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女騎士、盗んだバイクで走り出す

「どうだ、やったか」


 居間の中央に置かれた大きなテーブルの上には村の地図が置かれ、魔王コー、ギュンター、ザボスを始めとした魔族の高位者がそれを取り囲んでいる。

 アンネリーゼ、エミリアはもちろんメル、シャンテ、モニカも一緒だ。

 すでに全員動きやすい服装に着替え、アンネリーゼとシャンテに至っては腰に愛用の刀剣をぶち込んでもいた。

 部屋の端の方には小振りなテーブルが置かれ、その上に置かれた魔導無線機数台に何名かが張り付いている。

 つまるところ気取らない宴席であったはずの村長宅の居間は、いつの間にか野戦指揮所と化していたのだ。

 庭に面しているはずの一面は、鈍く輝く真っ白い壁になっている。


「……駄目です、突入1班全滅、生存者ゼロ。標的Aは逃走、標的Bらしき男は判別がつかないそうです」

「なぜだ」

「その、ぐちゃぐちゃだそうで」

 

 無線機に張り付いた通信手を通じて状況を確認していた魔王領公安警察特殊戦術部隊(SAT)司令官ヘグルンド伯爵は小さく罵った。

 すぐに突入2班を追跡に回し他の班で包囲を形成するよう伝えたのち、両手を膝についてザボスに頭を下げた。

 頬に向こう傷をもつオーガーの彼がそうすると、まるでやくざ者のようである。


「陛下(おやじ)、ザボスの叔父御、すいやせん」

「そうなったものは仕方がない。努めよ」

「へッ!」


 ヘグルンドは手すきの部隊を確認すると、彼らに捜索遊撃を命じた。

 とは言っても祭りの夜である。

 人出が多すぎ、うまくいくかは微妙なところだ。


「我らの敵はなかなかのものと見える」


 ザボスは心底感心した声を出した。

 公安警察特殊戦術部隊は、彼が最後に作った部隊である。

 2000年前の戦争以前から続いてきた魔王領内部の不正規活動、その集大成でもある。

 組織を問わずこれはと思われる人材を集め選別と訓練を繰り返し作られた特殊戦術部隊は、こと犯罪および対テロ捜査活動においては魔王領内に並び立つもののない存在である。

 それが手もなくひねられたとあっては感心するよりない。

 できる手はすべて打ってしまったとあってはなおさらだ。


「あ、ザボスくん、もういいよ」

「おう、忘れておったわ」


 地図を眺めていたコーがつぶやき、ザボスはそれに応じて指を鳴らした。

 エンガワに展開していた魔法が解除され、それに映し出されていた映像――アンネリーゼの首を落としたエミリアが魔族たちに膝をつき謝罪しているシーン――は掻き消えた。

 同時にモニカが防音結界を解除する。

 真っ白い壁が消え失せ夜の広場の風景が広がると同時に、屋外の喧騒が流れ込んできた。

 

「大したものですね」

「ありがたいが、エミリア卿。のんびりしておる場合ではない。その方らの策に乗って敵の首魁を釣り上げたは良いが、逃げられてしまっては元も子もない」

「誠に」


 エミリアは額に手を当て、ザボスは顎を指でつまんで、コーは腕を組んだまま呻いた。ギュンターに至ってはほとんど瞑目するがごときだ。

 状況はザボスの指摘するとおりだからである。

 どうせなら派手に暴れてくれればまだ補足もできるだろうが、人混みに紛れられてはそれも困難だ。  

 どうしてこういう状況になったかを説明するには、アンネリーゼがメルと嫌味の応酬を行った少しあとまで時間を巻き戻す必要がある。


-------------------------


 アンネリーゼの説明するところによれば、教会からの指令はまずレンサル峠から魔王領へ潜入ののち、連絡員からもたらされる指示をもとに行動すべし、というものだった。

 そのあたりはエミリアも同じである。付け加えるなら、彼女はアンネリーゼに先立って潜入し、魔族の習性をつぶさに観察した上で連絡員からもたらされる指令を実現する作戦を立案し、アンネリーゼと合流後、即刻実行せよ、というものだった。

