鍛冶と製鉄と魔法使い
前回投稿時、活動報告で「次はバーサーク娘の話です」といったな。アレは嘘だ。
「こんちは」
「お邪魔いたしますぅ~」
オークのバイク屋にして自称3流鍛冶屋のボグロゥが、頭の天辺からつま先まで一切肌を見せないようにすっぽりと布を被ったモニカを連れて、難民キャンプのはずれにある鍛冶場を訪れたのは走り納めから3日後、11月も末のことだ。
その日の朝はやたらと寒く、空を見上げると雪がちらついていたほどだった。
レスタの村──旧市街も新市街の建築現場も、もちろん難民キャンプも冬囲いの最後の仕上げを行っている最中だ。
難民キャンプの冬囲いはいささかの心配もなかった。というのは、キャンプといえば想像されるような天幕だけの家屋は一軒もなく、全て規格製材で作られた頑丈な「仮設」住宅が難民たちを収容していたからだ。
仮設住宅であるからには解体の容易な、したがって脆い建物だろうと思われがちだがそうではない。魔王領は全般に降雪が多く、また地震も多い。雪の多い最中に大きな地震が来て村一個町一つが家屋全壊で焼き出されることなど、珍しくもなんともない。
このため魔族領の住宅は基本的に頑丈で、特に規格製材による迅速な住宅再建は災害の多い魔王領では必須の事業となっていた。これには魔王領全土に張り巡らされた高規格街道と、《遺跡》から掘り出されたトラックによる機械力運送が目覚ましい効果を上げている。
◇
聖法王国から続々と流れ込んでくる、いや、流し込まれてくる難民たちには比較的自由な発想を行うエラ修道会とそれに親しい会派、反対にそれまでの中央教会の教えに忠実であろうとする中央教会派の二つの派閥が存在していた。これらは実は宗教の派閥だけではなく、民族問題でもあった。エラ修道会派には混血が多く含まれるのだ。
これらのうちエラ修道会とその親和的会派に属するものは、魔族の領土に足を踏み入れたことにせよ、魔族の製品を使った家に住むことも特に問題には思わなかった。彼らはまず生存のためであれば、秩序を乱さない範囲で何をしても良い──秩序が乱れているのであれば生存のために秩序を回復せねばならない、と考える。
ある程度秩序が成立し、それが自分たちの生存に悪影響を与えないのであれば、状況を利用し尽くす。欲言えば合理的、悪く言えば場当たり主義ではあるが、その考え方の根本は戦乱を如何に生き抜くかということに焦点が絞られていた。経典の解釈の仕方はそれに基づいており、中央教会の判例集と異なる法解釈が行わるることは非常に多い。特に戦後処理では魔族もかくやと言わんばかりの寛容な処置が取られた。
非常に現実主義的な会派であるがゆえ、西方蛮族に蹂躙された聖法王国で支持を伸ばすのは至極当然と言える。
一方で中央教会派は真逆である。
彼らはまず経典に記載される教義を絶対の理想として想定する。それに反する状況をすなわち犯罪あるいはそれに近しいものとして捉え、これを例外なく処断することが必要だと考える。この「犯罪、あるいはそれに近しいもの」は、判例集に記載がなくとも、その場に居合わせたものが教義に反すると断ずればそうなるということを彼らは断言していた。
女性が肌を見せること、不純な理由で異性に声をかけること、男性が女性の裸体を模した絵画・造形物を所有すること、同性愛、不義密通、性愛を主題とした文芸その他、これらは経典にはないもののすべて犯罪だとされていた。魔族や異民族との混血に至っては言語道断である。魔王領の通念では道徳観念の範疇であり、刑法の範囲で扱うべき事柄ではない。
これらは(混血児の取り扱い以外は)ごくごく初期には戦地帰りの男どもから女性を守るための、社会的道徳規範として広まった。
