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神音のアマリリス  作者: 佐崎 一路
FIRST CHAPTER
7/12

[CO-1] MONSTER TAMER

ふと気が付けば5ヶ月も更新してなかったようで、申し訳ございません。

 覚えのある浮遊感の後、トンとつま先が固い地面に当たった。

 三回目ということで足首と膝のバネを使って姿勢を崩さずに柔らかく地面に降りた私は、素早くナイフを抜いて構えながら、油断なく周囲の気配を窺う。


 いまいるのは縦横二・五メートルほどの通路の真ん中で、見える範囲内には私以外の人影も異形のモンスターもいない。


 ここが八階ということか――。

 壁を背にほっと息をつきながら、改めて四方に視線を走らせる。


 採石場から切り出したばかりのような不揃いの岩が積み上げられて、四方の壁が構築されている。岩の材質は不明だが、十~九階同様にうっすらと光を放ち周囲を照らしていた。そこまでは九階までと変わらなかったけれど、一番の違いは岩の色が灰色から青に変色していたことだろう。


 パッと見鍾乳洞のようである意味幻想的で美しい光景と言えるかも知れないけれど、ここが私たちを閉じ込めて殺し合いをさせる為に“神”が仕掛けた箱庭の中であることを考えると、美しさよりも先に寒々しい無機質な氷室の中にでも入れられているような気がして、知らずぶるりと背筋に悪寒が走った。


 そういえば寒色系の色は沈痛効果があるので病院などに使われる反面、見ていると時間感覚が狂わされ普通よりも時間の流れが短く感じられるという。その為にまずは早く行動しなければいけないという強迫観念が生まれる。

 また距離感覚にも、青は後退色なので実際の距離よりも余裕があるように感じる為に、まだ余裕があると感じられる、それで事故を起こす車が多い世界的に事故車の色のナンバーワンとか聞いたことがある。


「つまり強迫観念が迫られる上に、距離感を狂わせる迷宮ってわけか」

 そのあたりの錯覚も狙って、あの“神”はこの場所をこの色にした……というのは考えすぎであるかも知れないけれど、でも常に最悪の予想は立てておくべきだろう。


 そう思いながら私はとりあえず『探知(サーチ)』で、エルとレオの現在位置を探ってみた。

 かなり離れた、それもバラバラの位置にふたつの光点が見える。

 上を仮に北とした場合、エルがいるのは私から見て北西部で、レオは北東部で三人で逆三角形――レオの方が若干近いので、ちょっと歪なかたちだけれど――となっている。


 縮尺の目安がないので明確な距離は掴めないけれど、大体の感覚としては九階層よりもさらに広い範囲に分散させられた気がする。以前の自動地図作成(オート・マッピング)に準じると仮定した場合、私から見てエルまで直線でざっと五百メートル。レオまで四百メートルというところだ。


 どうする、まずは三人が合流するのを目指すか、それとも――。

 一瞬、レオとの合流を優先し、足手まといになりそうなエルを見捨てて出口の探索をすべきでは……という考えが浮かんで、私は慌てて首を振った。


 何を馬鹿な。

 そんな簡単に切り捨てられるくらいなら一緒に行動したりはしない。

 そもそもそんなことをレオが許す筈もない。


 ……どうにもいけない。せっかくのパーティが無理やりバラバラにされ、右も左もわからない、なおかつモンスターがいるであろう場所にポツンとひとり放り出された状態で、知らず精神が消耗していたようだ。

 落ち着かなければ……。


 そう息を整えた矢先――

『神音、エル! ふたりとも無事か!?』

『神音お姉ちゃん、どこにいるの?!』

 胸ポケットに入れていた『身分証(パス)』から、レオとエルの声が流れてきた。


 ああ、そういえばパーティを組んだ相手とは、お互いに交信ができたんだっけ。焦っていたせいで忘れていたよ。

「エルちゃん無事? 危ない目にあっていない?」

『う、うん。青い通路のところにいるけど、大丈夫』


 案外しっかりしたエルの返事に、私はとりあえずホッと胸を撫で下ろす。

 どうやら状況としてはここと変わらないようだ。これがせめてパーティ単位で転移できていれば安心だったのだけれど、ものの見事にランダムに振り分けられたようなのでまずは合流を目指さないとお話にならない。

 まあ、この配置にしたのは、おそらくはこれもあの底意地の悪い“神”が意図して行った工作なのだろうけど。


 こうして余分な時間を消費して、またマップ上を歩き回ることでモンスターとのエンカウント率を上げて篩いに掛ける。いや、ひょっとして先ほど私がちらりと思ったように、足手まといになりそうな相手を切り捨てることで人間関係に不和を招く為に意図したのかも知れない……そんな風に考えれば考えるだけ相手の悪辣さが見えてきて不快になってきた。