 指令は160年前からすでに潜入している教会の諜者――隠れたる玄孫修道会と自称する地下結社――がもたらし、エミリアが直接教会関係者と接触することは稀であった。その稀な直接の接触にしても、相手の顔を見ることはさらに稀であった。諜者同士顔を知らないことは互いの身の安全を守ることにつながるから、不思議はない。

 情報の通達(・・)には魔法で加工されたリンゴ飴が用いられる。

 これに記された暗号を解読するにはいくつか条件があった。

 必ず種まで食べること、種はすべて食べること、あらかじめ暗号解錠キーとなる魔法を施されたものを食べて解錠酵素(マスターキー)を蓄えておくこと、だった。

 解錠酵素(マスターキー)がない者がこのリンゴ飴を食べてもただのリンゴ飴でしかない。

 

「とすると、最初にアンネちゃんが食べたあのリンゴ飴も」

「そうです。あれに任務が記してあったのです。近いうちに魔王がこの村に来る、その首を取れ、と。しくじればエラ修道会は潰れるぞ、と。あの難民たちはエラ修道会と私達に対する見せしめです。エミリア先輩と合流した後に食べたリンゴ飴には、投入されるであろう警護兵力と魔王陛下の人となりが記してありました。エラ修道会や難民たちについても、念のためもう一度、です」

「であるにもかかわらす、あなたは裏切る意志をいま表している。なぜかしら?」


 メルに対してアンネリーゼは肩をすくめてみせた。


「目の前の難民を放っておいて、教会にそこまで尽くす義理はありませんよ。それに、これはエミリア先輩にはあとでお伝えしようと思っていたのですが、エラ修道会は中央修道会に対して自治権拡大闘争を明日にも始めます。ナスティア家もエラ修道会に賛同しています。もちろん、武力行使も視野に入っています。つまり私個人としては誰慮(はばか)ることなく好きなようにふるまえる機会が来たというわけで」

「待て、アンネ。そのような情報は私は」

「これはエラ修道会からあの難民たちに託されて、私に直接与えられた情報です。ちょっと出来過ぎなような気もしますけれど」


 アンネリーゼはエミリアに対してその立派な胸を張った。

 納得できないエミリアはさらに尋ねる。


「それがエラ修道会からの情報だという証拠は?」

「エラ修道会の高度認証暗号の記述と修道会騎士団団長フィルマン様の署名が見えました。が、私はこのさい嘘でも良いと思っております」


 アンネリーゼはあっけらかんと答え、エミリアと他の者達は口をあんぐりと開けた。


「エミリア先輩も気づいてらっしゃるじゃないですか。エラ修道会騎士団の2枚看板と謳われた私達が揃って魔王領に派遣された時点で、何をどうやったって、エラ修道会はおしまいです。その上でナスティア家だけでもまともに救い、魔王領との停戦合意を維持させ続けるなら、魔王陛下を弑し奉り、ザボス公爵殿下もなきものにした上で、エミリア先輩、あなたがあなた自身の手で私の首を刎ねる必要があるのです。その上で無事に皇都まで戻ることが出来たなら、エラ修道会も救えるかもしれません。可能性は限りなく低いですけれど」

「……だからさっき、私に介錯できるかどうか聞いたのか」

「私はもとから中央修道会から目をつけられていますからね。戦後、少々やりすぎました。どうせ討たれるのであれば、先輩やシャンテにそうされたい。中央修道会のバカどもの手にかかるのは、絶対に嫌です」

「じゃあ、アンネちゃんはどうするつもりだったの?」


 アンネリーゼがそこまで言うと、メルが口を挟み、エミリアは口をぱくんと閉じた。


「そりゃあまぁ、停戦合意を破棄させないっていう線で考えると、私がザボス公に一太刀浴びせてエミリア先輩に介錯されるというのが、現実的なシナリオでしたかねぇ。そのうえで、こちらを目視確認してくるはずの敵を逮捕できればいいんですが」

「うーん。それじゃあちょっと弱いわねぇ……さっき言ってた、コーちゃん殺す内容で行きましょう」


 朗らかなメルの声にまたしても口をあんぐりとさせるエミリア。

 アンネリーゼも流石に怪訝な顔をする。

 アンネリーゼの悲壮な覚悟に感極まっていたシャンテなどは、まるきり混乱した表情だ。 


「ねぇモニカ、ザボス公爵殿下の幻影魔法なら、これぐらいお茶の子さいさいよね?」

「えぇ~。私の結界魔法と合わせるならぁ、かなりのことが出来ますよぉ。若いときはそれで人様の謀議の場面をでっち上げてぇ~気に食わない相手を罠にはめたりしてたそうですしぃ、さっき言ってた内容でぇ、映像を作るのは出来ないはずはないですねぇ~」


