4 実害
その日以降、危惧していたことが現実となった。
学園中の生徒に無視されるだけでなく、実害が出始めたのだ。
「教科書がない……」
理科の実験の授業から帰って来たリサリーは、机の中に置いておいた教科書が無くなっていることに呆然とする。
クラスメートは全員、共に理科の授業を受けていた。
こんなことができるとしたら、クラスの外の人間だ。
他のクラスの生徒か、あるいは教師か、はたまた……。
「おや、リリーベル嬢。教科書を用意していないのですか」
次の授業を担当していた教師ザックスは、リサリーが教科書なしに授業を受けている様子を目ざとく見つけ、鬼の首を取ったような様子で指摘してくる。
リサリーはちょうどいいとばかりにその場で立ち上がった。
「さっきの理科の授業の間に、机の中に置いていた教科書が全て盗まれました」
「そんなことは起こりえません。自分が持ってくるのを忘れたくせに人のせいにするなど、性根が腐っていますね」
「教科書は教室内のロッカーに保管する決まりではありませんか」
「寮に持ち帰ったままにしたのでしょう」
「何故、推測で私が悪いと決めつけるのですか?」
「……は?」
鼻白んだ様子のザックスに、リサリーはわざとらしくため息を吐く。
「ちょうどいいです。授業料を払ったのに、学園の治安が悪く教科書を盗まれたので、授業がまともに受けられません。誰か教科書を見せてくれますか?」
リサリーが周りを見渡すと、生徒達は視線をそらし、静まり返る。
その様子を見たリサリーは、ザックスに向き直った。
「ザックス先生。私はクラスメート全員にいじめられているので、誰も教科書を見せてくれません。教科書を見せるように指示してくださいませんか」
「ふざけるな! お前のような生徒のために、そのようなことはしない!」
「お前のような生徒、とは?」
「お前のような、生意気な!」
「先生が生意気に感じると、授業をしっかり受けたいという生徒の意向は無視されるのですか」
「当たり前だ!」
「そうですか、わかりました」
リサリーは素直に席に着いて、ペンを手に持つ。
その様子に、男性教師は目を白黒させた後、何故か顔を真っ赤にして怒鳴りだした。
「出ていけ! 私の授業を受ける権利は、お前にはない!」
「それはできかねます」
「ふざけるな!」
「私の家はこの学園に授業料を払っています。私はあなたは職務違反をするのですか?」
わなわなと震えた教師ザックスは、「今日は自習だ!」と叫んで教室を出ていった。
クラスメート達の誰かが、「お前が出て行けよ」という声が小さく呟いた声を、リサリーは聞き逃さなかった。
教科書は、焼却炉の近くで見つかった。
ほとんど焼き払われ、一部、リサリーに自分の教科書が焼却されたのだと知らしめるためか、引き裂かれた教科書が近くに落ちていた。
念のため担任教師にこれを訴えたけれども、彼は当然のごとく、リサリーのせいであると主張してきた。
校長はこのときも、校長室に居なかった。
予想していたとおりだったので、リサリーは校長室に、手紙を残した。
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その他にもリサリーへの嫌がらせは続いた。
彼女は寮に入っていたため、シャワーを浴びている途中に湯を切られたり、寮の監督者の権限で食事を勝手に抜かれたりすることもあった。
どうしてこんな扱いを受けなければならないのか、誰もリサリーに説明しない。
そんなある日、図書室で勉強をするリサリーに話しかけてきた者がいた。
このヴィクトリア王国の王太子である、ウィリアム第一王子であった。




