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神音のアマリリス  作者: 佐崎 一路
A FOREWORD
2/12

[OP-2] GIFTED AND TALENTED

意外と好評でしたので、予定を前倒しで頑張りました。

『さて、ではチュートリアルの続きを進行させていただきます』

 神を名乗る存在が、言葉にならない一同を見回して愉しげに言葉を続けた。

『……とはいえ難しく考えることはありません。皆様をこの世界に招待するにあたり、その肉体と才能を最適化できるようすでに処理済です。また、衣装・装備についてもこちらからサービスしておきましたので、この世界でも充分生き延びることができるでしょう』


 ――最適化されてこれか……。


 そう情けなく思いながら、やたらたわわな胸元を見て、ため息をついた。


『ちなみに“選ばれた人間”というのは揶揄でも誇張ではありません。皆様はどなたも素晴らしい才能を持った宝石であり、またこれから萌芽する種子でもあるのです。

 すでに心当たりのある方もいらっしゃるでしょう。ここに集められたのはすべて生まれ持ってギフテッド、もしくはタレンテッドと呼ばれる能力の持ち主ばかりであります。まさに選ばれた資格者と言えるでしょう』

 わざとらしく片手を胸元に当てて一礼する神。


「ね、ねえ、神音(しおん)お姉ちゃん。『ギフテッド』とか『タレンテッド』ってなに?」

 エルちゃんがおずおずと私の手を引っ張った。


「『ギフテッド』というのは先天的に高い学習能力を持つ人間のこと。ただ所謂(いわゆる)天才とは違って、あくまで学習能力でありヒラメキとかではなく、また特定の興味のある事柄に偏る傾向がある……まあ、主に学術や特定分野に特化した英才ってところかな。『タレンテッド』は『ギフテッド』が主に内面的なものであるのに対して、芸術やスポーツなどといった目に見える形で才能を表す場合に使われる、といったところ」


 と、再び神が乾いた拍手を奏でた。

『いやいや。毎回フォローいただき誠にありがとうございます神音(しおん)さん。お礼といってはなんですが、ご質問があればお答えいたしますよ』


 ほう。これはこれは……勿怪(もっけ)の幸いというものだね。

 いろいろと質問したいことがあったところだ。


 私はこの『神』が口に出した言動を頭の中で整理しながら、慎重に口を開いた。

「それでは質問させていただきましょう。このゲームのクリア条件は地上への脱出口を見つけること、では、それは誰でも制限なく使用できる脱出口なのかな? いや、私達の誰もが見つけられないよう隠されているのでは?」


『まさかまさか! そこまで悪辣な真似はいたしません』

 すかさず否定する『神』の言葉に、周囲にほっとした空気が一瞬流れた。

『ただしこれはゲーム、RPGに準拠したダンジョンですので途中に障害となるモンスターや、隠された罠などがあります。ですが……まあ、そこら辺は皆様の能力と奮闘でなんとかしていただく他ありませんね』


 あちこちから押し殺した悲鳴や呻きがあがるが、この程度は予想の範囲内。

 逆に確実に脱出でき、なおかつ特定条件などない確約が得られたのは大きく、私的には喝采をあげたいくらいだった。

 なので、続けてもう一つの疑問点をぶつけてみた。

「それでは次に、脱出人数は最大36名と言ったが、最小人数はあるのかな? あるならその違いは?」


 その瞬間、仮面の隙間から見える『神』の赤い瞳が笑いの形に歪んだ。

『実に良い所を突いた質問ですね。お答えしましょう。脱出最小人数は6箇所の出口から1名ずつの6名となります。数値の違いは個人で出口を出た場合と、PT(パーティ)を組んで出た場合の違いです。

 1名(ソロ)の場合は、1名が外に出た段階で脱出口は使用不能になります。PTは最大6名まで組むことができます。そしてPT全員が外に出た場合に脱出口は使用不能になるという仕様ですね』


