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元ITエンジニアの俺、祖先の召喚術から召喚プログラムを組み上げて神も悪魔も従える  作者: パラレル・ゲーマー


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第3話 喫茶店と、未契約個体の見つけ方

 使い込まれた木製のテーブル。

 琥珀色の液体から立ち上る、深く香ばしいコーヒーの匂い。


 午後二時過ぎの喫茶店『いつき』は、駅前から少し離れた路地裏にあることもあって、客足はまばらだ。


 古びたスピーカーから流れるバロック音楽が、壁に染み付いたコーヒーの香りと混ざり合い、沈殿しているような独特の安らぎを醸し出している。


 この空間において、悠真が広げている最新型のノートPCは、少しばかり文明の利器としての主張が強すぎるように見えた。


 だが、今の悠真にとってここは、誰にも邪魔されずに「作業」を進められる貴重なオフィスだった。


「……よし。バックグラウンドでの霊的波形解析モジュール、正常稼働中」


 悠真は画面をスクロールさせながら、小声で呟いた。


 前職での癖か、独り言を言わないとロジックの整合性が確認できない。


 ディスプレイには、一般人には絶対に見せることのできない、極めて異常なダッシュボードが表示されている。


【契約個体:ジャグラズ】


【契約状態:暫定延長中(残り142時間)】


【顕現形態:安定(金髪少女型・リソース消費最小化モード)】


【供物消費量:予測値を15%超過。原因:嗜好品の追加注文による】


【周辺霊的反応:複数検知(低位存在が中心)】


【未契約個体候補:近隣エリアに7件を特定。解析継続中】


「おい、悠真。ここの『特製ガトーショコラ』、悪くねえぞ。いや、むしろ魔界の焦熱地獄にある最高級の泥菓子に匹敵する味わいだ。おかわりだ、おかわりを要求する!」


 向かいの席で、フォークを突き出しながら豪快に宣言しているのは、金髪の美少女にしか見えない低級悪魔、ジャグラズだ。


 彼女には今、悠真の召喚プログラムによる「仮契約」の更新条項が適用されている。


【更新内容:契約期間 七日間。行動範囲:御門家敷地内、および甲(悠真)同行時のみ外出可。供物:通常の飲食物、甲の愚痴、および軽度の負の感情エネルギー。業務:情報収集、怪異に関する知識提供、ならびに召喚プログラムの運用補助。】


 普通の人間からすれば、ケーキを頬張る生意気そうな姪っ子を連れた青年、といった風にしか見えないだろう。


 彼女が本来持っている「認識阻害」のパッシブスキルが、角や尻尾といった異界のパーツを、周囲の意識から巧妙に逸らしているからだ。


 悠真は画面から目を離さずに、冷たく言い放った。


「却下。さっきモンブラン食ったばかりだろ。あんまり食うなよ。これ全部、俺の自腹なんだからな」


「なんだよ、ケチ臭いなぁ! これは『供物』だろ。契約者なら、使役存在のメンテナンス費用をケチってどうする。魔力の枯渇は、システムの強制シャットダウンを招くんだぞ?」


「供物って言えば何でも経費になると思うなよ。お前、供物消費量のグラフが右肩上がりなんだよ。領収書の但し書きに『悪魔維持費(ケーキ代)』なんて書けるか。税務署が発狂するだろ」


 そう。

 悠真は今、深刻な「現実リソース」の問題に直面していた。


 祖父・宗一郎から相続した御門家の古い屋敷。


 それは確かに資産ではあるが、同時に金食い虫でもあった。


 固定資産税、老朽化した箇所の修繕費、そしてヤタガラスへの登録手続きに伴う諸経費。


 さらにそこへ、燃費が良いと言いつつも現代のスイーツに目覚めた悪魔の食費が加わる。


 退職時の貯金はあるが、このまま無職で「召喚師」という実態の掴めない活動を続けていれば、数ヶ月でキャッシュアウトするのは目に見えていた。


「はぁ……。エンジニアのスキルを活かしてリモートワークでも探すか。でも、今の俺にはこの『未完成の召喚プログラム』を磨くこと以上に優先すべき仕事があるような気がするんだよな」


