エピソード3 買い物編2
何気ない休日、いつもの笑いの中に、
まだ言葉にできない気持ちがこぼれ落ちた。
買い物編2の始まり。
ゲームセンターについた僕と彼女はまるで星が降り注ぐような、ネオンの光が|煌めく空間に圧倒されていた。
と思ったが彼女にはこの空間がそれほど珍しいものではないらしく彼女はズカズカと中へ進んでいった。
それについていくと、彼女はある一つのくまのぬいぐるみの前で立ち止まってしゃがみ込み、財布を開いて百円を投入口へと入れた。
彼女は慣れた手つきでレバーを操作する。すると2つのぬいぐるみがふわりと宙を舞い、ポトリと景品口へ落ちた。
目尻を少し上げ、片眉だけを持ち上げたその顔は、「どうだ見たか?」と言うよな自慢げな表情だった。
彼女の技術力に感心しながらもその自慢げな顔が少し鼻についた。
ぬいぐるみは綺麗な桜色と鮮やかな|藍色の可愛いぬいぐるみだった。
「はい、これあげる!」
彼女は僕に藍色の可愛いくまのぬいぐるみを手渡した。
不器用に差し出されたぬいぐるみ。手に取った瞬間、胸の奥がじんわり熱くなって、気づけば頬が緩んでた。なんでこんなに、うれしいんだろう。
「ありがとう。大切にするよ」
そう言ってリュックにそのぬいぐるみをつける。
「わたしにかかれば楽勝なんだから!」
彼女はまた自慢げな顔をする。
彼女のその自慢げな顔を見て自然と表情が緩んだ。
少し歩いて彼女が猫のぬいぐるみの前で立ち止まる。
何度も挑戦するも、ことごとく失敗を重ねていた。ぬいぐるみを狙ってはアームがズレて、また狙っては落とせず…そのたびに小さく「えーっ」と口を尖らせて、頬を赤く染める。
「あれ?私、さっきの奇跡だったのかな…」
彼女が首をかしげる。やっぱり、彼女は一発屋だったらしい。
そんな彼女を見て、笑いをこらえるのに必死だった。目尻がつり上がりそうになるのをぐっと抑え、口元を手で押さえながら
「…あはは、がんばれよ」
と声をかける。
恥ずかしそうに俯く彼女は、ぽっと染まった頬をさらに手で隠す。
その顔は可愛さと悔しさが混じった絶妙な顔でその顔を見ると僕の鼓動が早くなった。
僕がうつむく彼女に藍色のくまのぬいぐるみ持ちながらアフレコをする。
「シッパイシテモダイジョウブ!オチコマナイデ!」
僕がそうおどけて見せると彼女が口元を抑えてクスッと笑う。
彼女も桜色のぬいぐるみを持ってアフレコをする
「アリガトウ!クマタン!」
どうやら僕のぬいぐるみは「クマたん」というらしい。
僕達の下手なアフレコに思わず吹き出しそうになったが、ふと顔を見合わせて自然と笑みがこぼれた。たわいない茶番だけど、その時間がなんだか一番あたたかく感じた。
すると彼女が立ち上がり突然写真を撮る。
「え?ちょっ…」
写真に慣れていない僕はぎこちない笑顔と、折れ曲がったピースをした。
彼女との写真が久しぶりで少し戸惑ってしまった。
彼女が写真の出来を見るとニヤニヤしながら僕に写真を見せてきた。
画面には、少し引きつった酷い笑顔の自分が写っている。
「…これ、笑ってるって言える?」
そう言ってくすっと笑う彼女に、僕は少し恥ずかしくなって、眉をひそめながらも苦笑いする。
「いきなりだったから…しょうがないじゃん笑」
でもその自分ぎこちない顔と彼女の顔がまるで、曇り空と真夏の太陽が一枚の写真に並んだみたいで僕らにぴったりな写真だった。
彼女は柔らかい笑みを浮かべながら、和んだ顔でその写真を見ていた。
彼女がどんな心境でその写真を見ていたのかはわからないが、とりあえずあの写真はとても良いものだったと思う。
お腹が空いた僕達はレストラン街に行き、夕食を探すことにした。
ゲームセンターを抜けたとたん、空気が一気に落ち着いた。
明るすぎた照明も、喧騒もエスカレーターの音に飲み込まれていく。
「……なんか、急に現実戻ってきた感じだね」
幼馴染がぼそっとつぶやく。
さっきまであんなにふざけ倒していたのに、今は肩の力が抜けきった顔をしている。
「そりゃあ、茶番に全力出したあとだしね」
「うん、それもそうだね」
二人してエスカレーターに乗り、無言で上の階へと運ばれる。
静かなBGMとフロア案内の声が、やけに落ち着いて聞こえた。
「レストラン街、もうすぐだよ」
そう言うと彼女はお腹を抑えて可愛い顔をしている。
そうして僕たちはデパートの奥にあるレストラン街へ向かっていく。
茶番の余韻をほんの少しだけ残したまま。
第三話 完
どうもこんにちは神谷ゆうきです
今回はゲームセンターについての話を書いてみました。
ぬいぐるみ、やっぱり可愛いですよね。ちなみに僕の好きな色は白です。
読んでいただきありがとうございます。
ぜひ次の話も見てくれると嬉しいです。
感想、レビューお待ちしています!
描写全てにこだわって書いているのでじっくり読んでいただけると嬉しいです。