はじめまして、十年ぶり
「今大変だと思う事でも、大人になったら楽しかったと思えるようになる」
中学の頃に担任からそう言われた事がある。
当時は何のことかわからなかったが、今にしてみればよく分かる気がする。
その時は楽しいなんてとても思えなかったが、少なくとも十年前は今にして思えば十分幸せだった。その後の人生から比べたら不幸度が低いと言ったら分かりやすいかもしれない。
その頃はまだ俺を連れて離婚した母親が男に狂って家に帰らなくなるようなこともなければ、祖父母亡き後実家を相続した父親が胡散臭い儲け話を信じた挙句、その実家の土地屋敷を騙し取られて蒸発することもなかった。
そして、今は他人の物となったその懐かしき我が家に盗みに入ることも無かった。
四月上旬にしては寒い風が吹き、傾いた夕陽に気持ちばかりの暖かさを感じながら、俺はど田舎の田畑に囲まれたかつての我が家に、かつて見つけた垣根の穴から入り込んだ。
敷地に入り込んだ時誰かに見られているような気がしたが、そんな筈はない。
かつて祖父と一緒に麦茶を飲んだ縁側は雨戸が閉じられており、玄関もしっかりと施錠されて擦りガラスの向こうにも人の気配はない。
もうここには俺の知っている者は誰もいない。
子供の頃、俺の唯一の拠り所であった祖父母もいなければ、大言壮語だけで家庭を顧みなかった揚句、つまらない詐欺にかかった父親も、その父親からこんな田舎の古いだけの家と土地を何に使うつもりか知らないが騙し取った悪徳業者も今はいない。
――感傷に浸っている場合ではない。
俺はポケットから軍手を取り出して両手に馴染ませると予定通り母屋を右手に庭を横切り、庭の北西端にある蔵へと向かう。
蔵と言ったところでさして大きくもないそれは、祖父が子供の頃にはもうあったらしい。
という事は古いものが入っている筈で、何か値打ちがあるものを見つけて、生活費の足しにするため一つ二つ失敬するのが今回の目的だ。
たどり着いた蔵は西日を受けて白い壁がオレンジに染まり、家を出るとき最後に見た姿のまま、時間が止まっているかのように佇んでいる。
俺は扉の前に立ち、かかっている大きな南京錠を少しいじってから扉を揺らす。
すぐに軽い金属音が足元で響き、外れた南京錠が転がった。
南京錠が壊れている所まで昔のままだ。
ギイィィと壊れそうな音を立てる扉を開くと、薄暗い蔵の中に目を慣らしていく。
天井近くに小さな光とり用の窓がある以外は完全な密室になっているこの蔵は、昼間に入ってもほとんど真っ暗で何も見えない。
独特の黴臭い空気を感じながら俺は蔵の中へ入っていき、手近にあった古いダンボール箱から調べ始める。
それから小一時間、蔵の中で埃と臭いと格闘しながら俺は骨折り損であったと思い始めていた。
蔵と言えば値打ちのあるものが入っていそうではあるが、その実ただの物置だ。
出てくるのは泥がこびりついて取れなくなったゴムホースとか、ボロボロのビニールシートとか、錆びてタイヤから空気の抜け切った自転車とか、そういうまさしくガラクタばかり。
それらをかき分けて大きな段ボール箱を見つけたが、中身は表紙も中も日に焼けた古い時代小説やら雑誌やらだけ。
詰められたその小説の塊の一番上だけは覚えていた。
「ああ、あったなあ。こんなの」
日に焼けたボロボロのそれ、『又右衛門始末帖』を手に取ってみる。
在りし日、両親がしょっちゅう喧嘩をしていた我が家では、この蔵が数少ない俺の避難場所だった。
蔵に逃げ込んだ俺がやることと言えば今日の様な物色で、その時にこうした古い小説を見つけては、読めない漢字を何とかして調べ、その世界に逃げ込んでいた。