 悠真は、喫茶店に来るまでの道中を思い出した。


 今朝、ジャグラズを連れて駅前まで歩いたとき、悠真の視界は以前とは決定的に異なっていた。


 電柱の上に、真っ黒な猿のような姿をした小鬼が座っていた。


 商店街の古い看板の裏に、薄っぺらな影が張り付いて、通行人の不平不満を吸っていた。


 神社の鳥居のそばで、淡い光を放つ火の玉がゆらゆらと眠っていた。


 自動販売機の裏に隠れて、誰かが落とした小銭を狙うネズミのような妖魔。


 どれもが、一般の人々には見えていない。


 人々は、すぐそばに異形の存在がいることなど露知らず、スマートフォンの画面を見たり、世間話をしたりしながら通り過ぎていく。


(世界が、変わったんじゃない……。俺の見え方が、システム的に拡張アップデートされたんだ)


 御門家の血を引く悠真が、悪魔であるジャグラズと「接続リンク」した副作用。


 彼女の五感と悠真の知覚が、召喚プログラムという変換器を通して同期しているのだ。


 今、この喫茶店の中にも「それ」はいる。


 天井の隅、換気扇の隙間に羽虫のような微弱な精霊が溜まっている。


 レジ横にある招き猫の置物の周りに、薄い金色の粒子が漂っている。

 おそらくは商売繁盛を願う想念が具現化したものだろう。


 そして、入り口近くの席に座る疲れ切った会社員の肩に乗る、小さな「疲労の妖魔」。


「……なあ、ジャグラズ。お前と契約してから、こういうのが町中に溢れてるのが嫌でも分かるようになったんだけどさ。これ、普通なのか?」


「んー? ああ、それか」


 ジャグラズは、最後の一口のケーキを惜しむように飲み込み、コーヒーで流し込んだ。


「当たり前だろ。人間がいるところに想念があり、想念があるところに怪異が生まれる。ただ、俺みたいな本格的な『悪魔』は珍しい方だぜ。大半は、名前すらつかないような有象無象の『バグ』みたいなもんだ。お前は俺と契約したことで、裏側のプロトコル(通信規約)にアクセス権を得ちまったんだよ。要するに、管理者モードで世界を見てるようなもんだ」


 悠真は納得しかけるが、同時にノートPCが「ピッ」と小さく通知音を鳴らした。


【周辺未契約個体候補:7件】


【内訳:妖魔クラス3、精霊クラス4。内1件に高適合の反応あり】


 悠真は眉をひそめ、ログを精査した。


 画面には、店外の自販機裏に潜む低位妖魔や、店内の観葉植物の陰に漂う精霊の座標が、リアルタイムでプロットされている。


「……なぁ。この召喚プログラム、お前経由で得た霊的情報を基準にして、周囲の『未契約個体』を勝手にソートし始めてるんだけどさ」


「あ? どういうことだよ」


「つまり、お前の霊的波形を『既知の契約個体』として定義して、それと比較して明らかに波長が異なる存在を、『未契約』として自動的にタグ付け(分類)してるんだ。お前の感覚情報をフィルターに使って、町中の野良怪異を検知するレーダーとして機能してる」


 ジャグラズが、手に持っていたフォークをポロリと落とした。


「……おい待て。契約に書いてねーぞ、そんなこと!」


「書いてる。契約条項の第五章、付帯業務の省略部だ。『ジャグラズは甲(悠真)の召喚術運用に必要な範囲で、その霊的特性、存在維持情報、ならびに周辺感知情報の提供に、非排他的に協力するものとする』って」


「ずるいぞ! そんなの、ただのセンサー扱いじゃねえか!」


「いやいや、ちゃんと読み合わせの時に承諾しただろ? 運用に必要な範囲だって。怪異を召喚・管理するのがこのプログラムの本質なんだから、その材料を探すために、既にあるリソース(お前)を活用するのは当然の最適化だろ」


