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死に損ねた者たち—— 魔法学校へようこそ!


みんなは、死んだあとどうなるか考えたことがあるだろうか。


天国か、地獄か。


そんな話を、誰もが一度はしたことがあるはずだ。


――でも、もしそれ以外があるとしたら。


例えば、死にたくないと強く願った者だけが行く場所。


未練を抱えたまま、終われなかった者のための場所。


魔法学校。


そんなものが本当に存在するとしたら――


きっと、誰も信じない。


少なくとも、俺はそうだった。


「はぁ……はぁ……っ」


手に、べっとりと血がついているのが見えた。


「いた!」


手首を強く押さえると、まだ赤い血がにじむ。


胸も、焼けるように痛い。


呼吸は浅く、肺が膨らむたびに鋭い痛みが走る。


視界が暗く、狭くなっていく。

アスファルトの冷たさだけが、やけにはっきりと伝わってきた。


(なんだよ……これ)


手足は動かない。指先を動かそうとしても、体は言うことを聞かない。


遠くで誰かが叫んでいる声が、かすかに聞こえる。


だが、それはもう意味を持たない音の連なりだった。


「このまま……死ぬのか、俺……」


唇からかすれた声が漏れる。


まだ何もやっていない。


やりたいことも、見つけていない。


なのに――


「嫌だ……」


喉の奥から必死に声を振り絞る。


「死にたく、ない……!」


その瞬間


胸の奥で何か引っ掛かった


落ちていく体を、誰かに掴まれて無理やり引き止められるような感覚。


視界が白く塗りつぶされ、音が消える。


感覚が、ほどけていく


そして世界がふわりと宙に浮いた。


「――まだ」


誰かの声がした。


「まだ、終わらせない」


次の瞬間、すべてが途切れた。


――そして。


意識が戻る。


呼吸が戻り、体の感覚が鮮明になる。


そして……血の感覚も消えていた。


手首の痛みも、胸の焼ける痛みも、跡形もなく消えている。


「……っ」


胸に空気が入る。


苦しくない。痛くない。


生きている――いや、それ以上の感覚。


「……ここ、どこだよ」


見上げると、白く高い天井が光に反射して輝いていた。


壁も床も光を吸い込むように白く、柱は整然と並び、廊下は無限に広がっているかのようだった。


体を起こすと、同じ制服を着た人間が何人も立っている。


ざわめき。

不安。

混乱。


全員、目を合わせず、視線を床や天井に落としている。


「……夢、だよな?」


男子の一人が震える声でつぶやく。


「信じられない……死んだって……」


女子の小声が、空気を揺らす。


「……なんで私、生きてるの?」


肩を震わせる少女。


「誰か説明してくれ!」


焦った声が、ざわつく人々の間から上がる。


コツ、コツ、と規則正しい足音。


壇上に、感情のない目でこちらを見下ろす教師。


「ようこそ。終わり損ねた者たち」


空気が凍る。


「お前たちは、一度死んだ」


ざわめきが広がる。


当然だ。


俺も理解出来てない。


顔を覆う者、肩を震わせる者、硬直したまま動けない者もいる。


教師は淡々と続ける。


「ここは魔法学校だ。死を受け入れられなかった者、強い未練を持つ者。その中でも“素質”を持つ者だけが、ここに来る」


(……何言ってんだ)


俺は立ち上がる。


「は?」


「ふざけんなよ! なんで俺がこんなことやらなきゃいけないんだ!」


「勝手に連れてきて、勝手に死んだとか言われて――」


教師は一切揺れない。


「拒否はできない」


俺は唖然とした。


その一言で、すべてが終わった。


「ここから出るには、“卒業”するしかない」


「卒業……?」


「後悔を清算しろ」


その言葉に、胸がざわつく。


「それができなければ――」


一拍置き、低く告げる。


「お前たちは消える」


静かすぎる宣告だった。


(後悔……?)


考える。だが――


(……俺、別に)


隣から声がした。


「ねえ」


振り向くと、白髪の少女が立っていた。


無表情で、真っ直ぐこちらを見ている。


瞳は澄んでいて、まるでこちらの胸の内を見透かしているかのようだ。


「……は?」


少女はわずかに首を傾げる。


「あなた、忘れてるだけでしょ。後悔、ないわけないよ」


ドクン、と心臓がなった。


「……なんだよ、それ」


動揺しつつも、問い返す。


「後悔してないわけないでしょ」


その言葉が、重く沈む。


「ほら……思い出してみて」


(何だよそれ…)


本当に、わからない。


でも――


胸の奥が、ざわついた。


思い出しそうで。


思い出したくない何かが、確かにそこにある。


少女は静かに近づき、低く、けれども確信に満ちた声で言う。


「あなた、一番危ない。何も感じてない人が、一番壊れるから」


「え……俺が……?」


心臓が早鐘のように鳴る。


「うん」


彼女はほんの少し笑みを浮かべる。


「強がっても、無理に笑っても、後悔は消せない。ここでは、隠しても意味がない」


「……教えてよ、何をすればいいんだ?」


恐る恐る尋ねると、白髪少女は真っすぐ目を見つめたまま答える。


「まず、ここが何かを理解して。自分の未練と向き合う。それから……生き残る方法を考える」


――その意味を、俺はまだ知らない。


教師は冷たく見下ろしたまま、壇上で動かない。

後ろの廊下は無限に広がり、天井から差し込む光が壁に反射して、白く神秘的に輝く。


――これが、俺たちの新しい“世界”だ。


胸に不思議な緊張と、抗えない期待が混ざった。

――生きるために、戦わなければならない場所。

――魔法学校。

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