『又右衛門始末帳』は、当時の俺の一番のお気に入りだった。
江戸時代の剣豪荒木又右衛門を主人公にしたこの作品は、有名な鍵屋の辻の決闘に至るまでの彼を描いている。作中の彼は豪快で情に厚い好男子として描かれ、義兄弟の渡辺数馬に手を貸して彼の弟の無念を晴らすため奔走する。
特にクライマックスの決闘、四十人近い腕利きの護衛部隊に守られた相手に僅か四人で挑みかかり、見事敵討ちを成し遂げた又右衛門は幼き日の俺のヒーローだった。
暫し感慨にふけっていたが、ふと冷静になる。
俺にとっては子供の頃の名作とはいえ、どう見てもボロボロの三文小説など、古本屋でも大した値段はつかない。
「やっぱりそんなに甘くねえか……」
思わずそう呟いてため息を一つつく。
ここに来るまで、なんとなくこの蔵には値打ちのある品物があるような気がしていた。
祖父母が何か俺に残していてくれるような、そんな根拠のない淡い期待がどこかにあった。
だが、瀬戸物とか絵とか巻物とかいった“いかにも”な品は何一つ出てこなかった。
「くそっ、ついてねえ。とんだ無駄足だ」
結局この家で俺が得た物は、あまり楽しい思い出の無い子供時代と、一冊のボロボロの三文小説と、祖父につけられた兵衛という時代がかった名前だけという事だ。
そろそろ帰ろうと思ったその時、不意に足元に転がっている細長い木箱が目に付いた。
ほとんどダメもとで、それでもどこかに期待を抱きながらその箱を開けると、中には淡い緑色の袋に包まれたこれまた細長い何かが入っている。
俺はこの細長い何かが何であるのか、なんとなく察しがついた。
逸る気持ちを押さえて片側が縛られたその布袋をほどくと、予想通りの中身が顔を出した。
「よっしゃ!これだよこれ!」
思わず一人ガッツポーズをする。
袋の中からは、古そうな日本刀が一振り見えていた。
もしこれが本物なら安くても恐らく数十万、もし仮に名のある刀鍛冶の作品だったら数百万、いや数千万も夢ではない。
興奮気味に袋を剥くと、鞘ごとしげしげと眺める。ほぼ黒に見える暗い暗緑色の鞘は、古いもののようだが不思議と少しも傷んでいない。
黒い柄に手をかけ、時代劇の見様見真似で引き抜いてみると、これまた蔵の中に放り込まれたままとは思えないほどに錆一つない。西日を反射して光るものかと思ったが、意外にも黒い影となった。本物はピカピカに光るものではないらしい。
刀に詳しくない俺でも、これが保存状態のすこぶる良いものであることは分かった。
鞘の真ん中あたりに貼られているお札のような物の残骸さえなければ完璧だ。
暫しその刀に見とれていた俺だったが、箱の中に何か入っているのを見つけ、刀を鞘に戻すと慎重に入っていた箱の蓋の上に置いた。
目についたそれは折り畳まれた一枚の和紙で、早速開いて読んでみるが、なんて書いてあるのかなんて読めやしない。
だが読めないことが、この刀が古い時代の物であることの何よりの証拠となる。
「すげえ……すげえよこれ!」
俺は思わず飛び上がって踊り出したいほどにテンションが上がっていた。
「やった!やったぞ!これで、これで俺は大金持ちだ!」
思わずそんな風に叫ぶ。
誰かに聞かれていたらどうするのかなど、この時は考えなかった。
興奮状態の俺は、何度も紙に目を通すが、当然のことながらやっぱり読めない。
辛うじて『荒』『覇』『吐』の三文字だけが見て取れた。
「あれ……は、ど?」
「『アラハバキ』東北地方の土着神だ」
唐突に聞こえてきた女の声に俺は喜びとは全く別の理由で飛び上がった。
