[OP-6] TRANSSEXUAL FANTASY
ほぼ4ヶ月ぶりの更新です。
私の中ではまだ続いているので、エタらずに今後とも気が向いたら更新します。
『さてさて、お待たせしました。これで生き残りのプレーヤーの皆様全員が、この場にお集まりになりました』
空中に光の粒子が寄り集まり、立体映像のごとく再び【神】が現れた。
長く伸びたぼさぼさの白髪に真っ白い仮面を被ったソレは、悠然と椅子に腰掛けたまま、相変わらず感情の見えない紅い眼を仮面の隙間から覗かせて、この部屋に集まった私達をぐるりと見回した。
ちなみに部屋の作りは10階にあった広間と同じ石の神殿か体育館のようで、同じように中心部の上空に滞空している。
スタートダッシュを有利に進めるため、この9階で愚直なレベル上げを行っていた私たち。
当然、この9階にある大広間へ足を踏み入れた時には、ほとんどのプレーヤーがすでにゴールした後だった。
見た感じ、下で見たときよりも心なしかプレーヤーの人数が減っているような気がする。
独力でここまで辿り着いたらしいプレーヤーが20人ほど、2人組が15組30人位、残りは4~6人くらいのパーティで50~60人程なので、トータルは100~110名ほどだろうか。
スタート時点では124名という話だったので、20名前後が辿り着いていないことになる。
これで『生き残りのプレーヤー』全員だということは、つまりは――という事だろう。
「………」
同じ結論を導き出したのか、感覚的に理解したのかはわからないけれど、エルが不安な表情で私の袖を控えめに握っていた。
「大丈夫」
自分でも何がどう大丈夫なのかわからないけれど、そう微笑んで頷くと、エルも少しだけ表情を緩めた。
各々疲れた顔で床に座ったり、柱に背中を預けたりして時間を潰していたプレーヤー達が、【神】の登場に暗い表情でのろのろと顔を上げたり、武器に手をかけたりする。
周りのプレーヤー達も、この【神】の上げて落とすやり口はいい加減身につまされたのだろう。油断なく周囲を窺うのを忘れない。
私達もいつでも身動きができるように武器や荷物に手をかけながら、続く【神】の言葉――さしずめ『御神託』を待った。
そうしながら横目で周囲のプレーヤー達のレベルや装備を値踏みする。
結局、私達3人がレベル上げと探索に使えたのは、あれから2時間余りの合計3時間。
9階のほぼ3分の2を制覇したところで、私とエルともにLv5になり、レオが依然としてLv5のままでいたことで、私はこの階でのレベル上げに見切りをつけました。
ルコサイト相手ではこれ以上の経験値の習得は無理と判断して、その後は【宝箱】の探索に重点を置いて、早足でフロアの征服を行い、ほとんどが先客に空けられた後であったけれど、7個ほど中身の無事な【宝箱】を発見して、初級のスキル書や食料、雑貨等を得ることができたのでした。
そんなわけで、現在の私のステータスはこんな感じ――
NAME:神音(Lv5)
JOB:クラスター・アマリリス(Lv3)
CLASS:半吸血鬼
SKILL:
探知[アクティブ]
自動地図作成[アクティブ/パッシブ]
夜目(種族スキル)[パッシブ]
ショートソード・マスタリー(初級)
魅了(Lv1)
従魔契約(Lv1)
気配遮断(Lv4)
ちなみにJOBの『クラスター・アマリリス』は、ルコサイトからドロップしたヒールP(小)を何の気なしに両手で抱えて、勿体ないけど邪魔だなー、と思っていたところで、
『ヒールP(小)5→ヒールP(中)1:融合を行いますか?。YES/NO』
という表示が出て、「YES」としたところで、5個のヒールP(小)が融合して、ヒールP(中)へと変化したのだった。
効果の程は、HPの回復量が2.5倍増しってところだけれど、いまのところエルの回復魔法で充分間に合うので、あまり使う場面もないけれど、荷物を少なく出来るということで余分なポーションを全部融合させまくり、結果、いつの間にかレベルも上げっていたというわけ。
