第3話 協力者
「待て」
洞窟を通り抜け、街へたどり着いたかと思えば、三人は門番に制止される。
「徽章をみせろ」
「ん」
彼女は、門番に言われるがままポケットからバッジを取り出すと門番に見せる。
門番は軽く頷いた後、二人に視線を寄越した。
「そこの2人は?」
え?もしかしてそのバッジ私たちも見せないといけないの?持ってないんだけど……
ここまで来て、門前払いは御免だと少女は心配する。
「後ろの2人は、まだ傘下の証もらってない。ただ仕事仲間で、相談したいことあるから許可が欲しい。保証人は私」
そこまで聞いた門番は懐から羊皮紙とペンを取り出す。何か確認事項があるらしい。彼女に次々と質問をする。
「お前の名前は?」
「ファノ」
「こいつらの滞在期間は?」
「1日」
門番は言葉数少なく淡々と質問をし、ペンを書く手を止めると街へ入る許可が降りた。
「確認した。通れ」
少女が物々しい雰囲気に気圧される中、ぶっきらぼうに告げる門番の横を何事もなく通り過ぎる。
ふぅ、緊張した。すごい威圧的だったなぁ。彼女……名前はファノって言ったけ?この子は慣れてるみたいだけど。
「随分厳重だね。こりゃ、外の人たちも来れないわけだ」
「だから言ったでしょ。私といれば安全だって」
言われてみれば少年と少女は、ファノと出会わなければこうも上手く街に立ち入ることは、できなかっただろう。
そんなことはつゆ知らなかった少年だが、まさかの嬉しい誤算に僥倖だと感じるのであった。
「にしてもよかったの?なんか私たちの保証人になってしまってるみたいだけど」
「そうでもしないとお金返してくれないでしょ?」
「あ、そう言えばそうだった」
少女はこちらが弱みを握っていることを、忘れてしまっていて思わず苦笑いを浮かべた。
少年は興味深そうに貧民街の様子を見渡す。
街の中も外に劣らず酷い有り様だが、外よりかは住宅街があるだけマシに見える。その建物も腐りかけた木材で造られていたり、酷いところは天井が無く布でテントを貼り代替してる住居まで存在する。
しかし意外なことにレンガ調のモダンな建物が街の奥に見える。
「ここもアンタの記憶とは違う光景?」
「うん。記憶の景色の真逆。もっと人が賑わっててどこの店も商売繁盛してたんだけど……その面影が全く見当たらない、強いて言えば地形は見覚えがあるんだけど。本当にそれだけ」
既視感はあるのだが、随分記憶とは様変わりしている。
「でも、もっと浮浪者が屯してたり、路上で生活してたりするものだと思ったけど。思ったより治安も荒れてないみたいだね」
「この街は、外とは違って、別に無法地帯じゃない。法律に似た掟というものがある。当然破れば懲罰もある」
「へー。さっきの門番といい、見た目によらないものだね」
紫がかった薄暗い空が、街をすっかり覆い始めた頃、ある建物の前で誰かの喧騒が聞こえた。
「テメェ、俺に因縁つけてやがるのか〜!?アァーン!?」
「被害妄想はやめてくれよ!」
何処からか聞こえる言い争い。何処だろうと探しているとガヤガヤと野次馬たちもその場に群がってきていたので簡単に見つかった。
興味本位で少年らもその現場へと近づく。
「毎度毎度邪魔してきやがって!お前が対戦被せてこなきゃ今頃俺は、勝ってたんだよ!」
「空いてる席がここしかなかったんだよ!それに強いやつから落としていくのは、戦術として当たり前の話だろ〜」
「それの度が越してるってんだよ!ストーカーみたいに付き纏いやがって!」
「ぐぼッ!きっさま〜!やったな!」
その言い争いは一方の男がヒートアップし手を出した事で、そのまま喧嘩にまで発展した。
「おい!またアイツらがヤってるぞ!」
「いいぞ!ヤれヤれ!」
「サバリッチ!相手のガードが低いぞ!顔を狙え!顔!もっと攻め返せ!」
周囲に集まってきた人たちが観戦を決め込みながらヤジを飛ばす。この場にいる人間たちの小慣れた感じからもはや日常茶飯事のようである。
3人がその現場に近づいていく。間近で見るとこのゴロつきのような大人たちの、屈強な肉体が際立って見える。
