エピソード2 買い物編1
小さな出来事で感情が大きく揺れ動く主人公はこれから先どのように変化していくのだろうか。
家に帰り、持ち物の最終確認をしたあと約束の時間まで少し時間があったので少し本を読んで待った。
読んでいる本はかなり前に祐菜がおすすめしてくれたものだ。何がそんなにハマったのかよくわからないが時間があればこの本を見返すし、持ち歩いている。そんなお気に入りの作品だ。
本を読んでいるのに夢中になっていると、あっという間に時刻は過ぎ約束の時刻の15分前に迫っていた。少し焦りながら荷物を持ち、家を飛び出た。
少し小走りできたからなのか5分前に祐菜の家についた。そしてインターホンを押そうと思ったらすぐ後ろから制服姿の彼女が走ってきた。
「ごめん。友達の仕事手伝ってたら遅くなった。すぐ準備するから家入って!」
彼女は申し訳無さそうに言った。僕は彼女の優しい性格に少し感心した。
彼女の家に行ったのはかなり久しぶりのことなので少し緊張している。
扉を開けて玄関に入ると中学生の頃よく一緒に遊んでいたことを思い出すような言い表せない懐かしい香りがした。彼女の案内でリビングに通されるとすぐにお茶を出してくれた。
そんなに気を使わなくていいのにと思いつつもありがたくお茶をもらった。
火照った体に麦茶がすうっと染みわたる。まるで乾いた土に降る夕立のように、内側から静かに熱がひいていくのを感じた。
麦茶を飲みながら本を読んで数分経った頃、彼女が階段から駆け下りてきた。
彼女の準備が済んだようなので席を立ち、空になった麦茶を流しに戻すと彼女が話しかけてきた。
「あれ?その本私も好きなんだよね!なんか嬉しいな~」
彼女が紹介してくれた本なのにその事を忘れているようだ。中学生の頃におすすめしてもらった本だからまあ無理もないんだけど。
「この本は君がおすすめしてくれた本だよ」
このことを聞いた彼女は少し顔を赤くして照れくさそうに言った。
「それって結構昔のことだよね。ずっと読んでくれてるなんてなんか嬉しいな笑」
彼女が笑うのを見て僕も少しニヤける。
「じゃあ準備も済んだことだし行こうか」
そう言って僕らは家を出た。
七月の陽射しは、もう容赦という言葉を忘れてしまったかのようだった。朝早くから照りつける日差しは地面を焦がし、空気は熱を含んでじっとりと肌にまとわりついた。
彼女が行きたい場所はここから3駅離れたデパートらしい。
最近できたところらしく、かなり賑わっているようだ。何があるのだろうとぼんやり考えていると10分ほどで駅についた。
僕らは自販機で水を買って飲んだ。彼女は汗を光らせながら水をひとくち飲むと、火照った頬に冷たい風が触れたように、赤みがそっと退いていく。
軽く談笑をしながら腰を下ろしているとすぐに電車が来た。
電車にさっと乗り込むと1席だけ空いていたので彼女を座らせてあげると、彼女はにこやかにありがとうと呟いた。それを見て僕はなんだか恥ずかしくなって頭を掻いた。
少しの間電車に揺られていると目的の場所にはすぐについた。
電車を降りて改札を出ると目的のデパートはすぐに見えた。
「うわ~!始めてみたけど大きいね!」
彼女がオーバーリアクションで僕に話しかけてきたのでそれとない言葉を返して僕達は歩き始めた。
ようやくついたデパートに入るとエスカレーターの音と人のざわめきが重なっていて、冷房のきいたフロアには、真夏の外とは別の時間が流れていた。
彼女が花の匂いに引き寄せられて店内へ入っていくとハスやアサガオなどのきれいな花々が店内で出迎えていた。花をよく観察していると彼女が話しかけてきた。
「私と花どっちが可愛い?」
彼女が僕の反応を楽しむように意地悪な笑顔でそう問いかけてきた。
彼女の問いに答えようとして、口を開いたが声が出なかった。代わりに、曖昧な照れた笑い漏れた。
彼女は少し困った僕を見てニヤけながら少し謝った。
僕は心の中で少し後悔した。また自分の気持ちを素直に答えることができず、濁したように笑うことしかできなかった。その中途半端が、いちばん卑怯だった。これじゃ何も変わらないのに。
そんな気持ちを腹におさめて彼女が行きたいという服屋へと足を運んだ。
店内に入ると彼女の視線は一着の白いワンピースに釘づけで、まるでそれに話しかけるような静けさがあった。その白いワンピースを手に取るとついてきて!と言って彼女は僕の手を引き、試着室へと僕を誘導した。
彼女が着替え終わったらしく試着室から出てくると僕は彼女がとても綺麗で言葉を失った。
まるで真夏の太陽の下で元気に咲いている一輪のひまわりのようで驚いた。
彼女はぱっと花が咲くように笑いながら言った。
「似合ってるかな…?」
僕は無言で頷いた。
彼女が会計を終わらせると次は同じ階のゲームセンターへと足を運んだ。
第2話 完
こんにちは神谷ゆうきです。
まだまだ連載頑張っていくので最後まで見ていただけると嬉しいです
表現にかなり工夫をしているのでよく読んでいただけると幸いです。
感想、レビューお待ちしています!