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改識機関 ロンデル  作者: Z4n
ロンデル
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第8話 二次試験

 アルネステロの案内に付き従って到着した場所は、長年人の手が加わった様子のないスラムの一角だった。天井や壁面の板が剥がれ落ち廃屋だらけで内装の見える家の様子も床に穴が空き、砂埃や蜘蛛の巣が張っていて長年空き巣だったことが分かる。

 打ち捨てられたボロ布が剥がれ落ちて地面に刺さっている鋭利な木の棒に貫かれ風に揺れている。


「まるでゴーストタウンだな……」


「タリマ達はこの場所を知らないの?」


「ああ。あんな道誰も通ったことないぜ」


 周りの参加者の反応を見る限り誰もが初見であることは間違いないようだ。しかしここに至るまでの道のりを考えればそれも致し方ないと言える。誰もが普段訪れないスラムの外壁付近まで歩くとそこから更に目につきにくい階段を下り歩道橋の下を潜る必要があった。

 通路の真ん中が半筒状に抉られたように窪んでいて道と言えるのはその両脇にある狭い平坦な場所だけであった。その構造は排水路のように見えたが異臭はせず糞尿や生活排水が流れた痕跡もなかった。

 そこを潜り抜けた先にこの廃退した場所に辿り着いたのだ。


「今回の試験会場はここだ」


 足を止めて振り返る試験官。


「見ての通りここは荒廃し人の出入りも滅多にない。この中にここを訪れたことがある者もそうそうおらんだろう」


 そう言うと指揮官は、嫌悪を露わにして顔を歪める。


「私としてもこんな薄汚い場所に来たくはなかったのだが……まぁいい。試験の説明に移る。立地的に標高が低く目立ちにくいここは、元々廃棄物の埋め立てや下水の処理に適した立地だとして掃き溜め場へと改修される予定だったが異臭や雨天時の氾濫などの危険性を考慮して結局、計画が取り止めとなった場所だ」


 改修計画に翻弄され打ち捨てられた場所……と言うことだそうだ。


「忘れ去られたこの地で行う試験は、宝探しだ」


 宝探し?と誰もが首を傾げる。殺伐とした試験に似つかわしくない稚児の遊戯だと誰もが思っている。


「余談だが、今回の試験の考案者は私ではない」


 突拍子のない発言に、別に聞いてねぇよと受験者一同が心の中で呟く。


「ルールを説明する。諸君らに見つけてもらいたいのは、このバッジだ」


 そう言ってアルネステロが摘むように掲げたのは、鴉のマークがあしらわれた緑色のバッジだった。


「このエリアのどこかに250個隠してある。屋内屋外問わず隅々まで探してみろ。1人につき5個見つけたらそいつは合格だ。肌身離さず持っておくがいい」


 アルネステロは、バッジを掲げる腕を下ろすと気怠そうに声を上げる。


「あぁ、それとこれを配布しよう」


 二人の付き人が手分けして受験者達に、一枚の紙と火打ち石を手渡していく。


「その紙には、地形情報とバッジがどこに隠されているかのヒントが記載されている。いわゆる宝の地図だ。予備はないからくれぐれも無くすことがないようにしろ。後に紛失した若しくは誤って焼却して灰にしてしまったと言った申し出があってもこちらは、対応できないからな」


 うわー……!なんか、小さい時の頃を思い出すな。


 なんて呑気なことを地図を受け取ったアキナは考えているが、身構えていた試験とは違い肩透かしを喰らったのは、アキナだけではない。地図を手渡され、これから宝探しが始まるのだと実感すると、この瞬間だけは多くの人物が警戒心を削がれていた。


「この試験で問われる技能は観察力、判断力、読解力、推理力、空間把握能力、チームワークだ。一次試験を突破した諸君らが、ただ知性を欠いた粗暴な動物では、カルネスト組に相応しい人物とは言えない。今回は、諸君らの頭脳を生かして見せよ。そのため今回の試験では、暴力を行使し他者からバッジを奪取する、脅迫して手下にする行為または他者の試験進行を妨害する行為は禁止とする。今口述した行為が発見され次第、発見したバッジの押収及び今回の試験の参加資格を剥奪し失格とする」