そんな二人が喧嘩している場所は、どうやら店の前であるようだ。店に掲げられた右側の釘が外れ傾いた看板には、カジノと書かれていた。
「へ〜ここが賭博場ってやつか」
少年は、森から逃げ出す前、よく賭けをする大人たちを見たことがある。勝敗が決まると一方は喜び、もう一方は酷く落胆する。そしてひどい時は、目についたその辺にいる奴隷に、八つ当たりしていたことも多々あった。それでも熱狂的に何かに取り憑かれたかのように、大騒ぎする大人たちの姿を見て何がそこまでギャンブルというやつに駆り立てるのだろうと疑問に思っていた。
「おいコラ!店の前で暴れるんじゃねえ!」
少年が過去の記憶を思い返していると、前方から何者かがこの諍いを制止しに現れた。
「って、またお前らか」
「あっと!リザイオさんでしたか」
この場に仲裁に現れたのは、周りとは明らかに服装が違い、布の生地も艶滑らかで真新しい一張羅を着込んだ男である。見た目だけでなく周りの巨漢ですら遜り、頭を下げさせる様子から只者ではないと少年は思った。
「そうだ俺だ。お前らには再三警告をしてるんだがね。いつになったら、懲りてくれるんだ」
「すみませんね騒ぎを起こして。コイツが賭けに負けたからと言って、急に殴りかかってきまして」
「な!お前が執拗に、俺に勝負を仕掛けてくるからだろうが!リザイオさん!こいつ、絶対イカサマか何かやってますぜ」
「やってねぇよ!負け惜しみはやめろ!」
「何だと!この!」
リザイオという男の仲裁により、一時沈静化した男達がまたもヒートアップし、言い争い始める。
それを見かねたリザイオは、過激化する前に怒るわけでもなく、比較的物腰柔らかに宥めつかせる。
「落ち着け。両者の言い分は、後で思う存分聞いてやる。だが、もしこれ以上問題を起こすようならお前達は出禁だ」
喧嘩していた男達も出禁という言葉を聞いて、肩をびくっと震わせる。お互いに掴んだ襟元をゆっくり手放しながらも、納得行かなそうに睨み合っている。
「もう一度言う。次問題を起こせば出禁だ。そもそも俺は、何度もお前達の喧嘩に仲裁に入ってその度に、目を瞑ってやった。でもこれ以上は、店の評判にも品格にも関わる。分かるか?お前達が問題を起こせば起こすほど、この店のオーナーと俺の顔に泥を塗ることになる」
喧嘩を起こした当事者にも野次馬達にも気まずい沈黙が立ち込める。様子を見るにこの男達はリザイオという人物を、慕っているように見える。どのような形であれこの人物を貶めることは、不本意なのだと見て取れる。
「全く。途端に塩らしくなりやがって。まあいい。話は終わりだ。分かったならお前らも家に戻って頭を冷やせ」
「はい。すんません……」
「俺も反省してきます」
喧嘩していた男達は、トボトボと項垂れながら帰路についた。
「おら!野次馬ども同罪だ!あいつらを囃し立ててたんだからな!散れ散れ!」
シッシッと手を払うと、周りの大人達も解散していく。リザイオという男も、ため息を一つつくと人だかりの消えた道を歩きどこかに去っていった。
「わぁ。すごいカリスマ。騒ぎ立ててた人たち全員が大人しくなったよ」
少女がリザイオの鶴の一声に、思わず感嘆する。
「アイツは、何者なの?随分人望が厚いようだけど」
少年が、立ち去るリザイオの背を眺めながら、フードの子供に尋ねる。
「この区域一帯を見回りする警備班。今みたいに騒ぎに駆けつけたり、この街での秩序を乱す人を取り締まったりしてる」
「兵士みたいな?」
ファノは、軽く首を横に振る。
「それに近しい。マフィアの所属だから、清廉潔白なんて人はいないけど」
少女の問いかけに返ってきたのは、想像からかけ離れた恐ろしい実態だった。
「え!?この街、マフィアなんているの?」
「そう。貧民外は、貴族街から見放された街。新たに統治、管轄する勢力として名を挙げたのがカルネスト組というマフィア」
少女は、いきなり告げられたこの街の真実に仰天する。
「でもマフィアにしては、あまりおっかない感じがしないけど」
「あの人は人当たりもいいし、周囲の人にも優しいから部下からの人望も厚い。でも、そういう人はこの街じゃ珍しい方だから。もし遭遇しても組織の構成員に喧嘩とか売らないでよ」
