まだただの塔
木々が生い茂る森の中、三人が、憐れむように、残念がるように一人を見ていた。
地に這いつくばる少年。そして血を大量に流しているが、そんな見た目からは想像できないほどに力強く、前にいる三人を睨み付けていた。
「わるいね。俺はお前を肯定してやりたいし、味方になってやりたい。……けど、権力云々よりも、さすがにやりすぎだ」
手を思い切り握りしめながら、真ん中の男。
「そんな感情的になるもんじゃあない。何よりも、こいつは危険すぎた。その道処分される道だったろう」
憐れんだ目で右の男が続ける。
「まあ、生まれを恨んでくれや。最初から運がなかった。そう思えは少しは楽だろう」
「で、どうするの。国王のとこ連行したら多分拷問の嵐よ。多分、私らも悪趣味なことに付き合わされるかもしれないわよ。ご招待とか言って」
左の女は、少年自体には興味はないと、遠回しに言っているのだろう。
「しかしな……さすがに国王もやりすぎだし、連れてったらそれが加速するだろ。どうしたものか」
真ん中の男は、困った表情を浮かべながら知恵を絞る。
「意見的には引き渡さない方向ってことならば、そこにいい感じの空間があるだろう」
そういって、右の男が数メートル先を指さす。
「……なるほど。あれだけの空間がああれば塔も出現させられるわね。あんたもそれで納得でしょう。みんながこいつを忘れて、こいつが恨むような世界じゃ無くなったら出てこれるよう設定できるしね。というか、それで納得しなさい。こいつ逃がしたら死ぬまで国を潰そうとするわよ」
有無は言わせない。半ば強引に真ん中の男を納得させる。
「じゃあ、魔法陣を描いといてくれ。俺は少しこいつに話をしてる」
「めんどくさい仕事押し付けてんじゃないわよ。あんたも描くの」
「いや、今回は二人で描こう。一応、一番この少年を追うのを一番ためらったのはこいつだ。話したいこともあるだろう」
女を制止して、強引に引きずっていく。
「あーちょっと! ……もう。過程の構成は私の得意な12ね。じゃないと割に合わない。気分的に」
「ありがとう」
一言告げて、少年の前に座り込む真ん中にいた男。
「……彼女のことは残念だった」
瞬間。明らかな敵意と恨みを込めた目に変わった。
「許してやれとは、俺も言えない。けど、お前が許せずとも、理解はできるような時間は、今から俺ら無理やり作るから、ゆっくり考えてくれ」
そういうと、少年を抱え上げた。わずかに抵抗しようと意思は見えるものの、ほんの指先が動く程度のもので、相当に弱っているのだろう。
「丁度描き終わったぞ。真ん中におけ」
一つ、ため息をついてからゆっくりと少年を下す。
「王国の奴らが来る前に終わらせましょう。ばれたら私たちがおもちゃにされるわ」
さっさと位置につきなさい。女が言う。
「さ。はじめよう」
真ん中の男のそれを合図にしたように、三人が同時に目をつぶり、息を吸う。
それより少し遅れて、下に描かれた魔法陣が光を放ち始める。
『三つの柱を用いて世界を分断ス』
一呼吸の乱れもなく、三人が同時に言い放つ。
『眠れ時よ 世界が変わるその時まで』
『これを十二の錠、十二の過程を持って形成ス』
地響き。少しずつ広がっていき、周りの地面が剥がれはじめ、魔法陣の方へと吸い寄せられていく。
やがて集まった地面は高い山を気づき上げていた。
「さってっと。これで終わりかしら」
手の甲で汗をぬぐいながら女は、周りに置いておいた宝石を拾い始めた。
「そんなもの常に持ち歩いてんの?」
「当たり前でしょ。これがなきゃ魔法の精度落ちるし。それに、いま役に立ったんだから言われる筋合いはない。ほらあんたの分」
女が放り投げた四つの宝石を男は受け取った。
「そうだな。文句はいうものじゃあない。そして少し急ごうお二人さん。予定の時間は少し過ぎているだろう」
ハイハイ。といって、その三人は来た道を引き返し、森を抜けていった。
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