“クラスター”って言葉の意味は、もともとブドウなんかの果物の『房』とか、『塊』、『群れ』、『集団』など同種のものが密集している状態を表す。要するに私のJOBってのは、同種のものをまとめて一塊にするってもの……ではないかと思える。
平時であればかなり使える能力だと思うけれど、戦闘中でなおかつタイムアタック中のいまは、若干微妙なところだろう。
取りあえず使わずに嵩張るヒールP(小)を、PTのレオやエルの許可を得て、次々にコンパクトにしていった結果、いつの間にかレベルも上がっていたと言う訳である。
(とは言え、この『クラスター・アマリリス』の能力には、他にも何か裏がありそうな気がするんだけれど、トライ&エラーをしている余裕はないか)
今後の身の振り方について、アレコレ思案しているところへ、もったいぶった間を置いて【神】が口を開いた。
『現在の生存者は109名。残念ながら15名のプレーヤーがチュートリアルを突破できませんでした』
やれやれ、と言いたげな口調と態度で肩をすくめる。
『109名の内訳は、男性59名に女性50名とややバランスに欠けたものになってしまいました』
と、その時何故か【神】の視線が私に向いて、にんまりと面白がるように細められた気がした。
『折角、当初に男女の比率を半々になるよう、イロイロと苦労して調整したのですがね』
「な――っ!?」
その意味を理解して、私の視界が一瞬真っ白に染まりました。
「ど、どうしたの神音お姉ちゃん?!」
「何か奴にされたのか!?」
気色ばむ私のただならぬ様子に、レオとエルが驚いて声をかけてきますが、正直それどころではなかった。つまり、男女の比率を等分にするために、こいつは私をわざわざ性転換させたと暗にほのめかせているのだ。
そんなくだらない理由で、いきなり勝手に生まれた性別を変えさせられたのか!
ふざけるなっ!!
そう絶叫しようとした矢先に、絶妙のタイミングで『パチン』と指を弾いた【神】の周囲に、半透明の立体映像が浮かび上がる。
ピラミッドと逆にしたようなそれは、10の階層に色分けされていた。
『まあ、済んだことは忘れましょう。それではいよいよ“ジェイコブス・ラダー”のゲーム開始となります。ご覧のようにこのダンジョンは逆三角形型の積層構造となっています。出口のある上に行くに従ってフロアが広がり、また出現するモンスターも手強くなるので皆様、努々油断なされぬようご注意ください』
口調こそ慇懃ですが、仮面から覗く奴の眼は、籠に入った実験動物を見る小学生のように、無邪気かつ無慈悲なものでした。
怒りの機先を制せられた私は、ぎりっと奥歯を噛み締めて【神】を凝視しますが、無論、その程度で仮面越しの涼しげな顔を、毛ほども動かすことは出来ない。
たっぷりの嘲笑が込められた――それでいて無機質な【神】の声が引き続き響き渡る。
『――さて、優秀な皆さんであればこの部屋に辿り着くまでに、このゲームの仕様は理解されたでしょう。故に以上でチュートリアルは終了とさせていただきます。
これより脱出を賭けたゲームの本編へと移行とし、プレイヤー諸君の健闘を祈ることとしよう。それでは――再び相まみえんことを』
椅子から立ち上がって、胸に手を当てた芝居がかった仕草で一礼をする【神】。
その姿がフェードアウトするかのように輪郭を崩し、ゆっくりと色褪せて行く。
「まて! まだ説明も理由も不十分だ!!」
私の叫びに【神】がちらりとこちらを見た。
必死に手を伸ばす私の姿を見下しながら、なぜか「仕方がない」とでも言うように微笑みながら首をすくめた気がした。
無言のまま消えようとする【神】の姿が宙に消える――寸前、ストロボのような眩い光を放った。
「きゃーっ!」
「うわっ!?」
「なんだ?!」
眩い光に視界を遮られて反射的に二の腕で目を庇って背を向けた。
刹那、3度目となる浮遊感が私の身体全体を包んで――
「神音っ!」
「お姉ちゃん!?」
レオとエルの切迫した声に、咄嗟にすぐ傍に居た二人の手を掴もうと、伸ばした私の手は何もない空を虚しく掻き、あっという間に二人の気配が遠のいていくのを感じた。
「しまっ――!」
そのまま見えない手で捕まえられ、ぐんぐんと高速でどこかへと移動させられる感覚に、私はその姿勢のまま唇を噛んだのだった。