女騎士と迷惑なおじさん(たち)
フォン、フォォオン、フォォオオン、フォンフォン、ボボッボボッボボッ。
ドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカ、ドウン。
パァアアアアアアアァン、パァアアン、パァン、パンパンパンパンパン。
ドロロロロロロロロロロロン、ドドドン、ドドドドン、ドドン、バスン。
様々に聞こえる爆音をまとった一団は、村長宅の前で止まった。
生け垣の向こうに黒く艶々した球形の兜がいくつか見える。
シャンテが門に駆け寄るが、それより早く木戸が押し開けられた。
「村長はご在宅か!」
挨拶もなくズカズカと入ってきたのは、黒い乗馬コートを羽織った老年の紳士だった。
青い肌、尖った耳、きつく撫で付けられた銀髪、片メガネ。
黒い革の乗馬ズボンと仕立ての良いジャケット。
ふくらはぎまである乗馬ブーツもピカピカに磨きぬかれている。
明らかに魔族の貴族か有力者だ。
若衆(親衛隊)だろうか、他に3名ばかりの男性が門をくぐってくる。
「あら、ザボス公爵殿下。お久しぶりですこと」
と言ってメルは軽くおじぎをする。二人のメイドはもう少し深く頭を下げた。
アンネリーゼは客人であるゆえ頭を下げる立場にはないが、妙な目を向けられても困る。
ごく普通に貴人に対する礼を行った。
「これは失礼、メル様。いつ見てもお若くいらして何よりです」
ザボスと呼ばれた紳士も頭を下げた。
「褒めても何も出ませんよ」
にっこり応えるメルではあるが、なんとはなしに棘がある態度だ。
しかしザボスはそれを気にせず、
「いやいや、何をおっしゃいますやら。こうして年に一度、ご尊顔を拝謁するのが私の楽しみでございます。どうかこれからも末永くお美しくあれ。おうおう、モニカ!久しいのう。どうかな、私のところに転職する気は起きたかな?」
そう言ってモニカのそばに体を滑り込ませ、肩を抱くザボス。
アンネリーゼは反射的に長剣を抜こうとしたが(教会の教えでは権柄ずくで異性に迫るのは処罰の対象とみなされる)、シャンテに肩を抑えられた。
「あらいけませんわ、殿下。皆様見ておいでです。申し訳ありませんけれど、またの機会にということで♪」
柔らかく拒絶するモニカ。
すました顔で肩に置かれた手をつねりあげて排除する。
明らかに身分差があるのに、そんなことして大丈夫なのかとアンネリーゼは驚いたが、
「あーん、もういけず~。ねぇ~ん、いいじゃない~減るもんじゃなし~」
と、まんざらでもない態度でザボスは口をとがらせる。
その様子にアンネリーゼは嫌悪感をつのらせた。
魔族だからとか、教会の教えに反するとか、身分の違いとか、そういう問題ではない。
人としてか女としかはわからないが、なんだかそういう部分からこみ上げる怒りがあった。
見かねてメルが言葉を挟む。
「ところで主人に何か?」
「もちろんご挨拶にと」
途端にしゃっきりした態度になるザボス。
そういえばあの立派なご老人はどうしたのだろうな?とアンネリーゼが思うと、
「主人はもう寝てしまいましたわ」
「おや、どこか具合が?」
「いいえ、歳のせいですよ。まぁあと40年ぐらいでしょうかね、あの様子だと」
あっけらかんと答えるメル。その笑顔は少し寂しそうだ。
「おお、もうそんなお歳であられたか。村長とはいろいろありましたが、そう思うと少々寂しくありますな」
「寝床で死ねるだけでも幸せです」
「いかさま。ま、そうなると私のほうが早いか村長のほうが早いか競争になりますな!」
ガッハッハ、とザボスは笑った。
どうも好きにはなれないが、心底悪い人物ではないのかと、浅はかにもアンネリーゼは思った。
「ところで、」
と、ザボスの視線がアンネリーゼに向いた次の瞬間。
「こちらのお嬢さんは?」