『あー、いちおう俺も居るんだけど……』

 そんなことを考えていたところへ、レオのちょっと拗ねたような声が割って入った。


「ああ、そちらもご無事のようで安堵しました」

 まあ、レオの場合ちょっとやそっとの逆境ではへこたれなさそうなので、あまり心配する気もなかったけど。


『いや、結構シビアだったぞ。飛ばされたと思ったら、いきなり人魂を漂わせた骸骨に襲われたし』

「骸骨?」

『ああ、木でできた棍棒みたいなのを持った動く骸骨と、赤く燃える火の玉だ。骸骨を倒した後でも人魂が襲ってきたから、セットでなくて別々のモンスターなのかも知れないな』


 なるほどこの階のモンスターは『スケルトン(仮名)』と『ウィルオーウィスプ(仮名)』といったところか。他にもいるかも知れないけれど、事前情報が手に入ったのは心強いところ。


「強さてきにはどの程度ですか? ルコサイトに比べて」

『骸骨の方はそこそこ堅くて頭を砕かないと動きをとめないので面倒臭い。人魂のほうは動きが空中を浮遊しているので捉えにくかったけど、一発当てたら四散した。強さとしてはルコサイトと変わらないけど、数で押されると危ういかも知れない』

「なるほど。では、小部屋などの囲まれやすい場所は避けるべきですね。まずは三人の合流を優先させましょう。レオ、先行してエルちゃんを保護してくれませんか? 私は私でそちらに向かいますので」

『俺の方からだと、神音のほうが少し近いけけど?』

「いまは時間との勝負です。まずはエルちゃんと合流してください。私ならどうにか戦闘を回避するなり、時間を稼ぐなりできますから」

『――わかった。急いでエルに処へ向かう。無理するなよ、神音』

『……神音お姉ちゃん、ごめんなさい、ボクが足手まといなせいで……』


 沈んだ声のエルに向かって、私は見えないとわかっていても首を横に振りました。


「そんな風に考える必要はないの。私たちはチームなのだから、お互いの足りないところをフォローし合うのが当然なの。わかっていると思うけど、ゲームでは回復職がいるといないとでは天地の違いなのだから。当然エルちゃんの治癒がこれから先、必ず必要になる筈。だから、エルちゃんを優先して保護するのは当然なの。そんな風に卑下しないで」

『う、うん。わかったよ! すぐにレオさんと合流して、神音お姉ちゃんのところへ向かうから、待っていてね!』

「ええ、そちらも無理はしないで、危なくなったらレオが来る方向へ逃げるようにしてね。――レオ、エルちゃんをお願いします」

『うん!』

『ああ、任せておけ!』


 ふたりの心強い返事を聞いて、ほっと安堵のため息をついた私は『身分証(パス)』を仕舞い。改めて『探知(サーチ)』と『自動地図作成(オート・マッピング)』を起動して、現時位置とエルたちとの位置関係を確認してみる。


 見れば素晴らしい速度でレオがエルへと向かって突き進んでいる様子が窺い知れた。

 たまに途中で立ち止まっているのは、件の『スケルトン(仮名)』か『ウィルオーウィスプ(仮名)』と戦闘をしているのだろう。だいたいの勘では三十メートル進むごとにエンカウントしている気がする。


 まあ、レオの場合は周囲に気を払うとか、迂回するという選択肢はないので出会いがしらに殲滅しているのだろうけれど、私には同じ真似はできないのでなるべく気配を消して、種族スキルである『夜目』を十二分に使って、無駄な戦闘は避けるに越したことはないだろう。


 そう心に決めて私はふたりに合流すべく、ゆっくりと通路を歩き出した。


 ◆◇◆◇


「……ふう」

 思わず安堵のため息が漏れる。

 通路の向こうから現れたスケルトン(仮名)が一体、十字路になった角を曲がって右手側に消えたのを確認して、二十数えて戻ってくる気配がないと判断をして私は隠れていた角から顔を覗かせた。


 レオの話に聞いて覚悟をしていたこの階のモンスターであるスケルトン(仮名)だけれど、腐乱し肉が剥がれ落ちた死体という風ではなく、磨いた骨か骨格標本のように白く滑らかで意外なほど清潔だった。

 この点は精神の安定上、非常に助かったけれど、反面ゲームや映画とは違って動きが非常に自然で、骨格しかないというのに生きた人間のようにスムーズで、足音も静かに動き回っている。私のように『夜目』が使えるなど事前に察知できるスキルがないと、不意打ちを喰らう危険もあるだろう。