ここには俺一人しかいない筈で、俺の独り言に答える者などいない筈で、今の返答はありえない筈だった。
いや、もしかしたらいつの間にか誰かが敷地内に入っていて俺の背後、蔵の扉の辺りにいたのかもしれない。
いや、そんなことは無い。
何故なら声は背後からではなく、誰もいない筈の蔵の中から聞こえているのだから。
声の主はさっきまで誰もいなかった俺の目の前に立っていた。
浅黄色の着物と灰白色の袴という格好の上に黒い剣道の胴を身に着け、袖口から見える腕はこれまた黒い籠手のようなもので肘から手首まで覆われている。
一言で言えば、剣道着の上から胴だけつけて籠手というか腕当てをしているような状態。
「うん?お前どこかで……」
声の主がそれまで光の具合で見えなかった顔をぐっと近づけ、切れ長の目の涼やかな黒い瞳で俺の顔を覗き込む。
しげしげと俺の顔を眺めているが、当然こんな時代錯誤の格好をした知り合いはいない。
「お前もしかして……滝口兵衛か?」
人間、本当に驚くと何も声が出ないらしい。
目の前に現れた正体不明の女が俺の名を言い当てても、俺は何も言えずにただ女の顔を見返している。
女は俺の事を知っているようだが、俺の記憶にはその切れ長の目も背中まで届く長い黒髪も思い当たる人物はいない。
そんなわけのわからない状況でも、質問に対しては無意識に頷いていたらしい。
「やっぱり兵衛か!同じ匂いがしたからまさかとは思ったがそうか!そうか!」
女の顔はぱっと明るくなり、嬉しそうに声を弾ませる。
「まさかお前、十年前の事覚えていたのか?」
十年前?十年前の俺はまだ八歳だ。
女は見たところ俺と同い年ぐらいだが、当時の俺に女友達がいた覚えはない。
十年前、十年前。十年前に何があった?
女の口ぶりからして、俺は十年前に何か約束をしたようだ。
何があった?何を約束した?動転してまともな思考なんかできない頭を無理矢理にフル回転させ、必死に十年前の記憶を辿る。
十年前、蔵、約束……。
――あった。しかしこれは……。
十年前のある日、俺はやはり蔵にいた。
真っ暗で静かなこの場所だけは外の心配事と隔絶されていて、ここにいれば安全だと当時の俺は固く信じていた。
その日も喧嘩を始めた両親から目を背けるように蔵に駆け込んだ俺は、そこで見覚えのない古い刀を見つけ出した。
生まれて初めて見る本物の刀に当時の俺は目を奪われ、恐る恐るではあったが今日のように鞘から引き抜いた、丁度その時であった。
「まだ子供か……。君、危ないからここに居ちゃいけないよ。十年たったらまたおいで」
そんな声が暗闇の中に響いた。
子供の俺は今より更に驚いて、パニック気味に蔵から飛び出すと祖父に事の次第を報告する。
祖父は普段は物静かで物に動じない人だったが、この時は顔を青くして蔵に飛んで行って鍵をかけ、俺に二度と蔵には近寄ってはならないと何度も何度も繰り返した。
俺はそう言われた回数と同じ位何度も理由を聞いたが、結局教えてもらえなかった。
ただ、その次の日に寺の住職が訪ねてきて、蔵の前でお経を読んだり護摩を焚いたりしているのを見てなんとなく気味悪く思い、結局その後蔵に入ることは無かった。
もし目の前の女が言っている十年前というのがあの時の声のことを言っているのであれば、女の正体があの声という事だ。
だとすれば、二度と蔵に入ってはならないとした理由がこの女という事になる。
にわかには信じがたいが、俺は今非常に危険な状態にいるのではないだろうか。所謂怪談話に巻き込まれつつあるのかもしれない。冗談じゃない。あれは作り物だから面白いのだ。
しかし、目の前の女からはそんな危険な雰囲気は感じ取れない。