ずい、と身を乗り出してくる。
鼻先がくっつきそうだ。
その距離わずか8インチ。
彼がまとうねっとりとしたいやな空気。
男性の香水の匂いに混じって、何かすえた臭いがかすかに漂う。
老年男性のにおいではない。
死体の臭いに近いが、それよりももっと禍々しい臭い。
懐かしくも忌まわしい臭い。
そうだ。
これは虐殺の臭いだ。
その臭いを意識した瞬間、アンネリーゼの力が抜けた。
臆したのではない。
体の奥底で何かが切り替わる。
あの森を思い出す。
罪なき民を踏みにじる領主を斬り伏せた時を思い出す。
西方蛮族との果てしなき死闘を思い出す。
騎士訓練場での過酷な日々を思い出す。
そして。
初めて自分の意志で人を殺した時を思い出した。
その瞬間、彼女は雷のような速さで抜刀した。
あまりの速さにブラウスの袖がほつれる。
しかしその白刃はザボスの腹を切り裂く前に、彼の指によって押しとどめられた。
「ほう。その歳でイアイを使うか。面白い。娘、それをどこで身につけた?」
ザボスの視線は先程までの好色に満ちたそれではなくなっていた。
好奇と狂気と殺意のないまぜになった色。
色にまみれた俗物としての演技をあっけなく脱ぎ捨て、元来の魔物としての本性をさらけ出す。
人の恐怖と狂気を滋養に、殺戮と破壊を繰り返す、正真正銘のモンスター。
正気の人間であれば、その目を見ただけで失禁しながら意識を手放すであろう。
しかしアンネリーゼの目もまた正気には程遠い、獣の目だ。
アンネリーゼの喉がぐるる、と唸る。
これはやばい。
これを倒さないと自分は死ぬ。
これを倒さないと自分の仲間が死ぬ。
これは人類の敵だ。
本能と教会の訓練、そしていくつかの戦場で脳髄に刻み込まれた戦闘意識とでも言うべき思考が、アンネリーゼの頭蓋の中で叫びを上げていた。
これを倒せ。
これを倒せ。
これを倒せ!!
一匹の戦闘獣と化したアンネリーゼを見て、ザボスは狂喜した。
あの戦争では随分と楽しんだが、550年生きてきた今日まで、ここまで純粋に闘争意欲に染め上げられたヒト族を見るのはこれがようやく2度め、160年ぶりだ。
メルと村長と祭りに来た民どもには悪いが、ここは楽しませてもらうしかない。
ああ、祭りとはこうでなくては!
しかしアンネリーゼとザボスが何か次の動きをする前に、二人は引きずり剥がされた。
アンネリーゼを掴んで引きずり倒したのはシャンテ。
ザボスの襟首をつまみ上げているのは、あのオークの騎士だった。
「よぉ、何やってんだ」
ぽかんとしているアンネリーゼをよそに、オークは低くしゃがれた声でザボスに問うた。
「貴様!! 何をす……や、やぁ、ボグロゥく~ん、久しぶりだねぇ!」
ザボスはおどけてみせたが、額には脂汗が滲んでいる。
「久しぶり、じゃねぇよザボスのおっさん。1発調子のおかしい直4やら、チャンバーに穴の空いたツーストの音がするからまさかと思ってきてみたら、重複駐車はしてやがるわ、村長のメイドに嫌がらせはするわ、挙句の果てにヒトの娘相手に爪を伸ばす。ハレの日に何やってんだ、アンタ」
オークは大きく恐ろしげな顔を突き出し、ザボスを正面から睨みつけた。
ザボスも6フィートほどの身長があるが、オークは6フィート半ほどもある。
腕も足も丸太のように太くたくましい。
ザボスの供の者が短剣を抜いたが、やけに及び腰だ。
「あいや、村長に挨拶に来たらね、見慣れないヒトの女の子がいるからね、ちょ~っと興味が……」
「興味が湧いたらアンタ爪伸ばすのか。そいつぁ全く粋じゃねぇな。ライダーの風上にも置けやしねえぜ」
ボグロゥと呼ばれたオークが目を細める。
「いや、そのね」
ザボスは額ににじませる汗を一層多くして何か言い訳しようとした。
「ま、いいやな」
ボグロゥはザボスをそっと下ろした。彼なりの気遣いらしい。