 あとは話に聞いたように右手に太い棍棒を下げていた。身長はいまみた個体で百八十センチ近くと意外と大きく、膂力がどの程度あるのかはわからないけれど、もしも人間と変わらない程度の腕力を持っているとすれば、そこそこリーチもあることなのでかなり厄介な相手と言える。


 レオのように正面から粉砕できるだけの腕力も武器もない私としては、正面からやりあうような蛮勇は冒さずに、ひたすら逃げの一手に走ったほうが良さそうだ。


 そう改めて思い直して、強張っていたナイフを握る指の力を緩めかけたその瞬間、不意に角を曲がって赤い光を放つ玉のようなものが現れた。


「――ウィルオーウィスプ!?」

 しまった! 油断した。


 スケルトンにばかり注意を払っていたために、天井付近を浮遊するこれに気が付かないでいたらしい。

 気を抜いて気配遮断を緩めたのも失態だ。


 慌ててナイフを構え直したところへ、ウィルオーウィスプ(仮名)が体当たりしてきた。


「くっ――!」

 咄嗟に身を捻って躱したけれど、髪の先端が何本か焦げて嫌な臭いが周囲にたちこめる。

「このッ!!」


 横薙ぎの一撃は簡単に避けられ、お返しとばかり顔を狙って迫ってくるハンドボール大の火の玉――正確には炎の塊ではなく、熱を放つ光の塊に思える――から、慌てて顔を逸らして距離を取った。


 ふわふわとシャボン玉のように飛ぶウィルオーウィスプ(仮名)は動きが不規則な上に、予備動作がない為に迎撃するのが非常に困難である。レオの話では耐久力はそれほどでもない筈なので、私のナイフでもどうにかなるとは思うのだけれど、当たらなければどうしようもない。


「よくレオはあんな大きな剣で当てられたこと……」

 愚痴ってから、そういえば彼ってテニスの世界的なプレーヤーだとエルが興奮して喋っていたことを思い出した。

「……元のスペックの違いというわけね」


 不公平とは思うけれど、ここで産まれの不幸を嘆いても仕方がない。

「狙って当てられないなら手数で勝負!」


 私は空中を浮遊するウィルオーウィスプ(仮名)に向けて、ナイフを矢継ぎ早に繰り出した。

「このっ……当たれ、当たれ……当たらない!」


 けれども相手はまるでこちらを小馬鹿にするように、全ての攻撃を間一髪で避けては、時折反撃をしてくる。

 それをいなし、躱しながら必死にナイルを振るう私だけれど、だんだんと息が上がってきた。


「このォ――いい加減、止まりなさいッ!」

 後から考えれば、激しい運動と焦りからまともな判断ができなくなっていたのだろう。

 そう自棄で叫んだ瞬間、体の中から何かが『グンッ』と抜け、瞳を通って視線に乗り、空中のウィルオーウィスプ(仮名)へと直撃した。


 ――?!?

 途端、ウィルオーウィスプが困惑したように宙に留まった。


『スキル:魅了(チャーム)発動。十秒以内に従魔契約可能(0/1)契約します。YES/NO』

 久々に脳内に表示が出た。


「従魔契約……?」

 咄嗟に問い返すけれど、当然のように返事はなく、代わりに無常なカウントダウンが始まる。


『八……七……六……五……』

「えーい、もう! ――YES!!」


 とりあえず実践するしかない。と判断をして、カウント三を数えたところで了承した。

 刹那、赤い光の玉だったウィルオーウィスプ(仮名)が空中で青い光に包まれ、わずか瞬き二つする間に青い光の玉へと変化した。


『従魔契約完了。

 CLASS:スプライト(Lv1)

 NAME:???

 SKILL:光魔法(LV1)、火魔法(Lv1)』


 再びの表示が消えると同時に、ウィルオーウィスプ(仮名)改めスプライトが、おずおずという調子で私の傍へと近づいて来た。


 思わず手を出したその上に乗るスプライト。

 先ほどと同じように淡い光を放ってはいるものの、焼け付くような熱さはなく、ほんのり温かな白熱電球のような温もりで、火傷する事もなくフワフワと掌の上を漂うそれを見て、私の口から納得混じりの独り言がこぼれた。


「……なるほど、これが従魔契約ってわけ。使いようによっては、この先、非力な私の一番の武器になるかも知れないか」


 それからふと思い立って、私の周りをくるくると子犬のように回るスプライトに改めて視線をやる。

「それと、この子の名前も考えないとならないかな?」

また次回も気が向いたら書く予定です(;´Д`A

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