痴漢・強姦という性犯罪は男性の性欲のみに依って起きる犯罪ではない。狩猟動物である男性の本能に根ざす征服欲が主要因と言って差し支えはない。性欲はたんに引き金に過ぎない。そしてこういった犯罪を犯すものが狙う女性は、そこそこ見栄えがよく気が弱そうと見た目で判断されるものが圧倒的に多かった。従順な女奴隷という存在ほど、男の心理に根強くはびこる妄想もない。中には気も強ければ腕っぷしも強いという女傑も被害にあうことがあったが、征服欲を満たすという観点ではなるほどそうかとうなずくものもいるだろう。
ところが女性たちが一斉にすっぽりと布をかぶり、見た目でどんな女性か判断(というか決めつける)ことができなくなった。実際に聖法王国内の表通りで素顔や肌を晒しているのは軍人や社会的地位からその必要があってそうしているものだけとなり、一般社会の女性たちは誰だ誰だか見分けがつかなくなり、痴漢や強姦という犯罪は目に見えて減ったのだ。
これに気を良くした「社会」は「犯罪、あるいはそれに近しいもの」の適用範囲を広めていった。不純な理由で異性に声を掛けることは性犯罪の準備行動であるから「犯罪、あるいはそれに近しいもの」、女性の裸体を模した絵画や造形物は女性に対する性的な妄想を助長させ犯罪を惹起するから「犯罪、あるいはそれに近しいもの」、といった調子だ。最近ではあまりに締め付けが厳しくなりすぎ、逆に「自由な格好をさせろ、自由な会話をさせろ」という主張が酒場や公衆浴場で女性同士においてすら語られる始末。
本末転倒も良いところだが、それでも理想を現実に押し付けることが彼ら中央教会派の教義であり、その彼らと交流をする以上、ある程度は慮ってやる必要もある。
教義どころかそれ以上のものにすら縛られている彼らを魔族の作った木材でできた家に住まわせるために、エラ修道会の派遣僧侶と魔王領民部省難民保護局は非常な苦労を要した。仮設住宅の建設に難民の労働者を用いるのは当然のこととして、すでに入居したエラ修道会派難民に「空き家の中にテントを張っても罪にはならない」とまで言わせて、ようやく中央教会派難民の収容に成功したのだ。
といったわけで、冒涜的なまでに巨大な胸と尻と太股を持つモニカが(夏祭り以上に)もっさりと布をかぶせられたのも無理はなかった。
レスタの難民キャンプは「棄教者」ラウルと「人買い」アダムスが難民の指導者的立場にいるため魔族との交易そのものは活発に行われているが、そもそも魔族の存在そのものに納得していないものも多く存在している。
つまり中央教会派の教義に表向き従うことは、モニカの身の安全を確保するためである。
◇
問題があるとするならモニカは暑がりだということだったなー、とかなんとか考えながら、ボグロゥはモニカの肩を後ろから掴んでセーターの上に羽織った白衣を脱ぐのを阻止し続けていた。モニカの肢体は着込んでいてすら主張が激しすぎる。
当たり前だが鍛冶場は暑い。縦20m横40mという難民キャンプの仮施設にしてはやたらと大きい鍛冶場、その入口ですでにモニカはひたいに汗を浮かせているのだから、中に入ったらどうなることやら。
「やぁ、ボグロゥさん、いらっしゃい。お待ちしておりました」
「いよう、オークの。魔法使いの嬢ちゃんも、寒い中よく来たな」
ボグロゥとモニカを出迎えたのは二人の男。レスタ難民キャンプ筆頭鍛冶魔法師リュミエールと、現場総監督ギョームだった。
丁寧な言葉づかいの初老の男がリュミエール。若い頃は、いや現在でも女性の注目を浴びそうないい男だった。
年の頃は同じぐらいだがオークやオーガー、ドワーフらも感心するような硬質で実用性にあふれる筋肉を身にまとった暑苦しい髭面がギョームだ。こう、実に暑苦しい。実際問題、ドワーフとオーガーとヒトを足して3で割らずにそのままにしたような男だった。
二人は鍛冶場の立ち上げ当初からボグロゥたち魔王領の機械技師や発掘師たちの世話になっていたから、顔見知りになるのも当然である。
