第9話 三次試験
「試験終了!」
試験終了間際に試験官のもとへ駆け込んだアルハ達は、それぞれバッジを見せて合格を貰った。
その時、集めた5つの緑色のバッジは回収され代わりに橙色のバッジを手渡される。あしらわれた鴉の紋様は変わらず、アルハは何か意味があるのかと疑問を感じた。ただ絶対に無くさぬようにしろとだけ忠告を受けたので紛失しないようバッジを外套の左につけておく。
「さて、まずは二次試験突破を祝おう」
試験に合格しこの場にいるのは、バッジの数から計算して50名以下のはずだ。周りを見渡せば一次試験開始前に比べてずいぶん減ったものだと感じる。
「続いて三次試験に移りたいところだが……」
そこまで言うと右から左へと試験者達の表情を窺う。
「流石の諸君らにも疲れの色が見える。ここで一旦休憩を挟もう」
アルネステロの言葉に、疲労が溜まっていた皆の顔に明るみが差す。
「三次試験は、これまでの試験とは比べ物にならないほど過酷となるであろう。家で寛ぎ英気を養うがいい。三次試験は貧民街の外で行う。諸君らに渡したバッジを身につけて日が完全に暮れるまでに貧民街の門の前に集合しろ。繰り返す。日暮れまでにバッジを身につけて門の前に集合だ。通達は以上。解散して良いぞ」
連絡事項を伝え終わったアルネステロとその付き人達が去っていく。試験官が退出し本当に試験が終わったのだと実感した大人達も次々と帰宅していく。
「はぁ〜……やっと休憩できる。早くこんな場所とはおさらばしよ」
荒廃したこの場所の薄汚れた空気に晒され続けたアトルは、試験が終了したことで嫌悪感が隠しきれず滲み出し始めている。
「次の試験は夜中に行うみたいだけど……何をするんだろ?」
「今までの傾向からしてまた一風変わった試験なんじゃない?」
アルハとアキナは、次の試験についてどんな内容なのか予想しながら急ぎ足でこのエリアから出ていく皆を追いかけるのだった。
時は午後19時前。薄暮の空の下のんびり休息を取り夕飯も済ませたアルハ達が街を歩く。
アルネステロの言いつけ通り門の前には、二次試験を突破した者達が既に集合している。
「もう皆んな集まってるね」
アルハ達は駆け足で門の前に向かう。そこで暫くの間待機していると夕日は山の向こう側へと落ちた。
そこへアルネステロ達が現れると皆気合に満ちた表情で試験官に注目する。
「ほう。既に全員いるみたいだな。いい心がけだ。では、早速三次試験の説明に移る」
試験官は、両手いっぱいに抱えている箱をおもむろに降ろす。箱の中には艶のある白い物体が見える。
「今回の試験は、諸君らの行動力、臨機応変さ、戦闘力、危機察知能力、責任感を見極めさせてもらう。実際に外に出てとあるミッションを実践し、クリアすることでカルネスト組に入団した際任務遂行能力を存分に発揮できるかどうかを私達に示してくれ」
アルネステロは、鷹揚にポケットからマッチを取り出す。手慣れた手つきでマッチの棒を箱に擦り付け着火させる。
「夜間における野外での試験のため視界確保に困るだろう。今から配布する蝋燭を頼りにするといい。ただし、放火犯として捕まりたくなければ、自然に損害を与えるような真似はよすように」
その言葉が発せられた瞬間示し合わせたように、試験官の付き人が手際よく蝋燭を試験者達に配る。
「三次試験は、重大な依頼を受注した状況を想定した模擬試験だ。組織の一員となるのであれば危機的な局面に直面し災難に見舞われながらも必ず無事に任務を遂行してもらわねばならない。今回で数多の人数が篩い落とされることだろう」
マッチの火に照らされるアルネステロは、峻厳で今回の試験が極めて重要度の高いものであるということを物語っている。
全員に蝋燭が行き渡るのを確認したアルネステロが口を開く。
「諸君らに課せられた任務は、この旗の回収だ」
