3
彰さんは三十秒ほどの溜め息をついた。
長い。
「ねえ君、え~っと、名前は……」
「建です。綾小路建」
「そうそう、綾小路君。今西暦何年か教えてくれるかな?」
「はい、二〇一八年です」
彰さんはまた長い溜め息をついた。
「来る年を間違えました」
「そんなことだろうと思いました」
数秒後、唐突に僕の携帯のアラームが鳴った。もう、十時らしい。
学校へ行かなくては。
「あの、すみません」
「何?」
「学校へ行かないと」
こっちに気を取られていて準備すらしていないから、本当に早くしないといけない。
いや、本当なら、前日に準備しておけよって話だが、あいにく僕はそんなに用意周到ではない。
「ああ、そう。大学?」
「はい、そうです」
「俺も行く」
「はぁ?!」
突拍子もないことに思わず声を荒げてしまった。
「だって君、小学校の近くの坂上ったとこの大学でしょ。俺の居る時代とじゃ名前違うみたいだけど」
僕はじんわりとした恐怖感を覚えた。
「なんで、知って……」
「リサーチ済み、というよりか、君の通ってるところ、僕の母校だったからさ」
「そ、そうなんですか」
まあ、冷静考えれば、当然、僕の経歴については調べられているはずだ。
「うん、だから一緒に行こうぜ」
なんでだよ。
「嫌ですよ」
だって、このおじさんと並んだら、目立ちそうだ。
万年モブの僕が目立つなんてまっぴら御免だ。
「わーあからさまに嫌そうな顔してるー」
「嫌ですからね、絶対嫌ですからね」
「わーったよ。一緒には行かねえよ」
「言いましたよ。じゃあ、行ってきます」
と僕は荷物を背負い、玄関のドアノブに手を掛ける。
「いいですか、絶対に来ないでくださいよ」と強く三回言った。
彰さんは三回目「早く行け!」と言った。
ドアを最後まで閉める直前、彰さんがニヤリと笑った気がしたが、気のせいだと思いたい。
家を出て、二階から一階への階段を降りる途中、今日は普通ゴミの日だということを思い出した。
ゴミを昨日のうちにまとめていたが、それほど多くもなかったし今から戻っていると、最悪遅刻しかねないので、諦めた。今週末にもういっかい普通ゴミの日があるのでそこで捨てることにする。
道に出ると後ろから微かにゴミ収集車の声が聞こえた。
僕の住んでいるアパート周辺のゴミを回収しているんだろう。どっちにしろ手遅れだったか。
大学に着いた。大学に到着するまでに、なかなかキツい坂がある。よって疲れた。
入学者殺しの坂だかなんだか、そんなことを言っている人が居たような気がする。
関係ないか。ともかく、取っている授業に間に合いそうで何よりだ。