「すまんね、忙しいところ。あんたらの製鉄や鍛冶に魔法を使ってるって知ったら、モニカがどうしたって見学したいっていうもんだから」
「いえ、こちらこそ。先の《遺跡》発掘のおかげで、良い鉄をたくさんお分けいただけましたから。お借りした農地の開墾や日常の道具、武具の制作もこれではかどります」
「そいつぁ良かった、といっていいのかな……」
朗らかな表情のリュミエールに対し、ボグロゥは微妙な顔つきをした。武具の制作、という言葉にひっかっかったらしい。
「いいんだよ」
と、どでかい拳をどんとボグロゥの分厚い胸に押し付けるギョーム。上腕やら頬やらに刀傷が薄っすらと残っている。
「俺らは国境のあっち側じゃあ、どえれぇしんどい目にあってきた。それを変えるのは俺達だ。ま、勝手に戦争おっぱじめた坊主どもにゃあ腹も立つが、いずれはやんなきゃならねぇことだった。ボグロゥ、俺らの問題はあんたが気に病むこたねえんだよ」
そういってギョームはにっかと笑って白い歯を見せ、ボグロゥもすまなさそうに微笑んだ。
◇
それでは参りましょう、とリュミエールが先に立ち、一行は作業場に入っていこうとした。
が、その前にギョームがモニカに暑いだろうがもう一度覆いを着てくれと頼み、ニコニコと愛想を振りまいていたモニカはカエルが踏み潰されたような声を出した。
ギョームによれば、製鉄所や鍛冶場は《忌物》やそれに由来するものを扱う場である、そういったところはどうしても服役囚や犯罪者上がりの荒くれ者が多くなる、そうでなくても力仕事をする場だから女が居ない、アンタは正直ヤロウどもにとっちゃ目の毒だし、すまんが我慢してくんねぇ、ということだった。
ボグロゥは嫌がるモニカをなんとか説得して布をモニカに被せたが、その代償として見学が終わったら一つだけモニカの言うことを聞くこととされた。
ボグロゥがそれを承服するとモニカは途端に上機嫌になり、リュミエールとギョームは甘すぎる菓子を食べたときのような顔になった。
◇
「予熱計測」
「予熱計測……炉内温度、二千百九十二度、安定っす」
「魔力注入開始」
「魔力注入開始しやす」
「保熱回路励起」
「保熱回路、励起確認しやした!」
「炉内温度確認」
「炉内温度、二千百九十二度、安定」
「いよぉし、野郎ども、行くぞ」
「ガッテンでぇ!!」
呪文を刻まれた耐熱レンガでできた直径5m高さ6mほどの花瓶型の炉の中に、ギョームの指揮のもと、男どもの野太い声とともに砕かれたくず鉄とコークスが投げ込まれる。
あらかじめ聖法王国の度量衡で二千百九十二度──魔王領で言う千二百℃まで予熱されていた炉の温度を受け取ったコークスが直ちに燃焼を始め、さらに炉内の温度を上げ始める。
燃料と材料は次々に投げ入れられ、材料たるくず鉄が炉内の熱を吸収しきれなくなり、炉内温度の上昇幅が安定し始めると、炉壁外側に張り付いていた何人かの男たちが持ち場を離れた。
「炉内温度が二千九百十二度、ええ、あなた方の度量衡で千六百℃まで上昇したら燃料の供給を止めます。そこで用意したくず鉄の半分が炉内に挿入されたことになりますね。このあとは溶け具合を見ながら材料の装填をつづけ、銑鉄を生産します」
「今回はぁ、何トンの銑鉄を生産するんですかぁ?」
煮染めた分厚い革の保護帽を被ったリュミエール、ボグロゥとモニカは建物内壁、高さにして4mほどをぐるりと取り囲むように作られた足場から溶鉱炉への火入れを見学していた。
穏やかな表情ながらも鋭い視線で作業場全体を見渡すリュミエールに、モニカは普段からは考えられないほど元気よく快活に質問していた。
魔法が関わると人が変わるのかもしれない。
「まず六トン。今回挿入するくず鉄はジドーシャ起源が六トン半ですから、まぁまぁの還元率ですかね」