「あとでバイク見てやっから俺の店の前に綺麗に、いいか、綺麗に停めとけ。あんたらのバイク、重整備しないと近いうちに壊れるぞ」
「ああ、やっぱりそう?ピオニールにはボグロゥくんほどのメカニックはいなくてねぇ」
「いいからさっさとバイクどけろっての」
「痛いッ!」
訂正。
ボグロゥはザボスに気遣いなどしていない。
ザボス一行はボグロゥに尻を順に蹴っ飛ばされながら外へ出て行った。
ボグロゥもそそくさと門を出ようとしたが
「ボグロゥちゃん。お待ちなさい」
とメルに呼び止められ、バツの悪るそうな顔をした。
「それでなんともなかったんですか?」
村の広場に面した食堂で、トマスはバターを乗せた蒸し芋をフォークで割りながら驚いた声を出した。
ザボスたちと入れ替わりにやってきた彼は、メルにアンネリーゼの案内役を頼まれていたのだ。
「うまいところでボグロゥ殿が来て下すってな」
「俺ァバイクが気になっただけだ」
濃紺の袖なし外出着に着替えたシャンテがうなぎの蒲焼を頬張りながら言うと、ボグロゥがぶすりとつぶやいた。
アンネリーゼ、シャンテ、トマス、ボグロゥの4人はメルに小遣いをもらって早目の昼食にきたのだ。
テーブルには見たこともないほどの色とりどりの野菜や果物、肉やパンなどが並べられ、アンネリーゼの食欲を大いにそそった。
「ひえー。それでよくもまぁ無事で。ザボス公は魔王領でも上位の実力者ですよ。司法にも警察にも軍にも顔が利く。下手に逆らったらこれもんですよ」
と、トマスは自分の首を絞める真似をした。
「うう……面目ない。恐怖や怒りで失神しそうになると、いつもああなんだ……」
アンネリーゼは片手で頭を抱えた(もう一方の手には子羊の肋肉が握られている)。
アンネリーゼには『警察』が何を意味するかピンとこなかったが、ともかく大変な人物相手にとんでもないことをやらかしたということは理解した。
一方では、ああ、またオークの騎士殿に助けられたなぁ、とも思っている。
こういう時はきちんと礼をするのが人の道だ。
教会の経典にも書いてある。
「あの、先ほどは誠にありがとうございました。不調法、平にご容赦を」
立ち上がり、ボグロゥに対して礼をする。
「気にすんない」
ボグロゥはアンネリーゼをちらりと見、すぐに目をそらしてグラスを傾けた。
「いえ、そうは参りませぬ。騎士殿には一度ならず二度までもお助け頂いたのですから、何かお礼を。せめてお名前だけでも」
言われて、ボグロゥは軽くため息を付き、立ち上がった。
アンネリーゼより頭一つ半大きい。
彫りが浅く、それでいて大きな顔。
突き出た牙。
豚のように上を向いた鼻。
髪の毛はなく、耳は尖っている。
容貌魁偉といえばまさにそうだが、その目は理知的な光をたたえている。
「ボグロゥだ。騎士じゃねぇ。この村で鍛冶とバイク屋をやってる。アンタを山で助けたのはまぁ、趣味みたいなもんだ。気にするな」
といって、ボグロゥは右手を差し出した。
アンネリーゼはその手をしっかりと握り返した。
思わぬ握力の強さに、ボグロゥはちょっと驚いた。
「アンネリーゼ・エラです。改めまして、誠にありがとうございました。我が生命救ってくださいましたこと、生涯忘れませぬ。この御礼、必ずやお返しいたします」
アンネリーゼはほんの少し頬を染めながら、ボグロゥを正面から見上げた。
教会騎士の平常業務、それも地方への派遣業務を多くこなすようになると、こういった態度を誰に対しても自然に取れるようになってくる。
あざといといわれればそれまでだが、この技術でうまくいった仕事が何件もあるのもまた事実だ。
「フン、まぁそのへんは適当にやってくれ、お嬢ちゃん」
アンネリーゼの視線に何か感じたのか、ボグロゥは手を離すとさっさと席についてしまった。
