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勇者を辞めました

緊張でドキドキしますが、皆様のご意見ご感想、お待ちしております。






 強靭な肉体と膨大な魔力をその身に秘めた北の極地に住まう魔人族、そんな彼らを統べる魔王と呼ばれる強大な存在が他種族に侵攻を開始して千年が経過していた。

 天界からの使者である天使を筆頭に、人間族、エルフ族、ドワーフ族、獣人族、人魚族といった様々な種族が手を取り合い対抗するが、圧倒的な軍事力を持つ魔王軍が相手では消耗戦は必至。徐々に追いやられていく人々を前に、天界の長であるアドナイがとった苦肉の策、高位次元から魔王を倒しうる可能性を持つ者を呼び寄せる召喚術、《勇者招来》。この秘術によって地球と呼ばれる地から招かれた勇者は4人、それぞれの旅路に出た全員が後の伝説に名を刻む者たちである。


 1人目はユウハラ・カズキ。

 絶大な光の魔力とカリスマで多くの人々を導いた、最も魔王討伐に意欲的だった剣の勇者。


 2人目はクドウ・ユウト

 魔族形無しと言われる闇の魔力と勇者の中でも最も狡猾とされる、搦手をもってして魔族を制そうとした幻術の勇者。


 3人目はキタミ・カナメ

 前者2人のような力はなくとも、高位次元の兵器を再現し、技術革新の火種となった錬成の勇者。


 そして4人目。

 その名を語ることは、人の後世では憚られている。




   ******




 服部(はっとり)アキラが高校2年生の時にライトノベルよろしく異世界に勇者として召喚されてから1年。彼は本気でマジギレした。

 

 それもこれも、アキラと一緒に異世界に召喚された3人……ファンクラブが出来るほどの美形であり、幼馴染から新任担任まで数多くの美女を無自覚で誑し込む鈍感朴念仁の勇原一輝(ゆうはらかずき)と、特に関わりはないが教室の隅で大人しくしていた工藤優人(くどうゆうと)、コアなオタクという以外は平々凡々といった北見枢(きたみかなめ)が原因といっても過言ではない。


 召喚された直後、突然異世界から了承も無しに連れ出してきておいて「魔王を倒してくれ!」などと好き勝手に言ってきた王族や教会の上役にアキラは腹を立てて文句の一つでも言ってやろうかと思ったら、魔人族が如何に凶悪で他種族がどれほどの被害を受けているかを聞かされた一輝が無駄に正義感を燃やして流れるように快諾、その場に居合わせた王女や巫女に「安心して、俺が必ず世界を救って見せるから」と頭を撫でたり、爽やかな笑顔で2人を口説き落とした。


 あまりにも呆気なく頬を染めながら一輝を意識し始めた王女や巫女を見て「奴はニコポとナデポを完備しているというの!?」と戦々恐々しつつ、他の二人に目を向けてみると、優人はなんかニヤニヤと不気味な笑みを浮かべるばかりで、思わず話しかけるのを躊躇ってしまった。枢に至っては「これテンプレじゃん!? どうにかして生き残らなきゃ」と、ブツブツ呟いていてこっちの話に耳を傾ける様子もない。状況に待ったを掛けようにも、もう自分では止められないと悟った瞬間である。


 まるで協調性が見られない3人に不安を覚えながら、右も左も分からない異世界で生きていくにはとりあえず周りに従うしかないと判断したアキラは騎士団が主体となる魔王討伐の為の訓練に真面目に取り組むことに。

 当初は高位次元である地球で生まれ育った為に身に宿した魔力の量とかチート能力が原因で他の騎士に妬まれ、訓練という名目でイビられていたが、力を身に付けて全員をボコボコにしてやったりしながら何とかやっていけた。


 ちなみにこの間、他の3人はというと――――


「勇者様、今度の舞踏会わたくしと踊ってくださいませんか?」

「ずるいです姫様! 私だって勇者様と……」

「まぁまぁ。別に1人としか踊っちゃいけないってわけじゃないんだろ? 皆順番に踊ってあげるからさ」


 絶大な光の魔力と剣のチート能力に目覚めた勇者の王道を直進する一輝は訓練の片手間に王女や巫女だけに飽き足らず、令嬢やメイドまで無自覚に誑し込んであっという間にハーレムを形成。真面目に訓練している最中に隣でイチャイチャ空間を展開されて何度もイラッときた。しかも「イチャつくなら余所でやれっ!」と割と正当な理由で怒鳴ると女性陣から一斉に睨まれるし。