「悪魔に契約の罠を仕掛けるな! それは俺たちの十八番だろ! この詐欺師、ブラック当主!」


「契約書を隅々まで読まない方が悪い。エンジニアの世界じゃ、仕様書の行間を読まない奴から脱落していくんだ」


「人間が悪魔にそれを言うな!」


 ジャグラズは真っ赤になって怒っているが、悠真はどこ吹く風でデータを取っている。


 実際、これは驚くべき発見だった。


 ジャグラズという「基準データ」を得たことで、プログラムは正体不明の霊的ノイズの中から、意味のある「個体」を識別パースできるようになったのだ。


 しかも――。


「ジャグラズ。お前、今も『認識阻害』を使ってるよな?」


「当たり前だろ。解除したら今頃、金髪少女の頭から角が生えてるのを見て、店内の客が腰を抜かしてるぜ」


「その阻害フィールドの有効範囲と強度も、ログに残ってる。……ふむ、周囲五メートル以内。一般人の意識を『無関心』の方向に微弱に偏向させてるのか。これ、プログラム側で干渉して、隠蔽率を高めたり、逆に特定の人間にだけ見えるように調整できそうだな」


「やめろ! 俺のプライバシーがどんどん削られていく! 俺のスキルの設定値を勝手に弄るな!」


「悪魔にプライバシー権なんてあるのか?」


「あるに決まってんだろ! ……たぶん!」


 二人のやり取りを、隣の席の客が怪訝そうな顔で一瞬見たが、ジャグラズが指をパチンと鳴らすと、すぐに興味を失ったように視線をスマートフォンに戻した。


 悠真はそれを見て、少しだけ安堵する。


「……確かに、この認識阻害ってやつは便利だな。こんな場所で悪魔がどうとか話してても、周囲にはゲームの話か、拗らせた兄妹の喧嘩にしか聞こえてないわけだ」


「低級悪魔の嗜みだぜ。……それより、本気で聞くけどよ。お前、これからどうすんだ? 屋敷の管理で金が要るんだろ? 無職のままじゃ、俺へのケーキ代で破産だぜ」


 ジャグラズの正論が、悠真の胸に突き刺さる。


 悠真は背もたれに深く体を預け、天井を仰いだ。


「IT系の現場には戻りたくない。でも、この『召喚プログラム』の技術を活かさない手はないとも思ってる。……ヤタガラスに所属すれば、給料とか出るのかな」


「ヤタガラスは高給取りって聞くぜ? なんたって命懸けの公務員だからな。だが、お前みたいな登録したての素人が、いきなり固定給をもらえるほど甘くねえだろ。あそこは実力主義の塊だ」


「だよな……。烏丸さんも『見守る』とは言ってたけど、『雇う』とは一言も言ってなかった」


「じゃあ、フリーランスの召喚師として稼ぐしかねえんじゃねえの? 探偵業とか、怪異調査とかよ。俺を影に潜ませて浮気の証拠を撮らせるとか、ペットの霊を探すとか……俺の情報収集能力なら、その辺の三流探偵よりよっぽど使えるぜ」


 悠真は、ジャグラズの言葉に目を開いた。


 実働をジャグラズに任せ、自分は後方でプログラムを運用し、報告書を作成する。


 それは、悠真が最も得意とする「システムの運用管理」の枠組みを、怪異調査という分野に適用する試みだった。


「……悪くないな。リスク管理を徹底すれば、俺のような戦闘力ゼロの人間でも、召喚師としてビジネスが成り立つかもしれない」


「おい、今のは俺が適当に言っただけで、本気で俺をこき使う気じゃねえだろうな?」


「何を言ってる。契約条項に基づいた正当な『業務命令』だ。利益は折半してやる。お前の取り分(ケーキ代)込みでな」


「うわ、やっぱりブラック当主だこいつ!」


 悠真は、迷うことなくメーラーを立ち上げた。


 宛先は、ヤタガラスの烏丸蓮司。


 前回の接触で受け取った名刺のメールアドレスだ。


【件名:登録召喚師としての小規模業務の受託、ならびに連携のご相談】


 悠真は、極めて事務的な、それでいてエンジニアらしい簡潔な文面でメールを綴っていく。


「……お世話になっております、御門悠真です。現在、低級悪魔ジャグラズとの仮契約下において、周辺霊的情報の検知、および解析アルゴリズムの精度向上を行っております。……つきましては、私の保有する『システム化された召喚術』の運用テストを兼ね、ヤタガラス様で扱われている低リスクな調査案件、あるいは民間からの依頼で手に余る小規模な怪異事案等がありましたら、ご紹介いただけないでしょうか。……実働は契約個体ジャグラズが担当し、私は後方での管理・報告に徹する形を想定しております……」


