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バイクオタクおじさんと女騎士さん(じゅうななさい)

前回のお話をアンネリーゼ視点で見たお話。オタク話はやる相手を考えてやろうな!!

「そら、こいつがお嬢ちゃんを載せてやったバイクだ。えすあーるよんひゃく、さんえっちてぃーびー型。フレーム型番はわんじぇーあーるだがな。おふろーど用にすいんぐあーむを延長してある。ふろんとふぉぉくはわいぜっとよんごーぜろえふ用を流用。りあしょっくは」


 ボグロゥの店は村の外れの荒れ地にあった。

 店とはいうが、私の見るところ個人商店という規模ではない。

 縦横の差し渡しは村長の家と同程度。木造建築を石で補強し、さらに何本か大きな鉄の柱と梁が入っている。

 住居部分はそのうちの3分の1しかなく、残りは何やら鉄の塊で出来た恐ろしげな道具と鍛冶道具が並んでいる作業場と、薄い木の壁で区切られた少しは清潔なスペースだ。

 ボグロゥは上機嫌に長広舌を披露しているが、アンネリーゼ、すなわち私は半分も理解できていない。

 ボグロゥはもう30分も話している。


「ええと、つまり、このばいく?たちは生物ではなく」


「そう、機械だ。ヒトの作った乗り物だよ」


「えすあーるよんひゃくとはどういう意味なのでしょう?」


「SRはシングル・ロード。つまり単気筒、舗装路用ということだ、と言われているがよく分からん。400と言うのは排気量400ccのこと。排気量というのはエンジンが吸い込んで燃やして排気する空気の量、つまりエンジン内部の燃焼室の容積のことだ」


「エンジンって?」


「このひだひだがついてるこの部分と、この下のやや丸っこい部分を合わせてそう呼ぶ。このひだひだ、シリンダーの中には上下に動くピストンが、丸っこい部分にはピストンの往復運動を回転運動に変えるクランクが入っている。シリンダーの中に吸い込まれた空気と燃料が燃えると空気が膨張、つまり膨らんでピストンを押し下げる。その力がいろいろとややこしい過程を経て、こいつの車輪を動かすわけだ」


「へぇー……」


 うん、さっぱりわからん。

 でもこの複雑な形をした金属の中身が精密な機械だということはなんとなく理解した。

 それはつまり、この国が我が国とは比べ物にならないくらい工業が発達しているということだ。

 私は魔王領への潜入を命じられたのだから、この国の国力について出来る限り把握するべきだろう。

 そのためには、このオークにもう少し喋ってもらう必要がある。


「あのう、こっちのは?」


「こっちもSR400だ。型番はRH01Jだが、再生できない部品がいくつかあったから、1JRの状態の良いものから移植したパーツが幾つもある。こいつをこんなにピカピカに磨き上げるのは苦労したぜ。最初はもっとサビだらけだったからな。塗装のし直しやメッキパーツの再生で、だいぶ得るところはあったな」


「形がぜんぜん違いますね?」


「こっちが原型なんだ。といっても、これのそもそもの原型は、さっきのヤツのほうが近いけどな。XT500っていうんだが、状態の良い個体はなかなか出てこなくてな。ほとんどがくちた鉄とアルミの塊になってる」


「そうなんですね。こちらのは?このエンジン?が2つになってますが。背も低いですし、車輪も太い」


「こいつはハーレー・ダビッドソンのナックルヘッド。モデルは分からん。それと、エンジンは2つになってないぞ。Vツインエンジンと言うんだ。シリンダーがV字に二つついてるから、Vツイン」


「ナックルヘッド?」


「うん。ナックルヘッドというのはエンジンの通称だ。このエンジンの頭の部分、ヘッドカバーと言うんだが、これが握りこぶしみたいになってるだろう。だからナックルヘッド。もともとの排気量は1200cc。そいつをS&Sのシリンダーユニットで1430ccにボアアップしてる。クランクケースと……まぁなかなか悪くない」


 ぜんっぜんわっかんない。

 本当に何を喋っているのだろう、このオークは?

 これでフゴフゴ豚っ鼻を鳴らしているだけならわからん話じゃないけれど、お互いに言葉を理解出来るだけたちが悪い。

 ああ、でもお国にもこういうヤツいたなぁ。

 普段はちっとも話さないか、必要なことしかしゃべらないくせに、自分の専門の事になると途端に饒舌になるやつ。

 あー思い出した。

 南エウシアのなんとかいう田舎町の地区教務長がこんな奴だったなぁ。あいつの偏った法律知識に何時間付き合わされたっけ。


「はぁー……」


「ハーレーはカスタムモデルが多くてな。どうかするとフレーム自体をゼロから作ってたみたいなんだな。そっちの作りかけの前脚のなが~いのがあるだろ。アレもハーレーだ。エボリューション。1340cc。おそらく56馬力は出るんじゃないかな。」


「へぇー……」


 そういえば、「しーしー」とか「ばりき」って何のことだろう?