 ふん、やっぱりそういう重要な情報を隠していたわけだね。

 とは言え、椅子が1個のゼロサムゲームでなかったことだけが唯一の救いか。

「PTの組み方は?」


『皆様、ポケットをご確認ください。そこに身分証(パス)がございます』


 言われてジャケットの胸ポケットを探ると、手帳サイズで厚さ5mmほどの金属板が出てきた。

 表面には学生証か免許証みたいな感じで、現在の自分の不機嫌そうなバストショットが表示され、その隣に、

『NAME:神音(しおん)

 JOB:クラスター・アマリリス(Lv1)

 CLASS:半吸血鬼(ダンピール)

 と書かれていた。


 ん?これってさっき頭の中に表示されたエルの情報と一致するんじゃないかな?


「あ、神音(しおん)お姉ちゃん。ボクの名前とジョブってのが書かれてるよ。『ホワイト・リコリス(Lv1)』だって。どういう意味なんだろう? あとクラスが『ハーフ・エルフ』になってるね」


「私は『クラスター・アマリリス(Lv1)』だ。どうにも字面だけでは判断し辛いね」

 ふむ。やはり表示情報は同じか。種族(クラス)までは表示されないようだが。


『職業と種族はまことに勝手ながら、皆様の適正に応じて変更させていただきました。いかに資格者といえど、まったく異なる世界で生き延びることは難しいため、この世界の既存の種族の特徴を付加させていただいた次第で。――ま。サービスの一種です」


 ふん。そう簡単に死なれると楽しみが減るので、肉体(ハード)を底上げしておいたといったところだろう。

 だが、いくら高性能の車を渡されても乗り手が不慣れでは仕方がない。車の性能や特性を知って馴れないと豚に真珠もいいところだ。早目に肉体(ハード)に併せて頭脳(ソフト)も最適化しておかないと命に関わるね。

 これはスタートダッシュが肝だな……。


『PT登録をする場合は、お互いの身分証を重ねて「PT登録」とおっしゃっていただくだけで結構です。――さて、いい加減説明ばかりで退屈でしょう。そんな皆様に朗報です。これよりチュートリアル戦闘タイムと参ります。実際に体験していただきましょう。クリア条件はたったふたつ、9階にあるここと同じ部屋にたどり着くこと。そして、「死なないこと」これだけです。なあに、罠もありませんし、出てくるモンスターも『ルコサイト』一種類だけですから、プレーヤーの皆様なら楽勝でしょう。では、また9階で再会いたしましょう』


「待――」

 まずい! JOBや能力についての説明が一切ない――いや、意図的に切り上げられたのだろう。私達が手探りで困惑する様を見て楽しむために――『神』は一方的に宣言すると、ぱちんと指を鳴らした。




 ◆◇◆◇




 また、一瞬の出来事だった。

 世界が暗転して、人のざわめきや息吹などが途絶え、気が付くと再び一人灰色の石の床を踏んでいた。

 ただし、先ほどの大広間ではない。もっと小さな小部屋だった。


 あの『神』の言葉通りならダンジョン9階内の小部屋なのだろう。どういう理屈なのかはわからないが、天井に発光する石がはめ込まれていて、蛍光灯並みの光を放っているので、視界には問題はない。


 周囲を確認してみれば、大きさ的には六畳間程度の四角い小部屋で、壁の隙間からチョロチョロと清水が流れている他は、がらんとなにもない殺風景な中に、一つだけ木製の箱が置いてあった。


「……定番の宝箱ってところかな」

 一瞬、罠を警戒したけど9階には罠はない、という『神』の言葉を思い出して――勝手に人をデスゲームに誘い込んだ奴の言葉を鵜呑みにするのは危険だけれど、こんな序盤から大量の脱落者を出すのも本意ではないだろうと判断して――箱を開けてみた。


