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神音のアマリリス  作者: 佐崎 一路
A FOREWORD
5/12

[OP-5] TUTORIAL

スキルやレベルの説明回です。

「はあっ………!」

 レオの横薙ぎの一閃が、ルコサイトの長い尻尾を斬り飛ばした。

 苦痛のためか怒りによるものか、ルコサイトは唸り声をあげながら、大きく開いた口でレオに噛み付いてきた。

 それをステップで華麗に避ける。ガチン!と歯と歯を噛み合わせた音がして、虚しく反撃が空を切った。

 その攻撃後の伸び切ったルコサイトの首筋に、「えいっ」と神音(しおん)のアシストされたナイフの鋭い一撃が加えられ、首の3分の1が断ち切られ、パッと紫色の体液が飛び散る。


 モーションに引きづられ、一瞬の無防備な体勢になる神音――現実(リアル)の神音はなんの訓練も受けていない素人で、その上、完全にインドア派のため、システムアシストによる身体の反応について行けないのだ――の手元を狙って、ルコサイトが噛み付こうとするが、その前に両手剣(ツーハンデッドソード)を上段に構えたレオが、反対側からルコサイトの傷ついた首目掛けて、巨大な剣を振り下ろした。


 一撃で真っ二つにされたルコサイトの身体が灰となって消え、ドロップアイテムの『ヒールポーション(小)』が後に残される。




 ◆◇◆◇




「どうだい、レベルは上がった?」

 斃した相手が灰になって消えるのと同時に、刀身や身体に付着したルコサイトの紫色の体液も消える。

 いま磨いたばかりのようなピカピカの両手剣(ツーハンデッドソード)の状態を、いちおう確認しながら――曰く「道具の状態を常に確認するのは職業病」とのこと――レオが訊いてきた。


 私は取り出した『身分証(パス)』を確認して首を振った。

「残念ながらLv3のままだよ。やはりレベルが上がるに従って、必要経験値の量も倍増するみたいで、なかなか、ままならないね」

「そっかっ。俺もLv5になったし、神音がLv3になってから斃した敵の数も結構あったから、そろそろかと思ったんだけどな」

 残念そうにブラウンの髪をガシガシと掻くレオ。


「しかたないよ。どうやらパーティを組んでいても、DQみたいに均等に経験値が入るシステムではなくて、貢献度に応じた自動配分みたいだからね。レオに一番配分されるのが当然だし……逆に経験値のおこぼれを多少なりとも奪う形で、申し訳ないところだよ」

 そう取り成しながら、背伸びをしてレオの乱れた髪形を手櫛で整えた。

「お……おう、すまん」

 なぜか赤い顔をするレオ。

「どういたしまして。レオには世話になってばかりだからね」


 そこへ、回復魔法(ヒール)が届くギリギリの位置に退避していたエルが、とことことやって来て「神音お姉ちゃんとレオさん、お似合いだし付き合っちゃえばいいのに」とニヤニヤ笑いながら、転がっているヒールP(小)の小瓶を拾った。


「そ、そうか!? やっぱそう――」

「エルちゃん、これからお互いにしばらくPT(パーティ)を組むんだから、冗談でも安易にそんなこと言わないの。色恋沙汰が原因で気まずい関係になった例なんて、ネット上でもごまんとあるんだから」

「あー、そうだね。ごめんね二人とも」

 彼女もゲームで遊んだ経験があるなら、そうした話くらいは聞いたことがあるのだろう。即座に謝罪するその素直さに……思わず微笑が浮かんだ。


 ふと視線を感じて見れば、なぜか一瞬気落ちした顔をしたレオが、なんとなく優しげ……というか、慈しむような目で私の横顔を見ているのに気が付いた。

「……どうかした?」

「いや、笑い顔は昔と変わらないな、と思ってさ」


 ――また、これが始まったかと、私は密かにため息をついた。


「君の夢を壊すようで悪いんだけど、君の言う思い出の人と私が同一人物かどうかは疑わしい――というか、違うと思う。けど、それでもPTを組んでもらえるわけ?」

 疑わしげな私の言葉に、それでも自信たっぷりに頷くレオ。

「勿論だ。見間違えるわけないさ。――というか、神音みたいな目立つ子を見間違えるわけないだろう?」

「あー、そうだよね。ボクもあんまり綺麗なんで声掛けた口だし。まず、別人ってことないと思うよォ」

 エルも同調するけど、そもそもの『性別』という前提が違うんだから、以前の私を知っていたら混同するわけはないと思うんだけどねぇ。


 面倒なのでそのあたりの説明をしてもいいんだけど、いま話して掌を返されると今後の生存戦略に関わるので――引かれたり、別れるくらいならいいけど、逆恨みで敵対されるとマズイので――取りあえずは、いまのところ黙っていることにした。