アンネリーゼも席についたが、なんとはなく頬が緩んでいるのが自分でもわかった。
二人のやり取りが一段落したことをみて、シャンテが口を開く。
「それでもまぁ、大したものであることよ。私も20年ほど前に同じような目に会うたが、腰を抜かして立つことも出来なんだ」
「へー。鬼のシャンテ姐さんにもそんなことがあったんだ」
トマスがジョッキを煽りながらシャンテを茶化した。
「そりゃあその頃はまだ角もあったしな」
と、今度は豚肉の塊を口いっぱいに頬張るシャンテ。
咀嚼する間にも、両の手は次の料理を物色している。
「つの?」
チーズとバジルを載せて焼いた、そばとライ麦のクレープを食べようとしていたアンネリーゼが疑問を口に出す。
「ああ、私の一族の間ではな、武士の子たるもの角を折られてようやく半人前なり、と言われておってな」
と、シャンテは黒く綺麗な髪を丸めた大きなお団子をちょいとずらした。
その部分だけ丸くはげて平らになっている。
よく見ると、薄い皮膚の下に骨が透けて見える。
「うわぁ、痛かったでしょう、これ?誰がやったの?」
「モニカの魔法。ザボス公の一瞥で腰を抜かした直後であったし、あ奴とは年も近いゆえ、ひどく応えたものよ。いま思わば、何となく面映ゆいような話でもあるがな」
「へー……」
と、アンネリーゼはつい手を伸ばして、角のあった場所を触ろうとしたが。
「ばっ、馬鹿!やめんか!助平!」
シャンテに激しく拒否された。
「うぬがどうであれ、私にそのような趣味はない!」
「ああ、それはその、まことに」
シャンテの態度の意味を正確に理解したのか、アンネリーゼも顔を真赤にして謝った。
「見るのはよくても触るのはダメっていうのがよくわかんないなぁ」
ソーセージを頬張りながらトマスが混ぜっ返すと、
「そこはそれ、我ら人に非ざれば、な」
とシャンテが流し目をくれた。
「そこのところの秘密を教えてもらうわけにはいきませんかね?」
「ふぅむ。昨日今日見知ったものの前でもおなごを口説きにかかるその根性は褒めてやる」
「恐悦至極に存じます」
二人のやり取りをみて、アンネリーゼはとても興味深いものを見たような顔をした。
彼女たちはまぁ、友達以上恋人未満というところだろうが、微笑ましいようなむず痒いような。
そういえば、村長とメル様もずいぶんと仲睦まじい様子だったが。
聖法王国では、夫婦といえど人前で過度に接触するのは法で禁じられている。
だから恋人同士は人前でも手を繋がないし、ましてや恋人になる前の男女が恋の鞘当を楽しむこともない。
独り身のものが傷つくからだ、と言われているが、本当の理由は誰も知らない。
ただ、神聖にして冒すべからざる法がそう定めているから、そうなのだ。
法に依りて人は人に成るがゆえ、かくあるべくしてかくあれかし。
ところがこちらでは、人々は人前で平然と睦言を囁き合う。
通りを見ても店内を見ても、誰か彼か恋人たちと思しき人々がふれあう様子を見ることが出来た。
たいていは同族同士に見えるが、異種族の睦み合いも珍しくはないようだ。
そのうちの2組は同性同士に見える。
信じられない。
アンネリーゼは苦笑しながら頭を振った。
村の広場に目をやれば、目にする範囲でざっと500人はいるように見えた。
祭りということで他所から来た者たちも居るのだろうが、村全体で考えれば、その数倍はいる計算になる。
2000人の魔族。
ありていに言って、恐るべき数だ。
魔族の1人は一番少なく見積もって大人5人と対等の戦闘力を持つ、と言われている。
160年前の大戦当時には、兵力30万を号した聖法王国は軍をあっけなく打ち破られ国土の南端付近まで蹂躙され尽くされたほどだ。
その恐るべき魔族が聖法王国を併合できなかった理由は、一人の勇者の活躍と、愚かなまでの魔族の統制のとれなさにあった。