「黒のウェストポーチに水筒、あとこれは乾し肉かな? で、こっちの紙は…『ヒール(Lv1)』『ショートソード・マスタリー(初級)』?」

 と――。

 2枚目の『ショートソード・マスタリー(初級)』を手に取って口に出した途端、頭の中に再び無機質な声が響いてきた。


『スキル:ショートソード・マスタリー(初級)を習得します。YES/NO』


 ……なるほど。要はスキル制のゲームってことね。

 最初の『ヒール(Lv1)』が覚えられなかったのは、JOBが適正でなかったかLvが足りなかったか――どちらかというと、前者のような気がするけど――どちらにしても、現状では迂闊に習得しておくのはちょっと危険かな。

 覚えられるスキルの総数が不明な以上、いま1つスキルを覚えて後々もっと有効なスキルを見つけても、スキルスロットが埋まっていて利用不能という可能性もあるからね。取りあえず保留かな。


「NO」

 そう答えると脳内の表示が消えた。

 ん? ひょっとして1度NOを選択したら2度と覚えられない仕様じゃないよね。


 確認の為にもう一度『ショートソード・マスタリー(初級)』を口に出して読んでみたところ、再び脳内に表示が出てきた。

『スキル:ショートソード・マスタリー(初級)を習得します。YES/NO』

「NO」


 よしよし。いつでもスキルは学習できるってことだね。

 私はほっとして紙片を畳み、水筒に清水を汲んで乾し肉と一緒にウェストポーチに入れ、動きの邪魔にならないよう左手側の腰に下げた。


 他にめぼしいものもないので、その部屋の唯一の出入り口から出た。

 静まり返ったダインジョン内、長々と幅2mほど高さ3mほどの薄暗い廊下が左右に延びているのが見える。


 ここで不思議なことに気が付いた。廊下が『薄暗い』というのはわかるのに、同時に『昼間のようにクリアに見える』という矛盾した感覚があることだった。


「……なにかのスキル?」

 呟いた途端、脳裏にまたもや表示が生まれた。


『種族スキル:夜目[パッシブ]』


「なるほど、半吸血鬼(ダンピール)の種族スキルか。他にもスキルはあるのかな?」

 それに答えて、脳裏にスキルの一覧が表示された。


『初期スキル:探知[アクティブ]

 初期スキル:自動地図作成(オート・マッピング)[アクティブ/パッシブ]

 種族スキル:夜目[パッシブ]』


「3つか。名前からしてどれも戦闘系ではなさそうだけど……探知ってのは、どんな使い方をするのかな」

 アクティブということは恣意的に使わないと、効果がないと見るべきだろう。

 で、現在はチュートリアル中。取りあえず試行錯誤するべきなんだろうね。


「探知」

 すると、脳裏に地図――と言っても背後の小部屋と2~3歩歩いただけの廊下の部分だけだけど――そして、地図の左上の未確認空白部分に『エル』と表示された光点が表示された。


 つまり『探知』というのは、特定の相手の現在位置を知るもので、『自動地図作成(オート・マッピング)』というのは、自分が歩いた部分の地図を作成するスキルということだろう。

 迷宮探索としてはかなり使えるスキルだね。


 今後の展望にちょっと希望が見えてきたところで、今後の行動予定を考えてみることにする。

 まずは他の部屋とか探して、宝箱を探す。できれば有効なスキルを見つけたいところだけれど、こんな序盤からそうそう掘り出し物もないだろうから、さほど期待しないようにしよう。


 後は流石に一人だと戦力的に不安なので、できれば戦闘用の能力を持ったプレーヤーと合流できれば御の字なのだが……。


 そこで、ふとエルの顔が浮かんだ。

 あんな子供では戦力どころか足手まといになるのが関の山……可哀想だけれど条件は一緒。正直、他人を助ける余裕はない。

 ならば見捨てるのが一番だろう。


 ふと探知で見ると、エルは同じようなところをグルグル動いていた。


「………」

 さっきまで握っていた手の温もりが甦る。


「……まったく。私もどうかしている」

 ため息をついて、太股のナイフを抜いて、慎重に周囲に気を配りながら、私は脳内の地図の左上を目指して歩き始めた。

次回はモンスターとのエンカウントと主人公(?)登場となります。

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