アルネステロは、手本である赤い旗を取り出して掲げる。
「今回の試験にはエリア指定はない。野外に設置してあるこの旗を見つけ出し貧民街まで持って来れたやつが合格となる。旗はここにいる人数分設置してある。先着が有利というわけではないから安心しろ。ただし2つ条件がある。それは、蝋燭の火を絶やさないこととバッジを奪われないことの二つだ」
二次試験で合格者が入手した赤いバッジのことを指しているらしく、あれほど口酸っぱくバッジを身につけてくるように言ったのはこのためかと皆が得心する。
「今回の試験の妨害役として浮浪者達に呼び声をかけ焚き付けておいた。受験者達が身につけているバッジを奪取できたのであれば、貧民街での住民権と戸籍を保証してやるとな。虎視眈々と諸君らのバッジを付け狙う不届きもの共を掻い潜り、尚且つ蝋燭から常に気を逸らさず慎重に行動せねばならない。大胆さと冷静さ。この二つを過不足なく調和することこそが、試験突破の鍵となるであろう」
襲いくる敵と伏兵、回収目標に蝋燭という行動を制限する足枷。本場での実践形式を試験という形によく落とし込んだものだとアキナは、他人事のように感心してしまう。
「制限時間は私の持つ蝋が尽きるまでだ。蝋の消費ペースは諸君らの持つ蝋燭と変わらないので時間確認は各々でできるはずだ。気が逸り、蝋燭の火を消してしまっても失格。臆病にも決断を迷い時間切れになっても失格。そしてもう一つ。あえて諸君らには、詳細を話さないが浮浪者には、諸君らとは別に特別ルールを設けてある。不測の有事にどう対応するかも重要となると伝えておこう」
アルネステロは、外壁の近くにある木箱に腰掛ける。
「では、試験開始だ。蝋燭に火をつけてやるから順番にこい。前の奴が野外に出てからこちらが合図するまで少しの間待機してもらう。徒党を組んで蝋燭の火を再点火するなんて狡い真似をされたら試験の主旨から外れてしまうからな」
その言葉を聞いた一部の者が絶望する。この場には、仲間を作ることでここまで乗り越えられてきた腕に覚えがない者や要領が悪い者もいるだろう。これまでのように強者に負んぶに抱っこしてもらえず個人の力が試されるこの試験ではでは、弱者から真っ先に突き落とされることとなる。
「今回は協力不可なのか。私は構わないけどな……」
「何でこっちを見んだよ」
意味深に此方を見るリーノに失礼だとタリマが憤慨する。
「別に外の連中に負けるほどやわじゃねぇよ。お前こそ昨日みたいにヘマすんじゃねぇぞ」
アルハ達は、大人達が作った列に並ぶ。
前にいる大人達が次々と野外に出ていき、ファノの番が回ってくる。
「じゃ、行ってくるよ」
「気をつけてね」
ファノ、アトル、リーノ、タリマ、アキナと皆が外に出ていきアルハの番が回ってくる。蝋燭に火を灯してもらった所で試験は静かに開始された。
洞窟をくぐり外に出る。夜空の星々は弱々しく煌めき光源として頼れるは満月の月明かりと蝋燭のみである。
アルハの隣に付き人が歩く。洞窟のすぐそばで待ち伏せされるのを防ぐためだろう。アルハが外に出て街から離れていったのを確認した後で付き人は戻っていった。
ポツンと一人送り出されたアルハは、立ち往生してるわけにもいかず行く当てもなく歩き始める。
旗か……何処にあるか見当もつかない。虱潰しに探すには広すぎる。やっぱり聞き回る作戦が一番か。とは言え此方からの接敵は困難。
アルハは、前後左右隙なく警戒する。道はできるだけ遮蔽物の少ない場所を歩き伏兵が潜んでいそうな場所は避ける。
こっちからは半径3メートルほどの視界しか確保できないのに、敵からは蝋燭が目印となって俺の位置が把握される……このままでは後手に回されるのは確実。この分の悪さをどうひっくり返すか。
アルハが考え込みながら歩いていると、そよ風が通り過ぎる。地面の表面の砂が少し舞い上がり、アルハの前髪が揺れまつ毛を掠めて靡く。鬱陶しそうに目を細め、不意に蝋燭の火を見れば左右に不規則に揺蕩い幾度もその形を変えている。