 アルネステロが指先までまっすぐに伸ばし姿勢を正すと、開始の合図を出す。


「制限時間は3時間。尚、残り時間については、こちらが任意のタイミングで通達する。それでは、試験開始!」


 周りの大人が地図を頼りに各々散策する中、アルハ達は作戦を立てるためにも集合する。


「地図の内容は、全員変わらないみたいだね」


 このエリアの建物の位置や障害物の配置が大まかに書かれている。そして地図のいくつかに記された赤いばつ印。


「取り敢えずこの印がついてる場所まで向かおう」


 ファノの指示に頷きアルハ達一行は、地図のマークに従いまだ自分たち以外訪れていない小屋に足を運んだ。

 そして中を覗いたリーノがギョッと衝撃を受け引いたように上擦った声を上げる。


「うげ!な、なんだこれ!?」


 決して広くはない一部屋しかない小屋の中には、所狭しと大量の人形が敷き詰められている。


「ん?足下になんかある」


 アトルは地面に置かれていた茶色の煤けた羊皮紙を拾い上げる。半分に折り畳まれた紙には『ここは、動物達の住まう村です。獰猛な獣達が跋扈する村にある一匹の哺乳類の動物が紛れ込んでしまいました。その動物は自分に似たある獣に変装しひっそりと村に住まうことになります。冬眠の必要のない彼も周りに倣い冬眠の準備を進めます。存外に村に馴染んだ彼は、心地よく暮らすことができています。息を吸い込むと新鮮な空気が肺に澄み渡る。仲間ができずに寂しい思いをすることもありましたが彼は今幸せでした。しかし昼時、食事をしている最中に自分が扮した動物に出会います。軽く挨拶でもしようと近づいたところでその動物は突然襲いかかってきました。彼は思いました。自分の正体が他の動物にバレているわけがない。なのにどうして、と。そして勝てないと悟ったのでしょう。対話を拒む勢いで迫り来るその動物に彼は四肢を投げ出すように焦って逃げていきます。とうとう捕まってしまった彼は、観念した表情へと反転させる。さて、君たちはその動物を見つけられるかな?』と書かれている。


「うーん……なんかクイズみたいだけど」


 この部屋に設置された人形は、動物をモチーフにしておりそれぞれサメ、鯱、虎、熊、ワニ、パンダ、ライオンの7種が複数体いる。

 また、表情も個体ごとに違いニッコリと連続する一本の線で弧を描くように目を閉じて両端の広角を上げた笑みを浮かべる表情、閉じた目を釣り上げ口の端を下げた怒った表情、目をキュッと閉じたように大なり、小なりの記号の尖った部分を向かい合わせて口を波線で描いた不安げな表情、目も口も線分で描いた虚無感のある表情と四種に大別できる。


「仮定を元にどんどん分別していって対象を絞り込むクイズだな。全く……組の連中も舐めやがって。こんな子供騙しが通用すると思ったのか?仕方ないから解いてやるけどよ」


 タリマは、両掌を上に挙げてやれやれと首を横に振る。


「まず迷い込んだのは哺乳類なんだからサメとワニは除外だろ」


「おいおいタリマ。鯱を忘れてるぞ。全くしっかりしてくれよ」


 得意げに揚げ足を取ったつもりのリーノにタリマは勝ち誇った顔で見下す。


「この馬鹿野郎。蒙昧無知な者がしたり顔で己の誤謬を晒し出す事ほど無様なものはないぜ。この機会に覚えとけよ。鯱は哺乳類だ」


「は!?サメも鯱もワニも水の中に住んでんだろ!?なんで鯱だけ哺乳類なんだよ!」


「同じ水棲生物でもサメはえら呼吸で鯱は肺呼吸。更にサメは卵生で鯱は胎生。ワニに至っては、爬虫類で硬い殻を持つ卵を地上に産み落とす上、乾燥にも強く陸上でも生活できるだろうが」