 メルに問われたモニカはいつもどおりぽやぽやした表情で答えた。

 それを聞いたメルは我が意を得たりという笑顔をしてみせ、小さな体躯ながら威厳たっぷりにこう言った。 


「そういうことよ。死ぬ覚悟を決めるのは今からでもいいけれど、それしかないと思うの良くはないわ。まぁちょっとおばちゃんたちに手伝いさせなさいな」


 メルの言葉を理解した二人の教会騎士が膝をついて頭を垂れたのも、無理はなかった。


-------------------------


 ゼラがそれを持って村長宅に来たのは、アンネリーゼたちの密談が一段落し、護衛大隊司令チェレンコフ大佐がトマスを伴って(・・・・・・・)現れた夕5つ頃である。

 彼らは「晩餐会の警備計画の打ち合わせ」と称して村長宅を訪れたのである。

 ゼラとトマス、チェレンコフはすぐに控えの間に通された。

 先にザボスの名代としてと称してやってきていたアッシュ、ようやく身なりを整えたギュンターも居る。

 ドレスのままメルたち4人も控えの間に入り、モニカが結界を張る。

 アンネリーゼが促すと、ゼラはそれを見せた。

 リンゴの種の外皮は、普通黒か茶褐色だ。

 ゼラが持ち込んだもののように、黄金色に輝いていたりはしない。

 アンネリーゼとエミリアすら見たことがなかった。

 なぜリンゴの種が問題なのかとメルが問うと、二人は聖法王国では食品廃棄物の減量が義務付けられており、信徒はほとんど反射的に種を食べてしまうこと、この種は見たことがない術式でコーティングされており、何が起こるかわからず危険であることを告げた。 

 


 その後、難民たちには病原性食中毒の疑いがかけられ講堂への隔離と胃腸洗浄が行われた。

 難民たちは特に不思議に思うこともなく、唯々諾々と魔族たちの指示に従った。

 彼らにしてみれば、指示を出すものが教会関係者や貴族たちから魔族の役人に取って代わっただけのことである。ゼラが吐き戻したことももちろん彼らに影響している。

 講堂には村役場の呼びかけに応じた医師と看護師、魔法使いが数名詰め、不測の事態に備えることになった。


 くだんのリンゴ飴屋は、宵6つごろ、テキ屋衆の親分(露店の元締め)から店を畳むよう命じられた。

 店主が渋る間も与えられず屋台は解体され、完成商品と素材すべては没収された。

 ようやく我に返った店主がどうしてだと聞くと、テキ屋衆の親分は「オメェんところのリンゴ飴食って腹ァ壊した貴族のお嬢さんがいて、親父さんがカンカンなんだよバカヤロウ」と告げ、彼を引っ張って暗がりへと消え去った。

 なんにせよ、よくあることでもある。


-------------------------


 そして現在。

 トマスがジャンセンから買った情報その他をもとに、村長宅を見張ることができる安宿をピックアップ。

 そこに宿泊する男女の中に、リンゴ飴屋とつながりのあった小太りの男と、以前から公安がマークしていた”女実業家”――実際はどんな実業をしているのかわからない――が居ることがわかった。

