怪しい人
「……多分、裏庭についたら先生が待ってたとか、そういうパターンだ。喜んでる場合じゃなかった」
絶対こんなのありえない。と、ぶつぶつ言いながらも裏庭へと歩を進めていく。
「……誰もいねぇ……まだ後処理とかに追われてんのかな?」
はぁ。とため息をつきながらベンチに腰掛ける。
ぼうっと空を見上げながら、カルトは独り言をやめ、考えるのをやめた。
「どうした少年。目が死んでるぞ」
いきなり耳元で声がして、飛び上がる。
「かなりいい反応だな。これなら選んだかいがある」
ベンチの背もたれに肘を置いて、頬杖を突きながら、まるで値踏みでもするかのようにカルトを見ている。
「……あの、あなたがこの……えっと、名無しの人ですか?」
「名無しの人。その通りだよ。君を弟子に迎え入れようとしている、名無しの魔法使いさ」
その女の人は、手には手袋をしていて、全身黒で統一したファッション。ピッタリと肌に張り付くような服なのか、少々目のやり場に困るような服装だ。見た目から連想するのは……。
「……格闘家ではなくてですか?」
でなきゃスパイだ。と少し心の中で笑う。
「ああ。服装か。すまないね。仕事の空き時間なんだ。たまたまこんな格好なだけだよ」
「そんな恰好で魔法使いの仕事ですか……」
カルトは半ばため息会話していた。やっぱり手の込んだいたずらだったかと。
魔法使いの弟子の募集において、稀にあるのが、魔法使いになったばかりの人間が面白半分で弟子を取ろうとする行為だ。そういうことを含めての、弟子側にある拒否権なのだ。
ただ、上げて落とすような、僕にとってものすごく悪質ないたずらが癪に障ったので、少し聞いてやることにした。
「魔法使いとしてはどのぐらいなんですか?」
「『どのぐらい』か。私は例外でもるからな。ライセンスを持ったという意味での魔法使いならば、ここ2年ぐらいの話だな」
2年。少し早いとはいえ、割とまともな年数であったことに少し驚く。
「なんで名前を書かなかった。というよりも、ほとんど書いてませんでしたねこの用紙に。その理由を教えてください」
「さっきも言ったように、私は例外だ。しかも、例外も例外。名前なんて書こうものなら世間が騒ぐ」
たったの二問で頭を抱えた。世間が騒ぐ。何様なんだこいつは。
「ん? どうした少年」
イライラとしていると、その様子に気づいたようで、訪ねてくる。
「単刀直入に言います。まだあなたが魔法使いだってことすら確信が持てません。何者なんですか」
「ああ。疑っていたのか。最初から証拠を見せろと言えばいいものを」
そういうと、ベンチから数歩離れて手を左右に広げて見せた。
「じゃあ、瞬間武装。空間魔法を主にする魔法使いがよくやる奴を見せてやる」
パチン。と、右手を鳴らした瞬間、まばゆい光が彼女を包み、そして四散した。
「これでいいか」
そうすると、彼女の服装が一瞬にして、パーカーにジーパンと、一般人スタイルに変わっていた。
「……ライセンスは? みしてください」
「それで納得するならみせてやろう」
一枚のカードを渡される。
写真と同じ。ということは確実に魔法使いだ。
「……疑ってすいませんでした」
「気にすることじゃない。よく疑われる」
まったく気にしてない。と、身振りで大げさに表現して見せた。
「あと、別件なんだが、敬語はいらないな。ひどく堅苦しい」
「なら、この口調で言わしてもらうけど、あんた何者? 名前も見たことない名前だったんだけど。瞬間武装の速度が妙に早かったし」
「何者かは言えない。というよりか、まだ言いたくない。その時が来れば言ってやるさ」
そして、少しずつカルトへと歩み寄る。
「さて少年。生きるとは自由なことだ。わかるね?」
いきなりどうしたのだろう。困惑を隠そうともせず顔に出す。
「弟子の件だよ。蹴るも受けるも君の自由だ。わけのわからない女についていくも、その女からしか募集がかからなかったのに、来年にかけてもう一年頑張ってみるのも君の自由だ」
「……なんで募集が無かったのしってるだよ!」
「何のために今日この場所を選んだと思う?」
「てめぇ……」
「自分が募集かけたんだ。気になるのは仕方ないだろう。で、どうするんだい?」
こいつについていったらやばいだろうな。とか、考えなかったと言ったら、嘘になるし、正直弟子になるのはどうかと思った。けれど。
「留年は嫌なのでお願いします」
「留年ね。まあ理由はともあれ、私の弟子になるということなら歓迎するよ」
苦笑いを浮かべながら、彼女は答えた。
「じゃあ、早速だが行くぞ。仕事の合間なんだ」
「……俺も行くの?」
「弟子なんだから当たり前だろ。いくぞ」
まあ、弟子を連れていくんだし大した仕事ではないのだろう。そう思うことにした。
「そしてだな少年。君の名前を教えてくれ」
「今更かよ」
ここ。なんか書きたい気分に駆られて書いてるだけです。