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ここはなにかが欠けている

食うに困って

作者: 浮月重月
掲載日:2026/10/20

実家も継げず、仕事にもありつけず、冒険者になる者は数多い。


無論、最初から冒険者を目指してなった者も大勢いるのだが、

貴族であれば王立中央学院卒業までに配偶者を見つけられなかった、

平民であれば安い給金で雇い主からこき使われたくなかったなど、

「特になりたい訳ではなかったが」ならざるを得なかった者がいる。


なった後の、彼ら彼女らの心構えは大抵二極化されていた。

冒険者になったからには身を立てる為に努力を続けようという者と、

なりたかった訳じゃないから食える程度に仕事をするか、という者。

後者の者は大体が依頼遂行に身が入っていないせいで失態も多い。

食える程度のはずが、その稼ぎすら厳しい事になる。


どんな仕事でも一旦引き受けたからには手抜きや慢心は禁物なのだ。


◆


冒険者組合内には、冒険者達が無料で利用出来る資料室もある。

出張所のような場所を除けば、例えば近隣で採集出来る薬草類とか、

気を付けるべき害獣や魔獣の特徴、弱点、素材部位が調べられる。


資料室自体は実のところ百年以上昔から存在していたのだが、

識字率の低さからここを有効に活用している者はあまりいなかった。


ここ数年で王国の識字率が若年層を中心に急上昇したものの、

それでも資料室の存在を知る者があまりおらず、利用者は少ない。

ここは有用な情報でより利益を上げる切っ掛けの宝庫なのだが…。


ちなみに、薬草だけでなく毒草についてもここには資料がある。

薬草に似た毒草の見分け方なども、資料内では触れられている。


きちんと見習い時の説明を覚えていれば、防げただろうに。


◆


下級冒険者とされる、一つ星と二つ星。


冒険者を始めて間もない者だったり、実力が今一つ足りなかったり、

あるいは依頼への取り組み方が雑だったり失敗が多かったりと、

理由は様々ながら、共通してあまり稼げていない連中が多い。


三つ星以降の中級冒険者になれば、報酬も上がるし信頼度も上がる。

代わりに依頼の難易度は上昇するが、生活はかなり安定する。


まあ、賭博や色事に全部つぎ込む剛の者も出てきてしまうのだけど。


ともあれ下級冒険者は誰しもが中級への昇格を望んでいる。

依頼を達成すれば報酬は入るものの、大抵はまだ安いのである。

せめて日々の食事ぐらいは満足のいくものを摂りたい。


そう考えていた一つ星、二つ星の数名が、ふと思いついた。


採集依頼には、薬草だけでなくたまに食材もあるよな?キノコとか。

害獣でウサギとかシカを駆除した時はそれを食う事も時々ある。

だが食って良いのは、依頼主の許可を得た時だけだ。


キノコとか野草とかは、別に害獣駆除と関係がない。

しかも栽培している訳じゃないので、誰のものでもない。


…勝手に採って来ていいんじゃね?


その結論にたどり着いた彼ら彼女らは、腹を満たすべく森へ入る。

無論害獣がいるかもしれないので、装備一式も持った上で。


偶発の害獣駆除に加えてキノコや野草もあれば鍋が味わえるぞ!

誰もがそう考えて、口元が緩んでいた。


この日は幸運ながら、偶然出先でウサギ数羽が採れた。

確か以前この辺りで見かけたな、と野草の群生地へたどり着く。


予想を上回る野草の数。この量なら全員でも食いつくせまい。

着くやいなや、皆が夢中になって採集を始める。


ふと日陰を見れば、そこにはキノコもあるではないか!

一人が見つけ、全員へ声をかける。これも戴いていこうやと。


背負子に一杯詰め込み、今日食いきれないものは後日だ、と、

群生地から少し戻った開けた場所で鍋の準備を始める。


ウサギを捌いて骨と内臓を取り除き、野草とキノコを手でちぎり、

水を張った鍋へ塩を足しながら次々と投入していく。


煮えたものを碗に入れて、皆ががっつく。旨い。実に旨い。

時々こうやって食おうじゃないかと誰かが言い、皆も同意する。

全員が笑顔だった。


◆


二日後、彼ら彼女らは森の中、鍋の周囲で猟師に偶然発見された。

全員笑い顔で痙攣したまま、身動きが取れない状態で。


皆気づいていなかったのだが、野草には毒草が混ざっていた。

葉の形が野草と似ているので採集時に注意が必要なやつである。

質の悪い事にこの毒草、よく野草の近くに生えるのである。

ちなみに摂取してしまうと意識が混濁、判断力は低下する。


キノコは少量食するだけなら問題のない種類である。

が、一度に大量に食べると筋肉が硬直する作用を持っていた。

しかも加熱すると硬直作用は強まるのである。


身動きできない間、害獣や魔獣に襲われなかったのは幸いだが、

助け出された後は猟師達に大笑いされていた。


冒険者組合の方にも無論連絡が行き、そこでも大爆笑の洗礼。

毒が抜け症状が治まり、再び冒険者組合へと顔を出したところ、

顔なじみの冒険者達全員にそれが知られていた。


これ以降、冒険者組合では新人教育の一環として、資料室へ行け、

の一言が加わる事になる。この笑い話と共に。

毎年のように聞きますよね、ニラと間違えてスイセン食ったとか。

あとは免許がないのにフグ捌いて活け造りにしたとか。


それはそれとして、キノコと山菜の炊き込みご飯が食べたくなった。

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