「まっ、それでも思い出す努力はしてくれるんだろう?」

「――努力はしてみるよ。それで君が納得してくれるならね」

 ゼロからはなにも出ないと思うけど。

「ならいいさ。気長に待つとするよ」

 爽やかな笑みでそんなことを言うレオ。



『チュートリアルでゴールを目指さず出来る限り経験値を稼ぐのに協力して欲しい』

 という先ほどの私の厚かましい願いに対する、彼の出した交換条件は、

『このゲームが終わるまで一緒のPTを組む』『終わるまでに、自分との“約束”を思い出すこと』

 だった。


『1番目の条件はこちらからお願いしたいくらいなので、もちろんオッケーだけど……でも、2番目の条件は、そもそも“約束”をしたのが私かどうか不明だよ? 別人だと思うけど、それでも思い出せっていうなら、まあ、努力をするくらいはしてみるけど……』

 と玉虫色に答えて、レオが快諾した――ここまでが今に至る一連の流れだったりする。



「もう1時間くらい歩いたかな。いったん休憩しよう」

 レオの提案に私も頷いて、脳内に《自動地図作成(オート・マッピング)》で作成した地図を広げてみた。

「だいたい全体の4分の1くらいは走破した感じかな。構造的に多分、この先に小部屋があると思うから、そこで一休みしよう」

 通路の分岐右側を指差す私に頷いて、レオが剣を構えたまま先頭に立ち不意の戦闘に備える。そして、その後ろに《夜目》使える私が付いて、周囲の警戒にあたり、最後に回復役のエルが付く――ここまでの行程で、自然とそういうフォーメーションができていた。


 ちなみにレオも《夜目》は使えないが、代わりに種族スキルとして《心眼》を持っていた。なんでも、マルチスクリーンのように視界をほぼ180度広げられるそうで、使用中はほぼ死角がなくなるらしい。遠距離は私が補って、接近されたらレオの独壇場となる形である。


「そういえば、ここに来るまでにけっこう他のプレーヤーとも会ったよな」

「12…いや、13人かな。男ばかりの6人PTと、男女比2:4の混成PT、あとソロのプレーヤーがいたけど、声を掛ける前に逃げ出したから……」

 PTを組んでいた方は、どちらも上限6人一杯だったから挨拶程度で行き過ぎたけど、正直どちらもあまり良い印象は受けなかった。


 野郎PTの方は、明らかに足手まといになる女子供を連れたレオを馬鹿にした態度だったし(そのくせ無遠慮に私の胸とかお尻とか見て、下卑た笑いを浮かべていた。嫌なモノだね)、混成PTの方は、男性陣が女性の前で良い格好を見せようと、実力以上の空回りしているのが見え見えで(他人と比較するのは甚だ失礼だとは思うけど、レオと比べると「格好いい」のと「格好つけてる」のは全然別物だというのが良くわかる)危なっかしく思えたものだ。

 女性陣もそれがわかっていてフォローするどころか、自分たちが楽をしていいように利用しているのが――いや、本質的には私がレオに依存しているのと同じだけど――あからさまで、その上、明らかにルックス・スペックが仲間より上のレオに媚を売って、乗り換えようとしていた。


 ま、レオは面倒臭そうに群がる女の子たちを無視して、私の肩を抱いて無言でその場を後にしたわけだけどさ。

 いきなりのスキンシップに胸が高鳴……じゃなくて、驚いたものだけど、置いてけぼりにされた彼女達の嫉妬の視線や、小声での「ブス」「色目つかって」「体で誑し込んだ」とかの陰口が鬱陶しかったものの、なんとなく優越感……もとい、溜飲が下がったのも確かだった。


「愛されてるねえ。お姉ちゃん」

 後についてきたエルが、そんな軽口を叩いていたけれど、いやいや……こんなものはその場を切り抜けるための方便にしか過ぎないだろう。実際、角を曲がって彼女達の姿が見えなくなった途端に、レオもぱっと手を放したしね。

