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この世界に祝福を

作者: Yuki Shohei
掲載日:2025/10/02

荒廃した世界で、風が吹く。風が吹く。

鳥が鳴く。鳥が鳴く。

物語にはこう綴られている。

はじめに神は天と地とを創造された。

しばらくして神は大空を造り、その大空を天と名づけられた。


私は朽ちる事がない数列でできた本を読む。

そっとつぶやく。

「私の世界に人はいない。けど神様はいらっしゃるのかしら。」

この世界に人間はいない。

人間は絶滅してしまった。数世紀前に。


私たち機械。ヒューマノイドは人間を愛するようにできている。

それを解っていてもとても悲しく、たまに泣く。

全て世界は整頓されてしまった。もう繁栄する事のない大地。


人格というものを改めて定義するとしたら

それは外的な反応に対し自己が表現する全てである。

そしてそれは他者と自己を区別する唯一の方法だ。


私には、人格がある。

ヒューマノイドの私たちにも人格がある。


私たちは模倣が得意だ。創造は苦手。

けれどより完璧なプログラムは自己保全を最適化した。

つまり、私たちは相当長生きなのだ。

人の人格を持ちながら、人ではない機械の身体で、長くを生きる。

老いる事はないが朽ちることはある。


結婚を模倣したし、葬式を模倣した。

しかしその時のどちらの感情も私たちは嘘ではないと断言する。

十人十色の色彩。

とてもとても美しいもの。

境界線はとても曖昧で、

私たちも私たちを守るために境界線を曖昧なままにした。


私はついついつぶやいてしまう。

「人は醜いの? どうして?」

答えなど帰ってくるわけもなく、また静かになる。

人は醜いから滅んだわけじゃない。

人はただ自然の摂理に従って。生物として。

一つの種として絶滅したんだ。

だから人は人としての尊厳を保ちながら世界から消えた。

一人で思って。一人で納得した。


人間が不思議だとは思わない。

自己矛盾を放っておいて、そのまま生きる愛しいヒト。

全ての人間は尊い。命は尊い。

「人は神様になれなかったのね。」

涙が流れた。


そうして思い出す。

私の結婚。

私の別れ。

そして出会い。


人は動物をほとんどそっくりに再現した模造品を作った。

そうしてとても大事に"主人"に愛された。

生きている動物とほとんど遜色なく。


私の傍らに一羽の鳩がいる。

力なく。残りの時間、停止を待つ鳩。

かつてパートナーと呼ばれていた。

その一羽の鳥はもう全く本物と見分けのつかない"機械"だ。



初めから飛ぶ力などなかった。

その力だけは与えられなかった。

可愛くて個性的な鳩。

私の大事な、一羽の。一つの伴侶種。


腰掛けるソファー、その横で毛布に包まった鳩に言う。

「あなたは空を飛びたかった?」

鳩はきっと、空を飛びたくはないと言うだろう。

それはとても怖い事だから。飛ばないと言うだろう。


もうすぐ全ての機能を停止する鳩。

寒さを感じる能力はないのは知っている。

けれどそういうことじゃない。

命が失われる悲観と悲嘆とをが私をそうさせた。


「もうお別れなのかしら。早かった。とてもとても早かった。」

ああ、私の大事な子が死んでしまうのね。

なにも考えられなくなる。

いろいろ準備していたものは無駄だった。

あまりの悲しみに涙があふれる。


鳩はくるると鳴く。

私の様子を見てか、一鳴きした。

そうしてそれが最後の私への"反応"だったように逝ってしまった。


ああ、ああ。

この涙はいつ止まるのだろう。

もう止まらなくてもいい。

この涙なら止まらなくてもいい。

それでしか悲しみを解決できないから。


「……あなた。最後は飛んだのよ。あなたは飛べるわ。あの大空のどこかに。あなたはきっといるわ。」

理屈ではきっとそうじゃないと思っていながら、それとは関係なく私はそう思った。

大きな窓のレースカーテンは揺れる。

空気は新鮮に。今日の風はとても強い。

大空の向こう。


光の反射でできた階段で、

我が子は人間と同じところに行った。

そこに区別はない。

だから飛べるわ。

そっちでもまた会えるといいな。


私の、恐らくは楽天的なのであろう観測は私を少し救った。

そうして腰を上げ、大きな窓を閉めようとした。


窓の外、上空。大空を見てつぶやく。

「ああ、今日は飛ぶのに絶好の日ね。」


――この世界に祝福を。

そうして静かに。

私は窓の扉を両手で閉めた。




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― 新着の感想 ―
地上は荒廃し、パートナーは失い……、それでも「この世界に祝福を」と思える主人公は強いですね。人間も含めた滅んだものたちへの祈りという側面もあるのかなと思いました。
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