アルハは風圧で火が消えないか憂慮して、風を遮るように手で覆う。
「……しょうがない。敵も隠密に徹してるみたいだし、このまま歩いてても誰かと遭遇する可能性も低い。隠れ蓑の多い雑木林の中に入ってみる価値はあるか」
アルハは外套をめくってその中に蝋燭を隠す。蝋燭の火が衣類に燃え広がらないように燭台を持つ手と衣類をめくり固定する手を器用に調整する。幸いにも今宵の空に浮かぶ満月のお陰で最低限の視界は確保ができる。光源としての必要性が低減され、蝋燭の火により発見されるリスクの排除を優先したのだ。
アルハは慎重に雑木林の中に足を踏み入れる。雑木林の中は、今まで生活してきた森の中のように鬱蒼としたものではなく木々の隙間が希薄な疎林な場所である。雑草がまばらに繁茂する芝生にまだ新芽の残る若々しい植物、木々の枝を満遍なく飾る枝葉。
アルハは周囲の環境を観察して敵が潜伏しやすい場所を予測する。
警戒すべきポイントは、木の枝の上か、幹の裏側か。死角から飛び道具なんか投擲されたら厄介だな。
アルハが足音を殺し、屈むようにして移動していると木の陰に人の姿が見えた。
「ッ!」
この距離では、見間違いではなく本当に人間かどうか確かめようもなかった。しかし木陰から乗り出して左手を突き出すように此方を向け、何らかのストロークを取っている人影が見えた気がした。
ほんの一瞬の間だった。人影の動きの工程の中で何かを振りかぶる仕草に気づいた時には、アルハは咄嗟に顔を腕で庇いながら横に跳躍していた。
ヒュンと風切り音と共にアルハが先ほどまでいた場所に飛来した物体。木の幹に当たり乾いた音を立ててすぐ、樹木の皮が粉々になって剥がれ落ちるのが見えた。飛来した物体はそれなりの硬度があったことが推測できる。
「いない」
片腕で顔面を覆いながらも目で人影の動きを追っていたアルハだが見失ってしまう。投擲後直ぐに物陰に隠れたみたいだ。
自分の位置が敵に把握されたアルハは、蝋燭を隠すことをやめ、燭台を落とさないようにしっかり握りしめる。
敵が近づいてくる気配はない。敵も慎重に行動しているなら遠くに行ってないはず。急いで後退して敵の位置を割り出さないと。
アルハは、木陰から木陰へと身を隠しながら射線を切るように移動して様子見をする。先ほどいた地点から次の隠れ場所を予測し、草葉が揺れ動く音や足音を聞き逃さず、視界内で動く物体に注視するが気配はない。
「随分臆病じゃあないか」
敵の作戦はあくまで不意打ち狙い。こっちに近づいてくる様子はない。
アルハは、木の幹に背中を押しつけて死角をカバーしつつ、前方と両サイドに集中した。
そして背中を木の押し付けながら、幹を一周するように移動することで全方位の警戒をする。
そして、またも同じように木陰から姿を見せた人影。
蝋燭を持つことによる視界の鮮明さと、相手が障害を避けて此方に射線を通すことのできる範囲がほぼ一致していたおかげで、今度はハッキリ視認することができた。
アルハは、投げつけられた石をなんとか目で捉えて躱した。今度こそ見失うことなく男の方に詰め寄ろうとするが、少年が近づくと男は急いで石を投擲しながら走ってその身を隠す。
追いかけたいのは山々だがアルハは、走り出した時の風圧で蝋燭の火が消えないかを危惧し思うように行動することができなかった。
敵の方からこっちに来てもらわないといけないと考えたアルハ。飛んできた石を再び躱しながらふと名案が思い浮かぶ。
俺の目的は旗の入手であると同時に、敵の狙いは受験者のバッジ。相手の立ち回り的に臆病なのか計算高いのか……それでも逃げる様子はないってことは、何か目標があるこという条件自体はほぼ等価。なら……
アルハは思い立ったが直ぐに行動に移す。
