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朝、ダンボールに入った大きめの荷物が宅急便で届いた。
僕はネットショッピングをよく利用するが、最近は何も頼んだ覚えは無いし、母親からの仕送りというものもない。つまり不自然。なんだこれは。
友達からのイタズラ、というのも考えられなくは無いが、あいにく僕にはそんなイタズラを仕掛けてくる友達など居ない。
友達が居ないという意味ではない。まあ、少ないのだが。
どこか何か間違えているのではと、確認してみると、しっかり、ちょっと珍しい名字とありきたりな名前、綾小路健と書かれていた。綾小路なんてアニメやラノベの世界でも無い限りそうそう無いと思うし実際会ったことがない。当然、近所にも居ない。
よってこれは僕の荷物であるのだろう。多分。
ちなみに、差し出し人の住所の欄には、東京都とあった。その次に書かれている地名は、僕の記憶には無い名前だった。
一応、東京の地名は一通り覚えてはいるのだが、全く見当がつかない。存在していない地名、だろうか。僕が間違っているという可能性もあるので、念入りに検索してみたが、やはり存在していなかった。
名前の欄には秋山彰とあった。学校でおちゃらけたやつにいじられそうだが、普通にありそうな名前だ。
正直、奇妙である。送り返してやりたい。犯罪に関わっていたり、危険物だったらどうするんだ。
しかし、この中身を見てみたいという好奇心もある。
開けたい、だが怖い。どうするか。誰かに言ってみるか。
そう考えているうちに、中から「ふぁぁ~」と、人間の欠伸のようなものが聞こえた。言葉にならない悲鳴を上げる他なかった。
このアパートに住んでいる人全員に聞こえてしまうような、自分でも信じられないぐらい大きな声がでた。
箱の中から「おっ」と声が聞こえた。
「あ、おい、そこに居るのかあんた! 箱、この箱を開けてくれ! 首痛ぇんだ!」
この言葉で中に入っているのは人間であると推測出来た。いや、人語を理解し話す何かかもしれないがとりあえず人間と仮定する。
というか普通に考えて人間だろう。
まあいい、人(仮)だ。
ダンボールの中に居る人(仮)が暴れているため、ドンドンガタガタとダンボール自身が勝手に動いているようにも見える。素直に怖くて鳥肌がたった。ホラー映画のようなものが現実に起こったらこんな感じなのだろうか。
とりあえず、このままガタガタ騒がれるのも迷惑だし、流石に開けないと可哀想なので開けることにする。その前に中に入っている人(仮)が人であることを恐る恐る確認する。
「あ、開ける前にひとついいですか?」
「ああ、いいが、早くしてくれ、首が痛いんだ」
さっきも首が痛いと言っていたような気がする。
「あなたは人間、ですか?」
「何を言っている、当たり前じゃないか」
即答だった。なんとなく、意外である。
身構えて損をした。
いや、でも、犯罪者である可能性は捨てきれない。
「もうわかったから早く開けてくれ……首、首が……」
悪い人では無さそうだ。疑ってしまって申し訳ない。
それより、この人本当になんで箱の中なんかに入ったんだ……。
「今開けるんで、ちょっと待ってください」
そう言って僕はダンボールに貼ってあったガムテープをはがした。