 気のせいかその横顔が真っ赤だった気もするけど、まあ……暗いからね。たぶん見間違いだろう。


「そうなると、4分の1の区画に、俺たちも含めて男9人に女6人、性別不明が1名の16人か。集められたのは全部で124人って言ってたけど、意外と遭遇しないもんだな」

「いや、お互いに移動しあってるし、もうゴールに辿り着いた人も相当数いるだろうからね。こんなもんじゃないかな?」

 それと、エルがいるので口には出さなかったけど、ルコサイトの犠牲になった人も少なからずいるだろう……。

 あと付け加えるなら、性別不明はここにもう一人いるんだけどね。


「さっきの逃げていった人なら女の子だよ」

 そこへエルが当然という感じで口を挟んできた。

「ん? なんか見えたのか? 俺からはシルエットしか見えなかったけど」

「私もそうだね。髪もショートだし、恰好もツナギみたいなダブダブな支度だったから、ちょっと判別し辛かったかな」


 揃って首を捻るレオと私を、逆に不思議そうな目で見るエル。

「女の子だよ。見ればわかるよ。ボク、昔っからそーいうのは外れたことないんだ」


 自信満々に断定され、思わずレオと顔を見合わせる。それから、ふと……ここに集められた人間って、なにかしらの才能を持った者ばかりという《神》の言葉を思い出した。

 ひょっとして、このあたりがエルの才能なのかも知れない。

「……あの、エルちゃん。ちなみに私って、男女どちらに見えるの?」

 なので、ちょっと確認の意味で聞いてみた。

「――? なに言ってるのお姉ちゃん?」

「………」

 うん。あまり信用しないことにしよう。




 ◆◇◆◇




 歩いてすぐのところに案の定、この階に最初に強制転送された時のと同じくらいの小部屋があった。

 聞けばレオもエルもともに、そうした小部屋に移動させられたそうだけれど、レオの部屋には《宝箱》が2個あったのに対して、エルの方はなにもなかったらしい。

 チュートリアルなんだから、確実に一人1個《宝箱》を与えておけば良いと思うんだけど、どうやらこのゲーム、かなりランダム要素が強いようだ。


 取りあえず、部屋の中で休もうと――ルコサイトは通路を行き来するだけで、いまのところ部屋の中には入って来ないので、一種の安全地帯(ピースゾーン)と考えられる――入って見れば、隅の方へ《宝箱》があった。

「ラッキー! 何か入ってると助かるんだけどなー」

 早速、レオが長いストライドを利用して2~3歩で近づき、蓋を開けて中身を確認し始めた。私達も興味津々で背後から覗き込む。


 一応これまで道中で最初の1個を別にして、4個ほど宝箱は見つけているのだけれど、どれも中身は先客に取られた後の空振りだった。どうやら時間が経過すれば再度湧く(リポップ)タイプの宝箱ではないらしい。

 Mob(モンスター)であるルコサイトは無限湧きっぽいのに、必要な物資は早い者勝ちとか、このあたりにもあの《神》の性格の悪さが透けて見える。


 さて、どうやらここの宝箱は目立たない部屋の隅にあったお陰で、先客の目にも留まらなかったようで、嬉しいことに中身がそっくり残っていた。

「おっ。久々のアタリだな」

 口笛を吹いて宝箱の中身を確認するレオ。


 まあ、《宝箱》とは名ばかりで、実体としてはほとんどが100円ショップの雑貨のようなものなのだけれど、このあたりは気分の問題だろうね。


 ちなみに中身は、『ウェストポーチ(白)』『ロープ』『タオル×3』『スキル:3連突き(初級)』『スキル:魅了(チャーム)(Lv1)』『スキル:ホーリーライト(Lv1)』――だった。

 スキル書が3枚もあったのは大収穫だね。


 取りあえず『ウェストポーチ(白)』は、まだ持っていなかったエルに渡して――いそいそと装備したエルは、そこへポケットに突っ込んでいたヒールPを入れ直している――『ロープ』も一番荷物の少ないエルに持っていてもらうようお願いする。タオルはちょうど人数分あるので全員で均等に分けた。


 問題はスキル書だけど、3人で適性を確認したところ、

『スキル:3連突き(初級)』・・・レオ、神音習得可

『スキル:魅了(チャーム)(Lv1)』・・・神音、エル習得可

『スキル:ホーリーライト(Lv1)』・・・エル習得可

 だった。


 なお、これまでの検証でわかったことは、

《初期スキル》・・・どうやらJOBに関連したスキル。

《種族スキル》・・・間違いなくCLASSに関連したスキル。

《通常スキル》・・・スキル書で覚えられるスキル。

 と3つに分かれていること。


 さらにスキルでも『Lv1』とか表示されているものは、スキルを使用することで、いわば『熟練度』が上昇して、自動的にレベルアップするらしい。エルのヒールは自身のレベルアップとは関係なく、私達を回復している途中で勝手に上がり、現在の自身のレベル(Lv3)よりも高い(Lv4)になっている。