 オンスとかポンドとかとはちがうのだろうか?

 言葉が通じるうえに、あからさまに聖法王国人の血が混じっている人間だって居るみたいだし、度量衡もついでにこっちに合わせてくれればいいんだけど。


「この前脚、フォークというんだが、フォークはわかるよな?麦やら何やらの収穫に使う二股の農機具。それと同じ形だからフォークと言うんだが、こっちのナックルヘッドのフォークはやたら太くてデカいだろ。まぁこれ自体オリジナルじゃなくて、……のを全部取っ払ったり、フレームをぶった切って(チョップして)作られたのがチョッパーカスタムというわけだ」


「……」


 しかしまぁよく喋るおっさんだこと。

 子供みたいな顔しちゃってさ。

 しかも、誰に向かって話してんだか。

 私の方を見てるんだか見てないんだか、ちっともわかんないな。

 やだなぁ。

 私なにしてるんだろ。

 あと何時間付き合わなきゃいけないんだろ?

 話を途切れさせようにも、取っ掛かりがつかめないしなぁ。

 お国で聞かされていたみたいに、人間の女と見ればすぐに子供をはらませようとしてこないだけずっとずっとマシなんだけど。

 いやまぁ、そういうのは魔族にかぎらず、ヒトにだってたくさんいるんだけどさ。

 でもそんなんなったらやっぱり「くっ……殺せ!」って言わないといけないのかなぁ。


「もちろんチョッパーにも弱点はある。なんといっても山の中には入れない。舗装された街道か、せめて平らにならされて踏み固められた道しか走れないんだ。魔王領は主要街道ぐらいしか舗道されてないからな、これは貴族様の趣味の乗り物というわけだ。貴族ってもあのザボスのおっさんじゃないぞ、別の貴族からの依頼で作ってる最中なんだが、こいつのオーダーがもうバカバカしくてな、走らなくていいからとにかく格好良くしてくれとさ。そんな仕事は受けられんと突っぱねたら守銭奴呼ばわりだ。馬鹿げてるよな。バイクは馬と同じで走らせるためのモノなんだ、置物が欲しいなら石工にでも頼めばいいんだ、それに俺は芸術家じゃない、俺は技術屋(エンジニア)機械屋(メカニック)なんだ、と言ってやって、ようやく納得してもらえたんだがね」


 ああ、やっと私に分かる話をしてくれた。


「まぁどこにでもそういう方はいらっしゃるんでしょうね」


 私がそう言うと、オークは初めて私の目を見てくれた。

 あれ。

 あんがい親しみやすい顔つきしてるなぁ、このオーク。

 いやオークと面と向かって話すこと自体、初体験だけれども。

 もっとこう、何か全く理解できないいきものの目をしてるのかと思ったけど、そうでもないし。

 これでここまで長広舌じゃなきゃまだしもなんだけど。

 ん?

 何が「まだしも」なんだ、私。



「あっちでもそうなのか?」


「ええ。とある城主から申告された租税収入と使途に不審な点があるので監査しに行ったら、地下の宝物庫に自分でも着れないサイズで無駄に綺麗な甲冑がズラリ、なんてことが」


 あの監査は最悪だったなぁ。

 城主は全く騎士向きの体格じゃないくせに、騎士甲冑は大好きで、おまけに女に掘られるのが大好きとか言う変態趣味の塊みたいなやつだった。

 税収のごまかしについて、多少は悪知恵が働くのかと思ったらそうでもなくて簡単に自白しちゃうし、開き直ってくっさい息と体臭を振りまきながら何時間も甲冑の魅力とか言うものを語るし、あんな任務別に私が行く必要なかったでしょうよ。


「ああそれそれ、まさしくそんな感じだな。甲冑といえばお嬢ちゃんの胸甲見せてもらったが、ありゃあいい出来だな。鉄の性質をうまく使ってる。軽くて頑丈、弾力もある。何度かいいのを喰らってるようだが、全部きれいに防いでる」


「そうでしょう?あれは先輩から譲ってもらったのですが、何度も命を救ってくれました」


 そうなのだ。

 あの胸甲は私の宝物の一つと言っていい。

 そういえばあれをくれたエミリア先輩は、どこに行ってしまわれたのだろうか。

 まさか私と同じようにこの地に潜入しているのだろうか。

 いや、まさか。

 先輩は騎士団上層部に入るべき人だった。

 こんな全く訳の分からないところへ派遣されるような人ではない。

 それにしても、また先輩とまた会う機会はあるのだろうか。


「たぶんクロモリ鋼にマンガンとバナジウムをちょっと足してあるんだろうな。熱処理も素晴らしい。俺もああいう仕事ができるようになりたいもんだねぇ」


「くろ?ばな?」


 んん?

 頼むからわかるようにしゃべ……って……


「ああ。クロモリというのはクロームとモリブデンを混ぜた鉄のことだ。マンガンは」


 んんんんん!

 やっちゃったなぁあああああ!!!!!


 もう!!!殺せ!!!



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