や品出しや前出しも、気がついたら勝手にされているんですよ」
中沼「まさか、噂の幽霊ですか?」
山田「そうとしか考えられません。ただ……」
中沼「ただ?」
山田「時折、新しく作った売り場が壊されたり、場所を変えた品物が元の場所に戻っていたり、店内に奇声が響き渡たります」
ぶるぶると震えた様子で山田が言う。
山田「アルバイトの人も気味悪がって辞めちゃって、しかも残った三人も今月いっぱいで全員辞める事になりました」
中沼「あの、お祓いとかは?」
鈴木「僕も相談受けて本部に相談したんですが、経費では落とせないのでやるなら自腹でやれと言われまして」
鈴木が申し訳なさそうに言う。
中沼「なるほど」
頷く中沼の後ろには、髪を振乱して目を血走らせた裸足の女幽霊が立っている。
中沼はくるりと女幽霊の方を振り返る。
中沼「という訳で来月から二人になるかもだけど、頑張っていこう」
女幽霊は驚いたように肩を揺らす。
鈴木「え、急にどうしたんですか?」
山田「ひえっ、例の女がそこに!」
不思議そうに鈴木は首を傾げるが、山田は驚いてしりもちをつく。
中沼「とりあえず、知り合いのオカルト好きには声かけてみます。幽霊と同僚になれる機会なんて滅多にないですし」
中沼はスマホをいじりながら言う。
中沼「あ、君言葉しゃべれる? 名前は?」
中沼の言葉に女幽霊は驚いたように後ずさる。
中沼「話せないなら筆記具もあるよ」
女幽霊が一歩下がるごとに一歩距離を詰めながら中沼はボールペンとメモ帳を差し出す。
中沼「掃除とか品出しとかしてるんだから物には触れるよね? 本物の幽霊と一緒に働けるなんて、感動だなあ!」
女幽霊を壁に追いやりながら、中沼は目を輝かせながら言う。
女幽霊「キアアアアアアアァァオォォォァァァァ!!!!」
直後、店内に女の悲鳴が響き渡り、中沼は突き飛ばされる。
鈴木「中沼さん、大丈夫ですか!?」
驚いたように鈴木は駆け寄る。
中沼「すごい、今の声聞えましたか?」
鈴木「ええ、まあ……」
中沼「彼女は物に触れられるだけでなく、人に話しかける事もできます! 彼女は店員としても十分戦力になりますよ!」
中沼は興奮した様子で話す。