魔族というものは姿形はもちろん気性も様々、集団としては非常に御し難い。
魔族が撤退時には多くの魔族が同士討ちをしていた、という話もある。
アンネリーゼが国を発つ前には、魔族は内戦にかまけていて国境を超えることなどそもそも考えてもいないのだ、などという話も聞かされた。
それがどうだ。
目の前を通りすがる多種多様な魔族たち。
あの耳が長い花屋はエルフだろうし、そっちのずんぐりむっくりした大工はドワーフだろう。
2頭曳きの馬車で屋台の建材を運んできたのはゴブリンとコボルドだし、あっちの方では爬虫類顔のものがなにか透明な糊のようなもので美しい細工物を作っている。
この店の女主人はどこからどう見ても人間そのものだが、狼と人間の間の子のような赤ん坊をあやしながら仕事をしているし、ほかにもたくさんの犬耳・猫耳・うさぎ耳が屋台を立てたり荷物を運んだりサボって上司から目玉を食らったりしている。
そして彼らの中に混じって、ちらりほらりと人間の姿も目にすることができる。
その人間たちは奴隷でもなければ食料でもなく、周りの魔族たちと一緒になって働いたり笑い合ったりしていた。
要するに、つまるところ。
とても平和だ。
もちろん、教会の教えや聖法王国の民草の考え方に則るならおぞましいことだ。
目に映る全ての者どもが人類の敵だ。
無分別で、法も知らず、本能のままに生きる略奪者ども。
聖なる法の御名の下、無辜なる民草を守るため、切り伏せるべきケダモノども。
そしてその魔族に親しく接する人間は、最悪の背教者にほかならない。
そのはずだ。
そのはずだった。
だがこれは何だ?
聖法王国の田舎町と何がちがう?
いや、聖法王国では人々はこんなにも朗らかに笑わない。
いつもどこかギスギスした空気が流れ、人々はお互いを監視しあっているのが聖法王国だった。
これが民族の、文化の違いというものなのだろうか。
ぼんやり広場を眺めながらそんなことをアンネリーゼが考えていると、
「どした、お嬢ちゃん」
と、1フィートもあるボウルのサラダをつつきながら、ボグロゥが話しかけてきた。
どうやらシャンテとトマスの醸す雰囲気に辟易してのことらしい。
「ああ、いえ、」
とアンネリーゼがなにか答えようとしたとき、猪の頭のような金属の塊が荷車を引いていくのが目に写った。猪の頭の下にはひだの生えた車輪がついており、ドコドコドコドコ、という音を立てながら駆け足よりは遅い速度で広場を出て行く。
アンネリーゼはそのまま思ったことを口に出した。
「ああいうのとか、あなたの鉄馬のようなものは、我が国にはなかったもので。魔法生物か何かなのでしょうか?」
言いながらボグロゥに向き直ると、先程までの投げやりな態度はどこへやら、ボグロゥの細い目がキラキラとした光に包まれていた。
「気になるか?」
「あ、はい。それに、あの時載せていただいた鉄馬にも、できることなら挨拶を、と。私はもう騎士ではありませんが、騎士たるもの、恩人とその馬には敬意を表すべしと仕込まれましたので」
「そういうことなら構わんよ。あとでうちの店にきてくれ」
「いえ、できればこの後にでも」
「うん、いいよ。案内してやろう」
途端に上機嫌になったボグロゥは瞬く間にサラダを平らげ、ライ麦パンで挟んだ厚切りベーコンにかぶりつく。
そんな彼の様子をアンネリーゼは不思議に思った。
一体何が彼の機嫌を変えたのだろうか?
それを見ていたシャンテとトマスが呆れた表情で短くため息をついた理由をアンネリーゼが思い知るまでは、ほんの僅かな時間しか要さなかった。
バイクが人に迷惑をかけるのではない。ヒトがヒトに迷惑をかけるのだ!(全米ライフル協会の会長がライフル掲げながら叫んでる写真のキャプション)
でもほんと公道で重複駐車するのやめような?