「ククク……フヒヒヒ……じゃあ言う通りにしろよ……?」

「くっ……! なんて卑劣な奴……! それでも勇者か!?」

「おいおい、そんな口を利いてもいいのか? 言う通りにしないと……」

「わ、分かっている! だから他の騎士には……!」


 優人は陰で嫌悪感を隠さない不特定多数の女騎士の肩に手を置いてニタニタと厭らしい笑みを浮かべていた。訓練にも特に参加する様子も無く、その事を誰も疑問に思わないことを不思議に思いながら、訓練に参加した方が良いんじゃないかとやんわり言ってみると、えらく濁った眼で睨まれ、何も言わずに立ち去ってしまう。


「どうしよう……! 他の3人はチートなのに僕だけチートが無いとか、ますます序盤は弱い系の主人公の典型じゃないか……!」

「おい、北見。大丈夫か? 顔色が悪いけど」

「え? あ、服部君? あ、あはははは、大丈夫大丈夫! じゃあ、僕は図書館で勉強があるから」


 それぞれ何らかのチート能力を持つアキラ、一輝、優人と違い、一人だけ平均的な能力しか持たなかった枢は毎日のように図書館に籠って勉強。3人の中では一番真面に思えたのでアキラも積極的に話しかけていたのだが、どうにも人見知りが激しいのか、曖昧な笑みを浮かべて逃げていった。

 

 こうしてそれぞれの日々を過ごしながら旅立ちの日を迎え、アキラは一人召喚された国を出る。一輝や優人が見目麗しい女性を何人も侍らせて旅立った時、眼からしょっぱい水が零れ落ちたが、アキラは必死に上を向いて鼻水を啜りながら歩くしかできなかった。


 そこからが、アキラがこれまで生きてきて最も過酷な日々だった。

 魔王軍は世界各地の至る所に侵略しており、その撃退や並の冒険者では手に負えない魔物の討伐などを行いながら魔王討伐を目指すのが勇者の役目。正直に言って、騎士や王族の監視が外れたので自由に生きても良かったのだが、勇者の名前が顔と共に世界中に知れ渡っており、行く先々で必死の形相で助けを請われれば断り切れないし、魔人族にも顔が知られていて戦う気は無くても命を狙われる。

 結局召喚した側の思惑通りに動いてしまうことに釈然としない気持になるが、文句を言ったところで現状が変わる訳でもないので、さっさと魔王を倒して自由になろうという気概で戦い続けた。単独で百から千単位の魔王軍を撃退したり、四天王とか言う最高幹部と激戦を繰り広げたり。おかげで魔王軍でも要注意人物として扱われる羽目になったが、どうせ後々直面する壁なので問題視しなかった。


 むしろ問題なのは他でもない、他の3人の勇者である。


 街中で演説したり、戦闘でも無駄にキラキラと光りながら戦う一輝はとにかく目立つ。人の為を思って行動に出るのは大いに結構なのだが、無駄に目立って魔王軍を呼び寄せたり、自分で壊した街や畑の後始末もせずに「やる事はやった」と言わんばかりに去っていくのはどうなのかと問い質したい。

 しかも勇者の周りに侍っている女性陣は権力者の関係者が多く、被害を受けた人々は文句も言えず。その尻拭いをするのは、何故か毎度毎度そんな場面に遭遇するアキラの役目。泣きながら権力には逆らえないと崩れ落ちる人々を放っては置けず、たった1人で魔王軍相手に防衛戦を繰り広げたり、その合間にチート能力を以てして街の復興作業を進める。ちなみにアキラがソロ冒険なのに対し、一輝に会う度に美少女がハーレムに加わっていた。死ねばいいのに。


 次に優人。これはアキラが力をつけて分かったことだが、優人の力は幻術や催眠といった人の認識に干渉するものらしく、彼は行く先々で美女や美少女を催眠し、魔王軍そっちのけで酒池肉林の乱交パーティー。優しい人と書いて優人など名前負けしているにも程がある下種さだ。

 しかも質の悪いことに、優人は「NTRサイコー!」とか言いながら夫や恋人の居る女性を何人も催眠を掛けて寝取っていた。勇者の所業を止める手段は一般人にはなく、何故か毎度毎度そんな場面に居合わせるアキラがその尻拭いをする羽目に。

