あるオッサンの決意
内容はともかくとして、書き続ける内に少しずつ文字数が伸びるようになってきました。自分の成長を感じられるようで嬉しいです…内容はともかくとして。
「ぶちょー」
今日も今日とて、織谷の呼び掛けに敬意が宿る気配はない。わし、しがない中間管理職ながら、君の上司だからね…一応。
己の中の呟きに一人突っ込みながら、まぁコイツに尊敬されるような仕事ぶりでもないしなーとの心中を視線に滲ませつつ応えを返す。
「んー?」
別に不機嫌な訳ではない。件の「ソロだから大丈夫」発言を考え無しにバラまいた織谷のお陰で、お目付け役の俺までセットで年末年始の現場にぶちこまれたことを恨んでなんて…ない。
そんな訳で、いつものようにすっかり遅くなってしまった帰社途中、ちょっとおいしいベーカリーレストランで買ったサンドイッチをパクつきながら、俺達は残り30分ほどの隙間を埋める話題を探し、思い付くままに郷里の雑煮や帰省時のご馳走なんかの話をしていた訳だ。
「ぶちょーさんは自炊とかします?」
倍近い年齢のオッサン相手に絞り出してきた話題としては、まぁ悪くない…60点。
「ばっか、お前。独り暮らし何年目だと思ってんだよ」
実際俺は、そこそこ自炊する方ではあるだろう。市販のDoの素とか使わずに麻婆豆腐だって作るし、唐揚げだって揚げちゃう。ぬか漬けだって漬けるし、何なら蕎麦だって打っちゃう典型的な独り暮らし拗らせオジさんだ。
「から揚げ? から揚げッスか? から揚げはヤバイっすよ」
相変わらず食い物に対する語彙の乏しいやつだが言わんとするところは伝わった。織谷は唐揚げが好き。
まぁ若者らしい好みを微笑ましく思いながらもアラフォーオッサンが入社一年目に手料理を違和感無く差し入れるシュチュエーションを脳内で模索してみて…いやまぁ無理だったわ…何を模索してるんだ俺は。
自販機で買った微妙にぬるいココアで口のなかを甘くしながら先を促す。
「織谷はどうなのよ?」
「俺ですか?」
ミラーを確認してハンドルを左に切る。弊社まで残り15分ってとこか…互いの日常に踏み込んだ会話で気まずくなっても、適度に切り上げられる頃合いだ。
信号で停まって助手席に目をやると、偶然目があった残念イケメンが、へにゃらっと力の抜ける笑みを返す。
洗いざらし感のある厚手ワイシャツに無理やりノリを効かせたような若い着こなしは見慣れたものだ。珍しく上着を脱いで後部座席に放ってあるのは、スーツの座りしわを気にしていた織谷に「暖房強めたるから上着脱いじゃえよ」と俺が勧めてやったからだった。ネクタイをきっちり締めた様子はいつも通り。
こいつ、本当スーツ似合うなぁ。つられて俺も、にへらぁと笑うと「キモいですよ」とさりげに傷付く物言いで貶められてへこむ。 おまえ、その物言い絶対に俺以外の上役にすんなよ!と念を押しておく。俺まで怒られかねん。
俺は…まぁ距離が近づいたとでも思っておこう。若干落ち込まないでもないが。しかし、今年の自販機は何故コーヒーばかりなんだ。スーパーのホットケースも自販機のホットもコーヒーばかり種類を揃えて後はお茶と柚子レモンくらい? あれだけ人気のミルクティーホットがコンビニにしか無いのは、どう考えてもコンビニの圧力だわな。
閑話休題。
どーでもよい思考に支配されていたのは一瞬だけだったっぽい。 えーと脳内で一人呟いてたのも閑話って言って良いんだろうか? どうでもいいか。
「こないだ大学ん時のやつらと集まって飲んだんっスよ…」
「ふふん?」
「野菜炒め作ったって言ったら、全員でおぉ~って」
「…まじで?」
「マジッす…そんくらいのレベルです」
お、おぉ? 社会人になって一年が過ぎようとしてるのに野菜炒めで歓声があがるレベル?
「…はい」
ごめん、ちょっと不憫すぎるんだけど普段、飯どーしてんのよ?
「学生ん時は、昼に学食で食い溜めっスね」
「今は?」
「主にカップ麺とか」
「マジか?」
「週一くらいで野菜炒めとか作りますよ」
あー、こいつどうしてくれよう。どうやったらこの欠食児を家に呼べるのか…8bitくらいの脳をフル回転させたが、どうしたって俺がオッサンってのがな。
いかに誘おうがキモいかあやしい。こりゃ、どーにか料理覚えさせんとなぁ。心の奥底で決意しつつ、俺は駐車場に車を止めた。
「でもまぁ週3くらい残業で、ぶちょーに食べさせて貰ってますから!」
と、上着を引っ付かみつつ、またあの力の抜ける笑みを浮かべて車外に出て行く織谷。キンキンに冷えた空気と町中なのに街灯の少ない準工地域の澄んだ星空を見上げて俺は決意した。
もっと野菜食わせねば。
って、かーちゃんか俺は。
お読みいただき、本当にありがとうございます。
コメントや感想を頂きました。こんなに嬉しいものだったとは…スクショ、スクショせねば!! 本当に本当に感激です。 文章を書いてて一番思うことは
「か、顔文字使いたい!!」です( ̄▽ ̄;)