 会話その他を確認したのち強襲をかけ、返り討ちを食らったのがつい今しがた、というわけだ。


「アンネリーゼを出しましょう」


 しばらく考え込んでいたエミリアが唐突に言った。

 コウタロウ、ザボスは面白そうな顔をし、ギュンターは怪訝な顔つき、チェレンコフやヘグルンドといった軍警の指揮官たちは不快さを表した。

 アンネリーゼ本人は唇をきゅっと引き締め、いつでも駆け出せるように膝の力を抜いた。

 公安警察特殊戦術部隊が強襲をかけた旅籠が視界の端に見えた。

 そちらの方から祭りのそれとは違うざわめきが漂ってくる。


「どういう考えだエミリア卿」

「敵の現地指揮官はここにいる我々に、いえ、アンネリーゼに嵌められたと思ったはず。いまは相当気が立っていますよ。もう一度釣り上げるなら今しかない」


 ザボスの問いに、エミリアはハキハキと答えた。


「彼奴めを知っているのか?」

「知っているも何も、この女」


 小太りと一緒にいた女性の写真を取り上げるエミリア。

 早口で続ける。


「私に魔王領での立ち居振る舞いかたを教えたものです。教会法規保全部二課、マルセル・ボンフィスと名乗っていましたが、実名ではないでしょう。所属もカバーかと。潜入が長引いているのが辛かったのか、普段は冷静沈着この上ないのですが、少し計画がずれると冷静なまま癇癪を爆発させていました。それで手下を何人も殺しています。このまま取り逃すと村の建物という建物に火をかけかねない」

「お主が嵌めたと彼奴は思わぬのか」

「思いません。私は騎士団、ああ、大隊や聯隊レベルの部隊が互いに腹読み合って運動を繰り広げるような戦のほうが好みです。今回のような事態、不正規戦とか特殊戦というのでしたか、こういうのはアンネのほうが得意です。そしてこのことはマルセル某もよく知っていました。彼奴はアンネか、ザボス公爵殿下、貴方の策のどちらかだと思います。アンネリーゼ、貴様、どう見る」

「マルセル某のことはよくわかりません。が、中央修道会騎士団の不正規戦部隊であるならば、なにかこちらを大いに混乱させる手を打った上で脱出するでしょう。魔族の特殊戦部隊の強襲を受けて切り抜けられる技量と胆力の持ち主ならば、夜間、単独の峠越えも楽にできるはず。ですが国境を超えるまでに必ず食いついてみせます。脱出ルートは限られています。不可能ではありません。私を囮として、精鋭の方々で追っていただくのが最善かと」


 ザボスはほんの数瞬考え込み、それから魔王コーとギュンターにうなづいた。


「アンネリーゼさん。一つ聞きます。貴方は我々の味方になるのですか?」


 魔王コーことコウタロウ・スギウラは真剣な眼差しでアンネリーゼを見つめながら問うた。

 広場の北の方で何か大きな音がし、村役場の方で鋭い誰何の声がする。

 アンネリーゼも真摯な態度で返答した。


「はい、陛下。私はあなたがたの味方にはなりません。私は常に民の味方です」

「貴方の言う民とは、教会信徒だけでしょうか?」

「はい、陛下。私はこの地に住まう陛下の赤子(せきし)も好きになりました。前魔王、王太后両陛下やシャンテやモニカのお陰です。私の愛する民は、陛下の赤子です」

「ならばお行きなさい。仔細は任せます」

「はっ!」


 アンネリーゼははちきれんばかりの笑顔を見せると、さっと駆け出した。


「陛下(オヤジ)!! あやつを信じるんかい!!」


 ヘグルンドが吠えた。無理もない。

 彼は先程1チームを叩き潰された公安警察特殊部隊の指揮官である。

 エミリアとアンネリーゼの策に魔王も乗るというのでは、彼の面目は丸つぶれだ。

 しかし魔王の返答もまた権力者にふさわしいものだった。


「信頼はしませんよ。彼女一人の命で敵の身柄を抑えられるなり仕留められるなりできるのであれば安いものです。ま、どちらも難しいのではないかと思いますが」

「ほんじゃあなんでよ」

「エミリアさん、アンネリーゼさんともに『敵は何か面倒を残して逃げる』といっています。私も、ギュンターも、ザボスくんも断然同意見です。先程の物音、誰何の声はそれでしょう。我々は面倒に対処しなくてはなりません。それに、彼女はおとりとしては実に優秀ですよ。最初誰もが彼女こそが敵の本命だと信じて疑わなかった。誰もが、私ですら彼女を無視できない。それは敵も同じです。私はそこに期待します」

