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神音のアマリリス  作者: 佐崎 一路
FIRST CHAPTER
11/12

[CO-5]SILENT CHASER

新年あけましておめでとうございます。

皆様今年もよろしくお願いいたします。

 各階層に散らばる宝箱が設置してあり、さらに清水が湧いてMob(モンスター)が近づかない『安全地帯(ピースゾーン)』と呼ばれる六畳から八畳ほどの石室である小部屋。


 もっとも私が内心で勝手にそう命名していただけだったのだけれど、どうやら先行していたプレイヤーにも同じ発想の人間がいたようで、岩肌にチョーク(ドロップ品だろう)を使ってご丁寧にそこに至るまでの矢印と『ココ安全地帯!』と、金釘流で書かれた小部屋があった。


 お互いに『身分証』で通話しながら合流を目指していた私(+内藤(ナイトー))とレオ&エルたちだけども、戦力的な問題で無理に私の方が合流を目指すのではなく、先にこの場所で安全を確保しつつ、レオたちを私のスキルである『探知』と『自動地図作成(オート・マッピング)』を使って誘導した方が早いとの判断を下して、とりあえずは一旦ここを中継基地(ベース)にして合流を果たすことにした。


 で、その後三十分もしないうちに、エルを連れたレオが勇躍勇んで《スケルトン》を蹴散らしながら、この場に現れたのだからやはり先の判断は間違ってはいなかったのだろう。


「神音っ! 無事でよかった。怪我はないか? 変なことはされなかったか!?」

「ぐへっ――!」

「……あ、ごめん」


 再会してイの一番に、海外生活が長いせいか、ボディランゲージが日本人離れしているレオにいきなりハグされ、思わず変な声を出してしまった私の様子を恥じらいと受け取ったのか、頬を朱に染めたレオが、おずおずとその手を離した。


「うおおおおおおっ! 美少女! JCでござるか!? JSならなおのことオッケーでござる!」

「ひっ――!?」

 一方、内藤は内藤で盛り上がって、思いっきりエルを怯えさせるというか、私たちも含めてドン引きさせてくれた。


 まあとりあえず、内藤は別にして三者三様の喜びを分かち合いつつ、私たちは部屋に入って(当然、部屋の中にあった宝箱は空だった)お互いの分かれてからの状況を話し合いつつ、一休みすることにした。

 ファンタジー世界には不要と判断されたのか、誰ももともと持っていた時計やスマホがなくなっていたためあくまで予想だけれど、おそらくはもう十時間くらいはこのダンジョン内を動き回っていた計算になる。

 さすがに肉体的精神的な疲労はピークだろう。もっとも脳内麻薬がドバドバ溢れている状態なので、誰も自分たちが限界に達している自覚はないようだけれど。


「うわ~~っ、可愛いっ。『バトル・カード・モンスター』に出てくる『エレニャン』みたい!」


 で、再会の挨拶もそこそこに、目敏く《雷獣》のヒカルに気付いたエルは、素早く屈みこんで有無を言わさずヒカルを抱え上げた。


 ちなみに『バトル・カード・モンスター』というのは、アニメや漫画にもなったゲームの事で、専用のハードを持って特定の場所で捕獲できるモンスター(通称『BCM』もしくは『バカモン』)をSDカードに封じ込め、そのモンスターを育成したり掛け合わせたりして強化を図り、最終的に戦わせるのが目的……なのだけれど、そこに至るまでの過程である『捕獲』『育成』も楽しめる、お陰で幅広い層から支持を得ているいまや世界的な人気ゲームと化していた。

 で、『エレニャン』というのは、そのゲームのマスコット的なキャラクターで、大人から子供までまず知らないものはいない有名な電気猫のことだけど、正直、ヒカルとはあまり似ているとは思えないんだよね。あっちはヌイグルミ体型で、ヒカルは見た目は普通の猫だし。多分、電気を放つ猫ということでエルの中ではひと括りにされているのだろう。