「し、知らないよ!このインテリめ……!」


「ハッハ!くるしゅうない。出直すといい」


 圧倒的な知識をひけらかされ自分との知能の差をまざまざと見せつけられたリーノを悔しそうに歯を食いしばる。


「そんなだからお前は頭でっかちなんだ!体ももっと鍛えろよ」


「何事にも適材適所があるだろ?戦闘の分野はお前達に任せてるんだよお猿さん」


「なんだとテメェ!やんのか!?」


「言い負かされそうになったらすぐ暴力で解決しようとするのかよ。これだから野蛮な奴は」


 ぐっ!と心当たりのあるリーノは呻き声を漏らす。完全に押し負けて己のメンツは丸潰れだが、それでも引くに引けず顔を真っ赤にしながら思いついた悪口を手当たり次第言い返す。


「このミジンコ!ナメクジ!蟻!」


「それは自分が賢い猿だと言うアピールか?」


 口喧嘩がヒートアップしやいやいと言い合う内に、負けん気で必死に喰らいつきたいリーノとそれを軽々いなして的確に急所をつくタリマの構図が出来上がっていた。


「結局鯱も候補から外されるからどっちでもいいけどね。全く、どっちも子供だよ」


 ファノは、二人の喧嘩を完全に無視して4人で話し合う。


「四肢を投げ出すように逃げるってことは手足があるってことだから虎、熊、パンダ、ライオンに絞れるね」


「パンダだけ場違いな感じがするなぁ。おっとりした生き物だし獰猛ではないからパンダも外れたりしない?」


「獰猛なパンダもいるんじゃないの?詳しいことは分からないけど決め手にはかけるんじゃない?」


 話しながらアルハは、棚に並べられた人形を左から右に眺める。


「僕もこの文章量はちょっと頭が痛くなるよ」


 アトルがそう言うとファノはアトルの分まで畳み掛けるように話す。


「食事は昼時。つまり昼行性の動物だから夜行性の虎とライオンも選択肢から外れる。あとはパンダと熊なんだけど、どちらもナワバリ意識が強くて単独で行動するところはどちらも一緒。でも確かパンダは冬眠はしないはずだから最後に残るのは熊になるはずなんだけど……」


 ファノはズラッと並んだ人形達を遠い目で見る。


「最終候補は絞れたにしろこの数の熊だ。その中から紛れ込んだ動物を見分けるなんて大変で仕方ない」


 地道に観察するしかないかとファノが面倒臭そうにしゃがんで人形達を観察する。無機質なのに幼児向けのぬいぐるみのような単純で分かりやすくも愛くるしい表情が変わり映えなく続く。ずっとこの異様な景色を見ていると頭が痛くなる。錯乱状態に陥ったわけではないが、まるで人形達に見つめ返されている気がして気味が悪かった。


 すると、アルハが一つの熊の人形を手に取る。


 この人形だけ鼻先が他の熊と比べて平ぺったく、それに肩幅も広くて腕も長い。


 アルハは他のクマの人形も手掴みして、細かい相違点を比較する。するとアルハはすぐに重さが違うことに気づく。


 感触も違う。他の熊の人形は、綿が敷き詰められてるのか柔らかいけどこれだけ中に何か硬い物が詰まってる。


 通常個体の熊の人形を投げ捨てるとアルハは、熊もどきの人形のほつれた縫い目から引き裂いてその仲間を露わにする。


 中身を取り出すと黒い物体が姿を見せる。平らでひしゃげた鼻に、長く発達した前腕、胸部や手足、顔を除き生えている黒い体毛に尖った頭頂部。

 それを見たアキナが一目でその動物が何なのかを見抜く。


「ゴリラだ」


「獰猛な動物は肉食動物を表してて、そこに草食動物が紛れ込んだって話か」


 中身の人形の素材は、他と違って布や綿ではない。木を彫刻のように掘って造られているみたいだ。そして表情は布を被せていた時と同じく笑み。


 アルハは、表情については何を表しているのか一切分からずとりあえず無視して他の部位に手がかりはないか物体を回転させて多角的に観察する。


 頭頂部から顎にかけて薄らと円を描くように隙間が見える。回転するのか?