 ジャグラズが横から画面を覗き込み、顔を引き攣らせる。


「おい……『実働は契約個体ジャグラズが担当』って、さらっと俺を現場に放り出す気満々じゃねえか」


「事実だろ。お前の方が隠密性は高いんだから。俺が外に出て悪魔に追いかけ回されるより、よっぽど合理的ロジカルだ」


「俺の合意は!?」


「今取った。……よし、送信」


「あ、待てっ……!」


 悠真がエンターキーを押した瞬間、メールは電子の海へと飛び立っていった。


 数秒後。


 デスクトップに、ヤタガラスの自動返信システムからの通知が表示された。


『受付完了。担当者より、追ってご連絡差し上げます。』


「……お役所仕事が早いの、たまに腹立つな」


「同意する。だが、これで後戻りはできなくなったぞ」


 ジャグラズは呆れたように肩をすくめると、最後の一滴のコーヒーを飲み干した。


 そして、急に真面目な顔になって悠真を指差した。


「でもよ、悠真。一つだけ言っとくぜ。俺を働かせるのは勝手だが、今のままじゃお前、仕事にならねえぞ」


「どういうことだよ」


手札リソースが少なすぎるんだよ。召喚師ってのはな、状況に応じて呼ぶ存在を変えるもんだ。俺は情報収集と隠密には自信があるが、正面切っての戦闘や、怪我の治療、結界の構築、浄化、その辺は全部門外漢だ。低級悪魔一匹で全ての案件トラブルを片付けようとするなんて、電卓一台で大規模サーバーの構築をしようとするくらい無謀だぜ」


 その例えは、悠真に深く刺さった。


 確かにその通りだ。


 現在の御門家の手札は、ジャグラズ一体のみ。


 何かイレギュラーな事態が起きれば、すぐに対処不能に陥る。


「……契約対象を、増やす必要があるな」


「そうだ。まずは危険度の低い野良存在を探して、契約しろ。悪魔は面倒くせえから、最初は精霊か、温厚な妖魔の方がいい」


「お前が言うと説得力があるな」


「うるせえよ。……ほら、お前のそのレーダー、何て言ってる?」


 悠真はPCの画面を見た。


 喫茶店の周辺。


 最も強い反応を示しているのは、この店から歩いて数分の場所にある、古びた公園だった。


【未契約個体:検出】


【推定位置:近隣公園内、古木の周辺】


【種別候補:小精霊/都市妖魔/低位悪魔残滓】


【契約適性:高い個体を1件検出】


「公園……か。昼は子供たちの笑い声が溢れ、夜は疲れた大人たちが溜息をつく場所」


「感情エネルギーの交差点だ。精霊も妖魔も寄り付きやすい。特にお前の術式に『高適合』って出てるなら、交渉の余地がある個体がいるんだろうな。……よし、食うもんも食ったし、偵察に行くか」