男がまとめて投擲した3つの石を最小限の動きで躱しながら、不意をつかれ驚いた振りをしてわざと尻餅をつく。蝋燭の火には最大限の注意を払い相手に隙を見せる。
これでも来ないか。
相手も誘い込みを想定してか、迂闊には近づいてこない。アルハは、相手がいた方向に牽制として石礫を投げ返し相手に背中を見せないように後退りする。
男は、石礫を回避して退避するアルハを追いかける。男の視点では蝋燭の火のおかげで、夜闇であっても位置の特定が容易であった。
火の玉を追いかけ続け、やがて木の裏に隠れたのを確認。その場で動かず逃げようともしない。
男は、距離を置きながらその木の裏に回り込むように移動する。まだ動く様子がないことから自分が近づいていることに気づいていないのかもしれない。
そう思いながら自分も身を潜めて遠くから木の裏を確認すると蝋燭の傍に服がちらついて見える。雑草に身を伏せて上手く隠したつもりなのだろうかと男は、くぐもった声を抑えて嘲笑する。
このまま近づいて確実にバッジを奪い取るか、さっきのように石ころを投げてダメージを与えるか。優柔不断な男はそのままアルハが伏せていると思われる場所に近づく。
この距離では、万が一投擲物を外しまうかもしれない。男は爪先から一歩ずつ慎重に雑草を踏み締める。この距離でもまだ気づかれていないのかと男は、伏せている少年を覗き込むように見たところで違和感を覚えた。
やけに平面的で無機質。伏せているというより置かれている。いや外套だけが脱ぎ捨てられている。男は漸く気づくと同時に絶望する。自分から罠にかかりに行ってしまったのだと。
直後、背後から足払いをかけられうつ伏せに倒れ伏す。突然のことに困惑を抱きつつも腕を腰に抑えられ頭も起き上がることができないように地面に張り付かれている。男が組み敷かれていることに気づくのにそう時間を要さなかった。
「動かないで」
そっと囁かれるような警告。間違いなく自分が追いつめていたはずの少年の声が頭上から聞こえる。
「仲間は?」
「お、俺一人だ」
「一応言っとくけど、嘘ついたら痛い目みるから」
その一言に男は、震え上がる。自分の身を守るため男は咄嗟に謝罪と申し開きをする。
「許してくれ……」
「?」
「二度とないチャンスだったんだ。貧民街に住まわせてもらうための。俺は家族に楽をさせてやりたくて……こんな飯もまともに食えない極貧生活を終わらせたかったんだ」
「そう。聞いたこと以外は喋らないで」
同情してほしかったわけではないが、いとも容易くあしらわれたことに男は、悔しさを感じる。子供に簡単に捕縛されて地面に組み敷かれて物理的にも精神的にも優位を取られている。
尊厳が蔑ろにされるこの状況と今までの環境に屈辱と理不尽さすら覚えた。
「アンタら大人は、俺たちが何を探しているか知っているか?」
「……」
男は知っていると、正直に話すべきかどうか迷う。このままコケにされたままでは癪だと感じるので一矢報いて少年に不都合をもたらしたいと感じる。だいたい嘘ついたとしても確かめる術がなければバレるわけがないと。
「黙秘もダメだよ。言わなきゃ分からない?」
しかしアルハの言葉と共に男の頭を地面に強く押さえつけられ、そんな考えは頭の片隅に追いやられた。自分の悪癖は、下卑たこの器の小ささとこの期に及んでの自尊心。そして、そんな考えもほんの少し脅かされただけで捻じ曲がる意志の弱さだと自嘲する。
卑屈な男は、いっそ開き直って口を開く。
「ハハ……知っているさ。カルネスト組の偉そうな人から説明を受けたからね。旗を探してるんだろう?悪いけど僕は知らない」
「なら、他の人員の配置は?何処に潜んでいるかやどれくらいの規模か教えて」
「正確に答えてはあげられないけど、少なくともこの周辺にはいないよ。他の人たちは、旗のありかを知っている。だからその周辺を見張って、待ち伏せしてるのさ」