野次馬が解散し切ったところで、ファノは、真っ直ぐ道を進み始める。どこかに案内してくれているのだと察した2人も、その背中を追う。
「もしかして街の外で上納金が必要だとか言ってたことと、そのマフィアは関係ある?」
少年が街の様子を見渡しながら問う。
「うん。まず貧民街の住人は、住人全員がその組の傘下にいる状態。それで月に一回区域ごとに組員が上納金を催促してくる」
「じゃあ、アンタはその上納金が未払いになってしまう危機に陥ってること?」
「ちょっと違う。さっき貧民街の住人が組織の傘下にいるって話をしたけど、それは正式にカルネスト組の構成員として認められたわけじゃない。入団するには別の手続きを踏む必要がある」
「そのカルネスト組とやらに、入団する一環としてお金が必要ってことか」
ファノは、後ろに振り返って頷く。
「その通り。組に入れば、いろんな待遇を受けれる。聞いたことしかないんだけど情報は確かなはず」
「ふーん」
ファノの口ぶりから組織とこの街に、密接な関係があるが内部の実情自体は不透明であるのだと推測できる。
少年が興味ありげに、質問する様子とは対称に少女は若干怯えた様子を見せる。
「なら、その上納金が未払いになったらどうなるの?」
少女は、外の様子から大体勘づいているが、念のため答え合わせがてら、恐る恐る聞いてみる。
「良くて、恫喝され身ぐるみを剥がされた上で、追放される。街の外の浮浪者達が良い例」
「やっぱり外の人たちってそういうことなんだ……」
でもなんか、引っかかることがあるような……
少女が何か、喉奥がつっかえたような不快感を覚えていると、街に入った時に遠巻きに見えた煉瓦調の建築物のある住宅街らしき場所にまでやってきた。
「ここは、住宅街?さっきまでとは、えらい違いだ」
建物は風化して少し崩れた部分も多いが、耐久面ではしっかりしてそうだ。木製のつっかえ棒にテントを張っていた建物の多かった地域とは一風変わっている。出店してる土地も見られ、食べ物や織物などが商品棚に並んでいる。
「貧民街は、元々平民達の住む中流階級のための地下街だった。だけど大昔に流行した疫病によってこの街は閉鎖されたんだ。当時治めてた貴族からの援助もなし。疫病が貴族街にも蔓延しないように、問答無用で平民街からの通行も一切の関与も絶たれた。疫病が落ち着き暫くして、今はこの有様ってわけ」
「街並みが割と綺麗なのも、その名残ということね」
「その疫病の感染者は、今もいるのか?」
「少なくとも私が生きてるうちには、感染者が出たなんて聞いた方はない。組織の調査によって原因が判明したのかどうかも分からない。再発するのか、しないのかも……当時は呪いだとか、天罰だとか騒ぎ立ててたんだと聞く。結局疫病によって何万人もの人が死んだらしいけど」
悲壮な歴史を持つ古の街が、今や貧民街に成り果てる。ここに住む者の逞しさと言ったら言い表せないほどだろう。
彼ら3人の隙間を風が通り過ぎる。話が途切れそうな微妙な雰囲気を嫌った少女が、不意に話を振る。
「ところで、今どこに向かってるの?」
「私達の住居」
ファノは、そう答えた後念を押すように補足する。
「ああ、安心して。罠に嵌めようとか考えてるわけじゃないから。それも返してもらわないといけないしね」
そう言って、フードの子供は少年の持つ布の切れ端で包んだものを指差す。少年は、素手で硬貨を鷲掴みにしたままでいるのも憚れたので、ファノから予備の布を拝借して袋代わりにしていた。
「見ず知らずの人を家に上げても大丈夫なの?」
少女は、この街の実態や背景を知ったことで殊更に分からなかった。いくら少年に弱みを握られているとしても、あまりに無警戒な気がする。
「確かに君のいう通り、普段なら絶対に他人を家に上げたりなんかしないけど、今回は少し特別」
少年は、先ほどからファノからきな臭い匂いを感じ取っていた。目的を知るために探りを入れる。
「私達の住居って言ってたけどアンタの他に、誰が住んでるの?」