「ああ」


 喫茶店を出る直前。


 悠真は、画面に不穏な警告が出ていることに気づいた。


【微弱悪魔系残滓:検出】


【対象:隣席客の端末】


【推定:低級呪詛広告フィッシング・カースの付着】


 見れば、先ほどまで青ざめてスマートフォンを操作していた会社員が、震える手で画面をスクロールさせている。


 その画面からは、一般人には見えない黒い靄が立ち昇り、彼の視神経に絡みついていた。


「ジャグラズ、あれ……」


「あー、あれか。たちの悪い低級悪魔が撒いた『広告』だな。見ると気分が落ち込む、あるいはギャンブルや課金への欲求を異常に高める。一種のサブリミナル呪詛だ」


「放置していいのか?」


「命は取られねえよ。せいぜい今月の給料が溶けるくらいだ」


 悠真は少し考え、キーボードを叩いた。


 直接的な召喚・使役ではない。


 だが、プログラムの中にある「ジャグラズの波形」を基準データとして、それを「逆相」でぶつければ、一時的なノイズキャンセリングができるのではないか。


「……実験だ。フィルタリング・コマンド、実行」


 悠真がエンターを押すと、ジャグラズの身体から微かな「闇」の波動が放射された。


 それは悠真が操作する端末を経由し、特定の周波数に調整されて、隣席の会社員へと向かう。


 会社員のスマートフォンの画面が、一瞬だけ不自然に暗転した。


「……あれ?」


 会社員がハッとしたように顔を上げた。


 憑き物が落ちたような顔で、彼はしばらく自分のスマートフォンを見つめ、不思議そうに呟いた。


「……俺、何に熱くなってたんだろ。バカバカしい」


 彼はそのまま、溜まっていたメールを閉じて席を立った。


 悠真は、自分の指先を見つめた。


「……できたな。直接祓う魔力がなくても、契約個体の波形を利用すれば、干渉できる」


「お前……本当に性質タチが悪いな。悪魔の波形を抗ウイルスソフトみたいに使いやがって」


「お前のおかげだよ、定義ファイルさん。……よし、行こう。公園へ」


 喫茶店の会計を済ませる。


 レシートの金額を見て、悠真は再び深い溜息をついたが、その足取りは以前よりもわずかに力強かった。


 公園は、夕暮れの時間帯に差し掛かっていた。


 赤く染まった空の下で、カラスたちが不気味に鳴き交わしている。


 滑り台の影、ベンチの裏、そして一本の大きな古い桜の木。


 悠真の視界には、いくつもの「光」と「影」が蠢いて見えた。


 ノートPCを開いたまま歩く悠真は、端から見れば怪しい不審者そのものだったが、隣を歩く金髪の少女が振りまく認識阻害のおかげで、誰も彼らを直視しようとはしなかった。


「……いたぞ」


 ジャグラズが、公園の奥、古びたベンチの下を指差した。


 そこには、震えているような、小さな黒い塊があった。


 普通の人間には、ただの落ち葉の影にしか見えないだろう。


 だが、悠真の召喚プログラムの画面には、はっきりとしたステータスが表示されていた。


【未契約個体:検出】


【種別:都市妖魔・塵霊ダスト・スピリット


【状態:衰弱・空腹】


【契約適性:98%】


「……塵霊? 何だ、それは」


「忘れ去られた物や、溜まった埃に宿る、弱小妖魔の典型だ。戦闘力は皆無だが……こいつら、狭いところに入り込むのと、掃除(隠滅)は得意だぜ」


「掃除か。……家事代行サポートには良さそうだな」


 悠真は、ゆっくりとその影に歩み寄った。


 こうして、御門悠真は初めて、自分の意思で「契約する相手」を選ぶための交渉を始めることになった。


 その時、悠真のポケットでスマートフォンが震えた。


 烏丸からの返信だった。


『御門様へ。小規模案件の件、承知しました。


 いくつか紹介可能なリストがあります。


 ただし、おっしゃる通り、現在の御門様の手札が低級悪魔一体のみでは、対応可能な現場は極めて限定されます。


 まずは安全な契約個体を増やし、術式の安定性を高めることを推奨します。


 ……なお、近隣の公園に、昨夜から興味深い「はぐれもの」の反応があります。観測訓練として接触してみるのもよろしいでしょう。


 くれぐれも、深追いはなさいませんよう。』


 悠真は、隣でカラスと何か言い合っているジャグラズを一瞥した。


「……烏丸さん、全部お見通しってわけか。嫌な役人だな、本当に」


「何がだよ?」


「いや。まずはこの『塵霊』ってやつと、交渉テストしてみることにするよ」


 夕闇の迫る公園で、無職の召喚師は、再びキーボードに指を置いた。

最後までお付き合いいただき感謝します。


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