 前側の頭頂部が下に、顎が上を向くように指で掴んで回転させる。すると顔面がパカっと剥がれ落ちて中からバッジが出てきた。


「随分変なカラクリだね」


 最後は謎解きではない方法で解決したアルハは、思いの外呆気なくバッジを手に入れたことに拍子抜けする。


「多分笑みから観念した表情に反転させたと言うのがヒントだったんだと思う」

 

 アトルのいう通り顔面を上下逆さに回転させたことにより、笑みから諦観を含んだやるせない表情に変化したように見える。こじつけ感は否めないが、幸先よくバッジを見つけられた皆は気にも留めなかった。


「とにかくこれで一つ目。こう言うのは早い者勝ちだからね。他の人もいくつか見つけているだろうし急ぐよ」


 まだ言い争ってるリーノとタリマをファノが叱りつけて一行は他の場所を目指して行った。


 そこからは、他の参加者との争奪戦だった。



「よし!見つけたぞ!急いで次の場所に向かうぞ────」



「く!一足遅かったみたいね────」



「分からん!ここは飛ばすぞ!いつまでもこんなところに時間はかけられん────」



 このエリアの入り口から近い位置のステージは難易度が低く、マップに記されるバツマークも数多く分布していたが、他の参加者達が次々と見つけ出していくので前半は走り回って誰も手をつけていない場所を探していくのがセオリーだった。

 そして中盤になると入り口に近い場所のバッジの発見者が増え、奥の方に探索を広げることになる。奥に進むにつれバッジ入手の難易度やリスクが上がる分バッジが複数入手が可能になっていた。

 

 机の上に用意された四辺に凹凸のあるピースをはめて完成した絵にバッジの隠された場所が記されているパズル。


 知恵の輪の中に絡まった鍵を取り出して南京錠を開けることで箱の中に入ったバッジが入手できる問題。


 堂々と家のど真ん中にバッジの入った箱が晒してあるが、蜘蛛や蠍といった猛毒を持つ虫が蠢き徘徊するステージ。

 因みにドアを開けてその光景を見たファノが無表情で卒倒しタリマが叫びながら虫が出てくる寸前のところでドアを思いっきり閉めていた。

 リーノが、家の側にあった釣り竿を持って陥落して穴の空いた天井から、釣り糸を垂らして針の返しを箱の意図的に付け足された穴に引っ掛かけ吊り上げるでことなきを得た。


 鍵のロックの解除に暗証番号が必要な箱を、文章問題と四則演算の絡められた問題を解き明かすことで解錠ができるステージ。

 一問例を挙げれば分速60mのBさんが200m先にいる状況で、分速100mのAさんが追いかける場合追いつくことのできる時間を求める問題。

 計4問、計算結果を求め0から9までの10個の選択肢の答えを組み合わせた4桁の数字が暗証番号であった。


 部屋のど真ん中に平面図として見た時、円形にいくつか穴がくり抜かれた厚紙でできた大きな箱があり、そこから不規則に出てくるモグラを叩くことで得点を得ることが可能なステージ。一回のプレイで規定のスコアに達するとバッジがもらえる。

 またルールの詳細は制限時間は30秒で通常のモグラは一点、赤色の怒りマークをこめかみに浮かべたモグラは五点、しょげた顔をした青色のモグラはマイナス十点である。

 アトルの活躍により早期にクリアすることができた。バッジが箱の正面の長方形の穴から吐き出されるように出てきたのだが、その時一瞬人の手が見えるという珍事があった。ゲームの仕組みが気になっていたアトルはまさかあのゲームは、機械ではなく手動で箱の中に人がいたのだろうかと、暫くの間一人悩まされることになる。


 家屋ではない場所では、木に矢印が彫られていてその木を順に辿ることで隠された鍵を入手できたりもした。しかし、愚直に矢印に従えばいいわけでもなかった。木の下にビーカーが置かれている場合は、ビーカーに水を注いでそれ越しに矢印を見た時、光の屈折で矢印の向きが反転するのを利用するという出題者の意図を読み取る仮想実験的思考を用いることもあった。他には、木の下の方に注視しないと分からない程小さく彫られていたり、特定の場所に立つことで絶妙に遠近感が噛み合い、ある矢印のパーツが他の場所に設置されたパーツと組み合わさったりと、方向性を狂わせるための数々の罠が存在した。

 

 その他多数のステージをクリアしてバッジを見つけ出し現在29個目となる。次々と手前のステージのバッジは見つけ出され残すは、更に難易度の高い問題が用意された後半となる。