「私の仲間が一緒に暮らしてる。途中まで私と逃げててそこから手分けしたから……まだ帰ってきてるか、分からないけど……まぁ、この話は家に着いてからにしよう」
暗がりの道中で気になることを質問しながら、歩いているとある家々の繋がった長屋のうちの一つの玄関に辿り着いた。間口が狭くアパートのように見える。
「ここが私の家」
フードの子供は、案内された家の扉の前に立つと徐に懐から鍵を取り出し、錠を外す。
「入っていいよ」
家の中に入ったフードの子供に促されるまま、少女が入る。続いて少年も玄関から内装を確認した後、入室する。石のタイルが敷かれ、少し褪せた白塗りの壁が、一昔前の民家なのだと認識させられる。
「まだ誰も帰ってきてないか」
ファノは、そう呟くとフードを取る。ここにくるまでの道中ずっと外さなかったフードの下は、年相応の少女らしい顔つきだ。
丸テーブルを囲う椅子を2つ引き出すと2人に声をかける。
「適当に腰掛けて」
少女は言わせるがまま座り、少年はゆっくりと浅く慎重に腰掛ける。
部屋には、特筆して取り上げるものは何もない質素な空間だった。テーブルや椅子の他にタンスや布団など最低限の生活用品しか見当たらない。
ファノは、麻布を被せてある木で編まれたバスケットからパンを取り出すと2人に差し出した。
「はい。これあげる」
「あ、ありがとう」
少女は、突然の厚意に少し反応が遅れる。ちょうど空腹だったこともあり、感謝してパンを受け取ると早速一口頂いた。
少年も少女とファノがパンを咀嚼しているのを確認し、まじまじとパンを見つめた後、毒味をするように、ほんの一齧り口にした。
「にしても落ち着いた内装で、いい部屋だね」
「急に何?」
「あ、いや……アハハ」
少女は、何か話題を出すつもりで社交辞令を言ったのだがファノには伝わらなかったみたいだ。確かに単刀直入に話すタイプだろうし、もしかしたら皮肉に聞こえてしまったのかもしれないと少女は反省する。
「さて、君たちの質問には余すことなく答えてきたつもり。まだ聞きたいことはある?」
「うーん……どうだろう」
少女は、愛想笑いを浮かべて少し言葉を濁す。
あるにはあるんだけど、この街の有り様を知れば知るほどまた更に、疑問が湧く。でも、しつこいって思われてないかな?面倒臭がれて追い返されても嫌なんだけど……
少女は、目の前の子と出来るだけ友好な関係を築きたいと思っている。このような街だからこそ味方も必要で、協力できる仲間が欲しい。
しかし、ここで質問がないと言ってしまえば、少年はその手に握る麻袋を返さないといけなくなり、その瞬間この関係も終わってしまうかも知れない。
少年は、少女の微妙な匙加減の悩みに、気づいているのかいないのか。助け舟を出すように話題を転換する。
「態々、見知らぬ俺たちを家に上げたのは、何か話があるからじゃない?」
フードの子供は、腰掛けた状態で足を組むとその膝の上に両掌を重ねる。
「じゃあ本題に入るけど、君たち私に協力する気はない?」
少女は、その言葉を聞いてピタッと固まったように食事の手を止める。少女がどうやって話題を持ち出そうと悩んでいたところに、当の本人から、持ちかけられたのだ。まさに渡りに船と言える。
「さっき話にも出た私の仲間の捜索とか、上手くいけばこれから先のことも色々手伝ってもらいたい」
フードの子供は、真っ直ぐ2人を見据える。冗談でもなく真剣そのものであった。
「その代わり、この街で生活できるように取り計らう。君達の話からするに、衣食住に困ってるんでしょ?」
随分と虫のいい話だと、少年は思う。本気で言っているのかと、裏を勘繰ってしまわない方がおかしい提案だった。
「私の今の嘘偽りない気持ちを話せば、お金を返してもらえさえすれば、君たちを邪険に扱うつもりもない」
「気持ちは嬉しいけど、私たちのことをそんな簡単に信用していいの?私達が嘘をついてるかもしれないよ?」
「確かに君たちの身元は怪しいし、得体が知れないことは間違いない。けど、この街の住人でないことは言動や雰囲気から分かる」
「雰囲気?」