「十年前の声……か?」
「ああそうだ!覚えているだろ?」
確かに声は思い出せた。
「お前はいったい……何者なんだ?」
しかし、女の正体は不明のままだ。
勇気を振り絞った俺の震える問いに女は軽く咳払いを一つ。
「私は付喪。この荒覇吐を憑代にする付喪だ」
なんとなく予想はしていたが、案の定まともではない答えが返ってきた。普通ならそんな答えを真に受ける阿呆はいないだろうが、十年前の事や今突然目の前に現れたことなどから考えると人間ではないという不自然極まりない答えが至極まともに思える。
「さて、本題だが」
女は再度俺の顔を覗き込みながら、神妙な表情で語りはじめる。
「本来付喪は人間の魂を食らう。そしてのこのこ私の前に現れたお前は封印が解けた直後の私にとって絶好のご馳走な訳だ」
ちょっと待て何だそれは。付喪神というのはそういうものじゃないだろう。
付喪神と言えば――少なくとも俺の知る限りは――古い道具に取りついたり、道具そのものが変化したりするもので、人の魂を食らうなどというのは初耳だ。
「ついでに言うと私は今すごく空腹だ」
とんでもないことを言う。さらっと言う。
「十年前はまだ子供だったから魂が小さくて腹の足しにならんし、何より流石に不憫に思って襲わないでいたが、再び現れた上にあの時より更に美味そうな魂になっているとなれば……」
女の嬉しそうな顔はゆっくりと俺の顔に近づき、既にお互いに相手の息がかかるほどの距離にまで詰まっている。
逃げなければ。咄嗟にそう思ったが、体は全くいう事を聞かないでへたり込んだまま動けずにいる。
もはや俺の体で動いているのは早鐘を打つ心臓と、浅い呼吸を繰り返す肺と、カチカチと音を立てる歯だけとなっていた。
女はそんな俺の様子を満足そうに見つめる、そしてしばしの沈黙。
「なんてなっ!今回は特別に見逃してやる。私の気が変わらんうちに逃げろ」
そう言って急に顔を離した。
「えっ?」
「もう二度とここに来るんじゃないぞ」
「見逃してくれるのか?」
「よく考えたら十年前にはお前に正体を明かしていなかったからな。だまし討ちで食うのは私の趣味じゃない」
よく分からないが俺は助かったようだ。もし十年前の声に正体を尋ねていたら結末は変わっていたかもしれない。
とにかくこれで帰れる。そう思った俺の背中側から差し込んでいた西日が急に消え、暗闇が訪れた。
(なんだ?急に日が暮れたのか?)
当然ながらそんなことはない。現に光とり用の窓からはオレンジの光が射しこんでいる。
「伏せろっ!」
咄嗟に女はそう叫びながら荒覇吐をひったくると、俺を左側に突き飛ばした。
一瞬の出来事に訳が分からず、されるがままに突き飛ばされていた俺が見たのは、先程までとは打って変わって険しい表情の女と、さっきまで俺がいた場所の真後ろに立っていた大男のシルエットだった。
「今度は何だ!?」
思わずそう叫んだ俺に、男が手に持っている大きな棒で吹き飛ばした蔵の荷物が飛んできた。
突然の事によけることもできずもろに受けてしまった俺は、何が入っているのかやたら重いそれの下敷きとなった。
薄れゆく意識の中最後に見たのは、大男と女が、それぞれ棒と刀で激しく切り結んでいる姿だった。
「……ぅ、ぁ」
どれくらいの時間がたっただろうか。俺が再び目を開けた時、あたりは既に真っ暗になっていた。
蔵の中はしんと静まり返り、人の気配はない。
気を失う前に見た光景は何だったのか。大男や女はどこにも見えない。
意識を取り戻してから暫くの間、俺は冷たい床に寝ころんだまま天井の闇を見上げていた。
(あれはなんだったんだ?)