「まぁまぁどころじゃねぇよ。その割には燃料の量が異常にすくねぇな?」
「御覧頂いている通り、炉壁材全体に張り巡らされた呪文、我々は保熱回路と呼んでいますが、励起した保熱回路が高精度に炉内温度を保ちます。聖法王国で製鉄をしていたときはコークス炉も併設して、コークスから出たガスを溶鉱炉内に誘導して補助燃料にしたりもしていましたね。こちらでは援助物資としてコークスを頂いておりますので、コークス炉は作っておりませんが」
「その保熱回路を刻んだレンガの現物は確認できますぅ?」
「ええ、どうぞこちらへ」
ボグロゥも技術者らしく時々質問を行い、リュミエールは丁寧にそれに答えた。そういうところはリュミエールも魔法使いと言われつつ、やはり技術者であることが伺い知れた。
やがてボグロゥとモニカは作業場の隅に降り、そこに積まれたレンガを見せてもらった。レンガ一つ一つには複雑な図形と小さな文字が刻まれ、どのように積んでもその図形は必ずつながるようにデザインされていた。
「すごい……なんて緻密な結界魔法呪文なのかしら……」
「その右上と左下にはみ出ている線に指を当てて、魔力を流し込む感じで意識してみてください」
リュミエールの言うとおりにしてみると、レンガから熱が放射されたように感じた。
「熱を放射しているのではありませんよ。周囲から受けている熱を、レンガに刻まれた結界の表面が反射しているんです」
「さっき炉からヒトが離れましたよねぇ? 魔力の供給はどうしてるんです?」
「保熱回路に組み込まれた熱回生回路が、結界強度を超えて侵入してくる熱を魔力に還元するんです。ですから必要十分以上に炉内と炉壁に熱が溜まると自動運転が開始されるという寸法」
「熱と魔力の変換ロスは? あの規模の炉で何度ぐらいまで下がると自動運転は解除されるんです?」
「二千五百五十二度、ああ、千四百℃が均衡点ですね。そこから、ええと、平均で千六百℃程度になるように炉は自動制御されます。炉内から溶けた鉄を取り出して熱源を排除すると、当たり前ですがごくごく普通に温度は下がりますね」
「ははぁ、なるほど……」
モニカは何度も熱心にリュミエールに質問し、リュミエールは惜しげもなくそれに回答する。そこに屈託らしきものはなにもない。やはりリュミエールは技術者なのだ。
それはモニカも同じらしく、吹き出る汗もそのままにどんどんと質問を重ねていった。
「つまりぃ、聖法王国では魔法は神々や精霊の力を借りるものではなく」
「はい。あくまでも我々自身の生命力を根源とする《力》の流れというべきものでしょう」
「なるほど、なるほど。ところでリュミエールさぁん、私は魔法の作用機序は、まず効果範囲の定義から始まると思っているんですけどぉ」
「私も、というより聖法王国では当初からそのように捉えております。我々に神はただ一柱、法の神のみぞありますゆえ」
「やっぱりそうですよねぇ~! そうなると作用機序全体としては、効果範囲の設定、異物質召喚を行うか否か、分子運動を加減速させるか否か、効果範囲の物理空間内加速度の設定という形です? 熱から魔力への還元は、分子運動の加減速からのフィードバックですよね?」
「まさしくおっしゃる通り。それともう一つ、効果範囲の強度という概念があります。これで非生命体への魔法の作用機序は説明できます」
「効果範囲の強度、結界強度のことですねぇ。確かに大体の魔法はこれで説明がぁ……え、非生命体への魔法の作用機序、ですって?! ということは」
「生体への魔法は別の作用機序が働くと考えられています。医療魔法は大別して解毒、感覚操作、生体再生の三つの柱からなると考えられていますが、これでは消毒や止血をうまく説明できません。まぁ私の専門分野とは畑違いなので、これ以上はなんとも言えませんけれども」