「そ。この街に馴染んだ人からは、絶えず周囲に対する不信感や拒絶感が醸し出されてる。誰が敵か味方かわからず、腹を割ることはないからそこに信頼は生まれない。君たちの場合は、警戒心や猜疑心、修羅場を乗り越える術は心得ているみたいだけど、ここの住人特有の場慣れを感じなかった」
少女には彼女の町の住人に対する持論は、納得しがたく不服げに目を細める。それを見たファノは、脚を組み直して冷静に話を続ける。
「具体的な例で言えば、私が君と衝突した時にその衝撃で硬貨の入った袋を落としちゃったでしょ?もしこの街の住人なら拾った瞬間、そのままスタコラサッサと逃げ去るのが普通だよ。それが一番確実だし、ましてその袋の持ち主と一緒に行動しようなんて考えない。それに仮に交渉事をするとしても、人質代わりの袋を返すことと引き換えに、街への案内と情報提供なんて絶対割に合わない」
「それだけで今の私達の内情を察したわけか」
少女は、ファノの洞察力と説得力に脱帽する。
「本音で言えば、私から奪ったそれを返して貰うまで、監視しておきたいから行動を共にした方が手っ取り早いと言うのもある。もし私の読みが外れたなら、君たちは相当な役者だよ。それだけで食い扶持が賄えるくらいには」
───根拠に基づいた自信があって、コイツにはコイツなりの打算がある。弱みを握られ、人数的不利もある今嘘をつくメリットはない。ここまでの譲歩もそれだけ信用を買いたいことの表れに見える。
少年は、そこまで考えて一つ腑に落ちるものを感じたがそれでも、現実的な面で疑問はつきなかった。
「仮に俺たちが協力するとして、どうやって俺たちの衣食住を保証するの?アンタだって組織の傘下ってことは、下っ端でしょ?」
「うん。これには私達が組の一員になれたらっていう将来的な提案も含まれてる。そして外の人たちに追い回されるほど、現状が危ぶまれてるのも本当。でもそれは、あなた達も変わらないはず」
寝床、拠点、路銀、そもそも土地勘がないからここ以外の街がどこにあるか分からない。更にこっちは色々消耗し、見つかる保証もない安全な街を探したって右往左往して、餓死するのが関の山。あいつの言うことも間違いない。
「……確かにね。なら、その組織とやらに入る実現性は?」
「君たちに伝えるなら、現状だと未知数。正直そこは私の仲間にかかってるから。でも、私の仲間もやわじゃない。私の仲間に対する信頼分も含めると、君たちの協力があれば90%は、固い」
「そう……」
双方、逼迫した状況に置かれてる同士手を取るのは、利害の一致という観点から理にかなっている。でもそれは、互いの土俵が合致して初めて成り立つ。互いに認識が共通して尚且つ同等の情報量であることが必要。
少年はそこまで考えて、ある提案をする。
「どうせ今ここでじっとしてても、することもないし一旦手を貸そう」
「いいの?自分で言うのもなんだけど」
「アンタを完全には信用したわけじゃないよ。そっちにはそっちの理屈があって、俺たちの信用たる部分に賭けたんだろうけど、こっちは右も左も分からないから。アテのカルネスト組というマフィアの実態がアンタの認識と乖離してたら困るでしょ?」
疫病が流行した過去を持つ貧民街。そこに台頭したマフィア。外に溢れた人間達。おそらくこの街の根幹につながる秘密はまだあるはず。
今一番必要なのは、情報と進展。リスクを犯すならできるだけ軽くした方がいい。
「アンタにも散々譲歩してもらったしね。利害の一致ってやつ。でももちろん条件はある。俺たちの滞在期間である1日の間に、協力するかどうかの猶予を与えること。もちろんその間は、この件からキッパリ手を切ることもできる」
「異論はない。私も最初からそのつもりだった」
二人の間で話が次々と進んでいく中、一人少女だけが取り残されていた。
なんか私蚊帳の外なんだけど……まぁ、話を聞いている限り異論はないか。
「じゃ、一時協力ってことで。よろしく」
3人は、話に折り合いをつけて僅かの期間協力関係となる。残された時間は有限のため3人は急いで街の外へ向かうこととなった。