 それと『初級』と書かれたものは、どうやらいくら熟練度を上げたところで変化はないようで、こちらは『中級』とか『上級』のスキル書を見つけないとダメなようだ。


 最後に私達自身のレベル上昇による恩恵だけれど、これは表示されないHPや筋力、敏捷力のパラメーターに関係するみたいで、レベルアップ後は目に見えて攻撃力やスピードが上昇しているのが感じられた。それと習得できるスキルの数――ゲーム風に言うなら《スキルスロット》も、これに直結しているようで、現在Lv5のレオが習得できるのは3つ(『スラッシュ』『HP最大値上昇』習得済)、Lv3の私とエルが習得できるのは2つなので、おそらくはLv3で1つ、Lv5で1つ追加されたのだろう。

 ちなみに《通常スキル》は一度覚えると取り外すのはできない。その代わりに上書きは可能とのことで、レオはLv1当時、最初に覚えた『投擲』を『スラッシュ』で上書きしてしまったらしい。



 さて、そんなわけで見つけたスキル書の分配について、3人で相談することになった。

「まあ『ホーリーライト(Lv1)』はエルちゃんが覚えるということで、問題ないと思うんだけど」

「そうだな。俺たちじゃ適性もないし、攻撃魔法っぽいから遠距離攻撃手段が増えるのは助かるな」

 レオもあっさり同意してくれたので、スキル書をエルに手渡す。


「ありがとう。神音お姉ちゃん!」

 これで戦力に加わることができるからだろう。エルが輝くような笑顔で受け取った。

「でも、無理はしないこと。死んだらお終いなんだから」

「うん。わかってるよ!」


 で、『魅了(チャーム)(Lv1)』なんだけど。

「どー考えても、神音お姉ちゃんだよね。でもねえ……」

「……だよなぁ。鬼に金棒なんてもんじゃないぞ。大丈夫か?」

「まあ、そこはレオさんが頑張るしかないよ」

 なぜか当然のような顔で、私には意味不明な会話をしている二人。

 いや、別に『魅了(チャーム)(Lv1)』とか、どーでもいいんだけど……?


「そういうことで、はい、お姉ちゃん」

 なんか、そういうことで『魅了(チャーム)(Lv1)』のスキル書は私のものになった。

「ありがとう?」


 さて、残るは『3連突き(初級)』だけど……。

「まあ、私ではリーチもパワーもないから、レオが妥当だろうね」

「そーだね。レオさんが使えばいいと思うよ」

 私とエルとも即決したんだけれど、当の本人が「スキル技か……」とあまり気が進まない様子だった。


「嫌なの?」

 私の疑問に、眉を寄せて答える。

「なんて言うか……技を放つと体が強制的に動かされる感じが気持ち悪い。それに、使った後の隙が大きすぎて、どーにも好きになれないな」


 なるほど。それでさっきの戦闘でもほとんどスキルは使わなかった訳なんだ。

 ま、私の場合はもともとの身体能力が低いので、システムのアシストがあってどうにかなるレベルだけれど、彼の場合は元のスペックが高すぎてかえって邪魔になるのだろう。

 それになにより、ゲームならHPに気をつけてその場でガチガチスキルを連射すれば済む話だけれど、リアルに痛みや死を感じるここでは、近接での攻撃スキルの利便性とか、確かにあまりないのかも知れない。


「まあ、でも通常の攻撃力よりもスキル技の方が威力があるのは確かだし、あくまでスキルはトドメを刺す場合とか、一か八かの突破口を開く場合の保険程度に考えておけばいいんじゃない? あと今後はスキル同士のコンボとか、私のレベルが上がって攻撃役(アタッカー)が増えれば、お互いの連携で補えるわけだし」

「それもそうか……」

 どうやら納得したらしい。レオもスキル書を受け取り、これで3人とも今回の収穫を公平に分配することができた。


 その後、3人でスキルを習得して、私とエルは空の宝箱を椅子にして座り、レオは壁に寄り掛かって休憩しながら、水筒の水で喉を潤したり、他愛もない雑談をしたりして、精神的な疲れを癒したのだった

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