「……ま、とにかくこれ以上探索を続けるのも難しいから、今日のところはここの安全地帯(ピースゾーン)で一泊かな。とはいえ、あの《神》のことだから、安全地帯(ピースゾーン)とは名ばかりで、十中八九安全地帯に見せかけたトラップだろうけどね。でもま、こんな早々に手の内はさらさないと思うから、今の段階ならおそらくは安全だと思う」


 まだまだ敵のレベルも低く、ある程度の人数がいれば比較的安全マージンが確保されている現在の状況ではリカバリーされる危険性が高い。おそらくはもっと困難を極めた状況で、こちらの認識の穴を突く形で一斉に罠を仕掛けてくることだろう。

 そう懸念を伝えると、レオと内藤(ナイトー)双方の表情が曇った。


「……つまり、ここも安全じゃないってことか?」

「最初に『RPGに準拠したダンジョン』って言っていたから、今の段階なら安全性は高いでしょうね。こちらの油断を誘うために。けどあくまで『準拠』だから、ゲームと違って100%安全な場所なんてないと覚悟しといたほうがいいよ」

「ったく……つくづく嫌な野郎だな、あの【神】って野郎は」

「ま、世界を俯瞰する存在なんて案外どこもそんなものかも知れないけどね。いや、ある意味もとの世界の神様(カミサマ)よりもマシかな?」

「どういう意味でござるか、神音(しおん)殿?」


 最初にレオを紹介した時点で、

「――うっ。リア充のオーラが……なぬっ、世界的なテニスプレイヤー!? 目が、目がっ!」

 いきなりコンプレックスを刺激されたらしく、以後は及び腰で発言を控えていた内藤が、不思議そうに首を傾げた。


「決まっているじゃないか。いるかいないんだかわからない元の世界の理不尽な神と違って、こっちの自称【神】は確実に存在するんだからね。コンチクショウと鬱憤を晴らせるだけまだ救いがあるからさ」

「なるほどね、さっきの俺みたいに【神】の馬鹿野郎って言っても、ちゃんと届いているってわけか」


 そう肩を竦めて答える私の言葉に憤懣やるかたない表情ながらも納得するレオ。てゆーか、いまじゃそのレオ自身が半神半人(デミゴッド)なわけなんだけどねー。

 嘆息しながら現在の自分のステータスを確認する。


 NAME:神音(しおん)(Lv8)

 JOB:クラスター・アマリリス(Lv3)

 CLASS:半吸血鬼(ダンピール)

 SKILL:

 探知(サーチ)〈初期スキル〉[アクティブ]

 自動地図作成(オート・マッピング)〈初期スキル〉[アクティブ/パッシブ]

 夜目〈種族スキル〉[パッシブ]

 ショートソード・マスタリー〈通常スキル〉(初級)

 魅了(チャーム)〈通常スキル〉(Lv3)

 従魔契約〈通常スキル〉(Lv2)……従魔:ヒカル(雷獣・Lv1)(1/2)

 気配遮断〈通常スキル〉(Lv4)


 だいたい予想通りの上がり幅ってところかな。スキルは1、3、5,7の奇数で増加するので現在4つ装備スロットがあって、このうち従魔契約は『魅了(チャーム)』に由来した派生スキルのようなので、現在はひとつスロットが余っているから、可能な限り効果的な……どうも私は近接戦闘のセンスがないようなので、できれば魔術を覚えたいところなのだけれど、さてどうなることやら。

 あと従魔契約のところ(1/2)ということは、契約できる従魔の数が2つに増えたと見ていいと思う。

 そうなると手数が多いほうが効果的だから、なるべく早くMob(モンスター)と契約したほうがいいだろうけど、この階にいるのって《スケルトン》と《ウィルオーウィスプ》だけみたいだからねえ。


 上位互換のヒカルがいる以上、いまさら《ウィルオーウィスプ》を仲間――いや、ゲーム的には仲魔か?――にするメリットはないし、かといって見るからに雑魚で可愛くない《スケルトン》は論外だ。