「アンタは何で知らないの?」
男は口をモゴモゴとさせていいあぐねる。
「本当は口外しないようにって口止めされてるんだけど……」
何も言わないアルハ。大人にとっては言外にだから何だと少年が言っているような気がした。締め付けられた手首が痺れ始めたこともあって、早く解放されたい大人は正直に話す。
「僕たち浮浪者には、特別ルールがある。旗の位置を知れる権利、一時的に組員から助っ人を貸してもらえる権利、5人以内のグループを組んだ際、代表者さえバッジを入手していればその仲間たちも同様に、貧民街の住民として認めてもらえる権利。このどれかの権利のうち一つを事前に決めていたんだ。当然僕は三つ目の権利を貰ったよ」
アルハはアルネステロが秘匿していた特別ルールはこれかと、得心する。
「でもアンタ弱いでしょ。仲間を作ろうとは思わなかった?」
少年が押さえつけている大人は手触りで分かるほど痩せ細っていた。掴んでいる腕も硬い骨の感触しか感じないほどに。
「弱いからこそだよ。君たち貧民街の居住者にもあるだろうけど浮浪者の間にだって対立やそれぞれの思惑の交錯がある。仮に弱い僕が誰かに取り合ったとしても、いいように雑用ばかりやらされて最後にはポイと捨てられるのが落ちさ」
「ふーん。病的なまでに臆病なのにも理由があったんだ」
アルハが大人を捕らえる罠を仕掛ける時、大人が尻込みして遠くから様子を窺ってばかりいたので余裕を持って作戦の立案と実行ができた。
外套を脱ぎ草陰に若干見えるように隠して蝋燭もそばに置く。そして自分は、離れたところから監視して石が投げ捨てられる軌道を見て狙撃したポイントを割り出す。
罠に引っ掛かって側に近寄ってきたから拘束したが本来は、大人の場所を把握するための作戦だった。
その決断の甘さを見られ、あまつさえ子供に指摘されたことに大人は苦笑する。
「自分の身の丈はわかっているつもりだ」
アルハは、失望したように息を吐く。
「結局何も分かんないってことね。じゃあ、もう用はないよ」
「ま、待った!」
少年が自分に何をしようとするか察しがついた大人は、割り込むように声をかける。
「さっきも言ったけど、俺はこんなところで終わりたくはないんだ。他の連中の場所に案内はできないけど、目ぼしい場所に連れて行ったり、斥候として様子見に行ったり君を手助けしてあげられることはできると思う。その代わりバッジは、他の人から奪うことにするからさ。何とか頼めないかい?」
必死に懇願する男を見下ろしながら、アルハは考える。
確かに浮浪者であるこいつなら疑われることなく、他の浮浪者と接触できるし行動に制限もない。
ものの数秒。保身のために絞り出した交渉の提示にしては、魅力的な内容ではあると理に適った提案を受け入れることにした。
「いいよ。のんであげるよその提案」
「本当か!?」
一筋の光が差し込むように希望を見出した男。緊張で口角が引き攣りうまく笑うことはできていないが、明らかに目尻が緩んでいる。
「でもアンタが危害を加えない保障や、途中で鞍替えする危険性があるわけではないんだよね」
「誓ってそんなことはしない」
「なら条件は二つ。俺の前を歩くこと。俺の許可なく振り返ることも足を止めることもしてはいけない。そして歩く時も両手を後頭部から一切離さずに組むこと」
「よし!上手くやって見せる。任せてくれ」
アルハは、交差させて押さえつけた手首を足で押さえつけ立ち上がると、外套を拾い付着した土や草をマントのように払い落とし着込む。
燭台を手に、異常がないことを確認して男を立ち上がらせる。
「いてて」
大人は、立ち上がると手首をぶらぶら回しながら拳を握ったり開いたりして感覚を取り戻す。
「この雑木林から出るよ」
アルハは、便利で自由度の高い斥候を前に歩かせてこの場から立ち去って行った。