「はぁ」


 ヘグルンドは納得しきれない様子であったが、報告が彼の意識を変えさせた。

 村内10ヶ所以上で家屋倒壊と火災が発生、同時に現場に怪異出現。

 民間人に死傷者多数、至急救援を乞う。


「陛下(オヤジ)」

「そこで何をしているのです」

「ヘッ!」


 張り詰めた表情でヘグルンドは振り返り、通信士に各分隊を避難誘導と怪異の駆除に向かわせる指示を出した。


「幸いにして軍の統帥権はまだ私にあります。また、非常時の司法権、行政権も。そうですね」


 魔王の声に軍、警察関係者は全員が起立し背筋を正した。

 チェレンコフが代表して返答した。


「はい、陛下。お言葉の通りであります!」

「よろしい。当地に非常事態宣言を発令。王権を持って私自身を軍最高司令官に任じます。続いて軍最高司令官として下令。当地を来訪している貴族諸君の私有兵力、これを一時的に我軍に編入、護衛大隊指揮下に置きます。チェレンコフ君、直ちに指揮を取りなさい。これより護衛大隊は村内各所に発生した怪異を敵による攻撃手段と想定し、これの排除にあたりなさい。復唱は結構。特殊警護隊は1個分隊と指揮班を残して敵工作員の追跡に当たりなさい。ギュンター村長。この村の行政権、司法権、警察権を一時的に接収します、それと」

「陛下。我ギュンター・グリュン・ドラゴ退役元帥は軍への復帰を希望する。好きな様に使って欲しい」

「儂もだ、陛下。我ザボス退役上級大将は軍へ復帰するぞ。前線勤務が良いな。久しぶりに体を動かしたい」


 魔王コーの先を取り、ギュンターとザボスはにっかりと笑いながら軍への復帰を希望した。

 機先を制された魔王コーは一瞬ぽかんと口を開けていたが、ニコリと笑うと、頼みますと告げた。

 ハハハと笑おうとしたところでギュンターとザボスが向こう脛を蹴られてうめき声を上げる。


「あっつ!?」

「ぎっ!」

「ちょっと、あなた。公爵殿下も。また私を置いてけぼりにするんですか?」

「あ、ああいや、その」

「メル様はここでお待ちあれ」

「黙らっしゃい!」

「「アッハイ」」


 見下ろすと露出のやたらと多い革鎧に身を包んだメルが肩を怒らせていた。

 その後にはシャンテとモニカがかしずいている。

 ギュンターとザボスは何か言おうとしたが、メルがピシャリと叱りつけると肩をすくめて押し黙った。


「陛下。わたくしメル・メルルゥ・ドラゴ以下2名、義勇兵として志願いたします」

「よろしいのですか」

「王宮警護局9課、今の王宮警護局特殊警護隊(スペツァルズ)に稽古をつけたのはわたくしですよ。それにシャンテとモニカ、2人合わさればわたくし1人かザボス公爵殿下半人分の仕事はできます。なにより、また主人の背中をただ見送るのは嫌ですの。死んだほうがマシですわ」


 魔王コーはメルの申し出を苦笑とともに、快く受け止めた。


「やれやれ、困ったお人です。とても我が妻、アルルの妹とは思えません。ですが大変ありがたい。ギュンター。ドラゴ家家中の与力、まことに感謝しますよ」


-------------------------


「アンネリーゼさん!」 


 ボグロゥに言われるままヘルメットで殴りつけ、店からセロー225を拝借したアンネリーゼをトマスが呼び止めた。

 普段から予備役部隊の指揮をこなしていることを買われ、志願者による応急防御部隊を指揮しているのだ。

 村の至る所で出現した怪異は15体。今や村は全くの戦場と化している。


「トマス中尉!」

「ボグロゥさんは!?」

「巻き込みたくないから眠ってもらった。というか、そういうことにされちゃった」

「うへぇ。あの人らしいや。憲兵によるとさっき峠の方へ何人か走っていったらしい! 徒歩です!」

「例の女は?!」

「わかりません! だが、エミリアさんの読みが正しければあなただけでも確実に仕留めようとするはずだ! できるだけ目立ちつつ、先回りしろ! 接敵したら喉笛に噛み付いて離すな! 増援は絶対に出す!」

「わかった! こっちは任せて! シャンテを泣かさないでね!」


 アンネリーゼはトマスと拳を突き合わせると、レンサル峠への道を走り始めた。

 村役場の講堂はとくに異常はないようだ。

 だがもし一歩間違えれば、もしゼラの警告が間に合っていなければどうなっていたかわからない。

 いや、今でも安心はできないのだ。


「人でなしのクソ野郎どもめ」


 アンネリーゼは歯ぎしりしながらギアを上げ、更にスロットルを開いた。



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