 ま、レオと合流できた以上、そうそうこの階では問題もないだろう。

 とりあえず従魔の件は棚上げにして、そのうち良さそうなMob(モンスター)がいたら契約する……という方針を伝えたところ、幸いにして全員が一も二もなく賛成してくれた。


「……となると、次は内藤のPT加入の件だけれど」


 そう切り出すと内藤当人は期待に目を輝かせ、対照的にエルの瞳がどんよりと曇った。

 どうやら最初の「美少女はあはあっ!」が相当に堪えたようだ。気持ちはわかる。


「まあ俺は別にどうでもいい。というか俺はアンタのことは良く知らないからね。だから判断できないので、俺の神音が(・・・・・)いいって言うなら信用することにするよ」


 レオは私へ判断を丸投げか。……気のせいか不穏当な台詞が混じっていたような気がするけれど、ツッコミを入れると泥沼になりそうなのでそこはスルーして、次にエルへと視線を向けて意向を伺う。


「う~~ん……」と予想通り難色を示すエルだけれど、「神音お姉ちゃんがいいなら……」

 こちらも私へ判断を委ねてきた。

 やだなあ、本格的に私がリーダーみたいじゃないか。私は基本的に参謀ポジションで、脇からあーだこーだ口出しする方が性に合っているんだけどね。よしっ、もしも誰かに聞かれたらレオがリーダーってことにしてしまおう! と密かに決心をする。


「神音殿! 頼むでござる! それがし確かに世に言うオタク紳士でござるが、基本的に三次元の女性(にょしょう)には手を出さないでござる。ましてやロリには“YESロリータNOタッチ”を信条としておりまする!!」


 そんな風に考え込む私の態度を否定的に捉えたのか、必死に掻き口説く内藤だけど、それって信用できるのかなぁ……? でもこの場面でにべもなく断るのも、元をただせば同じ陰キャ、インドア派としては忸怩たるものがあるねえ……。


「……とりあえず、しばらく『お試し期間」という形でPT登録する形でどう?」

 結局、MMORPGのギルドでありがちな妥協案を提示する私。


「おおおっ! それで結構でござる! この内藤、美しき神音殿と可愛らしいエル殿のために身命を惜しまずに働くでござる!!」

 暗にレオはどーでもいいと言っているようなものだけれど、まあいいだろう。

「男女ふたりずつになった方が、いろいろと動きやすいからな」

 当のレオがさっぱりと割り切っているので(ただ眼中にないだけ?)私もエルも特に文句はない。


 その後、四人で『身分証』を重ねてPT登録を行い、とりあえずは私たちは四人PTへと生まれ変わったのだった。

「では、改めてよろしくね、内藤(ナイトー)

「よろしく頼むぜ、ナイトー!」

「……よろしく、おじさん」

「にゃあ」

 私たちがヒカルも含めて歓迎の挨拶をすると、内藤も喜色満面――

「よろしくでござる、よろしくでござる! あとそれがしはおじさんではないでござる、まだ十九歳でござるぞ」

「「「――えっ!?」」」

 意外な告白に思わず顔を見合わせる私たち。


 即座に車座になって井戸端会議の要領でひそひそ話をする。

「……てっきり二十六歳くらいかと」

「俺は二十九くらいかと思っていた」

「うちのお父さん三十八歳だけど、同じくらいかと……」

 老けてるなぁ……というのが全員の一致した見解だったけれど、考えてみればあの場に集められた百二十四人は全員が十代から行って二十歳そこそこだったのを思い出せば納得といえば納得だね。