 たった一人で魔王軍相手に勇者無双しながら催眠の解除と対策、更には優人が100パーセント悪いとはいえ男性を裏切ってしまった女性のケアや仲の取り持ったり。しかも逆恨みした優人に殺意を宿した眼で睨まれたり。そのおかげでアキラの胃はストレスで悲鳴を上げる羽目になった。ちなみにアキラが安定のソロ冒険なのに対し、優人は会う度に侍らせている美少女が増えていく。爆ぜればいいのに。 


 最後に枢だが、一体何が起きたのか奴は弾け(グレ)た。

 気弱で人見知りな性格から傍若無人で鬼畜な男に大変身。しかも厄介なことに凡百なスキルである錬成を用いて銃やミサイル、レーザー砲といった現代兵器にSF兵器を製作し、所かまわず暴れまわっていた。他の勇者2人と比べても圧倒的な力を身に付けた彼は異世界の事など気にも留めず、地球へ戻る事を目的としている。それについてはアキラから言うことは無い。望郷の念はアキラも身に染みて分かっているので、地球に帰ることを第一目標にするのは一向に構わない。

 だがちょっと酔って絡んできた相手を再起不能にしたり、衛星兵器で地形を変えて生態系を狂わせたり、多勢を森ごと焼き尽くしたりと、どんな理由があったとしても明らかにやり過ぎだ。

 そんな彼の尻拭いをするのはまたしてもアキラ。その上、いい加減ストレスで胃に穴が開きそうな彼は相変わらずソロ冒険なのに対し、明らかにモテなさそうな純朴なオタク少年だった枢の周りには吸血鬼やエルフ、亜人といった美少女ハーレムが形成されていた。爆死すればいいのに。


 本来の役目に加えて勇者3人分の大掛かりな尻拭いまでしているアキラのストレスは爆発寸前。こんな事が何度も何度も何度も続けざまに起き続け、最早無心で魔王討伐を急いで勇者の立場を降りようとしていたが、そこに止めを刺すような事件が起きた。


 遥か昔に封印されたという古代竜の封印を枢がミサイルで爆破、一輝が立ち向かって余計に怒らせ、優人が効きもしない催眠で火に油を注いだおかげで怒り狂う古代竜が召喚国に直進。その被害を食い止めようと3人の勇者が応戦するも、催眠どころか光の魔力も現代兵器も通用しない怪物を相手になす術も無く倒される。

 

 結局、勇者の尻拭いという激戦を繰り返して最強クラスの力を手にしたアキラが古代竜と応戦。7日間にわたる死闘の末、遂に古代竜を打倒したアキラはとりあえず国に報告しようと王宮に向かうと、勇者パーティ3組と大勢の衛兵に囲まれた。困惑しながらも状況の説明を求めると、国王はさも自分が正しいと言わんばかりに自信満々の表情で高らかに告げた。


「アキラ・ハットリ!! 貴様は勇者の身でありながら各地で様々な問題行動を引き起こした挙句、古代竜の封印を解き、世界の破滅を目論んだ! その罪は万死に値する!!」


 簡単に言えば、勇者3人は自分たちの不祥事を全てアキラに被せたのだ。

 アキラは初めは茫然とし、だんだんの自身の胸の内からどす黒い焔が広がる光景を幻視した。確かに動機は高潔とは言い難かった。魔王討伐を尽力的に取り組んだのは自分の為だったし、人々を救ったのは断り切れずに流された結果だ。だが仮にも異世界の人類のために戦ったにも拘らずこの塩対応ならぬハバネロ対応。プツンと、糸が切れるような音が頭の中で聞こえた瞬間、アキラはマジギレした。


「ふんぬぁあっ!!」

「ごっ!!?」

「がっ!!?」

「ぶっ!!?」


 目にも止まらぬ神速で勇者3人の後頭部を花瓶(水と切り花入り)で強打。バリーンとけたたましい音を立てて破片と花と水でデコレートされながら床に突っ伏す同郷の怨敵たち。布を引き裂くような悲鳴と殺気の籠った制止が王宮に木霊した。


「やってられるかボケェェェーーーーーーー!!」


 真偽はどうあれ、世界を騒がせ勇者に仇を成した。もはや人間の国には居られなくなったが、この時のアキラは既に立場など頭にない。床に倒れてピクピクと痙攣する勇者たちを踏み躙りながら窓を突き破り、ただ全力で北へ北へと走り去っていった。





  

まずは短編で様子見をしたかったのですが、そういうのって嫌われたりするんですかね?

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