ぼうっとする頭でさっきまでの出来事を思い出してみるが、どれもこれもあまりにも非現実的で、思い出せば出すほど嘘くさく思えてくる。
(夢だ。さっきのは全て夢だ)
数分の回想の結果、俺はその結論に達した。
俺は蔵に忍び込み、物色中に崩れてきた荷物に潰されて気を失い、その時にあんな妙な夢を見た。これが一番合理的で、あり得る話だ。
そうと分かれば話は早い。誰かに見つからぬうちにここからさっさと出て家に帰るだけだ。
そう結論付けた俺はのそりと起き上がり、ポケットから照明代わりに使い捨てライターを取り出した。
カチッという金属音と共に手元が照らされ、指先が熱くなる。
灯った炎によって、自分の手や足元に散乱した荷物等が見えるようになった。
「出口は……どっちだっけ?」
炎を動かしてあたりを探る。
手の動きに合わせて現れては消えていく蔵の壁や床、積み上げられた箱、自分の足、そして壁に打ち付けられた女。
「うわああああっ!?」
嘘だ。何故?ありえない。どうして?
情けない程に大きな悲鳴を上げ、恐怖のあまりライターを取り落す。
再び暗闇に包まれると、俺の頭は真っ白になった。
「ふん。元気な目覚めだな」
闇の向こうで女が不機嫌そうに何か言っているが、今の俺にはそんなことを気にする余裕はない。
不意に出口が月の光で照らしだされ、俺は反射的にそっちに向かって走り出した。
そこから先はよく覚えていない。どこをどう通ったのかすら覚えていないが、とにかく俺は一目散に駅に駆け込み、丁度良く滑り込んできたここに来たのとは反対の電車に飛び乗った。
家の最寄り駅は一駅隣で、乗車時間は十分もないはずだが、間違えて急行に乗ってしまい、最寄駅を通過してしまったのかと思うほどに長く感じた。
ようやく駅とこの辺では開けている部類に入る田舎町の明かりが見えてきて、俺はほっと一安心したが、その瞬間新たな不安に襲われた。
(……後ろについてきてたりしないよな)
ホラー映画等でおなじみの展開が鮮明に蘇ってくる。
もし振り返った所にあの女が立っていたら?振り返って何もなかったと安心してから向き直った時、車内の様子が反射している窓ガラスに俺の背後に立つ女が映ったら?
ようやく扉が開いた時、俺は一目散に駆けおり、改札を駆け抜けて駅前にあるコンビニへ駆け込んだ。
「しゃーせー」
今日ほどこのコンビニ店員のやる気のない挨拶で安心した日は無い。今後も一生無いだろう。
何を買うでもなく店内を物色しながら心を落ち着かせる。
(もう大丈夫だ……俺は生きてる。無事帰ってきたんだ)
買う気のないスナック菓子や文房具を見ながらそう言い聞かせる。
どれほど時間が経ったかは分からないが、ひとまず落ち着いた俺は店内をうろつく不審な男という店員の視線を感じ始めて店を出た。
いつもなら人通りの少ない近道を通るが、今日は多少遠回りでも商店街の前を抜け、人気のある飲み屋街の方を通って帰ることにした。
いつもより数分時間をかけてボロアパートの自室にたどり着き、指先が覚えている照明のスイッチを入れる。
玄関に取り付けられた鏡に映る俺の顔。情けない程真っ白になっている、恐怖の顔。実年齢より二歳ぐらい上に見られる顔。冷たそうに見えると言われた奥二重、やや薄い唇。女の子に持て囃される顔ではないが、かと言って自虐すらも笑えないようなひどい顔ではない。と思う。多分。
だが今の表情は、元がどんな顔立ちであれ情けないほどに怯えているのが丸わかりだ。
(びびるなよ、ただの夢だ。そうだろう?)
表情を作る。というか努めて普段の顔に、続いて能面のような無表情に、そこからバイト先でやっている接客用の笑顔をやってみる。
まず口角を上げてみるが、これだけでは何かを企んでいるような表情になる。次にほんの少し上がり気味な目尻を下げて満面の笑みにして……出来なかった。顔面の神経が切断されているのかと思う程にぎこちない笑顔は力を抜くとすぐに情けない恐怖の顔に戻る。
(つづく)
お初にお目にかかります。九木圭人と申します。どうぞお見知りおきください。
さて、生みの親に似て出来の悪い拙作ではございますが、温かい目で見守っていただければ幸いです。
また、7/23(土)までに次話投稿を予定しております。
次もまたお付き合いいただければ幸いです。