「――ま、まあとりあえず、人数も増えたことだし、今日はここで野宿というか睡眠を取って、明日に備えることにしないかい?」


 とはいえいつまでも埒もない話をしていてもしかたがないので、私がそう提案すると、三人とも言われて初めて心身の疲労に気付いた様子で口々に同意を示すのだった。


「なら一応交代で番をして、四時間くらい経ったら交代してもらう……ってことでどうだ?」

「いいと思うござる。ま、時計がないので感覚的なものになるとは思うでござるが」

 こうなってみると時計のありがたみが骨身にしむるというものだ。そのうちドロップしてくれると助かるんだけれど……。

「じゃあ、男女均等に最初が俺と神音で、次がエルとナイトーな」

「「「いやいやいやいやっ!」」」


 当然のように私と組むことを前提に組み分けをするレオに、さすがに全員がツッコミを入れる。


「戦力的に考えて、あと相性的にそれはないわ。せめて、レオとエルちゃん、私と内藤で分けるのがベターでしょう!?」

「え……!?」

 なぜかショックを受けた表情で黙り込むレオ。いや、なぜそこで裏切られたような顔をするのかが逆に疑問だわ。

「もしくは私がヒカルと一緒にひとりで起きているので、夜半(あくまで感覚)にレオに交代してもらうのがいいかもね」


 下手にレオに先にお願いすると、無理して一晩寝ずの番をしそうな気がするのでそう妥協案を提示する。


「それじゃあ神音の負担が大きすぎる!」

 当然のように反対するレオと、同意の頷きをするエルと内藤だけど……。


「忘れたの? 私の種族は半吸血鬼(ダンピール)。ちょっとやそっと寝なくても平気なのですよ。実際、ぜんぜん眠気とか感じないし」

「「「あ……!」」」

 実際、失念していたらしい三人。

「ということで、種族的に有利な私が先に置きていて、あと体力に勝るレオが後半に起きてもらうのがベストってこと」


 さすがにエルと内藤は体力の限界なのか、こうして見ていても目がしょぼしょぼしているのが手に取るようにわかるので、八時間くらい睡眠を取って貰ったほうが明日からの探索に有利でしょう。

 そう説明すると、しぶしぶ三人とも納得して仮眠の準備に入りました。

 と言っても、ウェストポーチを枕にしてタオルを毛布代わりに掛けて、石造りの床の上に寝転がるだけだけれど。


 それでもよほど疲れていたのだろう。特にエルなどスイッチが切れたかのようにパッタリと寝入った。そうして、ほどなく三人の緩やかな寝息が聞こえてきたのだった。


 その様子を横目に、私はヒカルを膝の上に乗せ『安全地帯(ピースゾーン)』の出入り口すぐ傍の壁に寄りかかって三角座の姿勢で廊下の薄明かりを透かし見ながら、明日からのことについて思いを巡らせる。


(……多分、この階を突破してもこれまでみたいに【神】が現れて、ヨーイドンで再スタートとはならないはず。これからは時間との勝負で六箇所、三十六人分の熾烈な椅子取りゲームになるだろうから、どれだけ早く上層に効率的にたどり着けるかが鍵だろうね)


 そうなると罠やMob(モンスター)も悪辣になるだろう。あと考えられることは、階層を突破するのに階層主――いわゆる強力なボスモンスターが配置されている可能性が非常に高いこと。そして、それよりもなお怖いのはPK(プレイヤーキラー)。つまりは妨害してくる人間ということになる。


(最低限、こちらも撃退できるだけの戦力を整える必要があるだろうね……)


 そうなるとやはり数を揃えるのが無難だろうけど、どこまで味方を信用していいものか……。

 そう思って、私は高いびきをかいている内藤に視線をやった。

 それから膝の上で丸くなっているヒカルを撫でる。


(裏切らないという意味では従魔を増やす方向も検討できるけど、これもどこまで信用できるかな?)


 そもそもこの能力は【神】によってぽっと与えられたものである。他の連中は『チート』や『俺TUEEEE』に酔っているようだけれど、裏づけもなしにぽいと与えられた力など、またいきなりぱっと消える可能性がある。到底、命をかけられるとは思えなかった。


 考えれば考えるだけ自縄自縛、思考の袋小路に嵌りそうな状況だけれど、それはそれとして現在の私の意識の大半を占めていたのは、この『安全地帯(ピースゾーン)』に入ってからずっとこちらを監視している視線の主。

 おそらくは階下の層で遭遇して、その後もたまにこちらを伺う様子を見せていたギリースーツで周囲に半ば溶け込む少女の存在にあった。

ふふふっ、まさか元旦最初の更新が、これだとは思わなかったでしょう。

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