「クソ。何処もかしこも人だらけだな」


「前半で簡単なステージが攻略されてる分、難易度が増したステージが残ってるからね。暴力行為は禁止されてるから、皆んな協力せざるを得なくなってる」


「私たちはいいのか?誰かがクリアしたステージのおこぼれさえ貰えば全員分揃うんだぜ?」


「それはそこにいる人たちの分が、全員分あればの話だろうが。暴力行為が禁止されてる分バッジ関連でのいざこざが後にどう言った形で怨恨となるか分からない。余計なしがらみを作るくらいなら俺たちだけでクリアしようぜ」


「……ま、そうだな!私たち子供だけで最終選抜まで残ったら大人達もさぞ一目おくことだろう。いまさら私たちに大人達の力なんていらないさ」


 リーノが割り切ったように気合を入れる。将来の明るい展望を思い描き、思わず笑みが溢れたところで何処かから大人達の声が聞こえた。


「おっしゃ〜!解けたぜ!この難問!」


「全くこんなん誰がわかるんだよ!いや〜クリアできてよかったぜ!」


「見ろよ!人数分あるぜ!これも何かの縁だ!もし全員でカルネスト組に入れたら仲良くしようぜ!」


「……」


 その声を聞いて誰もが押し黙る。やがて静寂にポツリとアトルから羨望や後悔の混じった声が漏れる。


「僕らも強がり言わずに協力すればよかったんじゃ……」


 静寂の中に溢れた一言がタリマの胸に突き刺さると、少なからず後悔の念が傷口を開いていく。


「ば、ばか言うな。さっき俺らで頑張るって言ったばかりだろ。その信念に二言を挟むつもりか」 


「信念ったって別に僕は賛同してないし」


 視線を下げながら口ごもりタリマに反論するアトル。


「過ぎたことはいいだろうが別に!あと一個なんだ!サッサと見つけるぞ!」


 そう言って探すのはいいもののなかなかバッジは見つからず、エリア内をグルグル徘徊するだけになってしまっている。このままでは徒らに時間を浪費するだけだと、大人達と高難度のステージに挑戦すべきかと方針を切り替えようとしたところで、アルネステロから連絡が入る。


「受験者諸君!!」


 突然のアルネステロからの呼びかけに、エリア内の皆が作業を中断し彼に注目する。


「バッジ収集の進捗は如何だろうか?まだ全て集めきっていない者もいるだろう。そんな諸君らに一つ耳寄りな情報をやろう!諸君らが見つけた或いは地図を頼りに現在捜索に取り組んでいる箇所を除きバッジの在処はあと一つある。未発見のバッジを探すもよし、引き続き目星をつけ箇所の攻略を続けるもよし。各々の裁量で判断すると良い」


 その言葉を聞いた瞬間、捜索が難航していた者達の目が光る。


「しかしそうだな……このステージを用意した主催者側の気持ちとしては、せっかく作り込んだギミックが気づかれぬまま終わってしまうのも遺憾であろう。重大なヒントをやる。宝の地図を隅々までよく見ろ。諸君らの信ずる道標だけが頼りではない……残り時間は15分だ。健闘を祈る」


 アルネステロが喋り終えるとアキナ達は、仲間と顔を見合わせる。


「もうそんな時間が経ったのか」


「どうする?私たちの方針的にまだ未発見のバッジを探した方がいいと思うけど……」


「そうは言っても後15分だぜ?間に合うか?」


 皆が制限時間に追われ、焦る中アルハは一つ気づいたことがあった。


 この宝の地図……紙の端の方が焦げてるのはなぜ?俺やコイツらだけではなく他の参加者の地図にも同じように炭化した部分が見られる。意図的なものと考えるなら、それは何か示唆している可能性がある。

 それにあの試験官の最初の忠告に『地図を誤って灰にしても予備はない』と言った旨の内容が含まれていた。熱源のないこの場所で普通に探索していて灰にするなんてことはまずない。


 アルハは、地図を親指でさすりながら更に思考を続ける。


 ……いや、怪しくも一つ熱源がある。このエリアの入り口の両サイドの壁面に蝋燭が取り付けられている。それも着火されて今なお炎が灯っている。昼間に光源として扱うなんて到底考えづらい。であれば、何かしらのギミックの一部?試験官の言葉の裏を返せば、誤って灰にすることなく燃やせば何かあるのか?