「~~~~~~~!!! すごい、すごいわ! これであの高慢ちきなジジイどもの鼻をへし折れるわぁ! あ、で、話を戻すんですけど、熱制御は保熱回路によるものだけではありませんね? こう、全体では右回りに回転しながら熱を封じ込めるように、球状の魔力が渦巻いているように感じられるんですけどぉ」
「素晴らしい! 初見でそれを見破られますか。いやあさすがは魔族の方だ。おっしゃるとおり、炉内で球状に組み立てられた保熱回路による熱反射面に沿って、魔力で炎と熱そのものを中心に向かうように渦巻かせ、熱の外部放射を抑え込むようにしています。耐熱レンガに炎そのものは当たってはいないのですよ。これを私たちは球状トカマク制御と呼んでいます」
「炉内温度はどこまで上げられるんです?」
「理論上は、えー、あなた方の度量衡で2800度まではいけますね。あくまで理論値ですが。実際はそこまでの高熱に炉が耐えられません」
「この溶鉱炉や調整炉から出たガスには当然有毒物質が含まれますよねぇ? それの分離は」
「排気ガスの経路内部には排気ガスの流速を高める魔法が彫り込んであります。それから煤塵はあちらの遠心分離器で集めます。有毒ガスは遠心分離器内で撹拌されている間に更に高温になって分解されます。ガスの流速が速くなると圧力は減り、すなわち温度も上昇しますので」
「はぁー! なるほどぉ!! あ、じゃあじゃあ、あちらの熱鍛工程や熱処理工程で必要な熱はどうやって? 保熱回路だけでは保持できないように思うんですけど」
「それこそ鍛冶場に魔法使いが必要な理由ですね。熱鍛炉や熱処理炉には保熱回路の他に発熱回路も彫り込んであって」
何時になく活発に専門的な会話を行うモニカは、ボグロゥの知らない、あるいはよく知る顔つきになっていた。数寄者の顔だ。ボグロゥは自分やバイク乗り仲間にその表情をよく見ているが、いつものんびりぽやぽやしているモニカがまるで獲物を見つけたときの猟師や獣のような顔つきをすることがあるだなんて、思ったこともなかった。
◇
ボグロゥたちが難民キャンプを離れたのは、日もすっかり落ちた宵六つの頃である。
当初1~2時間だけのはずだった見学は、結局最初の二トン調整炉への銑鉄の封入を見届けるまで続いてしまった。
異国の魔法理論の最先端に触れることができたモニカは大満足で、スキップするかのようにはしゃいで歩いていた。
危ないからやめろとボグロゥが言うと、じゃあ転ばないように支えてね、とモニカが密着してきた。
相変わらずここぞというところで腰砕けになってしまうボグロゥだったが、このときばかりはしっかり足を踏みしめて、布でもこもこになったモニカを腕からぶら下げて歩くことができた。
それに、なんとなく嬉しいような、誇らしいような感情が彼を満たしても居た。
なぜなら、飛び抜けた魔法オタクの友達に、同じかそれ以上のレベルの魔法オタクを見つけて紹介してやることができたから。
モニカが実際に耳にしたら腰が砕けて立てなくなるような、なんとも締まらないような話であった。
◇
「あ、ところでさっきのお願いって結局なんだ?」
「えー? ああ、あれぇ。んーと、そうねぇ、汗いっぱいかいちゃったし、一緒におふ」
「ろには入らんぞ。勘弁してくれ。お前のファンがこの界隈に何人いると思ってるんだ。そんなことしたら俺、明日の朝には冷たくなっちまってるよ」
「ええー。ケチぃ」
「ケチじゃないよ。てかなんで俺なんかに絡むんだよ。もっといい男いくらでもいるだろ」
「別にぃ。理由なんかないわよーぅ。んもう、だったらこのあとでお酒、朝まで付き合ってよぉ」
「……酒?」
「お酒」
「……朝まで?」
「朝まで」
「……遺書書く時間もらっていい?」
「おっとー今すぐ死にたい感じかな?」
「すいません冗談です朝まで付き合います」




