表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/13

2 クラスメートの無視と女教師メリンダ


「あの……」

「……」

「ク、クラスレポートのことなんだけど」

「私達、別の用事があるから失礼するわ」

「えっ。で、でも、今皆さんもレポートを作成していらっしゃるのでは」

「ちょうど休憩に出ようと話をしていたのよ。では、あしからず」


 声を掛けたクラスメートの令嬢達、そうやってリサリーを冷たくあしらい、去っていく。

 リサリーは、教科書とノートを抱きしめ、唇を噛んだ。


 実は、ヴィクトリア貴族学園に通い始めてからというもの、ずっとこうなのだ。


 いや、入学式の日は違った。

 隣の席のご令嬢達と親しくなり、挨拶をした。同じクラスの所属だったこともあり、女子寮でも楽しく一緒に過ごして、明日も一緒にクラスに向かおうと約束していたのだ。初めて親元を離れ、寮生活をすることに、令嬢達も心細さを感じていたようで、仲良のいい友達ができたことに、リサリーと共に一安心していた。

 それなのに、翌朝になると、彼女達はリサリーを避けるようになったのだ。

 朝も待ち合わせの時間には来なかったし、朝食も一緒に食べようと約束していたのに、リサリーが食堂に入った頃には食べ終わってしまっていた。

 声をかけても、目も合わせてくれない。何か悪い事をしたのか尋ねても、「ごめんなさい」と謝るだけで、逃げて行ってしまう。


 それは、入学してから二ヶ月経った今でも続いているのだ。


 クラスメートの誰に話しかけても、ろくに会話をしてもらえない。

 あからさまに避けられている。


 さしものリサリーも、これにはまいってしまった。

 朝から晩まで、ちょっとした会話をする相手も居ないのだ。

 こんなこと、入学前は想像もしていなかった。


 魔法調合の授業で、ペアを組むように言われた時も、クラスの人数は偶数なのに、あからさまにリサリーを一人にするために、三人で組もうとした者までいた。


「……学業の妨害までされるのは、納得いきません。こんな幼稚ないじめ、例え下級貴族の集まる下級クラスとはいえ、貴族の子女が通う学園で行われることだとは思えません。私は皆さんに、何かしましたか。入学以降、お話をしたことがある方すら、ほとんどいないはずですが」


 授業内に立ち上がり、教師と同級生達に向かって、リサリーはそう告げた。


 リサリーも、高い授業料を払って、この場に居るのだ。

 何もしていないのに、こうやってペアでやる作業の授業を受けられないのでは、たまったものではない。


 毅然と頭を上げ、真っ直ぐにクラスメート達を見据えるリサリーの言葉に、彼らは目を逸らすばかりだった。


 それだけではない。

 四十代の女教師も、目を彷徨わせている。


「メリンダ先生。この事態を、あなたはどうお考えなのですか。私の家もあなた方に授業料を払っているのですが」


 リサリーが魔法調合の専門教師メリンダに矛先を変えると、クラスメート達は、黙って教師を見つめる。

 メリンダは、青ざめた後、しかし、三人でペアを組んだ生徒達を叱ることはなかった。


「……今回は、私とペアで実験をしましょう」

「メリンダ先生!」

「クラスメート達に避けられるあなたが悪いんですよ。貴族であるならば、既権者達と融和を図るのも一つの責務。周りと融和できないという点で、貴方の能力不足です」

「私は何もしていません! 入学した次の日から、誰も私と話もしてくれないのに! こんなの、先生だったら、どうやって融和するっていうんですか!?」


 リサリーの言葉にメリンダは絶句する。

 他の生徒達は、ただただ俯いて黙っていた。


 ようやく手応えのある反応を得たリサリーは、一瞬、何か対応してくれるかもしれないと期待を胸にメリンダを見る。


 しかし、メリンダの反応は、彼女の予想を超えるものだった。

 苛立った顔で舌打ちした後、「何も知らないくせに」と呟いたのだ。


 まさかの態度に、リサリーが唖然としていると、メリンダはリサリーを睨みつけてきた。


「そういう生意気な態度がよくありません。出て行きなさい」

「で、出ていく?」

「和を乱すような発言。授業の侵攻妨害です。教室から出て行きなさい」

「……周りの生徒達を、叱らないんですか。教師まで理由もなく幼稚ないじめに加担して、一人を排除して済ませると?」

「出て行きなさい!」


 そう叫ばれて、リサリーは周りの生徒達を見る。

 入学式の日、一緒に会話をした令嬢達の方を見ると、リサリーからサッと目をそらした。


「あなた達、これを見て本当に何も思わないの」


 そういったリサリーの言葉は、誰にも届かない。


「校長先生に、今の話を訴えます」

「好きにしなさい」


 リサリーは、毅然と頭を上げたまま、教室を出た。


 教室を出て、ゆったりとした足取りでトイレに入り、個室のドアを閉めたところで、我慢が途切れてしまった。

 ぼろぼろと零れ落ちてくる涙が、教材につかないように――涙の痕を誰かに見られたりしないように、リサリーは床だけを見つめていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