 紙を燃やしたとして何かあるのかと疑問に思いながら、アルハはこの考察を皆に話す。


「ねぇ。地図を灰にしないように燃やす……例えば炙る程度の加減で火にかざしたら、何かこの地図に変化が起きたりするのかな?」


「なんだそれ?どう言う状況だよ?」


 リーノが素朴な疑問を口にする。しかし、アキナだけが右手の拳を左の掌に軽くポンと叩き声を上げる。


「それだよ!まさにそれだよ!なんで気づかなかったんだろ!?」


「なにか分かるの?」


「実演した方が早いから。何処かに火の元を探しに行こう」


「それなら入り口付近に行けばあるよ」


「よし。じゃあ早く向かおう」


 アキナが何に気付いたのか皆見当もつかず、取り敢えず彼女を信じて入り口に向かう。

 壁に立てかけられた蝋燭の場所に辿り着いた一行。

 アキナが到着するや否や地図を蝋燭の火で炙る。その横で怪訝な目で見るリーノの瞼が徐々に開かれる。


「わ!文字が浮かび上がってきたぞ!」


 驚く一同に得意げにアキナは仕組みを説明する。


「多分予めレモン汁で地図に文字を書いた後に、乾かしたんだよ。今やってるように熱すると乾いて消えた文字が再び浮かび上がってくるんだ」

 

「へ〜。よく知ってんなそんなこと」


「小さい頃にこう言う遊びを教えてもらったんだよ。こう言う遊びでは、結構常套手段だったりするんだよ。アルハに言われるまで忘れてたけど……」


 本当に炙るのが正解だったんだ……


 アルハは、自分の推測に半信半疑でまさか当たっているとは思っても見なかった様子だ。細かい原理に興味を持ちつつも徐々に浮上する黒い文字を見つめる。


 アキナが地図を蝋燭から遠ざける。焦げた文字がくっきり浮かび上がっていて皆がアキナの持つ地図を覗き解読する。


「『遊戯の終局が迫りし刻。指揮官の影の頭から日の出づる方角に向かって歩き続けろ。その手に握る地図の最果てを4回巡り合わせてそれを覗いたとき、かの試験官が小さな世界に丁度収まるまで。貴様の立つその地に秘宝が眠る』」


 アキナが不可解な暗号文を読み上げる。


「……分っかんねー。ファノ達に任せるわ」


 しばらく自身だけで考えていたリーノが諦めて降参する。

 タリマとファノは、瞬時に回答を弾き出すと急いで行動に移る。


「遊戯の終局が迫りし刻だから、試験官の合図が出た今が丁度頃合いだな。暗号が示すところまで行くぞ」


 6人は、暗号の示す通り試験官の影の頭までやってくる。

 自分のそばに集まってきた子供達に、アルネステロが意外そうな表情で一瞥するもすぐに視線を前に戻す。


「地図の最果て。つまり両端が4回重なるように丸めてこれを覗く。この状態で試験官を視界に入れたまま地図に描かれた方位磁針を頼りに東に歩く」


 片目を閉じてファノは丸めた地図を覗く。その状態で一歩一歩後退していく。仲間達は試験官の影の直線上からはみ出さないようにファノを見守る。

 やがて視界いっぱいに試験官の全身が収まるとファノは立ち止まって地図を顔から離して視線を下げる。


「ん。この足下の地面だけ少し色が違う。多分掘り返した跡だと思う」


 ファノが地面を掘ると10cm程の深さで指に硬いものが当たった。

 掘り出して手に取ったのは小さな箱。手についた土を払い落として箱を開けると、中にはバッジが5つ入っていた。


「やった!これで目標達成だ」


「これで試験官の場所まで行けばいいんだな!?」


「あぁ。これで30個だから全員分あるな。4つバッジが余ってるけどどうする?もう一回埋めとくか?」


「一人につき5個っていってたから、それでいいと思う」


 そう言ってファノは、箱を土に埋めると立ち上がる。


「残り時間は3分だ!バッジを5つ見つけていても試験官に報告していなければクリアした判定にはならんぞ!」


 試験官の言葉に一行は焦って試験官のところへ飛び出すように走って行った。


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